4 : 再会
眉間を狙う右正拳──外側へはたいて右ストレートで反撃する。同時に左足でローキック。
向こうが拳をブロックしたが、見えていなかった蹴りは命中し、ふらついた。と、相手が中腰で横殴りに振りかぶった。
左足を曲げて前に出す。途端、前進していた向こうの頭が膝にぶつかり、倒れた。
すると、倒れた相手を飛び越えて別の一人が跳び蹴り──間もなく衝撃によってジョンは後ろへ倒れた。
次は後ろからの二人が駆け込んで来る。確認しながら足を回転させ身体を起こす。
回転中、足に何かがぶつかった。立ち上がった時には後ろの一人が脛を押さえていた。そして奥からもう一人が突進。
ジョンは咄嗟に自分の羽織るジャケットを脱ぎ、体の前で相手の突進に合わせるように伸ばす。丁度向こうの右腕に絡み結びついた。
服で行進を止め、ローに一撃入れて怯ませる。今度は逆方向から他の一人。こちらは駆け込みつつ蹴りを飛ばしてきた。
すかさずジャケットの長い余りで足を結びボディブロー、二人を固定する。腕を結ばれた方が腕を振り回して暴れるが腹に蹴りを加えて動きを止めた。
繋がった二人を前に押し飛ばし、バランスが不安定な二人は後続の一人に当たって最終的に三人が倒れた。
残る一人が後ろからジョンの左肩を右手で引き、左ナックルを食らわせようとしていた。間一髪で左腕で振り払い、後ろを向く。
のけぞった相手はすぐにこちらを向き、奇声を上げながら拳を回転させ連続打。こちらも連撃で迎え撃つ。
ふと、後ろから足音。目だけ動かして見ると敵一人がどこからかバールを持ってこちらへ薙いでいる最中だった。
瞬時にしゃがみ、頭上を冷たい感覚。バールを躱そうと正面の人物も上半身を反らした。
(やべえ! 身が持たねえ!)
隙を突いて前後に下段回転蹴り、挟んでいた奴らが転げた。前方一人をまたいで一旦逃走する。
狭い道を通り、廃車の並びを抜け、広いガレージの中に入る。中では修理中の車数台と部品や工具類が散乱していた。幾つかを拾ってポケットに隠し、右手に短めのスパナを持つ。
足音が数人分。走ってガレージに入ってくる人影が四人。内、ドライバーを持つのが一人、バールを持つのが二人、長い金属パイプを持つのが一人。
まずドライバーが額目掛けて突っ込んでくる。左手で根元の腕を受け取り、スパナでその腕を叩いた。
痛みで相手がドライバーを落として怯む。そこを前蹴りで飛ばし、後ろのバールを持つ奴一人にぶつけた。
もう一人のバール装備が右から振り下ろす。ジョンは短いスパナで受け止めた。
相手の武器が跳ね上がる前にジョンは左手で向こうの棒を掴んでいた。同時に左横蹴り、バールを奪い取る。奥からパイプを持つ奴が円形の先端を向けながら突進していた。
すかさずスパナを投げ、命中させる。鉄パイプ野郎が頭を押さえた。
左からドライバーを持っていた奴が素手で突っ込む。しかし、相手はジョンの突き出したバールの先端に怯えて止まり、直後側頭部を殴られて気絶した。
次はバールの奴が左斜め上から武器を振り下ろした。横に受けたジョン、後ろに一歩下がる。
バールの八の字を描くような攻防。しかしジョンの後ろは車ままで追い込まれている。
見かねた敵が金属棒を横薙ぎ――ほぼ同時ジョンは後方に跳び、更に修理中の自動車を踏んで反転。
カウンター跳び蹴りを頭に決め、相手は伏したまま動かない。残りは一時の方向に鉄パイプと十一時の方向にバール。
鉄パイプが横に大きく振られた。咄嗟に身を屈めて避け、そこへバールが突っ込んでくる。
振り下ろしに対し、バールを横にジョンが受け止める。すると相手の後ろから鉄パイプの円形の先端が伸びてきた。
瞬時の判断、しゃがんで躱し、バールを受けたまま前の敵の腰目掛けて体当たり。後ろの相手も巻き込んで二人が転げた。
その拍子に二人が武器を落とす。ジョンはバールを捨て、鉄パイプを両手に抱えた。
「武器の使い方ってもんを教えてやるぜアウトローもどきめ」
身長にも迫る棒を持って振り回しながら呟く。二人が勢い良く起き上がり、バールを持った。
正面からの打撃にパイプの右側で払う。反対側からパイプ左側で叩き付け。
相手がのけぞった所でもう片方がジャンプしながら棒を振り下ろす。棒の中間で受けたジョン。
棒を左に傾け、右側で敵を叩いた。今度は敵側が一拍整えて同時に殴りかかってくる。
二方向からの連続攻撃を防いでいくが、徐々に引き下がっていく。するとジョンはパイプ中央で左側の攻撃を止めながら右方へミドルキック。
回転して左方の武器を払いながら右方へ鉄パイプを殴り付けた。
残った一人がジョンからの左右から襲いかかる棒を捌くが攻撃の隙が無い。
ジョンから足元へ振り払い、敵が膝を着く。相手が立ち上がろうと前を向いた。
しかし、動くより先にパイプの丸い先端が喉へ突き立てられていた。
「おい、何が目的だ?」
「あんたの誘拐だ。あとあんたの女もな」
「違う、何故俺達を狙うのかだ」
パイプ先を食い込ませる。相手の男は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
「さあな、俺らはただ雇われただけだ。成功の暁には一人につき千ドルポンとくれるってんで乗ったが、とんだ労働災害が条件だったとは……残念だが詳しい事は何も知らされてねえ」
男は後悔したような口ぶりだった。ジョンが更に訊く。
「何か他に分かっている事は? 例えば雇い主の事とか。外見はどんなだった?」
「身長はあんたより少し大きく、短い黒髪でボサボサな髭を生やしていた。服装はミリタリージャケットにカーゴパンツ、サングラスもしていたぜ。ついでに胸には軍の識別チェーンみてえなのが……」
ふとある事を思い出した。マリアが誘拐される少し前、洋服売り場でジョンが見つけた男。
(あいつと同じ外見じゃねえか! しかも軍のタグだなんて確実に俺を知って……)
「ジョン・アンダーソン」
思考中、不意に後ろからの呼び掛け。彼のフルネームを間違わず呼んだのだから間違いなくジョンへのものだ。
ゆっくりと足音がする。そして止まった。
「あの男だ。あいつに雇われた」
前の男の呟き。勢い良く百八十度回転する。
視線の先で待っていたのは、口を布で隠され手足を縛られた金髪の女性、マリアの姿と、それを後ろから頭に銃口を突きつけている男性。
先程敵対していた奴が言っていた特徴と同じだ。髭を生やした顔は笑顔に引きつっていた。マリアは苦しそうに意味の無いうめき声を上げている。
「俺はただの代理だ。この残念な仕事ぶりでは金は渡せないだろうがな」
「ふざけんな! こんな目に遭うと知っていりゃ対策の一つくらい出来た!」
「知っててもどうせ同じ事だったさ。なあジョン、こういうのは得意だろ?」
黙り込んだジョン。少し考え、口を開いた。
「お前は誰だ。何が目的だ」
「忘れたのか? 親友を。まあこんな格好じゃあ無理も無いか」
銃をマリアに突きつけている男はもう片手でサングラスを外し、更に首に巻いたチェーンを外してこちらへ投げた。
キャッチし、すぐさま字を読んだ。
【Benjamin Welles】
「ベン?」
「別にイメチェンしたのはトリックのためでも何でもなかったんだがな。長かったぜ」
バンッ――肩に何かが刺さった。
瞼が重い。マリアが叫んでる……