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Heinvia Story  作者: Frey
美しき問題児
9/27

旅立ちの理由

マルトゥス襲撃事件から3日が経った。

査問官を加えた評議会が開かれ話し合いと調査が行われた結果、いくつかの発表があった。


真相については公には発表されていないため詳細は分からないままだが、エドワード区長含む行政区会の一部役員は免職となり、レギオンについても組織運営の拙劣さを理由に細かな処分が下りたようだ。


査問官もグルだったらと少し考えたが、薄汚い思想にまみれた人間はしっかりと弾劾されているあたりその心配はなさそうだ。



今日は号外のようなものが配られ、俺は街の一角で昼食を取りながら読んでいる。

あの日以降、街で見かけるとルシエールは積極的に声をかけてくれるようになった。

何回かパーティーを組んでクエストもこなしている。

今も、席を挟んで向かい側に座り優雅に飲み物を飲んでいる。


「記事によると、行政区会の幹部席ってのは半ば世襲制だったらしいな。今回の件で問題視されて、今後は民間からの投票で新しい区長と役員を選任するそうだ。それでここ2日くらいは選挙活動がいたる所で行われているわけか。」


「どの候補者も基本的な政策は同じみたいよ。街の復興と民間への公的サービスの拡大を掲げてるみたい。」


「街の直すべき点を知っているのは、市勢を知っている者ってな。実現されるかどうかは分からんが。」


「少なくとも以前に比べれば良くなるはずよ。都市運営の方針を民間に発表して着任するわけだから、今度は大勢が見て聞いて、不満があれば上申する。そうゆう社会が出来上がるじゃない。」


「だといいな。」


「悲観的過ぎるのも嫌われるわよ?ところで、フィルはいつから事件が自作自演だって気付いていたの?。」


「確信を持ったのはエドワード区長がレギオンを糾弾した時だが、マルトゥスの行政を担っている奴らが私腹を肥やすことばかり考えてるだろうとは、この街に着いた時から思っていたよ。」


「それは何故?」


「この街はバランスが悪すぎる。港は栄え、中央商業通りにはたくさんの露店が立ち並んで、他の街からの行商人の訪問も多い。都市収入は多いはずなのに、南西居住区は驚くほど治安が悪く貧富の差が激しい。街のメイン機能ばかりに金をかけて、公共の福祉に対する関心が低いのは、行政を取り締まっている人間が腐っている証拠だ。」


「随分政治的な話に詳しいのね、ちょっと社会批判の色が強いけど。」


「事実を言ったまでさ。」


「…いつこの街から出発するつもりなの?」


「5日後の朝にはサンクトスに出発するつもりだ。あと4日しか宿を取ってないし、それ以上長居をする理由もないしな。」


もともと、身辺状況の整理と最低限のレベル上げがマルトゥス滞在の理由だ。

両方クリアできたと俺は考えているため、延長は考えていない。


「そう…フィルのような有望なハンターがいなくなるのは残念ね。」


「仕方ないだろ、俺にも目的がある。ルシエールだってこの街でハンターをやり続けている理由があるんだろ?」


「別に引き留めているわけではないわ。ただ、私個人としてもフィルは唯一パーティーを組んでもいいと思えたハンターだから…」


「やめてくれ、名残惜しくなるじゃないか。」


「ふふ、またこの街に来る機会があったら、必ず声を掛けてね。」


ルシエールはそう言うと、席を立ち軽く手を振りながら街中へ去っていった。


「次の街に着いたら、仲間集めに関して本格的に考えるか…」


ルシエールとの共闘は、かつての仲間たちと協力してゲームのコンテンツに挑んでいた頃のことを嫌でも思い出させるものだった。

どうしたってソロでやっていくのは、限界がある。肉体的にも、精神的にも。


ま、続きはサンクトスに着いてからだ。

午後のクエスト消化のために、そのままレギオンに俺は向かった。




午前と午後のクエスト消化と街での情報収集のルーティーンを繰り返し、5日目の朝を迎えた。

この4日間で街は目まぐるしく変わった。


新しく就任した民間選抜の区長の主導で、都市復興は最優先で進み、地区ごとの貧富の差をなくすべく新しい政策が施行され始めた。

ルシエールの言う通り、マルトゥスの今後はいい方向に進みそうだ。


建物の修復のために忙しく働いている人達の横を通り抜けながら、西門に向かう。






「わざわざ見送りに来てくれたのか?」


ルシエールが西門の前に立っていた。


「違うわ、私もあなたの旅に連れて行ってくれないかしら?」


正直、もしかしたらと思ったがついてくるつもりとはな。


「いいのか?深くは聞かなかったが、君はこの街でハンターをやり続ける必要があるんだろう?」


「フィルのおかげでその必要がなくなったのよ。私は南西居住区の孤児院出身なの。孤児院といっても教会が身寄りのない子供たちを引き取って面倒見てるだけだけど。両親の顔も知らない私にとって、そこのシスターの人たちが親のような存在。でも、昔から子供たちを養っていくだけの資金を捻出するのはとても難しかった。」


「なるほど、それでルシエールはハンターになって得た資金を教会に援助していたわけか」


「そう、幸い私には不器用だけど魔法を扱う才能があった。だから、何としても大切な教会を存続させるためにハンターを続ける必要があった。でも、あなたが圧政を敷く区長を引きずり降ろしてくれたおかげで街は変わり、南西居住区にも都市の援助が届くようになったわ。」


「それでも、故郷に当たる教会を後にして大丈夫なのか?」


「みんなとは話をしたわ。それで、後押しをされたの。私のことをちゃんと見てくれた人を逃すんじゃない、人と人の出会いは必ず理由があるのだから自分のやりたいようにやりなさいって。だから、私はあなたについていきたいの。」


旅の仲間が欲しいという目標は、思いのほか早く達成されたな。


「分かった。俺もちょうど旅の仲間が欲しいと思っていた。君がいてくれるととても心強い。

改めてよろしく頼む、ルシエール。」


「ルーシィと呼んで。教会のみんなは私のことをそう呼ぶわ。」




俺がこの世界に来て初めてできた仲間は、強力な魔力を持ちながら不器用で、豊麗な魅力を伴いながら太陽のように笑う、優しさにあふれた魔術師となった。


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