第18話「境界」
通りの中央に立ちながら、人の流れが左右に分かれていくのを眺めていると、自分がその流れの中に“存在している”にもかかわらず、同時に“存在していない”ような感覚が生まれ、どちらにも完全には属していない位置に立っていることを実感する。
視線は通る。
認識はされる。
だが、記憶には残らない。
「……曖昧だな」
人間の中にいる。
だが、人間ではない。
魔物でもない。
どちらにも当てはまらない。
歩く。
流れに乗る。
違和感は出ない。
出ても、埋もれる。
「……馴染んだな」
完全ではない。
だが、十分だ。
すれ違う。
人間。
距離は近い。
肩が触れる。
「……」
相手は何も気にしない。
振り返らない。
存在を認識していない。
「……薄いな」
自分が。
個体としての輪郭が曖昧になっている。
足を止める。
意図的に。
人の流れの中で。
邪魔になる位置。
数人が避ける。
軽く舌打ち。
だが、それだけだ。
「……終わりか」
怒りは続かない。
記憶も残らない。
「……軽いな」
人間は。
個体としての重さがない。
流れの中で消える。
路地へ入る。
人が減る。
音が落ちる。
「……ここなら」
静かだ。
干渉が少ない。
手を見る。
人間の形。
だが、中身は違う。
「……どこまでだ」
境界。
どこからが人間で、どこからが違うのか。
足を動かす。
速度を上げる。
人間の限界を超える。
そのまま維持する。
戻さない。
「……問題ないな」
誰もいない。
見ていない。
さらに。
気配を消す。
音を消す。
存在を薄くする。
「……消えるな」
感覚が変わる。
位置が曖昧になる。
止まる。
呼吸を整える。
戻す。
人間の状態へ。
「……切り替えられるか」
整理する。
人間としての動き。
魔物としての動き。
どちらも使える。
「……同時には無理だな」
だが、切り替えはできる。
「……十分か」
現時点では。
問題はない。
視線を上げる。
路地の出口。
光。
人の流れ。
「……戻るか」
通りへ出る。
音が戻る。
視線が増える。
だが、問題はない。
「……通るな」
ギルドの方向を見る。
人が集まる場所。
情報がある場所。
「……理解したな」
人間。
構造。
動き。
弱さ。
「……足りてる」
完全ではない。
だが、問題ない。
「……十分だ」
歩く。
迷わない。
止まらない。
「……次は」
思考が切り替わる。
理解から、利用へ。
観察から、侵食へ。
「――喰う側だ」




