小悪魔聖女に、私はなる!
あれから三日。
私は腹の痛みに耐えながら、ネットでそれっぽい情報をかき集めていた。
「噂の出所はこいつか……なんかガチでガチっぽいなぁ」
パソコン専用部屋、するめいかを咥えてデスクトップと睨めっこ。画面には冒険者専用掲示板のとある過去スレ。
『漆黒魔石。これを飲み込めば魔族と同じ体が手に入る』
そんな一文とともに貼られた一枚の写真。見たこともない黒くて丸い石が、写真にも映るくらい黒い魔力を発してる。
「……闇のアイテムかよ。どう見てもヤバいオーラだし」
合成っぽさはない。画像を詳しく解析したスレ民も『ガチです』と降参コメントを残してる。
(魔族と同じ体……不老長寿には違いないな)
あいつらの強さはよく知ってる。ダンジョンの最奥で待ち受けるボスたち。どいつもこいつも、個々の力はフレイたちを軽く上回ってた。ゲームの魔王的な存在だ。
まあそんな奴らも、私の無限復活パには敵わないんだけど。
「黒ってことは毒の魔力? ……いや、二番目の魔族がそうだったな。確か紫色の魔力だったっけ」
ススイッとマウスを踊らせる。過去の自分の配信を開き、その時の映像を確認。
――頭から二本の黒いツノを生やした燕尾服、ダンディーな白髪のオッさんが不敵に嗤う。
背景は大小さまざま、紫の水晶に囲まれたボス部屋。天井には巨大な魔石の結晶が浮かんでいる。
『ふふふはは! 勇者とはこの程度か! 溶けて消え去れい!』
『くっ! セイラさん!』『どけフレイ! 氷結壁!』
サガが咄嗟に手を伸ばす。カメラとその真下にいる私の前に、白い冷気が昇る氷の壁が張られる。
『くだらん。氷ごと溶かしてやろう! はぁっ!』
「そうそう、このオッさんガチでヤバかったわ。マチョさんがいなけりゃ全滅してたな」
ジュゥゥウと溶ける氷の壁。凶悪な魔力の奔流が私に襲いかかった瞬間――。
『マ……チョーーーッ!』
横から飛び込んできたマチョ。背中で毒の魔力を受け止めながら、筋骨隆々のガッツポーズ――ダブルバイセップスでニコリと笑う。
『セイラはマチョが守るマチョ』
『マチョさん……ありがとう、ございます』
コメントは阿鼻叫喚。マチョを心配し、フレイとサガを奮い立たせ、私にはスパチャが舞う。
マチョが攻撃を受けている間に二人が回り込む。魔族を挟み、同時に最大魔法を叩き込む。
『炎鱗乱舞!』『樹氷の鋭牙!』
真紅の鱗粉が魔族の周囲を埋め尽くし、地面から生えた樹氷の枝が魔族を貫く。マチョさんはポーズを決めたままスクワット。コメントが『?????』の弾幕で埋め尽くされる。
そして弾幕が収まったあとには――。
『がふ……ッ……今回、は……ここまで、か……』
倒れた魔族の姿が霞み、魔界に戻っていく姿が映された。
「ナイスー。んであの魔法が爆誕したんだよな」
ボロボロになったイケメンズ。スクワットに夢中なムチョに向かって私が叫ぶ。
『解毒の光ーっ!』
涙を交えた最高のプラシーボ。三人の体を侵食していた毒が綺麗に消える。これが思い込みの力。人体の不思議だ。
「……こう観ると私、割と危ない橋渡ってるな」
普通に死んでもおかしくない。まあ二度目の人生があるって分かったし、死への恐怖がバグってるんだろう。
……いけない、つい夢中になって観ていた。調べごとの途中だった。
もう一度スレの写真をむむむと睨む。
(仮に闇の魔力としたら、本当に魔族と同じ体になるのか? それってつまり……)
想像を膨らませる。魔族の特徴。見た目でいえば頭のツノくらい。……つまり、可愛さの権化ともいえる私に、さらなるチャーミングポイントが加わるということ。
「……小悪魔聖女……めちゃめちゃアリだな」
決定、確定。あれほしい。小悪魔聖女に私はなる。アンチが何かほざいても、私のビジュの前ではいないも同然。
決意を新たに「にゅふふ」と漏らす。ついでにマウスをカチカチ鳴らし、画面を眺めて大きく頷いた。
「見てろよ世界。ここに小悪魔最かわ聖女のタグを刻んでやるからな。うひひひひ!」
ゲーミングチェアから立ち上がって床にゴロン。サラふわの髪をこねくり回し、私は野望に燃えまくった。
デスクトップに、エゴサした結果を映したまま――。




