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BUMPY ROAD  作者: 若隼 士紀
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未衣11

 あの夜は、ふたりとも酔っていたんだと思う。

 雰囲気に。


 彬にキスされて、あたしは抵抗しなかった。

 抱きしめられて耳許に彬の息遣いを聴いて、ずっとこのままでいたいと思った。


 ふたりともおかしかったんだ。

 そう思おう。

 もう二度と無いように。


 

 翌日も読み合わせをして、役それぞれのキャラクターを固めていった。

 1年生はなかなか難しようだったけど、真美ちゃん先輩をはじめベテランの役者に引っ張られるように役作りは進んでいった。


 あたしと彬は、表向きまったく変りなく稽古を進めていった。

 役者ひとりひとりと話し合い、台詞の言い回しを変え、場面に合わせて心情の表現方法を模索していく。

 

 併せて、小道具や衣装などの打ち合わせも始める。

 音響と照明に関しては、あたしたちより詳しい先輩が担当なので、とりあえずアイディアをまとめてもらう。

 舞台装置が大袈裟なものでない分、音響と照明で表現する部分が増えるので楽しみ。


 夜は海岸で花火したり、買い出ししてまたしこたま買ってきたお酒を飲んで宴会した。

 こんなバカできるのも大学生ならではだよね~とゲラゲラ笑って飲んで、すごく楽しかった。

 

 彬もあたしも互いに傍に寄るのはなんとなく避けていた。

 ふたりでいて、またおかしな雰囲気になってしまったら…と不安だった。

 

 自分の気持ちが判らない。

 あたしは敢えて深く考えないようにしていた。

 あたしには豊島さんがいる。少なくとも今はまだ、あたしは彼氏がいる。

 彬にだって彼女がいる。

 

 その事実が一番大事。


 

 3泊4日の合宿は無事に終わり、東京駅で解散した。

 お疲れさん会としてメシ食って帰ろうということで、部長・副部長とあたしたち演出3人、それから先輩が2人で駅を出てグランルーフに行く。

 あたしの隣を歩いていた彬がスマホの電源を何日かぶりに入れたらしく、画面を見てゲッと呟く。


 「美乃利ちゃん?」

 あたしが訊くと、深刻そうに頷く。

 「すっげえ…LINEが86件て怖くね?着信が…わ、100件超えてら」

 

 あたしはため息をつく。

 「あんたが悪いんでしょうよ。自分で蒔いた種なんだから、自分できちんと刈り取りなさい」

 「判ってるよ…」彬は画面を消し、ジーンズの尻ポケットに入れた。

 「怖くてLINE起動できない」情けないことを言う。

 

 「情けないわねえ…」

 「だって!既読つけたら絶対、すぐに電話かかってくる!こんな場所で罵倒されて平謝りしたくない。

 そんな姿、未衣に見られたくない」

 「何でよ」

 「一生、バカにされるから」瞼に手を当てて天を仰いで呻く。

 「ああ…確かに」あたしも苦笑する。

 

 一生…か。

 どうなんだろ。友達として、一生仲良くやっていけるだろうか。

 そうなるといいけど…


 あたしが先輩たちの後をついて歩きながらそんなふうに思っていると、彬がごそごそとスポーツバッグの横のポケットを探って、あたしに何か差し出した。

 ん?合宿先の駅近くのお土産やさんの袋だ。

 

 「開けて」というので開けてみると、綺麗な貝殻と小さなパールをヘッドにあしらったペンダントと、同じデザインだけどパールなしのストラップが出てきた。

 「え、これ…」

 

 彬を見ると「ストラップは俺の。ペンダントは未衣にあげる」とストラップを取ってスマホに通した。

 「えっ!」

 あたしは驚いて彬をガン見した。

 彬があたしに何かくれるって初めてじゃないのっ?


 いやいやいや。そうじゃない。問題はそこじゃない。

 彬と、お揃いってこと?

 あたしは手の中のペンダントを見つめた。

 可愛い。


 いやいやいや。そうじゃない。

 あたしは彬の方へ視線を向ける。

 なんといっていいか、解らないけど…

 

 彬はあたしを見て少し笑う。

 「未衣に似合うと思って。

 俺とペアっつうのは嫌かもだけど。

 豊島さんにあげる義理はないし」


 「あ、…ありがとう」あたしは大きな旅行用のバッグを肩にゆすり上げて、ペンダントを首にかけようとした。でもバッグが邪魔してなかなか難しい。

 彬が「ちょっと止まって」と言ってあたしの後ろに回り、クラスプを留めてくれる。

 すごくドキドキして、赤い顔を隠すためにあたしは必要以上にうつむいた。


 先を歩いていた先輩たちがあたしたちが遅れたのに気づいて、立ち止まって振り返って「なんだ、本当に仲いいなお前ら」とからかう。

 「違いますっ」と二人して小走りに追いついて、グランルーフのパスタ屋さんで食事をし、お疲れさんと解散した。

 彬はこれからバイトだと言って、急いで帰っていった。


 家に帰って、彬からもらったペンダントを眺めていると、彬からLINEがきた。

 『豊島さんにいつどこで会う?』と書いてある。

 『え、本当に来てくれるの?』と送信すると『あたりまえでしょ』とソッコーで返事が来た。

 『明日、時間は多分午後。場所は今から決める。道玄坂か表参道辺りにしようかと思ってる』

 『ヤロウが一人でも入れる店にしろよ』

 『あ、そうか。じゃあ、エクセルシオールとかにする』

 『了解。また明日、連絡する』

 

 豊島さんと二人きりで会わなくて良いんだ。

 あたしは少し気持ちが軽くなり、豊島さんにLINEを送った。

 『合宿から帰ってきました。明日、14時頃会えますか?』と送ると、しばらくして『OKです』と返信が来た。

 『場所は道玄坂のエクセルシオールにしたいと思ってます』と送信し、また少し待って『承知しました』と返ってきた。

 

 今まではなかったLINEのタイムラグに、あたしは少し寂しい気がした。

 あたしのことをいつも想ってくれてる、豊島さんの気持ちに胡坐をかいていたんだろう。

 嫌な女だわ、あたし。

 自分は豊島さんのこと好きじゃないとか放言しておきながら、豊島さんのあたしへの愛情は絶対だと思ってる。


 明日、どうなるだろう。

 きちんと話ができるだろうか…

 

 

 

 

 

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