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南城門前事件

予定を変更しまして本日更新させていただきます。

 王都に来てすぐに魔法の()()を打ち上げた。それは私が王都に着いたことを伝える合図。


 聖炎による魔法というのは使った人間の気配を感じることができる。それは聖炎が人の心の奥から湧き出るものだからと言われている。


 私の聖炎は特に個性が強いらしいから、私を知る王宮や近衛騎士団の人間ならば、私が王都に戻ったことに気づいてくれたはずだ。


 だけどそれは敵も同じ。もし、敵に知り合いがいたなら、()()で私に気が付いた可能性が高い。


 敵の人数は不明だけど、広い王都でひとりの子供を見つけるのは流石に難しいはず。闇雲に探すより、私が確実に訪れる場所で待ち伏せするだろう。


 私はそれを予想していた……予想していた筈だった……


 散歩する老人。わざと失敗して笑いを誘う大道芸。威勢の良い串焼き屋台の親父。


 そんな平和な光景を眺め、懐かしいセンチュリオン城を目前にして私は気を抜いていたんだと思う。


 恋人同士だろうか? 若い男女が私の横を通り過ぎる。それはごく自然な風景であって私は全く不振に思わなかった。


 とすっ。どさっ……


 風を切る音がして後ろで何かが倒れた。振り返ると男女のうちの男性の方が胸に剣を根元まで突き刺されて倒れている。その手に握られているのは鋭利な刺突剣。


 えっ!?


 赤黒く染まっていく石畳。


「きゃぁぁぁぁぁっ!!!!!」


 近くにいた別の観光客が悲鳴を上げる。


 倒れた男の隣で一緒にいた女が驚愕の表情を浮かべ、それはすぐに憎しみの顔へと変わる。


 女は隠し持っていた刃物を抜くと真っすぐ向けてきた。


 私は動けない。女が向ける殺意に身体がすくんでしまったからだ。


 そんな私のすぐ横を風が通り過ぎる。


 気が付くと私を護るように立つ背中があった。


 剣聖様!?


 流れるような黒髪。シンボルである黒の鎧こそ身に着けていないがその後ろ姿は正しく剣聖ゼファード・スタリオンのものだ。


 女も彼の事は知っていたらしい。


「剣聖ゼファード・スタリオン!? たかが小娘ひとりのために何故!?」

「国の宝を()()()と言ったか?」


 女の顔が憎々しげに歪む。

 ゼファード様は素手だったが、女の刃物を手刀で叩き落すと脇腹に掌底を放つ。


「子供の命に貴賎は無い」

「……ガッ!?」


 女はあらぬ方向に身体を曲げ10メートル以上吹っ飛んで落下した。


「姫様、ご無事で何よりです」


 私は「はふぅ」と気が抜けて、こくこくと頷くことしかできなかった。


 横目で私の無事を確認すると倒れたゼファード様は男の胸から剣を引き抜く。剣を投げたのも彼のようだ。


 しかし、安心するのはまだ早かった。


 横合いから飛んできた矢を難なく剣で弾くゼファード様。私を狙う刺客はまだ他にもいたのだ。


「まだ来るぞ! 我々はここで姫様の盾となる。気を抜くな!」

「了解!」


 気が付くと私は屈強な男達に囲まれていた。


 上腕二頭筋のテイラー、ハーマンコンビ。そして大胸筋のウィル……よかった! 無事だったんだ!


 騎士達は皆騎士団の鎧ではなく一般人に紛れるような服装をしている。剣も楽器や荷物に巧妙に偽装して持ち歩いていたようだ。


 矢を射かけた者は近くにいた男に拘束されていた。その男も騎士のようだ。


 最初に襲ってきた男女の他にも、敵は刺客を潜ませていたらしい。だが近衛騎士団もまた一般人に扮して襲撃に備えていたのだ。


 いつの間にか広場のいたるところで戦いが始まっている。傍目には市民、観光客入り乱れての大乱闘。それは人間同士の殺し合い。戦場だった。


「この場にいる人間は全員拘束しろ!! 抵抗する奴は容赦するな!!」


 禿げ頭にねじり鉢巻きの串焼き屋台のおっさんが大きな声で支持を飛ばしている。


 グレッグ・アドラスの後任として近衛騎士団団長に就任したラスカル・ジャンパースンだ。可愛い名前に似合わず中々に濃いおっさんである。


「姫様は無事副団長が保護しました! 作戦は成功ですね!」


 同じくねじり鉢巻きをした部下の報告に笑みを浮かべる。


「ああ。特捜部時代の経験が役に立った」

「大根役者ばっかりで、どうなることかと思いましたけどね」


 騎士達が民間人に紛れていたのは彼の作戦だった。


 ラスカル騎士団長は混乱の中で、工作員が民間人を人質にとってくることを恐れていた。


 工作員が民間人に紛れているなら、騎士団員も民間人に紛れさせてしまえ。そうすれば工作員はうかつに民間人に手を出せなくなる。


 元は犯罪捜査を行う部署である特捜部にいたラスカル騎士団長は変装にも心得があった。彼は近衛騎士に民間人の格好をさせ、即席で演技の指導をした。とはいえ、騎士達は演技など初心者だ。それに、体格も見た目も良い為、例え服装を変えたところで目立ってしまう。彼としても内心冷や冷やしながら見守っていたのだ。


 ラスカル団長の指揮で騎士達はその場にいた民間人も全員その場で拘束を命じる。乱暴だが民間人と刺客の区別がつかないいからだ。


 その中で抵抗する者、従ったふりをして不意打ちを仕掛けるものがいたらそれは敵だ。その数はかなり多い。刺客たちもまた決死の覚悟だったことが伺える。

 それでも、騎士達は圧倒的な強さで次々刺客を倒していく。彼等近衛騎士団が対人戦最強と呼ばれているのは伊達じゃない。


「団長!! 何か来ます!!」

「あん? なんだありゃ!?」


 音を立てて路地の向こうから現れたのは二頭立ての馬車だ。鉄の装甲を施した荷台は古代の戦車のようである。


「おいおい。あんなもんで何する気だよ」


 通常の馬車に盾や鉄板等を貼り付けて補強しているようだが、それでも防御力はたかが知れている。ここにいる騎士なら拳ひとつで破壊できるような代物だ。


 戦車の側面に開けられた4つの窓が開き、中から小型の弩弓がせり出して私へと向けられる。弩弓に装填されているのは細っこい矢などではなく、鋼鉄製の銛だ。屋根の上からも男がふたり、同様の武器を肩に担ぐように構えている。


射槍機(ジャベリン)かよ!? あんなものよく王都に持ち込めたな」

「もしかすると軍で使用されているのが横流しされているのかもしれません」

「ああ。今回の件はかなり根深い。軍内部にスパイがいることは確実だが他にも協力者がいるはずだ」


 聖炎を持つセンチュリオンの兵士に対抗するために、帝国はこれまで様々な武器や兵器を開発した。射槍機(ジャベリン)もそのひとつである。

 射槍機(ジャベリン)とは攻城戦用の弩を人が携行できるぎりぎりまで小型化したような代物で、重い、でかい、連射も利かないと、普通の戦場ではまず使えないが、人を鎧を着た兵士を数人まとめて串刺しに出来るほどの威力を持っている。かつて帝国はこの射槍機(ジャベリン)を大量に投入。物量にものを言わせて何度もセンチュリオンを追いつめた。


 射槍機(ジャベリン)は対魔獣用にセンチュリオン軍でもコピーしたものが採用されているが、都市部では持ち込みが禁止され厳重に管理されている。


射槍機(ジャベリン)だ!! 総員警戒!!」


 近衛騎士にとって通常の弓矢など大した脅威ではない。だが射槍機(ジャベリン)は別だ。高速で放たれた銛は剣で弾くのも難しく、避ければ民間人に当たる危険もある。


 だが、射槍機(ジャベリン)から鉄の銛が放たれるより早く、光の帯が彼等を襲い敵の射槍機(ジャベリン)を正確に破壊する。


「うわあっ!?」

「ぎゃぁっ!?」


 破壊された際に射槍機のバネが弾けて破片が飛び散り、構えていた射手が悲鳴を上げた。


 また光の帯は戦車の車輪も撃ち抜き、戦車はその場に擱座し停止した。


「確保っ!!」


 その隙を逃さず、ラスカル団長の号令の下、近衛騎士が馬車に突入。中にいた刺客を捕縛する。


「今の魔法は姫様ですか?」

「はい。余計な真似でしたか?」

「いえ、助かりました」

「それならよかったです」


 私が放った『ホーミングフェイザー』は、誘導ビームで同時に最大8ヵ所の目標を攻撃することができる魔法だ。


 それだけ聞くと便利に聞こえるが、照準と誘導に集中しなければならないため、発射時に無防備になるというリスクがある。


 私が手を出さなくても近衛騎士団の勝利は変わらなかっただろう。だけど発射されていたら誰かは傷つき、命を落としていたかもしれない。


 やがて騒動は収まる。


 刺客のほとんどは自害したようだが何人かは捕縛できたようだ。また、大人しく拘束された者の中にもまだ仲間がいるかもしれない。それはこれから調査で明らかになるだろう。無関係の人間を巻き込んだことに心が痛んだ。


 私のせいで……


 ほんのしばらく前までは平和な時間が流れていた場所が、今はあちこち血にまみれ、屍が散らばる地獄絵図と化している。


 そんなん中で私は倒れたひとりの女性が目に留まる。そして気が付いた。


「あれは……」

「姫様! まだ危険です!」


 ゼファード様が制止しようとするが、私は思わず駆け寄っていた。


 最初に襲ってきた、ゼファード様の掌底を受けた女性だ。辛うじてまだ息があるようだが、身体が壊れた人形のように、おかしな方向に曲がっている。恐らくもう助からない。


「ロジーナ事務官……」


 ウイッグが取れて本来の地毛が現れたことで気が付いた。私はこの女性と面識がある。私が配属されたばかりの頃から何かと世話を焼いてくれた女性兵士だ。私が声をかけると、彼女はうつろな目を向ける。口は動いているが、既に声は出せないようだ。


「この女を知っているのですか?」

「……はい。ローラ・ロジーナ伍長。アイアンライン警備隊で人事部にいた下士官です」


 やはり敵の中に顔見知りがいたのだ。


 彼女が息絶える前、唇の動きから読み取れた最後の言葉は「くたばれ」だった。


 裏切者。もしくはスパイであった者の末路を哀れむ者はいない。騎士達から怒りや侮蔑の視線が彼女の遺体に注がれる。だがそれもすぐ収まった。


 それは私が泣いてしまったから。


 怖かった。悔しかった。悲しかった。


 戦場を経験するのは初めてではない。それなのに……なんて情けないんだ。


 ちょっと魔法が使えたところで、私なんてまだまだこの程度。それを思い知らされた。


 泣きべそをかく私を連れて近衛騎士団は城へと帰還した。

お兄様? ブックマークはページの上でございます。


……読んで頂きましてありがとうございます。


射槍機のルビをダインスレイヴにしようとして我慢しました。

ジャベリンでも性能以上の敵と戦えますし!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 再び闇があります。 私はそのすべての突然に慣れ始めています。 今考えてみると、それは現実の暴力に似ています。それは、あなたがそれを最も期待していなかったときに起こり、醜さが心地よさを打ち破…
[一言] ちょっと魔法を使える所て全く成長していない、という事より、とっくに軍に参加して戦闘経験もそれなり積んだ癖に、今更殺気一つでビビるのはおかしいでだと思います。。。
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