第9話「到達未満」
通りの中を歩きながら、先ほどの接触で一瞬だけ視認に近づいた男の状態を追っていると、理解に到達する直前で必ず思考が断ち切られる構造が個体内部に固定されていることに気づき、それが偶発ではなく“到達させないための層”として機能していると理解する。
あと一歩。
だが、必ず届かない。
「……固定されたな」
男が歩く。
足取りは重い。
だが止まらない。
「……考えてる」
必死に。
「……さっきの」
言葉が出る。
「……何だった」
思考が進む。
断片が繋がる。
「……影」
初めて。
具体的な単語。
「……いた」
視線が揺れる。
「……どこだ」
探す。
空間を見る。
その瞬間。
「……っ」
止まる。
言葉が消える。
「……何だっけ」
戻る。
最初に。
「……分からない」
繰り返す。
「……いいな」
観測する。
完全に。
「……到達しない」
部下が近づく。
「隊長、大丈夫ですか」
「……ああ」
答える。
だが、遅い。
「……何かあったはずだ」
「……何も」
否定する。
「……いや」
肯定する。
矛盾する。
「……おかしい」
その一言だけが残る。
「……進まない」
時間が経つ。
同じことを繰り返す。
思い出す。
近づく。
止まる。
戻る。
「……ループか」
外から見れば明確だ。
「……閉じてる」
内部で完結している。
「……出られない」
男の視点。
確実に何かに触れたという確信を持ちながら、その内容だけが思い出せず、思考を進めるたびに同じ場所に戻される感覚に苛立ちを覚えつつも、それを突破する手段が見つからない。
一方。
通りの中。
「……いいな」
歩く。
視線を送る。
「……繰り返す」
同じところを回る。
「……学習するか」
試す。
わずかに削る量を減らす。
ほんの少しだけ。
「……どうだ」
男の思考が進む。
「……影」
再び。
「……いた」
さらに一歩。
「……ここに」
指を動かす。
近い。
かなり。
「……来るな」
だが――
次の瞬間。
切る。
「……そこまでだ」
思考が崩れる。
「……何だっけ」
戻る。
「……限界だな」
理解する。
「……これ以上は無理だ」
この状態では。
「……だが」
可能性は見えた。
「……越えるか」
別の方法で。
視線を上げる。
男。
まだ歩いている。
止まらない。
「……壊れるな」
このまま続ければ。
「……先に崩れる」
だから――
「……次だ」
歩き出す。
止まらない。
迷わない。
「――やり方を変える」




