3 : 追跡
走りながら廊下の角を曲がる武装した人物達を確認した。途端、正面で横のドアが開いた。
出てきた職員と肩がぶつかるが、お構いなしに突き進む。
「おいあんた、ここは関係者以外……」
後ろから呼び止める声がするが、立ち止まらない。先では先程の奴らがエレベーターに乗り込み、ドアが閉まるのが見えた。
(クソッ! アナログ舐めんな!)
エレベーター隣の非常階段を仕方なく走り、途中で柵を越えて半階分飛び降りる。そして一階まで辿り着き、倉庫らしき場所に出た。
高い在庫の棚の隙間から外の景色が見えた。そこに一台の黒いバン。
横開きのドアに金髪の女性が寝かせる姿勢で無理矢理入れられたのが見えた。棚に身を隠しながらトラックの並ぶ搬入口へ出た。
(ちくしょう、どうやって追うか……)
外に出て日光を浴びる。見回し、壁の落書きに目を付けた。
そこに半分錆びた折りたたみ式の自転車が転がっていたのだ。藁をも掴む思いで自転車を起こし、乗って漕ぐ。
踏み込む度に錆が押し返す抵抗。抗って疲労を忘れ、漕ぎ続ける。駐車場の奥で黒いバンが右折して出て行くのが見えた。
駐車した車が並べられている中をぶつかるスレスレですり抜け、ショートカットして右斜めに歩道へ出た。黒いバンは真っ直ぐ五十メートル先の赤信号で止まっている。
信号が青になった。車が左折する。ジョンは左後ろを一瞬振り向き、セダンがこちら側へ迫っているのが見える。
左へ車体を傾ける――歩道から車道を横断し、後ろのセダンをギリギリで回避。交差点を左へ曲がる。背後からクラクションと同時に叱咤の声がしたが、今はどうでも良い。
通行人を避けて路側帯を走る。相手の車は二ブロック先だ。
すると、バンがウインカーも出さずに交差点を急に右折する。奥からの車が摩擦音を奏でて急停止した。
慌てず右を向くと、公園があった。前方からの車はバンの危険運転によって一時停止している。ジョンは迷わずハンドルを右へ切った。
「おーい! どけどけえ! 危ないぞお!」
走り回って遊んでいる子供達に呼び掛け、避けていく。斜めに公園を出ると、二ブロック先で左折するバンの姿。
一ブロックを隔てる交差点の信号を黄色で斜めに通過し、左へ旋回。
今度は道が広めでブロックも大きい。無我夢中で漕ぐ。右の建物の隙間に紛れて黒い自動車が見えた。
一ブロック半先、細い裏道。後輪ブレーキを掛けてタイヤをロック――右へ四分の一スピンし、行き先へ車体を向ける。
フェンスの塀に囲まれ、散乱したゴミを踏みながら走り、遂に裏道を出た。左方では一ブロック先で右折する黒いバン。
右から中型トラックが来ているにも関わらず、ジョンは自転車を更に前に走らせる。ブレーキ音と警報音が同時になった。
トラックは自転車の後輪をすり抜け、自転車は無事横断してその先にあった細い路地にまたも入った。
タイヤが足元のゴミにスリップしかけるが、壁に手を着いて体勢を整える。手が痛かったが、ジョンには前しか見えていなかった。
狭い路地から広い路上へ――途端、黒い車体が視界左端に映った。
途端、左側からの衝撃に自転車が大きく揺れる――激痛に一瞬動かなくなり、体が右へ投げ出される。
アスファルトを転がって衝撃を吸収し、すぐに起き上がったジョン。しかし激痛が襲っては体が言うことを聞かない。自転車は後輪がグチャグチャに歪んでいる。
(クソッ! 多分俺狙いとはいえ、殺す気かよ?!)
俺を轢こうとしたバンのドアが横にスライドした。仕方なく来た細い道へ戻る。
奇跡的に痛まなかった上半身を駆使してフェンスの壁を登り、傍にあった車解体工場の駐車場へ向かう。後ろに黒を基調とした動きやすい服装の人物が六人、フェンスをよじ登っているのを確認した。
距離を取ってシャッターの開いていたガレージへ身を潜ませ、遠くから会話を耳にした。
「おい、見失ったぞ」
「二人一組で手分けして探せ」
ジョンは痛みをこらえ、じっと黙って動かない。
(受け身取ったとはいえ、やっぱ痛え……しかし俺に何しようってのかさっぱりだ……)
心の内に弱音を吐き、廃車の隙間からこちらに向かってくる二人を発見した。
深呼吸、目標の二人が廃車の奥に来ると同時、跳躍――錆び付いた車を越えて一人に跳び蹴りを決めた。
蹴られた相手は頭から横の廃車のガラスを突き破り、着地したジョンがもう片方と対峙する。
ジョンからストレート、ジャブ、左フック。相手が二連続ブロックし、最後はスウェーで躱す。
今度は向こうから右ミドルキック。左足でブロックし、相手が蹴り足を軸に右へ回転、今度は回転左蹴り。
後ろに退いて避けたが、相手は更に回転速度を上げ、じりじり近寄ってくる。ジョンも少しずつ後退。
ジョンが左回転の左ハイキック――相手が蹴りを空振ったところへ炸裂した。
よろめいて横の廃車ドアに手を着いた相手。するとその後ろで頭を車内へ突っ込まれた奴が復活してこちらへ駆け込む。
正面からの跳び蹴り。しゃがんで避けたジョンはすかさず振り向き、飛んできた右ストレートをガードする。
左ハイキック――姿勢を低くして躱し、ジョンの右裏拳が腹を抉った。
そのまま半回転して左裏拳。相手が後ろの車に叩き付けられる。
もう片方が後ろからジョンの肩を掴んだ。咄嗟に振り払い、前蹴り。向こうが後退して避ける。
ジョンの左手が前に突き出し、相手が防ごうと右腕を頭に――直後、ローキックが相手の脛に直撃。
フェイントでバランスを崩した奴に向かって膝蹴り。顎に一撃を受けた相手が舗装された地面に仰向けとなった。
残ったもう片方が立ち上がり、こちらに突進していた。振り返った時には既に前方一メートル。やむを得ず立ち向かい、正面から組み合った。
向こうから何度も膝蹴りが何度も来るが、同じく膝でガード。相手が力任せにジョンを押し出す。
ならば、とジョンは対抗せず逆に押し返すのをやめた。途端、相手の身体が勢いで宙へ跳んだ。
そこを逃さず、掴んだままの相手を横に逸らし、そのまま堅い地面に叩き付ける。のしかかり、連続マウントパンチ。
気付けば、狭い通路を別の二人が挟んでいた。鼻血を出して動かなくなった奴から離れて立つ。
(武器はこいつらも持ってねえ。やっぱ俺を捕らえるのが目的なんだろうが、しかしこいつらそれ程訓練されている訳でも無さそうで装備を揃えるだけの力も無いみたいだが……)
左半身前に左手を頭の高さに、右半身後ろに右手を胸の高さに。途端、双方が迫る。
右方のミドルキックを右手で掴み取り、左方のフックをしゃがみ避ける。右方が逃れようと腕を振り回すが、届かない。
するとジョンは掴んだ足を引き寄せ、敵の顔面に肘打ちが炸裂、よろめく。
他方からの連続パンチを右、左、右、左、と交互に捌き、バランスを崩した方へローキック。
蹴りを受け、倒された方を踏みつけバック。残った方が追いながら右フックを放つ。ジョンはそれを左腕で受けた。
すると、ジョンの右手が相手の振りかぶった肘を押し上げ、そのままがら空きの腹部へブロー。
一瞬のけぞった相手だが、すぐに左で振り下ろし気味のナックルを打つ。対するジョン、右腕でブロック。
今度はジョンの左肘打ちが相手の肘を折り曲げ、そのまま半回転し右肘をクリーンヒット。
勢いで向こうがふらつき後退し、起き上がろうとしていた人物に当たって共に倒れる。
一旦退却しようと百八十度方向転換したジョンだが、廃車で出来た狭い道を既に他の二人が遮っていた。
「例え百人の奴が居たって俺からマリアを引き離せねえよ。アフリカを崇めよ」




