第5話「継続」
通りは途切れることなく続き、人の流れは止まらないまま、それぞれが違う動きをしながらも不思議と崩れずに成立していた。
違和感を覚える者もいれば、まったく気づかないまま過ごす者もいて、そのどちらも同じようにこの世界の中に含まれている。
記録しようとする者は言葉に迷い、考えようとする者は途中で思考を手放すが、それでも日常そのものが壊れることはない。
理解できないものは理解できないまま残り、それを無理に解こうとしないことが、結果として自然な形になっていた。
誰かが何もない場所を避け、別の誰かがそこに気づかず通り過ぎる。
どちらも正しく、どちらも間違っていないまま、同じ時間の中で同時に成立している。
通りに立つ者の中に、一人だけ、流れに逆らうことなく、それでいて流れに埋もれきらない存在があった。
特別な動きをしているわけではない。
ただ歩いているだけなのに、わずかに周囲との境界が曖昧に見える。
視線を向ければそこにいる。
だが、目を離せばすぐに人の中に紛れてしまい、はっきりとした記憶として残らない。
誰かがその存在とすれ違い、ほんの一瞬だけ足を止めかける。
だが、その理由を考える前に、再び歩き出してしまう。
違和感は確かにある。
しかし、それを追いかけるほどの強さはなく、やがて日常の中に溶けていく。
空を見上げる者もいれば、足元だけを見て歩く者もいる。
どちらの視点も同時に存在し、どちらかに揃うことはない。
それでも流れは止まらず、すべてが自然に噛み合っている。
この世界は、誰かが管理しているわけでも、統一されているわけでもない。
ただ、それぞれがそのままの状態で存在し続けることで、結果として一つの形を保っていた。
その中で、ひとつの視線だけが、わずかに外側から全体を捉えていた。
通りの流れ。
人の動き。
揺らぎ。
すべてをそのまま見ている。
変えようとはしない。
触れようともしない。
ただ、確認するだけだった。
――問題ない。
その判断だけが静かに下される。
それ以上の操作は必要ない。
すでに成立している。
ならば、そのままでいい。
視線はゆっくりと離れ、再び通りの中へと溶けていく。
誰にも気づかれないまま。
何も変えないまま。
それでも確かに、そこに存在していた。
通りは続く。
人は歩き続ける。
止まる理由はなく、終わる理由もない。
違いを抱えたまま、それでも崩れない形で、ただ流れ続けていく。
そしてその流れの中に、さっきまであったはずの違和感も、いつの間にか当たり前のものとして馴染んでいった。
「……まあ、いいか」
誰かの小さな呟きが、通りの中に溶ける。
それで十分だった。




