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トライアングラー

百合の間に挟まれようとする男は八つ裂きです。

「無礼者ーーーーーーっ!!!!!!」


 静寂を破る声に目を覚ました。


 どったんばったんなにやらうるさい。


 何事かとうっすらと目を開けてみる。薄暗い部屋の中で、どうやらカノンとテイオが取っ組み合いをしているようだ。


 なーんだ。おやすみなさーい。


 まどろんだ頭で状況を理解すると、私は二度寝すべくカノンの体温と匂いが残るシーツを手繰り寄せて包まる。カノンはあ温かくてすごく良い匂いがするんだよね。


 ふぁ……二度寝幸せ。


「シーリアさま!! 乙女の寝所に忍び込む不届き者です!! どうしてくれましょう?」 

「だ、誰だお前!? おいお前!! 早く起きろっ!! 何とかしろ!!」

「シーリアさまになんて口の利き方!! この野ざる!! 八つ裂きにしてサラマンドラの餌にしますよ!?」

「はあ? そいつがいつも自分で起きてこないからだろう!? って、だからお前誰だよ!?」

「あなたこそ誰です!? まあ、これから死ぬのですからどうでもいいですけど!!」

「なんでそうなるんだーーっ!?」


 もう……うるさいな……


 いつも通り起こしに来てくれたテイオには悪いけど、今日は運が悪かった。


「テイオ~。女の子同士の間に入ろうとしたら殺されても仕方がないんだよ。諦めて……むにゃむにゃ……ぐー」

「お許しが出たようですね。覚悟しなさい」

「や、やめろっ! お、おいお前! シーリア!」


 ふふん♪ ようやく名前を呼んだな。


 しょうがない。起きてやるか。


 それにこのままだと本当にテイオが殺されかねない。敵に対してカノンは容赦ないからね。


 身体を起こした私は精霊灯(ランプ)をつける。精霊灯(ランプ)とはこの世界の照明器具で、地球の洋灯(ランプ)と同じような見た目だけれど、油の代わりに火の精霊が好む魔法陣とパンが入っているというもの。油やアルコールを使ってた地球の洋灯(ランプ)よりコスパが良いから一般にも広く普及していて、中世レベルの文明にもかかわらず、この世界の夜は結構明るい。


 精霊灯(ランプ)の灯で照らされた室内では、全裸のカノンがテイオに馬乗りになって押さえつけている。


 あ、こら不味いわ。子供とはいえ絵面的に刺激が強すぎる。


 テイオは抵抗を止めてカノンをぼーっと見つめていた。


「なんでこんなところに女の子がいるんだ?」

「最初からいるっての!!」


 お前は私が女の子に見えとらんかったんか!? テイオの呟きにカチンときた私は枕を投げつける。


「ぐはっ!? どいつもこいつも、女の子って奴は凶暴な奴ばっかりだな」

「うるさい!! テイオ!! 目を瞑ってあっち向いてて!! カノンは早く服を着なさい!!」

「ですが、この者は……」

「後で説明するから。早くしないと遅刻しちゃうよ」


 私はカノンにテイオを開放させると彼女の肌を隠すためにシーツを被せる。


「なんでお前が仕切ってるんだよ……」

「うるさい!! 早くする!! ほらカノンも!!」

「……ったく。うるさいうるさいってお前が一番うるさいっての」


 ぶつくさ言いながらも律儀にドアの方を向くテイオ。カノンにも服を着るように促して、私自身も手早く身支度を整える。


「テイオ、もういいよ」

「どうなってんだよまったく」


 服を着終えたところでテイオを呼ぶ。テイオもカノンもまだ不満そうで、私が間にいないと今にも掴み合いになりかねない雰囲気だ。


「シーリア様。そこの野ざるは何者ですか?」

「おい……これは一体どういうことなんだよ?」

「ふたり共喧嘩しないの。カノンに紹介してなかったね。こいつはテイオ。私の子分だよ」

「まあ、シーリア様の舎弟だったのですね」

「そう。だから毎日私を起こしに来るの。言ってなかったからびっくりしたでしょ? ごめんね」

「おい……」


 カノンにテイオを紹介すると、カノンは納得したようだ。目を吊り上げて何か言いかけたテイオだが、私とカノンのふたりに睨まれて引き下がる。


「テイオ。この子今日からここに住むことになったからよろしく」


 テイオは小さく溜息を尽いた。


「……それを早く言えよ」

「ごめんね。昨日の夜に急に決まったんだ」


 昨夜王宮で話し合った結果、カノンは厩舎で預かることになった。部屋は私と一緒。本人の希望もあって、馬丁見習いとして仕事もしてもらうことになっている。


 帰ってきた頃にはテイオはとっくに寝ていたからね。伝達の不備は仕方がない。


「ふぅん……」


 テイオはというと、カノンをじっと見つめている。もしかして惚れてしまったかと案じてみたが、どうやらそんなわけでもなく、何やら首をかしげていた。


「なあ、こいつ耳が長すぎやしないか?」


 すかさず私はテイオの頭をひっぱたいた。世間知らず怖いわ!!


「痛っ!! 何するんだ!!」

「うるさい黙ってろ!! ごめんカノン。こいつ世間知らずでエルフのこと知らないんだ」


 テイオに代わって私が謝ると、カノンはクスッと笑みを浮かべた。可愛い。


 テイオの方はほっぺたを膨らませて不満そうに睨んでいた。これはこれで可愛い。


「いえ、新鮮な反応で面白かったです。エルフに生まれたというだけで私はまだ子供ですもの。畏まられても疲れてしまいます」


 昨夜の王宮でのことを言っているのだろう。国賓待遇でもてなされて、カノンは窮屈そうにしていたから。


 でも、その気持ちはわかる。私だってお姫様扱いに慣れているわけじゃない。


「エロフ?」


 私はもう一回テイオの頭をひっぱたいた。


「エルフ! 滅茶苦茶長生きで、滅茶苦茶物知りで、滅茶苦茶便利な精霊魔法が使えて美男美女しかいない希少な種族なの彼女は!」

「お、おう……」


 テイオにはやはり勉強が必要だ。ここは国の中枢である城の中。子供だから知らなかったですまないトラブルに巻き込まれる危険は十分にある。


「ふふふ。仲がよろしいのですね」

「そんなことねーし」


 にこやかな笑みの下に黒いものが見えた気がして、私は背筋が寒くなったのだが、テイオがそれに気が付くはずも無く、ただ子供らしく口をとがらせる。


「さっきはごめんなさい。私はハディス・セフィリア・イゼルダ・ルージェ・スリヴァン・セリカ・カノン。森都フィンレから来たハイエルフです」

「え? はです、せふぃりあ?」


 数百年生きるエルフは誰が身内かわからなくなってしまうため、爺さん婆さんから連ねて名乗る風習がある。こっち側からしてみれば血族の名前なんて関係ないから、一番最後の当人の名前だけ覚えればそれでいいんだけど、初めて聞けば面食らうだろう。


 案の定テイオは困惑した顔をしている。だけどそういった反応にも慣れているのか、カノンは面白そうに見ているだけで気を悪くした様子はなかった。


「これが普通ですよ。シーリアさま。エルフの名乗りを一回聞いただけで覚える人は滅多にいません」


 そういえば、初めて会ったとき私は一度聞いただけで彼女の名乗りを完璧に言ってみせたんだっけ。これは前世でカノンエンドを何度も見てたせいなんだけど、それでちょっと驚かせた。


「私のことはカノンでいいですよ」

「そ、そうか。俺はテイオだ。よろしくカノン」


 安堵したような顔をして名乗るテイオ。


 ……ちぇっ。


 ふたりの微笑ましい様子を、内心で舌打ちしながら見ている、拗ねた顔も可愛い幼女は誰でしょう?


 そう。私です!


 テイオの奴カノンの名前はあっさり呼びやがった!


「テイオ? 私のことは?」

「あ? お前はお前だろう?」

「なんだと! 子分のくせに!」

「子分じゃねーし!」

「この前勝負に負けたじゃない!」

「だからって子分になるとは言ってねー!」


 カノンは私達のやり取りを暫く眺めていたが、やがて天使のような微笑みを浮かべて言った。


「黙って聞いていれば、やはり礼儀がなっていませんね。シーリア様。やはりこの野ざるは八つ裂きにしてしまいましょう! 私達の間に男は必要ありません!」

「そうだね。やっちゃおうか」

「おいおい。本気か!?」

「まさか。冗談だよ」

「いえ、私は本気ですよシーリア様」

「な、なぁ……こいつやばいんじゃないか?」

「大丈夫だよ。カノンは男の子に慣れてないだけでとってもいい子だから」

「本当か!? 滅茶苦茶殺気が出てた気がするぞ?」

「勿論。一途に相手のことを想うことが出来るとっても素敵な女の子だよ」


 私はカノンを抱き寄せて頭を撫でる。私に身を預けて幸せそうな顔をするカノン。本当に可愛い。


 彼女は私のことだけを想い、遠い土地からやってきた。ゲームでも、この世界でも。


 私はカノンとの出会いを思い返していた。

読んで頂きありがとうございます。

百合幼女最高! テイオ君頑張れ! この作者ほっとけねー! と色々気になった方はブックマークお願いします。


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