12話
のんびり不定期連載です
「シアさんお帰りなさい、今日も無事で何よりです」
受付嬢さんが良い笑顔で話しかけてきました。笑顔なのに青筋が見えるような気がします 怖い笑顔です
「どうもごきげんよう、確かに今日も無事で良かったです。 なので、生きて帰ってこれた事を実感するために大至急お風呂に入らないといけません。 急いでいますのでこれで失礼します」
「ちょっと待ってください! ギルマスが!大至急!お話ししたいと!」
「ちょっ ちょっと揺らさないでください」
受付嬢さんが私の両肩を掴み、前後にがくがくと揺らしてくるのです。笑顔のままで
「レッドドラゴンの素材の件でしたら、明日の朝に伺いますからギルドマスターにそう伝えてもらえますか?」
「用件はそれだけではないんです、昨日あの後大変だったんですよ? 他国の王族がその…し、失禁して失神したんですから」
「失禁で失神…ほほぅ」
「いや、冗談ではなくてですね」
「ところで受付嬢さん、お名前を伺ってないんですけど 聞いてもよろしいですか?」
「えっ? それは失礼しました。 私はモニカといいます」
「モニカさんですね? 先ほども言いましたが、ギルドには明日の朝に顔を出しますので今日の所は… 正直疲れているんですよね」
「そうですか、明日の朝ですね? 絶対ですよ? 約束しましたからね?」
「もちろんです、ああそういえば オークロードというのは美味しいのでしょうか?」
「ロードは高級品ですね、とても美味しいと言われています… え? 20階層まで到達したんですか?」
「ええ、先ほど倒して転移魔法陣で戻ってきたばかりなんですよ」
「丸ごとですと、通常オークの20倍 金貨200枚が相場ですね」
「そうなんですか、それほどならば売らないで自分で食べるのもいいかもしれませんね」
「ええ?そこはやはり売ってくれませんと…」
「今日はすぐに休むつもりなんで宿に入りますね、それではごきげんよう」
ふぅ~なんとかギルドへの出向は回避できましたね、今日は本当に疲れているんですよ 主に精神的に。 やはり代り映えの無い地味な景色の中、延々と戦闘するというのは私には不向きでしたね。 今日はそれがわかっただけで収穫としましょう
クリーンの魔法を全身に使い、先に食事をという事で 食堂に向かって歩き出しました
ガーナ王国 国王の執務室では
「陛下、フェブリー公爵閣下が登城なさいました」
「そうか、ここへ通してくれ」
「はっ」
国王は羽根ペンを置き、来客に備えて気を引き締める。 フェブリー公爵家は先々代の王、つまりは祖父の弟が興した家系だ。つまりは親戚になるわけで それなりに発言力も高く 貴族としての才もある。 ただ自分以外の人間は道具としか見てないようで、駒を動かすような采配ばかりしていて 『血も涙もない鬼公爵』と、陰で言われている。 そんな公爵に借りを作るのは正直嫌だが このままじゃ手詰まりになってしまう、 加護を失った騎士が100人いたとしても 加護を持った平民10人に負けてしまうような現状で、今以上王家に対して負の感情を抱かせるわけにはいかない
それだけではない、創造神フローラに見捨てられた国として 隣国であるトリュフ王国、特にポテチ王国が我が国を攻めてくるかもしれん。 ポテチ王国の領地は大陸の北側にあり、その半分近くが永久凍土に覆われている。 凍らない港を求めて幾度も戦争を仕掛けてきたという歴史もある 今回の事を理由に挙兵する事も十分考えられる
今戦争が起きれば必ず負けてしまうだろう、それを回避させるためには創造神フローラが『使徒』『愛し子』と認めたアリシアの存在が不可欠なのだ。 さすがに神罰が行使された直後にアリシアがいる国に対して戦争を仕掛けてはこないだろう
コンコン
ノックの音が聞こえたので入室の許可を出す
「お呼びだという事で参上した。 用事と言うのは?」
「相変わらずの口ぶりだな、一国の王に向かって不敬だと思わないのか?」
「貴方を王だと認めている者はもうこの国にはいない、それに我が娘に対する仕打ちを忘れた訳ではあるまい?」
「ふんっ、今まで娘を可愛がっていたかのような口ぶりだな。 お前が家族ですら道具扱いしているのは公然の事実だぞ?」
「そんな事は大した問題ではない、愛し子の、使徒の父親が俺であるという事実が重要なのだ。 その立場さえあれば俺に牙をむく無頼の徒はいなくなるだろうからな」
「果たしてそうかな? お前が愛し子であり使徒であるアリシアを道具扱いしてた事は公然の事実だと言っただろう? 使徒にそのような仕打ちをしていた公爵家も十分憎しみの対象になるだろう。 もはや我が国にはアリシアを王宮に迎えるしか国を存続させる方法はないかもしれぬのだ、公爵家では嫡男も次女もアリシアを疎んでいただろう? アリシアも人の子 父親であるお前を筆頭に和解し、連れ戻すしか方法は無いのだよ」
「俺がアリシアを引き込み、王家に弓を引くとは考えないのか?」
「アリシアと我が妻の関係は非常に良好であってな、あの娘が王家に対し 争いを起こす事など考えられんからな」
「確かに我が家も現状手詰まりではある。 それを引き受けてもいいが我が家の立場は保証してもらう、王家と対等な立場をな」
「別に対等の立場は構わんがな、平民に対して重税を課すような真似は許されぬぞ。 いかに使徒の血族とはいえ、これ以上民衆の不信を煽るわけにはいかんからな」
「とりあえず我が家は今夜にでも出立する、娘はトリュフ王国のタライに向かっていたという報告は受けているのでな」
「必ず連れ戻すのだ、そうでなければ我が国も 我が国の貴族も未来は無いぞ」
公爵は礼もせず踵を返し執務室を出て行った
フェブリー公爵家王都邸
「お帰りなさいませ旦那様」
「旅支度は整っているか? 今夜に出立するぞ。 護衛に加護を失っていない平民の従者も数人組み入れろ。 使徒である我が娘を迎えに行くのだ、名誉な事だから皆素直に従うだろう」
「承知いたしました、すぐに手配します」
王都邸専属の執事がその場を離れていった
(全く…王都を出る前に使徒だという神託が下れば良かったものを、面倒な事をしおって)
「父上、出立は今夜と聞きました。 僕も連れて行ってください!アリシアは僕の言う事ならきっと聞きます」
「ダメだ、お前は兄であるという立場を利用してただけにすぎんから無駄に拗れるだけだ。 お前は妹を従えてアリシアを虐げていただろう、来るだけ無駄だし アリシアが戻ってきたらお前は廃嫡にする。役に立たん道具は必要無いからな」
「そんな…父上!」
「うるさい黙れ!大人しく部屋に引っ込んでいろ」
怒鳴られてすごすごと部屋に向かって歩き出す嫡男、陰から覗いていた妹も顔色はひどいものになっていた
「さて、俺も急がないとな」
公爵自身も準備のため部屋に向かうのだった




