第1話 覚醒
――マジュ暦562年 メルタイト王国近郊の荒野
エリザベートにとっての第二の人生は、散々なものだった。
彼女は6歳になって早々、王位継承者としての素質を測るために、能力鑑定にかけられた。その結果は、筋力F、魔力E、体力Eという、ほぼ最低評価。はっきり言って戦争国家であるメルタイト王国に相応しいとは、お世辞にも言えなかった。
しかし、彼女が国王の長女である限り、彼女の王位継承は揺るがない。だから国王は、彼女を近郊の荒野に追放した。
6歳の少女を荒野に放り出す――実質的に殺すことと同義にも思えるが、彼女は公式的には、"事故により行方不明"として扱われた。
荒野を一人彷徨っていた彼女を拾って育てたのは、なんと狼だった。エリザベートは前世の知識と、自分を助けた狼――フェンリルの助けで、荒野で何とか生き延びてきた。
あれから7年がたった。エリザベートは13歳となった。
「おい、起きろ。エリザベート。朝だぞ!」
原始人のような洞窟の家に置かれた、藁のベッドで、エリザベートは目覚めた。目の前には、彼女と同じくらいの年の少年が立っている。
「......ルーカス。早朝すぎるよもう」
洞窟の中に、朝日の光が差し込む。
「今日は待ちに待った13歳の誕生日なんだろ!?」
「ああ......そうだった......」
エリザベートは7年間、何もなくただ生きてきただけではなかった。彼女には一匹と一人の仲間がいた。
そのうちの一人が、この少年――ルーカスである。
「持ってきたぜ。鑑定石!」
ルーカスは、紅く輝く透明な石を、エリザベートに見せつける。
「ありがとうルーカス。私のために」
「いいってことよ。俺とお前の仲だろ?」
もう一匹の仲間、狼のフェンリルが言う。
「13歳になったものは、みな何かしらのスキルを有する。鑑定石は、基礎能力値の鑑定の他に、スキルも確認できるのじゃ」
その狼は、人の言葉を話した。ルーカスはフェンリルに話しかける。
「それで、どうやってこれをエリザベートのやつに使ってやればいいんだ?」
「うむ。それは簡単じゃ。その鑑定石を通して、エリザベートのやつを見つめればいい」
ルーカスはあっけにとられて言う。
「なんだ、簡単じゃねえか。鑑定士のやつらはあんなに偉ぶってるのに」
「私の父が、国王の権力で鑑定士たちに独占権を与えて、それで金儲けしてるだけだよ。それが財源の一つになってるとか、よく聞かされたもん」
エリザベートは、首を横に振りながら言った。
「へぇ......とりあえず見てみっか!」
ルーカスは左目を閉じて、右目を鑑定石に近づけて、石越しにエリザベートを眺める。彼の視界に、エリザベートのスキルとその説明が浮かび上がった。
「どれどれ......スキルは......」
「どうだった!?」
「うーん......なんだこれ、"覇道"? 」
「何そのスキル!? 説明欄にはなんてかいてあるの!?」
エリザベートは軽く舞い上がった。
「あんま動くな、ぶれると見づらいから......何々、"味方が増えるほど、筋力や魔力、体力が向上"? 」
フェンリルはエリザベートを見つめる。
「具体的な数値が説明されてないな、"味方"と言うのもなんだかわかりづらい。抽象的なスキルは、しばしば強力であることが多い......もしかすると......」
「当たりスキル!?」
「ああ、確証はないがな」
ルーカスはガッツポーズをきめて、言う。
「やったじゃねえか! 俺たちも仲間として判定されてるなら、もう2人分の教科は入ってるってことだろ?」
「スキルとは、神から人や動物に与えられる特別な力だ。つまり、《《神》》が私やルーカスをエリザベートの仲間だと認めていれば、そなたは強化されているだろう」
エリザベートはルーカスを見つめる。
「一回試してみようよ。腕相撲で」
「おう、やってみようぜ」
二人は手を組んで、肘をつけた。
「行くぞ、レディー......ファイト!」
ルーカスの合図で、二人はお互いの腕を押し合った。しばらくの拮抗の末、ルーカスがエリザベートの腕を倒した。
「あれれ......普通に負けたんだけど」
「でも、この前よりは明らかに強くなった気がするぜ。フェンリルはどう思う?」
その狼は、少し間を置いたのち、話し出した。
「おぬしが感じられるくらいには、エリザベートの筋力は上がったということだろう? おそらく、魔力も上がっておるということじゃ」
「魔力が上がっるってことは、私も――」
「そうじゃ。さらに仲間を増やせば、おぬしも魔術が使えるかもしれん。魔術の基礎は習っておるのじゃろう? あとは魔力さえ十分あればいいのじゃ」
「うん。このスキルさえあれば、私も、もう誰にも見下されない......! 」
エリザベートは声を震わせながら言った。
「それどころではない。そのスキルは仲間が増えるほど効果が大きくなる。だとすれば、多くの人を率いる立場、部族長や王、果てには大帝国の皇帝になれば、その力はより強大になるだろう」
「私が......」
エリザベートは、拳を握りしめた。
「そうじゃ、まさしく王たるものに相応しいスキル。おぬしを追放したのは、愚策じゃったな」
「エリザベート......お前、どうするんだ。今更、そんなチートスキル持ってたってわかったとしても、王宮になんてもう戻れないだろ」
「いや、私は――女王になる。やりたい政治、変えたいことがいっぱいあるから」
エリザベートは淡々と言葉を口にした。
「どういう意味だ、お前」
ルーカスは珍しく、真剣な目つきでエリザベートを見つめた。
「この国で......革命を起こす!」




