剣と筋肉に誓うこと
裁判ものに挑戦してみたくて始めましたがなんだか混沌としてきました。キラキラドキドキはいつ始まるんでしょうね(;^_^A
かこーーん!
ほどなくして裁判長が木槌を振るう。
「静粛に! 騎士団側はよろしいですか?」
「はい。裁判長」
そう言って立ち上がったのはメイラではなくグレッグ騎士団長だった。
「まずはここにいる皆さまに謝罪を。以後我々近衛騎士団はこの法廷内に限り、王ではなく法と正義に則り事件を糾明することを剣と筋肉に誓います」
騎士団側の全員が直立して例の宣誓ポーズをとる。真面目なシーンが筋肉のせいで台無しだった。
グレッグを残して他の騎士達はそこで着席する。王家に歯向かうのは自分だけだとでも言うように、この先騎士団側の発言は全てグレッグが行うようだ。
「では容疑を取り下げることを取り下げるということでよろしいのですね?」
「そうです」
「わかりました。では騎士団側は改めて意見を明確にして頂けますか?」
「はい。確かに死者こそ出てはいませんが、エリュシアリア殿下の魔法により近年類の無い被害を出したことは事実です。よって我々近衛騎士団は検察権を行使し、エリュシアリア殿下を国家反逆罪の容疑で……公訴します」
不本意な状況に追い込まれながらも、グレッグはそれを表情に出したりはしなかった。
だが固い口調から隠しきれない苦悩が伝わってくる。
グレッグ騎士団長。裁判が終わったら自害したりしないだろうな?
「お父様、騎士団長様は大丈夫でしょうか?」
「ああ。悪いようにはしない。だが事は国の信用にかかわることだ。けじめはしっかりつけなければならない」
「はい。お父様」
私としてはお父様の言葉を信じるしかない。
「この展開は騎士団側には予想外の事と思います。審問を中断し、準備時間を設けますか?」
騎士団側へ配慮をみせた裁判長だったがグレッグは首を振る。
「いいえ、必要ありません。皆が見ている前でエリュシアリア殿下が魔法による攻撃を我々に行い被害が発生した。あるのはその事実のみです」
その通りです。
真実はたったひとつ。私が騎士団もろとも城壁を吹っ飛ばしてしまったということ。
これをどう覆すというのだろう?
「自分にお任せください」
不安と期待が織り交じった心境が顔に出ていたのだろうか? ハクラが声をかけてきた。
「見方を変えるだけで真実はひっくり返る。それをこれからご覧いただきましょう」
某名探偵に喧嘩を売るようなことを言って、ハクラは下手くそなウインクをしてみせる。
「では弁護人。反論を始めてください」
「はい」
裁判長の言葉にハクラが立ち上がる。
「私はこの裁判が始まる前に、騎士団側の調書を読ませてもらいまして大きな疑問を持ちました。それが動機と凶器があまりにも不明瞭だという点です」
動機、出来ると思ったからやった。
凶器、『プロミネンス砲』
動機も凶器も調書にはそんな感じで書かれているはずだ。そしてそれが真実だ。深く掘り下げられることもなく、ただすごい新魔法が炸裂したという感じで納得されてしまったのである。この世界は地球とは違い、凶器もトリックも魔法で解決しちゃうファンタジーなのだとその時私は改めて理解した。
だがハクラはそうではなかったらしい。
「まず動機から解明していきましょう。エリュシアリア殿下はポニーテールがよく似合うとても可愛らしい方です。また、自分の罪が家族にかかることになると聞いて思わず声を上げてしまうくらい、真っすぐで優しい心を持っていらっしゃいます」
なんだこの褒め殺しは!? 私の容姿なんて今関係ないよね? このロリコンめ!
「異議あり! 弁護人の発言の意図がわかりません! 弁護人は裁判を混乱させようとしているとみられるため抗議します!」
案の定グレッグから異議が飛ぶ。
「被告人の人間性を語ることが裁判を混乱させる行為だとは思いません。エリュシアリア殿下が容姿、性格ともに優れた人物であるという点は、この裁判で重要なポイントであると考えます。アドラス騎士団長はそれが間違っていると仰る?」
「……異議を撤回します」
あっさり引くのかよ! 私はいいけどね。
ん? 性格はとにかく、容姿関係あるか?
「さて、エリュシアリア殿下が可愛くて良い子だと認めて頂けたところで騎士団側にお尋ねします。国家反逆罪を問うにはエリュシアリア殿下が意図的に騎士団を標的にして魔法を放ったことを立証しなければなりません。ですが取り調べにおいて殿下は騎士団を狙って撃ったことについては否認していますが、取り調べではそれ以上の言及もされていませんね?」
グレッグの表情がやられたと言わんばかりに引きつった。
「何故貴方達は動機が不明瞭のまま、国家反逆罪を適用したのでしょう? 殿下が訓練中の騎士めがけて魔法を撃ったと最初から決めてかかっていたのではありませんか?」
「そ、それは……」
「では言い方を変えましょう。騎士団側にはエリュシアリア殿下に攻撃される心当たりがあったのではありませんか?」
何を言ってるんだこのロリコンは?
この事件は『プロミネンス砲』の発射の際、私が流れ込んできたエネルギー量にびびって照準がつけられないまま発射してしまった誤射である。だけど一発だけなら誤射かもしれないなんてどこぞの新聞のような理屈は被害が出た時点で通じない。
私はその責任を取るつもりでこの場に立っているのだ。騎士団は何も悪いことはしていない……はずなんだが……
何故かグレッグは言いづらそうに視線を逸らす。
「あるのですね。イエスかノーで答えてください」
「あります」
なんでやねん。
やった本人に無いのになんでグレッグ騎士団長にあるんだよ。
「事件当日の朝、飢餓状態に陥ったエリュシアリア殿下を城の厩舎長が保護するという出来事がありました。その際騎士団の士官食堂にて一部の騎士が殿下に不快な思いをさせたと報告を受けております」
忘れかけていた肌色の光景を思いだす。
あれかーーっ!! 食堂での筋肉祭り!!
私、あれのせいで騎士団吹っ飛ばしたと思われてたのか!?
「重要な動機であるにもかかわらず、調書に記載されていなかったのは何故ですか?」
「その件についてはエリュシアリア殿下のご配慮によりらなかったことになっているからです」
「なるほど。騎士団はそのなかったことを動機として殿下に国家反逆罪の罪をきせたのですね?」
「……そうなります」
グレッグは苦虫を噛みつぶしたのを必死で堪えるかのように顔を引きつらせている。
ハクラは事前に食堂での出来事を掴んでいたのだ。それが動機と考えられていることも……
つまり情報をハクラに流した者が騎士団の中にいるということだ。勿論悪いことではない。だがグレッグは面白くないだろう。
「裁判長。動機の検証のために当時その場にいた騎士を証人として召喚したいと思います!」
「異議あり! 彼等の所業については騎士団側で処罰が既にすんでおります。今更掘り返すためにこの場に呼ぶ必要などありません。全ての責任は私がお受けします」
だがグレッグの言葉に裁判長は首を縦に振らなかった。
「異議を却下します。アドラス騎士団長は先ほどの宣誓をお忘れですか?」
肩を落とし項垂れるグレッグ。
「……申し訳ございません」
「結構。ではすぐに関係した騎士達を集めてきてください」
「わかりました」
グレッグから指示を受けて、ゼファード様が廷吏と共に審議場を後にする。
ここから近衛騎士団本部までそれほど離れていない。そう時間がかからないうちに、あの時食堂にいた面子が集められた。
彼等は証言台でひとりずつ宣誓した後、食堂での出来事を再現させられていった。
「テイラー三等騎士であります! 自分は殿下にこの上腕筋を見て頂こうと思いまして……」
「脱いだのですね?」
「脱ぎました!」
「ではその時の状況を正確に再現してください」
「こ、この場ででありますか!?」
「そうです」
服を脱がされてポーズをとらされるテイラー三等騎士。いじめかこれは。
一応この場には上級貴族の皆さんに、王族も勢揃いであることを追記しておく。
おいロリコン! クリスティン姉様とアリスティン姉様が見ていることを忘れてないだろうな? ウェンデリーナはまだ幼いからわからないだろうが、上の双子のお姉様達は正真正銘の幼気な美幼女なんだぞ! 情操教育に影響が出たらどうするんだよ!
だが、ハクラはその場に婦女子がいることなどお構いなしに晴れやかな笑顔を浮かべ、次々と騎士達を裸にしてマッスルポーズをとらせていく。
こいつロリコンな上にドSかよ!
「はい結構です。では次の方。自慢の筋肉をこの場で存分にご披露ください」
テイラーのライバルハーマン三等騎士、ウィル二等騎士、そして最後のひとりであるクラプトン三等騎士の番が回ってくる。
「これからは大臀筋の時代です姫様!」
彼はもうヤケクソだった。ヤケクソになってその場で自慢の尻を披露した。
そしてハクラはのたもうた。
「エリュシアリア殿下いかがでしたか?」
「ぶっ飛ばしたくなりました」
お前をな。
「そうですか。しかし殿下はそれをなさらなかった。お判りいただけたでしょうか? 殿下は可愛らしく、真っすぐで優しい上に、しっかりとした自制心を持つことが証明されました」
されてねーよ!
私は裁判が終わったらこいつの頭をかち殴ろうと剣と筋肉に誓った。
読んで頂きありがとうございまっするまっする!




