47 聖女の微笑みは全ての問題を解決するそつです!
ローズは花瓶を指差したままキョトンとしている。かわいい…、いやいや今はそれどころじゃない!
「ずっとそこに立っていらっしゃるではないですか…」
ローズがそう告げると花瓶と花がゆっくりと宙に浮き歪み始める。そして宙に浮く水の塊となり次第にテオの姿に変わっていった。銀縁のメガネに綺麗な顔立ち、剣士とは思えない華奢な体の男…。久しぶりにあったテオに俺は思わず顔をほころばせてしまったがテオは無表情のまま頭を下げる。
「ローズ様、お見事でございます」
「勘弁してくださいよテオさん、せっかくポルトに『優秀な護衛騎士』と言ってもらえたのにテオさんの疑似化に気付かなかっただなんて護衛騎士失格と言われてしまうじゃないですか」
「安心しろカデル。私以上の疑似化をする者を私は見たことがない。デューイ様にでさえ見破られたことはありませんからね」
氷の様に冷たい眼差し…、ローズは澄んだブルーだと言っていたがその瞳は深海のような深い色を持ち合わせている。澄んでいるからこその深みのあるブルーに引き込まれそうになるんだ。
―――変わらないな。真面目すぎるほど真面目で冷たく感じるほど無表情で冷静沈着だ。
見た目だけで言えばデューイ以上に氷属性の魔法を使いそうに見えるがテオは水属性の魔法を使う。水魔法を使う者は自分自身を疑似化するのが得意だがテオはその名手と言えるだろう。
「ローズ様、彼がデューイ様の補佐官のテオさんです。俺に剣術の手解きをしてくれた方なんですよ」
俺は腰を曲げてローズの耳の近くで伝えた。もちろんここまで近づく必要はない。ただ一瞬香る彼女の薔薇の香りを感じたかっただけだ。…決してデューイのような変態気質なわけではない!
「あらそうでしたの…。ずっとお話もされずにこちらを見つめていらっしゃったのでデューイ様の護衛の方かと…」
ローズは可愛らしく微笑んでいるが分かっていないな…、デューイでさえ気がつかなかった疑似化したテオを簡単に見つけてしまったのだ。テオの興味は一気にそちらに向くだろう。そして案の定鋭い目付きのままテオが話し始めた。
「挨拶もせずに申し訳ございませんでした。なにぶん主があの手この手で私を排除しローズ様との時間を作ろうとされていたため、隠れ忍ぶ他方法がございませんでしたので。
しかし僭越ながら、ローズ様。なぜ私の疑似化にお気づきになられたのでしょうか?もしよろしければ改善・修正を致したく、ご教示いただけますでしょうか?」
「へッ?!」
相変わらずのキョトン顔…、疑似化を見破ったつもりさえなさそうだ。だからといって魔法が使えないローズが魔法を見破るとはどういうからくりだ?おれ自身も気になるところだがだからと言って今ここで確認するわけにはいかない。
だがもちろん俺たちはなにも講じていないわけではない。ローズの身元を偽装する上で色々な設定を考えていたのだ。問題はローズは嘘を付けない性格だと言うことだ。なのでそこはデューイと俺がフォローすることにしていた。
「テオさん、ローズ様は光魔法と植物魔法を得意とされていらっしゃいます。恐らくテオさんの擬態化は植物でしたので見破りやすかったのではないでしょうか。水は光の屈折もありますからね」
「そうだぞテオ。いくら御前の疑似化が見破られたからってそんなに怒るな。せっかくレモンタルトでかわいいローズ嬢のかわいい笑顔を鑑賞し、そのかわいさを目に焼き付けていたと言うのに…。
さぁ、ローズ嬢!テオのことは気にするな。レモンソースたっぷりのレモンタルトは美味しいかい?気に入ったようなら僕の分もあげよう」
俺の説明でテオが納得したかは分からないが小さく「なるほど…複数の魔法を使われるとはさすがでございますね」と呟いた。そしてデューイの溺愛ぶりをみてテオはデューイの後ろに後退した。デューイの婚約は補佐官としては大優先事項だ。邪魔するわけにもいかない。
この実力社会のヴァルデロスで魔法が使えない令嬢が妃候補になるわけにはいかない。なので蔓等の植物たちがローズの周りをうろつけるように植物魔を、sおして神聖力使用時に出る光が不自然に見えないように光魔法を使用すると言うことにした。幾つかの属性魔法を使いこなせるとなれば妃候補として問題ないとふんだのだ。まさか魔法をお披露目しろとはわざわざ言われないだろうし、テオの擬態化を簡単に見抜いたとなればさらにローズが魔法が使えると言う信用度も高くなるだろう。
だが次に呟いたテオの一言に俺の思考回路が一瞬停止した。
「すばらしいご令嬢ですね…」
―――おいおいテオさん?いつもの冷たい感じはどちらへ?えっ?って言うか顔赤くない?えっ?この一瞬で恋に落ちる的な?!待て待て!!偽物ではあるが一応主人の婚約相手だぞ?!
俺は目を走らせる。レモンタルトを美味しそうに食べるローズ、ローズを目線で愛でているデューイ、ローズに興味と尊敬の眼差しを向けながら少し頬を赤く染めるテオ、それを暖かく見守るポルト…。
俺にとっては地獄絵図だ!みんなローズに見惚れすぎだ!この熱視線を斬れないか?なぜ視線は剣で斬れないのだ?なぜ視線には物理攻撃ができないのだ?!よってたかって俺のローズに熱い視線送ってんじゃねぇよ!!斬るか?!燃やすか?!灰にするか?
「あ…、あの…。あまり見つめられますと…恥ずかしいのですが…」
俺の理性の糸が業火の炎で焼ききれる直前、ローズは頬を恥ずかしさでほのかに染めてうつむく。すると3人が一斉に目をそらした。3人ともニヤニヤしやがって!!!
―――こいつ、恥ずかしさを含ませた微笑みひとつで全部持っていきやがった!!




