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何なのよ、あの副会長は!!
春陽は信じられない思いだった。
――その笑顔ずっと作ってて疲れません? ちょっと気持ち悪いんですけど
その言葉があろうことか陽太と綺麗にハモってしまった。
こんな失礼な言葉が何で一字一句違わずハモるわけ?
そして、それを聞いた霧人の反応は……
少し押し黙った後、陽太の手を取ったのだ。
予想外の反応に、春陽は目を丸くする。
それだけで終わればよかったのだけど、そうはいかないわけで
霧人は取った手を引き寄せて、陽太の頬に唇を寄せた。
リップ音が耳にむなしく響く。
「はぁぁあ!?」
春陽が上げた声は女子にあるまじく低い叫び声だった。
「ええ!?」
と、戸惑った声を上げた従兄弟のほうが可愛らしい反応をしていた。
しかし、霧人は二人の上げた声を気にしてはいないようだ。
「気に入ったよ。これから、よろしくね」
満面の笑顔で告げられた言葉は明らかに陽太へと向けられていた。
ああ、思い出すだけで腹の立つ。
私が、副会長にキスされるはずだったのに。
あれは、ゲームのイベントでしょう?
何でヒロインである私にしないわけ!?
もし、か・り・に、ゲームがどうとか関係なくても、こんなに綺麗な私と、もっさい変装した陽太が同じことを言って
なんで、陽太にキスするのよ!!
変なかつらと眼鏡をしていない陽太ならまだ納得できたかもしれないけど
いえ、それでも男に負けると言うのは腹立たしいわね。
なんなの? ホモなの? これ乙女ゲームの世界じゃなかったの? 攻略対象キャラがホモって……
終わってる。
今も春陽よりも少し前で霧人は陽太に話しかけている。
名前はから始まり、今日は言い天気ですねなんて続けて最後は
「ご、ご趣味は」
見合いか!!
副会長ってもっと頭いい設定じゃありませんでしたか?
はあと大きくため息をもらす春陽を気にする者はいない。
と思ったけれど、前を歩いていた二人が歩みを止めた。
驚いた春陽だったが陽太と副会長は振り返ることなく止まったところにある扉をノックし部屋の中へ入っていった。
嫌に長い移動時間だったけれど、ようやく理事長室についたようである。
「ようこそ、晴天学園へ!!」
笑顔で両手を広げて待ち構えるサングラスを掛けた男を目にし、春陽は回れ右をしたい気分になった。