事件の陰に潜む者
「オレイヤ、怪我はないか?」
「え...えぇ、大丈夫よー。」
「ルードとルイーズも無事か?」
「おかげさまでね、大きな負傷はしてないよ。」
全員無事だが、連戦に次ぐ連戦で体力的に満身創痍の様子だ。
「とにかく、一度街に戻ろう。ここは通常のモンスターもポップするフィールドのど真ん中だ。消耗しているとは言え、とどまる訳にもいかない。」
全員が了承し、そこまで疲弊していない俺とルーシィが周囲を哨戒しつつ街へ向かって帰還した。
南門へ到着すると、クエストを受けて街の防衛に当たっていたハンター達も、モンスターの襲撃が止みひと段落している様子だった。
森の先で元凶と対峙し、ひとまずの脅威は去ったことを伝えると、もともと南門の警備任務に就いていたハンター以外は引き揚げていった。
俺たちはレギオンへ事の端末を伝える前に、情報の整理と体力回復の為に駐屯所の一角を借り受けた。
「それで、今回の襲撃にはどんな意図があると思う?」
ルードが口を開く。
「あのフードの2人組が騒動の原因なのは間違いないでしょうけど、目的についてはさっぱり見当がつかないわね。」
ルイーズが答える。
前回のレイドクエストの時から感じていたが、この二人は普段から交流が多いためか、こういった時にお互いコミュニケーションを取り合おうとする傾向にある。
進行役は任せて良さそうだ。
「そもそも、あれだけの量と質のモンスターを使役した状態で召喚することは可能なのかい?」
「結論から言えば可能よ。ただ、一長一短でできるものじゃないわ。それこそ膨大なMPと下準備が必要になるわ、魔術というより儀式に近いわね。」
確かに、ゲームの時代からサモンやテイムといった魔術は存在した。
しかしそれは、ルイーズの言う通り召喚するモンスターの量や質に応じて必要なMPが増えるもので、街一つの防衛網を動かすほどの大群を動かすとなると途方もないMPが必要になる。
「なるほど、じゃあ犯人は少なくとも魔術に精通した人間、あるいは種族ということになるね。」
「そう考えるのが妥当でしょうね。襲ってきた魔物は一貫して街を襲ってきたわけだし、フードの二人組は攻撃されてなかったから使役されていたのは間違いないわ。何らかの方法で前提条件をクリアしているはずだわ。」
「フィルちゃんは、何か思うところないの?あなたは頭が回るでしょー?」
ふいに、オレイヤが振って来た。
「...確認したいんだが、召喚されたモンスターが、その儀式に近い魔術によるものだったとして、使役状態というのは永続的に続くものなのか?」
「術者が効果範囲内にいれば効果は続くわ。細かい命令を与える程効果範囲は狭くなるけど、例えば“町を襲え”みたいな単調な命令なら数km離れても使役できるはずよ。」
「魔術に必要な下準備っていうのは?」
「魔法陣を描く必要があるわね。いくつかアイテムも必要になるけど、どれも街のお店で調達できるようなものだから、MPの消費に比べたらそこまで大変じゃないわね。まぁ、だからこそ召喚魔術は戦闘中にパっと使えるものじゃないんだけど。」
ゲームの時と同じ条件だ。
万が一、今のハインヴィアで仕様が異なった場合を考えて念のため確認したが大丈夫そうだ。
「ふむ、確信的なことはまだ言えないが、推察できることはある。」
最終的に、犯人捜しはみんなに協力してもらう必要があるだろう。
情報は共有しておこう。
魔術士として最もレベルの高いルイーズに語りかけるように俺は自分の意見を話し始める。
「目的について、普通はジャックやテロを意図したものとまず考えるだろうが、これは確実に違うと言える。」
「それはなぜ?」
「都市機能を掌握するにしても破壊するにしても、“内側から騒動を起こす”方が絶対に効率がいいからだ。召喚魔法によって襲撃が引き起こされているのならば、わざわざ都市の外側から襲撃する必要性がない。」
時間と魔力さえあれば、召喚魔法自体は場所を問わず発動できる。
ならば、都市内でモンスターを召喚したほうが混乱を招くには得策だ。
「都市外部で召喚を行ったのは、街の防衛網とモンスターを戦わせることに目的があったからだ。“集団召喚”と言ってもいい規模の今回の戦術の威力を測るためのテストを行った可能性がある。」
「わざとモンスターとハンターを戦わせたってこと?」
「そうだ。そして、事件には都市外部の人間は関係していない。もっと言えば、二人組のフードの人物による単独的な犯行だと考えられる。」
「他に共犯者がいないと考えられる根拠は?」
「今回の襲撃の手法は、対多数を消耗させることに特化したものだった。逆に言えば、短期間で使役している中心地を押さえられたくなかったということだ。もし協力者がいたならば、陽動役がいるか、複数の魔術の発動地点を作って1ヶ所が発見されても継続して戦闘データを取れるようにするはずだ」
フードの二人は俺達と対峙した時に、すぐに撤退せず迷わず戦闘する体制に入った。
撃退した後にモンスターの襲来が止んだことも加味すれば、状況証拠としては充分だ。
「外部の人間じゃないというのは、モンスターの召喚方法から推察できる。襲撃の為に召喚されたモンスターは、一度に召喚されたわけじゃない。これだけの量の召喚を行うためには、召喚に必要なアイテムの量も膨大だ。そんな量をいっぺんに購入したら、確実に足が付く。各地に何度かに分けて召喚され、“待機”を命じられて今までは自分のテリトリーを徘徊してたんだろう。それを、事件当日に一気に集結させたのが大規模召喚の正体だ。」
「そうか、使役状態を維持するためにはモンスターとの距離を一定以内に保つ必要があるから、都市外の人間の犯行は無理ってことだね。」
ルードが思いついたかのように口を開く。
ルイーズも顎に手を当てて、納得したのか小さく頷いている。
「その通り。いくら“待機”といった簡易な命令でも、隣町から効果を届かせることはできない。」
「“待機”は命令でも一番簡単な部類だけどぉ、フードの二人組がいた中心地点から考えるとフィンデンスタインの中央より南側にはいないと使役効果は届かないと思うわー」
操作や使役に関しては職業上プロフェッショナルのオレイヤが意見をくれる。
「さらに、この方法が可能なのはそのアイテムを定期的に一定量購入してもおかしくない立場にある人物になる。」
「必要なのは魔力水と月光草ね。魔力水はポーションの原料に、月光草は他の薬草と合わせて塗り薬に主に使うわ。そうなると、消耗品クラフターや商人として普段は活動している線が濃厚ね。」
ルイーズが召喚に必要なアイテムを説明した上で、可能性のある職業を挙げる。
「現時点で考えられるのはこのくらいだ。整理すると、犯人は二人組、魔術に精通した人物で表向きはクラフターか商人に扮している可能性が高く、フィンデンスタインの中央より南側に潜んでいる。大量に召喚したモンスターの戦力を測るために襲撃を行ったが、その先の目的については分からない。」
「いや、やっぱりすごいよフィル。たったこれだけの情報で、犯人のおおよその人物像が分かってしまうなんて!」
ルードが称賛の声を挙げてくれる。
だが、俺は浮かない顔を続けていた。一抹の不安を抱えていたからだ。
「ねぇフィル、アッシュが言っていた話...」
ルーシィが俺の不安をくみ取るように語り掛けてくる。
「そうだな、おそらくルーシィが考えていることは正しい。」
「まだ何かあるのかい?」
ルードからの問いかけに、俺とルーシィが交互に答える。
「召喚には大量のアイテムと“膨大なMP”が必要と言っただろ?これだけの召喚体を呼び出す為のMPを1人や2人が担えるわけがない。では、そのMPはどこから捻出していると思う?」
「すでに知っているかもしれないけれど、少し前に懇意にしてもらってるアイテム屋の人に、首都で神隠しが起こっているって聞いたのよ。」
「そんな、まさか神隠しの被害にあった人たちは...!」
「あぁ、神隠し事件の真相は人攫いだ。襲撃と人攫いは同一犯によるものだろうな。」




