第8話「孤立」
ギルドの中に入った瞬間、昨日までわずかに残っていた複数の違和感の痕跡がほとんど消え、空気が不自然なほど均一に整っていることに気づき、その中でただ一箇所だけ“濃度の違う部分”が浮き上がっているのをはっきりと認識する。
静かだ。
整いすぎている。
「……消えたな」
視線を流す。
テーブル。
カウンター。
人の動き。
「……軽い」
判断が速い。
会話が繋がる。
違和感はない。
ほぼ。
「……一つ以外は」
例の男。
席に座っている。
だが、周囲と噛み合っていない。
「……浮いてるな」
「おう」
男が声をかける。
こちらへ。
「……ああ」
「今日どうする?」
「……いつも通りだ」
「分かった」
会話は成立する。
問題はない。
だが――
別の男が口を挟む。
「お前さ、最近変じゃねえか?」
例の男に向けて。
「……何がだ」
「なんかピリピリしてる」
「……してねえよ」
否定する。
だが、弱い。
「してるって」
笑いが混ざる。
「……違う」
「ほらな」
別の声。
空気が変わる。
「……逆転したな」
疑う側が。
疑われる側になる。
例の男の視線がこちらに向く。
強い。
だが――
孤立している。
「……分かるか」
周囲は気づかない。
合わせている。
「……ズレてるのはお前だ」
空気がそう判断している。
「……くそ」
男が小さく呟く。
理解できない。
だが、否定できない。
「……何かおかしいんだよ」
小さく言う。
「何が?」
誰かが聞く。
「……分からねえ」
同じだ。
だが、違う。
「……共有できない」
疑念が、伝わらない。
「……孤立だな」
席を立つ。
男が一人。
外へ出る。
「……逃げたか」
歩く。
後を追う。
通り。
人の流れ。
男は止まらない。
だが、落ち着いていない。
「……壊れてるな」
角を曲がる。
路地へ。
「……来いよ」
男が言う。
振り返る。
「……来たか」
距離がある。
だが、近い。
「……お前だろ」
「……何がだ」
「全部だよ」
言葉が乱れる。
だが、核心に近い。
「……証拠は?」
「ねえよ!」
強く言う。
「……だろうな」
「でも分かる」
同じだ。
最初と。
だが――
「……一人だな」
共有されない。
理解されない。
「……意味がない」
距離を詰める。
一歩。
「……来るな」
男が下がる。
「……終わりだ」
気づいている。
だが、遅い。
動く。
速い。
押さえる。
終わる。
喰う。
思考。
記憶。
「……深いな」
かなり近かった。
確信に。
「……惜しい」
処理。
終わる。
外へ出る。
通りへ戻る。
「……消えたな」
完全に。
「……整った」
ギルドへ戻る。
空気は同じ。
軽い。
均一。
「さっきのやつは?」
誰かが言う。
「知らねえ」
流れる。
「……問題ない」
視線を上げる。
空間。
向こう側。
観測者。
「……見てるな」
人間は消えた。
疑念も消えた。
だが――
「――上は残る」




