第9話「干渉(残留)」
いずれの層にも属さないまま残留している個体が、参照されない状態を維持したまま他の層へ影響を及ぼすことが可能かどうかを観測する。
見えていない。
だから。
触れない。
通り。
速い流れ。
遅い流れ。
それぞれが動いている。
その間。
残留している存在。
誰にも認識されない。
だが。
確かにいる。
「……触れるか?」
自分に問いかける。
手を伸ばす。
近くを歩く人間へ。
指が届く。
だが。
すり抜ける。
感触がない。
反応もない。
「……やっぱり無理か」
呟く。
その瞬間。
足元の小石が、わずかに動く。
転がる。
ほんの少しだけ。
音が鳴る。
小さく。
だが。
確実に。
近くの人間が足を止める。
「……今、何か」
視線を落とす。
石を見る。
だが。
原因は分からない。
誰もいないからだ。
残留している存在が、石を見る。
動いた。
自分が触れた。
はずだ。
「……いける?」
もう一度。
手を伸ばす。
今度は慎重に。
石に触れる。
押す。
わずかに動く。
転がる。
さっきより、はっきりと。
音が鳴る。
近くの人間が振り向く。
「……誰だ?」
声を出す。
だが。
誰もいない。
残留している存在は、そこにいる。
だが。
見えない。
認識されない。
それでも。
“影響だけが残る”。
対象の男が歩く。
その場所へ近づく。
石を見る。
わずかに転がった跡。
不自然な位置。
「……触ったな」
短く言う。
周囲を見る。
誰もいない。
だが。
“痕跡”がある。
完全に無関係ではない。
「……残ってるか」
静かに言う。
残留している存在が動く。
今度は、人へ。
手を伸ばす。
直接ではない。
足元。
地面をわずかに動かす。
その瞬間。
人間の足がずれる。
バランスが崩れる。
「……っ?」
驚く。
だが。
原因は分からない。
存在が見えないからだ。
男の視点。
どの層にも属さない残留存在が直接的な接触はできないものの、間接的に環境へ干渉することで現実に影響を及ぼしていることを明確に認識している。
「……完全には切れてないな」
短く言う。
存在している限り。
影響は残る。
見えない。
だが。
無視もできない。
一方。
高い位置。
世界を見る。
流れは維持されている。
だが。
ところどころ。
微細な乱れ。
原因のない変化。
説明できない動き。
「……干渉してるな」
静かに言う。
完全な排除ではない。
残っているものが。
世界に触れている。
「――まだ終わらないな」




