幼姫の帰還
えりゅたん幸せ回です(*´▽`*)
ゼファード様達に護衛され、私は城にあるお父様の隠れ家に案内された。執務室ともいう。
お父様は責任のある立場だから泊まり込みで仕事をしなければならないこともある。そのため執務室の奥の扉の向こうは休憩スペースになっていて、そこは王宮の自室よりも趣味の濃い空間になっているらしい。
奥さん3人もいるからね。王様だってひとりになれる場所が欲しいだろうさ。
だけど今執務室にお父様の姿は無い。話したいことがたくさんあったはずだけど、全部忘れてしまった。
そこに私が一番欲しかったものがあったから。
「シナリィ!」
「姫様!」
どすこいっ!
私は勢いよくシナリィの胸に飛び込んだ。豊満な胸に顔を埋める。
シナリィだ! シナリィだ! シナリィのおっぱいだ!
柔らかい……
温かい……
良い匂い……
私、世界で一番この場所が好きです。この瞬間をどれだけ待ちわびたことでしょう。
それに前より大きくなってる……G級? それ以上かも……
シナリィが頭を優しく撫でてくれる。ごめんね。私今汚いよね。なのに少しも嫌そうなそぶりを見せないんだから。シナリィは優しすぎるよ。
「背、伸びましたね」
「ん」
「綺麗になられました」
「ん」
「いっぱい頑張ったんですね」
「ん……」
もう幸せ過ぎてもう溶けてしまいそうだ。ずっとこのままでいたいよシナリィ……
「……んんん。こほん」
ん?
「……貴女達? そろそろいいかしら?」
やべぇ……
そういえばシナリィの前に立って腕を広げて待っていらっしゃいましたねお母様……
ええ。シナリィ(のおっぱい)しか見えていませんでしたはい。おもいっきり素通りしてしまいました。
ギギギギギィ……
抜群の吸着力を持つシナリィのおっぱいから私は苦労して顔を引き剥がし、お母様へと目を向ける。
お母様は今日もお美しいです。おっぱいは無いですけど。
「ご、ご機嫌よう。お久しぶりですお母様」
転生してから磨き上げてきたぶりっ子フェイスで挨拶する。笑みを浮かべるお母様、でもほっぺた引きつってます。
駄目です。無敵のエリュスマイルもそろそろ通用しなくなってきました。
「あらあら、私は全然ご機嫌よろしくないわ。言いたいことはそれだけかしら?」
プランB発動。私は軍で叩き込まれた直立姿勢での敬礼を見せる。びしっ!
「エリュシアリア・ミュウ・センチュリオン、只今帰還しました! しかしお母様。私は長旅で汚れておりますのでこの場を一旦失礼させて頂きます」
状況不利につき即時撤退であります!
「待ちなさい」
「にゃっ!?」
くるりと踵を返して立ち去ろうとするが、当然許されるはずもなくお母様に首根っこを掴まれてしまった。
「まったく! この馬鹿娘はっ! どれだけ心配したと思ってるの!」
「……申し訳ございません」
「いいわ! 許します! だってこんなに……立派なって帰ってきてくれたんだもの」
私を抱きしめるお母様。……泣いてます? 私汚いですよ? 上等なスーツが台無しになってしまいますよ?
それに私は……
「お母様。私は立派ではありません。加護の力に慢心し、ひとりで飛び出した挙句道に迷い、たくさんの人に迷惑をかけました。私の帰還が遅れなければ追ってきた刺客との戦いに市民が巻き込まれることもなかったはずです。私は……全然立派ではないんです」
お母様はとても悲しそうな顔をする。お母様のそんな顔を見たのは初めてだ。
「何を言っているの!? そんな悲しいことを言わないで! 貴女は国と民の為に多くの魔獣と戦って、たったひとりで帰ってきたのです。それが立派でなくて何だというのですか?」
「ですが……」
「ですがじゃありません! スタリオン卿。率直な意見で構いません。貴殿から見てこの子は何か恥ずべきところがありましたか?」
お母様酷い! なんでそこで剣聖様に振るんですか!? 私が彼の前でどれだけ情けない姿をさらしたと思っているんですか!?
あと補足だけど、ゼファード様は剣技大会に優勝した際に爵位を貰っているから卿と呼んで正しいです。
「お母様! 剣聖様は不甲斐無い私を刺客から庇い、ずっと盾になっていたんですよ!? 足手まといの私がいなければ彼は手柄を立て放題だったというのに……あいたっ!?」
私はお母様に頭を拳骨で叩かれた。お母様に叩かれたの初めてです。因みにお父様に叩かれたことはまだありません。
お母様の顔は怒っているというより悲しそうでした。
「貴女を救い、護りきる以上の功績がありますかっ!! ごめんなさいスタリオン卿。この子にはよく言い聞かせておきますから」
「いえ。お心遣いに感謝します」
その場に膝をつくゼファード様。私は剣聖様に傅かれるような人間じゃない。頭上げて欲しいです。
「僭越ながら自分から意見させて頂くならば、まず姫様はご自分が敵からどれほど恐れられていたかを知るべきです」
「……私が恐れられていたのですか?」
「はい。間違いなく」
帝国の工作員が私を? ゼファード様。お母様の前だからって私を立てなくたっていいですよ?
流石にこんな子供を怖がるアサシンなんていないでしょ?
確かに帝国は強い加護を持つ者を恐れている。でもそれは戦略的な視点からであり、個人で見れば私は恐れられるほど強くない。
けどゼファード様は冗談を言っているようには見えない。そもそも冗談やおべっかを言うような人じゃない。
「例え近衛騎士団3000騎を相手にする事になったとしても、敵は姫様が確実に現れる城門前に全戦力を集中せざるを得なかったのです。戦力を分散し、少数で姫様を襲うなど考えられません。姫様は盤上をひっくり返すことが出来る魔法を幾つも使える上、年齢以上に強かでいらっしゃいますから」
理屈は分かる。確かに何もない平野でならば私は軍隊とだって戦える。けれど……
「私は刺客の接近に気づくことが出来ませんでした。ゼファード様がいなければ私は今頃……」
「あの時、姫様の油断を誘い、一瞬の隙を作り出す為だけに30人以上の腕利きの刺客が動いていました。一部始終を見ていましたが敵ながら見事なものでしたよ。おかげで我々は市民に紛れた刺客に目星を付けることが出来たのです」
あの時見た平和な光景。それは全て敵の策略だった……
マジデ? 連中そんな事してたの? やだ、プロって怖い。それを見抜く騎士団もだけど。
「その後も安全が確保されるまで騒ぐことなくその場に留まり、敵の射槍機を魔法で的確に破壊。味方が撃たれるのを阻止してくださいました。自分の目から見て姫様は何も恥じる事は無かったと断言いたします」
ただあっけにとられてただけなんですけど。まあ、騒がずに任せてもらった方がやりやすいってのは軍で民間人の護衛とかしたからわからなくもない。
それにしても予想外に高評価です。ほらみなさいという顔をしているお母様がちょっと憎らしい。
でもなんか……なんか無いですか?
「ええと……皆さんに滅茶苦茶心配かけてしまいましたが……」
「それはお迎えに上がれなかった我々の責任です」
ちらりとゼファード様が背後に視線をやる。
そこに控えていたウィルがその場で土下座した。
「申し訳ございません!!!!!」
迎えに出された騎士達は途中の町で足止めをくわされていたらしい。その際に名前なんかを知られて偽物に使われてしまったのだ。
「しかし、私のせいで市民が巻き添えに……」
あの時広場にいた人間は誰ひとり例外なく拘束され、取り調べを受けることになる。
ただその場に居合わせた。それだけでだ。
「それもお前が気にすることはない」
その声はドアの向こうからした。
見るとセンチュリオン王国現国王、アルフォンス三世陛下がお供をぞろぞろ連れて入ってくる。
宰相様と護衛の騎士。さすがに有事下とあって護衛の数が普段2名のところ今日は6人も連れている。
「遅くなってすまない。面白そうな話をしていたから扉の向こうで聞かせてもらったが……おお!」
2年ぶりに会ったお父様は立ち聞きを自ら暴露した後、私を見て感嘆の声を上げた。
「エリュシアリア! よく帰ってきてくれた。本当に無事でよかった」
「ただいま戻りました。お父様」
父親とはいえ国王陛下だ。本当はしっかり身なりを整えて帰還の挨拶をするべきなんだけど、今は有事なので仕方がない。私は男女共用の胸を手に腰を折るスタイルで礼をする。
この世界、スーツもあればファンタジー衣装とかもあるからね。王様の前でもきちんと礼儀さえできていれば失礼にならない。
実は私、ドレス着る事滅多にないし、カーテシーなんてほとんどしたことが無い。
王族として公式行事にも出ないからね。
「宰相様もお久ぶりです」
宰相のエンフィールド公爵にも挨拶をする。お父様の従兄で悪友であり王位継承権は9位。ゲームの攻略キャラであるルー・ルート・エンフィールドの父親だ。
「お久しぶりでございます。エリュシアリア姫。……しかし、お美しくなられましたね」
8歳の幼女に何言ってるおっさん。それにしてもさっきから外観的にもやたら褒められてる気がする。お姫様らしからぬ日に焼けた肌に、汚い旅装束のどこがいいんだろう?
お父様が宰相様を睨んでくぎを刺す。
「……やらんぞ?」
「……うちの息子共には手に負えんでしょう」
とかいって、しっかり三男坊送り込んでくるんですよね。
「さっきの話だが、市民を巻き込んだことをお前が気にすることはない。それを騎士団に命じたのは私だからな」
「お父様……」
「奴らは帝国の工作部隊だ。これまで手にかけてきた要人は数知れん。我々はずっと後手に回り辛酸を嘗め続けてきたが、今日ようやく一矢報いることが出来たのだ。確かに無関係の市民も拘束することになってしまったが私は判断が間違っていたとは思っていない」
市民に紛れた工作員がいる以上仕方のない措置だった。あの場で市民の安全を守る為でもある。
それがお父様の指示だったというならば、私がとやかく言うわけにもいかない。
「申し訳ございません。差し出がましい事を言いました」
「いや、何も感じないよりはいい。それに今回は多くの工作員を捕らえることが出来た。長らく不明だった潜入ルートも解明できるかもしれん。それはお前がひとりでも諦めずに王都を目指してくれたおかげなのだ」
「はい。ありがとうございます」
私はもう一度礼をする。目を細めてお父様は頷く。
そして国を左右する情報は案外早くもたらされることになる。
「失礼します父上!」
やや乱暴にドアが叩かれて現われたのはアルフォートお兄様だった。お兄様は今王立修学院を卒業して王太子としてお父様の下で公務を学んでいる。相変わらずのイケメンプリンスだけど、急いできたのだろう。今は少し息を切らせている様子だ。
あのマイペースお兄様が珍しい。
「お兄様!?」
「なんだ騒々しい」
お兄様は私に気が付くと途端に奇麗な顔をほころばせた。
「エリュ! 心配してたんだよ! 帰ってきてくれて本当に良かった!」
「ご心配をかけてごめんなさい」
「構わないさ! 元気そうで何よりだよ。それにこんなに奇麗になって! ああもう! なんでエリュは妹なんだろう」
だからなんでこの格好が奇麗なんだよ! あとお兄様まだそんなこと言ってたのか。
そんなしょうがないお兄様をお父様が睨んでます。
「で? アルフォート。何があった?」
「あ、そうでした。捕らえた刺客の中にアナハエムの商人がいたことがわかりご報告に上がりました」
「なんだと!? 早くそれを言え馬鹿者!!」
叱られて首をすくめるお兄様。
だけど仕方がない。それはお母様も厳しい顔をするくらい重要な内容だったからだ。
アナハエム王国はセンチュリオンから遥か南東にある大国だ。北西諸国とは広大な砂漠に阻まれているため軍事的脅威は低い。またアナハエムは商業が盛んで何処の国にも中立的な立場を示している。
アナハエムでは神も悪魔も精霊も信じられていない。『人類は金の下に平等』が彼等の信念なのだ。よって女神様に贔屓されている北西諸国連合とも貿易相手として友好な関係を築いている。
アナハエムについてはゲームでは名前とアラビアン風の国というくらいしか語られていない。だが実際は世界3位の国力を持つ大国で、大陸の通商を牛耳っているといわれている。
アナハエムがもし国ぐるみでイグレス帝国と結託しているならば大変なことだ。今後アナハエムとの取引が出来なくなり、センチュリオンは経済的に大きな打撃を受けることになる。
「至急アナハエムの大使を呼び出せ! エルドリア一緒に来てくれるか?」
「畏まりました。ごめんねエリュ行ってくるわ」
外交官モードに切り替わったお母様。凛々しい顔で私の頭を撫でる。
「ではエリュの事は私にお任せください」
何やらちゃっかり自分は残るつもりでいたお兄様。当然お父様の雷が落ちます。
「馬鹿者!! お前も来い!!」
「ですがせっかくエリュがいるのに……」
「ですがもヨスガも無いわ!!」
お父様は最後に私に振り返る。
「すまんなエリュ。今日は疲れただろう。お前がこれから住むところは既に用意してあるからもう休むといい。今度ゆっくり話をしよう」
「え? 王宮に帰るのではないのですか?」
「今更お前を王宮に閉じ込めておくことはできんだろう? ゼファード、後のことは頼む」
「はっ!」
こうしてお父様とお母様はお兄様を引きずって出て行った。
その後聞いた話によると、呼び出されたアナハエム駐在大使は大いに謝罪し、国として関与は一切無いと表明。今後は再発防止を徹底すると約束したそうだ。
それがどこまで信用できるかはわからない。けど帝国の工作部隊と裏にいた商人を潰せたことで、今後の歴史に大きな変化が起こることをその時の私は知らなかった。
お兄ちゃん? 何か忘れてない? ブックマークのボタンはページの上だよ?
……読んで頂きましてありがとうございます。
汚い格好のエリュシアリアが他のキャラに美しく見えた理由ですが、これはセンチュリオンの人間が根っこのところでは戦士であり、戦場帰りの空気を持ったエリュシアリアが格好良く見えたためです。
パチ組のジムカスが墨入れ、つや消し、ウェザリングされて帰ってきたと言えばわかってくださると思います。
アナハエム……誤字ではありません。




