シーリア・ブレイウッド~後編~
「こういうことか!」
馬を走らせながらグレッグは自分の発煙筒の封を切るとそれを投げ捨てる。道に堕ちた赤煙筒は赤い煙を吐き出し始めた。
落ちていた赤煙筒の持ち主も同じ状況だったのだと予想が付く。……その末路も。
「グレッグさん!? ワイバーンって!?」
「空から襲ってくる獰猛な魔獣だ! テイオ! 落とされないようにしっかり掴まっていろ!」
ワイバーンはこの世界でもヒエラルキー上位に位置する厄介な魔獣である。肉食で優れた飛行能力を持ち、単体でも強力だが群れで協力して狩りをする狡猾さも持っている。
馬も全力で走っているが、速度ではとてもワイバーンには及ばない。既にその姿を確認出来るまで距離が縮まっている。
「あれがワイバーン!?」
テイオはグレッグの肩越しにソレを見た。
10メートルを超える体長。翼長は更に大きくその1.5倍くらいある。茶色くごつごつした表皮を持ち、身体の半分ほどある長い尻尾。大きさの割に頭は小さいが、それでも子供のテイオを丸呑みするくらいはできるだろう。
まるで枯れ木が飛んでいるかのような不気味な姿にテイオは恐怖で震えた。
「まったく! アイアンラインの連中大ポカをやらかしてくれたな!」
悪態をつくグレッグだが、空を飛ぶ魔獣に対して打てる手が少ないことは彼もよく理解している。
(まったく! こんな時に! 夜陰にでも紛れてアイアンラインを越えてきたか!? 俺だけならばどうとでもなるが、今は馬とテイオがいる。どこか隠れられる場所さえあれば……)
今この場にいるのは、元近衛騎士団団長のグレッグ・アドラスだ。彼はワイバーンごときに遅れをとるような男ではない。
だがグレッグが馬を下りてワイバーンを迎え撃つにしても、ワイバーンはグレッグより馬や子供のテイオを狙う可能性が高いだろう。グレッグは周囲を見回し、馬とテイオを隠せそうな場所を探す。
(あそこが良い!)
それは切り立った岩肌の見える岩山だった。たとえ身を隠せる場所が無かったとしても、岩を背にすれば空から迫るワイバーンの攻撃を制限できる。それだけでも有利に戦えるだろう。
「テイオ! 俺が奴の気を引くからあの岩山まで走れ!」
「え!? グレッグさん!?」
「すぐに岩陰に隠れるんだ! いいな!」
グレッグはテイオにたずなをしっかり握らせると馬から飛び降りる。同時にワイバーンも狩りの態勢に入った。翼をたたみものすごい速度で急降下してくる。
グレッグは石礫に丁度いい大きさの石を拾うと女神に願う。
「女神よ!! 俺に力を与えたまえ!! 『バーニングマッスル』!!」
グレッグの胸の奥から湧き出た聖炎が、彼の身体能力を限界以上に引き上げる。
「食らえ!」
ワイバーンめがけて石礫を投げつける。
Gya!?
石礫がワイバーンの飛幕を貫く。
Gyaoooos!!
ワイバーンはやはり始めはグレッグより馬が気になったようだ。だが自慢の翼を傷つけられ、怒りの雄叫びを上げてグレッグを威嚇する。その様子にグレッグは内心ほくそ笑んだ。
(そうだ! さあこっちへ来い!)
剣を抜き、ワイバーンを正面から見据えるグレッグ。
一度上空を旋回しワイバーンはグレッグめがけて襲い掛かった。
ワイバーン最大の武器は後ろ足にある爪である。獲物を狩る際は、その爪で獲物を捕らえ空中へと連れ去り、獲物の生きが良ければ落とす、叩きつけるなどして弱らせ捕食する。
人間など一掴みに出来そうな巨大な後ろ足がグレッグに迫る。捕まればひとたまりもないだろう。
グレッグは真正面からの攻撃を難なく剣ではじいて躱した。
「おっと! まだまだ! そんなものか?」
攻撃に失敗したワイバーンは再び上昇すると、再び急降下してグレッグを狙う。それを再びはじくグレッグ。
グレッグの技量ならワイバーンを撃退することは容易だ。だが下手をすると自分を狙うことを諦めたワイバーンがテイオを狙いかねない。
グレッグの目的はワイバーンの撃退ではない。この場で殲滅することである。
空中からの攻撃を3度繰り返したところで、ワイバーンは地面に降り立った。相当機嫌を悪くしているらしく、唾液を垂らし、血走った眼を向けて襲い掛かってくる。
それこそがグレッグの待っていた瞬間だった。
ワイバーンは外皮や飛幕などが素材として取引されているが、中でも高値が付くのが頭部だ。
(ほう? なかなか良い面構えじゃないか)
好事家に売れば騎士団長時代の年収くらいの値が付くだろう。だが……ワイバーンの弱点は図体の割に小さい頭部である。
「ドタマァァァァァ!!!!! イッポォォォォォン!!!!!」
グレッグは剣を振りかぶると、その頭を一刀のもとに叩き割った。
Gyaaaaaaaas!!!!!
断末魔の雄たけびを上げるワイバーン。
魔獣とは、素材の売買で生計を立てるハンターにとって獲物であり、商品だ。しかし民を護る騎士や兵士にとっては即時殲滅すべき害獣である。取り逃がせば更に被害が出かねない事からも、いくら高値が付くからといって手加減したりすることは恥ずべき行為とされている。そうした価値観の違いから、騎士や兵士は民間のハンターとは仲が悪い。
「やったか」
地に伏したワイバーンが確実に死んでいることを確認する。だがその時……
「うわぁぁぁぁぁああ!!!!!」
岩場から叫び声が聞こえた。
「テイオ!?」
見ると岩場には3体のワイバーンがテイオを狙っている。
Gyaoooos!!!!
驚いた馬が立ち上がり、テイオを振り落として逃げていく。
(なんてことだ!! 奴らの狩場に追い込まれていたか!? 俺としたことが!!)
ワイバーンは基本的に群れで行動する。群れで協力して狩をする習性があることを自分は知っていたはずなのに。
倒したワイバーンは仲間が待ち伏せる岩場に自分たちを誘導する役目だったのだ。グレッグは今更ながらに気が付くがそれはあまりにも遅かった。
ワイバーン側にしても仲間がやられるとは思っていなかっただろうが、グレッグはまんまとワイバーンにしてやられたことを悔やむ。
それは悔やんでも悔やみきれない判断ミス。
テイオに食らいつこうとするワイバーン。
「テイオぉぉぉーーーっ!! 逃げろぉぉぉーーーっ!!」
テイオは落馬の衝撃で怪我をしたのか、腰が抜けたのか動けない。
(女神よ! どうか! どうか力を!)
女神タグマニュエルの加護の力、聖炎は彼の中で熱く燃え上がりグレッグに力を与える。
全力で地を駆ける。数十メートルの距離。数秒でたどり着ける距離。それでも絶望的な距離。
(だめだ! 間に合わん!)
テイオが食われる……
グレッグはその瞬間を覚悟した。その時……
Gyaaaaaooooos!!!!!
彼方から飛んできた光弾がワイバーンを打ち砕いた。
爆音が響く。テイオを食らおうと歓喜の声を上げていたワイバーンは肉片になって飛び散った。
「っ!? なんだ!?」
とっさに光弾の飛んできた方向を見る。そこには高速で飛翔する小さな影。ワイバーンよりずっと小さい。それは人だ。それもまだ子供くらいの……
「あれは!? まさかっ!?」
彼にとって見覚えのある人影は速度を保ったままワイバーンとテイオの間に突っ込んだ。豪快な着陸に砂煙が舞い上がり視界が奪われる。
ドォン!! ドォン!! ドォン!!
低く響く音を立て、砂煙を拭き散らすように光弾が3発、続けざまにワイバーンに向けて撃ち出され1発が命中。1体のワイバーンが爆発四散する。
Gyaaaaaos!?
立て続けに仲間がやられたことに驚いた最後の1体が空へと逃げる。
小さな人影もそれを追って飛翔する。その上昇速度はワイバーンよりもはるかに速い。
「テイオ!」
その隙にグレッグはテイオに駆け寄ると呼吸があることを確認する。
(気を失っているだけか……よかった。本当に……ありがとう……ありがとうございます!!)
グレッグは空中へと目を向ける。
空中での戦いも終わったようだ。爆音の後に、ワイバーンの残骸が地上へと落ちてくる。
3体のワイバーンを瞬殺したその人物は軍の制服を身につけているものの、テイオと変わらない年頃の少女だった。
淡い金色のポニーテールとスカートを大気になびかせて、ふわりとグレッグの前に舞い降りる。
(3体のワイバーンを一瞬で倒してしまうとは……もう十分に力を使いこなしていらっしゃる)
2年前より随分背が伸びたようだ。だがそれ以上にグレッグには彼女がとても大きく見えた。
グレッグは少女の前で片膝をつき臣下の礼を取る。
「エリュシアリア姫。お久しぶりでございます。危ういところを助けて頂き、感謝のしようもございません」
その少女は2年前、教育のために軍に放り込まれたセンチュリオン王国の第4王女。エリュシアリアだった。
傅くグレッグにエリュシアリアが慌てる。
「よ、よしてください。私は国に使える兵士として任務をこなしたにすぎません! どうか自然に接してください」
遠くから複数の馬のひずめの音が聞こえてくる。彼女の仲間の部隊だろう。どうやらこの状況を見られたくないらしい。エリュシアリアは本当の名を隠して軍に所属しているのだ。
今は一介の兵士である少女は背筋を伸ばし敬礼する。
「アイアンライン警備隊第1遊撃中隊所属シーリア・ブレイウッド軍曹です。お久しぶりです。グレッグさん」
すっかり日に焼けた顔で、少女は眩しい笑顔を見せた。
読んで頂きありがとうございます<(_ _)>
軍隊で鍛えられた我らがえりゅたんは立派なガ〇ラになりました。
設定資料~シーリア・ブレイウッド~
名前 シーリア・ブレイウッド(本名エリュシアリア・ミュウ・センチュリオン)
年齢 8歳
身長 133cmくらい(欧米サイズ)
血液型 O型
所属 国軍アイアンライン警備隊第1遊撃中隊
階級 軍曹
シーリア・ブレイウッドとは加護の力に慣れるため軍に放り込まれたエリュシアリアの偽名。
軍で訓練を受け、バンバン魔獣を倒しているうちに加護の力を暴走させることは無くなった。そればかりかゲームでの設定にはなかった新たな魔法を複数取得している。
人間には害のない聖炎だが魔獣には非常に有効である為、魔獣相手には無類の強さを発揮する。
半面、戦闘が可能な時間は短く味方のサポートが必須である。
主な使用魔法
『プロミネンス砲』
プラズマ化した聖炎を収束、亜光速投射するビーム兵器。ビームに対する防御手段がないファンタジー世界では無敵の威力を発揮する。この時期のエリュシアリアはとある事情で、あらゆる性能がゲームの設定より大幅に向上している。
『プラズマインパクトガン』
ゲームには未登場。着弾と同時に爆発し、ワイバーンクラスを一撃で撃破できる火球。爆発によって人間相手にもダメージが与えられる。連射もできるため使い勝手が良い。
『ホーミングフェイザー』
ゲームには未登場。最大8目標を同時攻撃できるビーム。強力だが照準と誘導に高度な空間認識能力が必要。ニュータイプでもム○・ラ・フラガでもないエリュシアリアには負担が大きく、頭が疲れるので使いたがらない。
『えりゅたんぱんち』
聖炎を宿した拳。魔獣には有効だが人間にはただのパンチ。肩こり、腰痛に効く。
『フレアフライト』
周囲にプラズマフィールドを作り出し、発生したイオン嵐を推力に飛行する魔法。プラズマフィールド内の空気循環が停止し、内部が高温になるため1分程度しか飛行できない。本来生身で使うようなものじゃない。




