第13話「捕食対象」
――理解した。
人間の動き。
連携。
視線。
呼吸。
そのすべてが、もう曖昧ではない。
意味として、構造として、はっきりと捉えられる。
闇の中から観察を続けながら、俺はそれを一つずつ整理していた。
前の男。
役割は“先導”。
視界を広く取り、危険を最初に察知する。
動きは安定している。
判断も早い。
だが。
視線が前に偏る。
後方の警戒は、他に依存している。
横の男。
補助。
周囲の変化を拾う。
だが、反応がわずかに遅い。
迷いがある。
後ろの男。
……こいつが問題だ。
視線が広い。
動きに無駄がない。
そして。
何より。
違和感に気づいている。
完全ではない。
だが、近い。
……優先順位は、こいつが最上位。
その判断が、自然に確定する。
同時に。
別の思考が浮かぶ。
――順番。
どう食うか。
そのための、手順。
先に崩すべきは、どこか。
連携を断つ。
孤立させる。
その後、処理。
……できる。
今の自分なら。
その結論に至る。
そして。
その思考が、あまりにも自然に流れていることに気づく。
……人間を。
食う。
その前提。
それが、完全に定着している。
もう、迷いはない。
倫理もない。
ただの対象。
――捕食対象。
その定義が、はっきりと確定する。
その時。
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【システム】
対象分類を更新
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【システム】
対象:人間
分類:捕食対象
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……確定か。
システム側でも、同じ認識。
なら、問題ない。
その判断が、迷いなく下される。
人間たちは、足を止めた。
周囲を確認している。
会話。
ほぼ理解できる。
「……ここで一度戻るか?」
「いや、もう少し先を見たい」
「……無理はするなよ」
……判断。
撤退か、続行か。
迷っている。
つまり。
完全には把握できていない。
この領域の危険性を。
……甘いな。
そう評価する。
同時に。
機会だと理解する。
その時。
後ろの男が、わずかに振り向く。
視線。
……合った。
一瞬だけ。
だが、確実に。
こちらを見た。
……気づいたか。
完全ではない。
だが。
もう、時間の問題だ。
なら。
決める。
観察は終わりだ。
次は。
実行。
その思考が、静かに切り替わる。
身体を、わずかに分ける。
分散。
囮。
位置取り。
すべてを同時に組み上げる。
最初に崩すのは。
横の男。
反応が遅い。
連携が切れる。
そこから。
前を潰す。
最後に。
後ろ。
……いける。
その確信が、形になる。
だが。
動かない。
まだ。
タイミングが足りない。
最も隙が生まれる瞬間。
それを待つ。
呼吸。
動き。
視線。
すべてを読む。
その時。
前の男が、一歩踏み出す。
横の男が、わずかに遅れる。
後ろの男の視線が、別方向へ逸れる。
……今。
その判断が、瞬時に確定する。
身体が動く。
音もなく。
影の中から。
一直線に。
その瞬間。
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【エラー】
行動予測:逸脱
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────────────────────────
【エラー】
対象処理優先度:最大
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……構わない。
止まらない。
もう。
決まっている。
俺は。
人間を。
食う。
その意思だけを持って。
闇の中から、飛び出した。




