第16話「偏り」
通りを歩きながら、これまで取り込んできた情報を無意識に反芻していると、すべてが均等に強化されているわけではなく、特定の領域だけが異様な速度で精度を上げていることに気づく。
動き。
間合い。
視線の読み。
それらは明らかに洗練されている。
だが――
「……会話は、そこまでだな」
言葉は使える。
だが、深い会話になるほど不安定になる。
感情の流れ。
曖昧なニュアンス。
そこにズレが残る。
「……偏ってるな」
理解する。
強化されているのは“戦闘と行動”に関わる領域。
逆に、“人間的な部分”は遅い。
ギルドの中。
会話が飛び交う。
笑い。
軽口。
冗談。
「……分かる」
意味は理解できる。
だが――
「……再現が甘い」
同じように返すことはできる。
だが、わずかにズレる。
「おい、新人」
声が飛ぶ。
別の男。
軽い調子。
敵意はない。
「昨日のやつ、早かったな」
評価。
混ざっている。
「……そうか?」
返す。
短く。
抑える。
「謙遜か?」
笑う。
周囲も軽く反応する。
「……いや」
言葉を選ぶ。
少し遅らせる。
「運が良かっただけだ」
無難な返答。
ズレは出ない。
「そういうことにしとくか」
男が笑う。
それで終わる。
「……浅い会話なら問題ない」
確認する。
このレベルなら通る。
だが――
別の会話。
少し離れた場所。
「昨日の依頼、あれさ――」
内容が変わる。
経験。
感情。
判断。
複雑になる。
聞く。
理解する。
だが――
「……再現できないな」
同じ流れで話せない。
言葉は出る。
だが、“繋がらない”。
「……ここが遅い」
偏り。
明確だ。
視線を動かす。
例の男。
やはりいる。
「……見てるな」
観察。
変化を追っている。
男の視点。
目の前の存在を見ながら、戦闘や動きに関しては異常なほどの完成度を持っているのに対し、会話になるとわずかに遅れやズレが生じることに気づき、そのアンバランスさが違和感として強く残る。
強い。
だが、不自然だ。
「……なるほど」
内側で整理する。
強い部分。
弱い部分。
分かれている。
「……なら」
選択する。
どこを伸ばすか。
「……会話だな」
今、足りないのはそこだ。
戦闘は十分。
隠せる。
だが、会話は露呈する。
「……補うか」
方法は一つ。
「……喰う」
価値のある個体。
情報量の多い個体。
それを選ぶ。
視線を外す。
ギルドを出る。
歩く。
迷わない。
通り。
人。
流れ。
「……選ぶ」
対象を探す。
会話が多い。
表情が豊か。
動きが複雑。
「……あれだな」
路地。
一人。
軽装。
だが、会話の癖が強い。
「……いい」
距離を詰める。
流れに紛れる。
音を消す。
「……今度は」
止まらない。
迷わない。
影へ。
引き込む。
音は出ない。
抵抗は短い。
喰う。
情報が流れる。
前よりも濃い。
感情。
言葉。
繋がり。
「……来るな」
頭の中が変わる。
構造が変わる。
言葉が繋がる。
「……これか」
終わる。
静かに。
問題はない。
路地を出る。
歩く。
違う。
明確に。
「……話せるな」
今までよりも滑らかだ。
繋がる。
自然に。
ギルドへ戻る。
扉を開ける。
中へ。
「おう」
さっきの男。
声をかけてくる。
同じ流れ。
「……さっきの続きだが」
口を開く。
止まらない。
繋がる。
「昨日の依頼、あれは運じゃない」
自然に出る。
「位置と動きの問題だ」
男が止まる。
驚き。
「……お前」
空気が変わる。
「……なるほどな」
小さく呟く。
理解が混ざる。
「さっきと違うな」
「……そうか?」
返す。
だが――
「……まあいい」
男が引く。
だが、目は変わっている。
確信に近づく。
「……埋まったな」
内側で思う。
ズレが減った。
完全ではない。
だが――
「……足りてきた」
視線を上げる。
ギルド。
人。
流れ。
「――揃ってきたな」




