第3話「誤認」
机の上に並べられた報告書を前に、断片的な証言と再現性のない記録を何度も照合しながら、共通点が存在しないという事実そのものを“共通点”として扱うしかない状況に追い込まれ、無理にでも形を与えなければ次に進めないと判断する。
曖昧なままでは、対処できない。
「……仮説を置く」
部下が顔を上げる。
「結論、出すんですか」
「……出す」
正確でなくてもいい。
必要なのは“方向”だ。
「現象は広域」
紙を指で押さえる。
「個体差がある」
別の紙を重ねる。
「認識、記憶、行動に影響」
「……全部ですよね」
「……そうだ」
だからこそ。
「……原因は外部だ」
部下が眉をひそめる。
「外部?」
「人間じゃない」
「……魔物ですか」
「近い」
だが、それだけでは足りない。
「……個体ではない」
部屋が静まる。
「……じゃあ何なんですか」
「……“領域”だ」
言葉にする。
無理やり。
「この町そのものが、何かに覆われている」
部下が息を呑む。
「……結界みたいな?」
「それに近い」
完全ではない。
だが、説明はできる。
「中にいると、認識が歪む」
「だから記憶が飛ぶ」
「だから動きが揃う」
「……全部繋がる」
部下の表情が変わる。
「……なるほど」
納得する。
「……それでいきましょう」
「対処は?」
「……境界を探す」
「外に出る方法を探る」
「中心を特定する」
言葉が並ぶ。
形になる。
「……やっと進むな」
紙に書き込む。
“仮説:広域精神干渉領域”
「……これで動ける」
立ち上がる。
「調査班を分ける」
「外周、内部、中心」
「全方向から詰める」
「了解」
部下が動く。
「……形になったな」
完璧ではない。
だが、十分だ。
視線を上げる。
窓の外。
町。
「……見えてきた」
原因が。
位置が。
対処が。
「……終わらせる」
確信する。
男の視点。
理解できなかった現象に“名前”がついたことで不安が整理され、恐怖が薄れ、代わりに対処できるという確信が生まれ、それが正しいかどうかよりも“納得できるかどうか”が優先されていることに気づかない。
「……これでいい」
一方。
通りの中。
同じ町。
同じ流れ。
「……領域か」
歩く。
止まらない。
「……違うな」
すれ違う。
人間。
「……惜しい」
理解に近い。
だが、ズレている。
「……いい」
問題ない。
むしろ都合がいい。
「……そのまま進め」
視線を上げる。
空間。
歪みは残っている。
「……気づかないか」
原因は外ではない。
「……内側だ」
歩き出す。
止まらない。
迷わない。
「――間違えたな」




