第8話「拡張」
接触によって変質した個体が、自身の認識を基準に周囲の構造へ影響を与え始めた状態を観測する中で、その変化が単体で完結せず、近接した個体の認識へ同様の“ズレ”として伝播していることを確認し、侵食の経路が直接干渉から間接伝播へ完全に移行したと判断する。
点ではない。
広がる。
通り。
人の流れは維持されている。
だが。
わずかに乱れる。
同じ位置を避けるはずの動きが、半拍遅れる。
「……あれ?」
誰かが止まる。
足が、わずかに“通れる側”へ寄る。
「……行ける?」
試す。
止まらない。
通る。
その瞬間。
流れが変わる。
周囲の数人が、同じ動きをなぞる。
「……通れるな」
短く言う。
前提が更新される。
別の場所。
同じことが起きる。
“避ける位置”が、別の高さへずれる。
「……こっちか」
誰かが呟く。
その言葉に、数人が従う。
再現される。
「……広がってる」
構造が固定されない。
流動する。
対象の男が歩く。
止まらない。
迷わない。
新しい経路をなぞる。
「……こっちだ」
指を動かす。
空間がそれに従う。
周囲の人間が同じ動きをする。
個体差が消える。
「……増えたな」
観測する。
変質は一人で止まらない。
近くにいる個体へ移る。
視線。
動き。
選択。
すべてが“ズレる”。
「……感染か」
違う。
「……拡張だ」
拒否は成立しない。
気づかないまま。
変わる。
別の男が立ち止まる。
「……何か、違う」
言葉が出る。
だが。
次の瞬間。
動く。
“新しい経路”を選ぶ。
自然に。
「……こっちでいい」
それで終わる。
変化は自覚されない。
だが、残る。
「……いいな」
観測する。
構造は固定されない。
広がるたびに、変わる。
“最初の形”が消える。
男の視点。
自分が最初に見たはずの“位置”と今の構造が一致していないにもかかわらず、その違いに違和感を覚えず、常に現在の状態を正しいものとして認識している。
「……これでいい」
それで成立する。
一方。
通りの外れ。
歩く。
止まらない。
視線を動かす。
複数の個体。
すでに変わっている。
「……広がったな」
予想通り。
直接ではない。
だが、確実に。
「……速い」
侵食ではない。
“伝播”。
なら。
次は。
「――増やす」




