第2話「排除」
固定された構造の中で“従わない個体”が増え始めたことで、これまで曖昧だった違和が明確な対象として切り分けられ、共有された前提を維持するための行動として“排除”が選択される。
守るために、削る。
通り。
人の流れは安定している。
同じ位置を避け、同じ順序で進む。
その中で、一人だけ動きが違う。
「……そこは通れない」
誰かが言う。
「……違う」
男が答える。
足を止めない。
“空白”へ踏み込む。
周囲が一斉に止まる。
流れが崩れる。
「……やめろ」
別の男が腕を掴む。
強く。
「……離せ」
振り払う。
だが、その瞬間。
空間が歪む。
遅れていた補正が、一気に押し寄せる。
周囲の動きが揃い、男だけが外れる。
「……異物だ」
誰かが言う。
否定はない。
「……排除しろ」
短く。
数人が動く。
同時に。
腕を掴む。
足を止める。
「……何してる」
男が叫ぶ。
だが、声は届かない。
流れが優先される。
「……合わせろ」
押される。
“通路”へ。
強制的に。
足が止まる。
「……っ」
進めない。
初めて。
「……当たってる?」
理解が遅れて届く。
だが、遅い。
周囲が押し込む。
「……通れないだろ」
言葉が上書きされる。
男の認識が揺れる。
「……違う」
だが――
次の瞬間。
止まる。
足が。
“空白”の前で。
「……あ」
言葉が途切れる。
「……ある」
短く。
確定する。
周囲が離れる。
流れが戻る。
何事もなかったかのように。
男はその場に立つ。
「……今のは」
思考が追いつかない。
だが、身体は理解している。
避ける。
自然に。
「……そうか」
納得する。
それで終わる。
別の場所。
同じことが起きる。
拒否した個体が、強制的に“合わせられる”。
抵抗は短い。
すぐに消える。
「……効率いいな」
誰かが言う。
排除は、破壊ではない。
“修正”だ。
外れた個体を、戻す。
それで全体は保たれる。
一方。
通りの外れ。
歩く。
止まらない。
視線を向ける。
拒否していた男。
もう止まっている。
「……揃ったな」
観測する。
排除ではない。
適応だ。
「……いい」
構造は崩れない。
むしろ。
「……強くなる」
ズレは消える。
残るのは。
「――同じものだけだ」




