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実況解説してみた

 洞窟内に入って来た騎士団の連中は中々の強さだった。

 俺が寄生した配下の中でもそれなりに強いだろうと思ったのを配置してみたのだが、それらを苦戦しつつも切り倒して行く辺りこいつらは人間の中でも中々に実力があると推測できる。

 俺はそんな騎士団の皆様と邪悪な魔物達の激戦をスポーツ観戦でもするかの様な感覚で眺めていた。

 別に配下にした魔物が斬られたからって俺には何の痛手にもならない。

 そもそも俺の本体は魔物の脳内に収まってるのだから幾ら体を斬られたところで俺には一切ダメージにならない。

 更に言えば今回洞窟に配置した奴等も持て余した使い捨て同然の奴らであり寧ろ在庫処理ができて大助かりだ。

 

 それにしても、あの虎ってこっちだとキラータイガーって呼ばれてたのか。なんか昔似た様な名前のモンスターが有名なRPGに出てた気がするんだが、まぁ別に気にする事じゃないか。


 そんなこんなで騎士の連中がそれぞれ手傷を負いながらも洞窟内の魔物達を蹴散らしていき、遂に最奥部へと辿り着いた。

 

「ば、化け物・・・」


 辿り着くなり団員の一人が俺の作った力作を見てそう言った。

 ちょっと傷つく。あんなでも俺なりに頑張って作ったつもりなんだけどなぁ。

 そんな風に俺がいじけてると先頭に立ってた男がいきなり剣を振り上げて叫び出した。


「怯むな! どんな姿だろうと魔物である事に変わりはない! 我らの全存在を賭けてこの醜悪な魔物を打ち滅ぼすのだ!」


 おぉ! カッコいい!!

 正に騎士様って感じだな。流石は麗しのお姫様を救いに来たナイト様だ。

 さぁ、物語は遂に佳境。感動のクライマックスに向かって頑張って欲しいところです。

 ちなみに俺は戦闘には一切関与せずに、騎士達のいるフロアの天井から白熱の戦闘シーンを眺めているだけなんだけど。


「さぁ、麗しの姫君を救い出すために魔物が跋扈する洞窟内を突き進み、傷つきながらも奥地へと辿り着いた騎士団の皆様! しかし、その前に聳え立つは醜悪な姿をしたボスモンスター、と言うつもりで作った失敗作。果たして、騎士団の皆様は無事にこの失敗作を倒して奥の部屋に控えておられる姫様をお救いできるのだろうか!? 実況はわたくし、スライム(俺)、解説にはスライム(俺)が担当してお送り致します。スライム(俺)さん、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 流石に見てるだけだと暇だったので実況解説を交えながら白熱の激闘を見る事にした。

 なに、戦闘に加勢しないのかだって?

 する訳ないじゃんw

 だって斬られたら痛いだろうし。


「ところで、スライム(俺)さん。今回の試合運びどのような具合になるでしょうかね?」


「そうですねぇ、騎士団の皆様はここに来るまでに相当消耗してる感じですね。自慢の鋼鉄製の鎧はあちこち亀裂が走ってたりヒビ割れてたりしてますし、中には手傷を負った人もいるみたいですからねぇ」


「となると、この戦いは騎士団の皆様には不利と言う事になるんですかね?」


「いやいや、そうとも限りませんよ。騎士団の皆様は全員お姫様を救い出すと言う使命に燃えてますからね。その燃え上がる使命感が痛みや疲れを噴き飛ばして奇跡の大逆転勝利を呼び寄せてくれるのではないかと私は思っているんですよ」


「なるほど、これはこの戦い大いに期待が持てそうですね」


 今から命懸けの戦いが始まろうとしていると言うのに俺はのほほんと観戦するスタンスは崩さない。

 お膳立てしたんだからせいぜい楽しませて欲しいもんだ。間違っても以前の冒険者たちのような情けない幕切れはしないで欲しい。

 チケット分は頑張って欲しいもんだ。


「さぁ、気合十分! 騎士団の皆様が全員武器を手に失敗作へと切り掛かって行く!!」


「これは一斉に攻撃して一気に仕留めるつもりのようですね」


「おぉっと! しかし失敗作もその手は予想してたのか、ゴブリンキングの顔で雄叫びを挙げた! こらはうるさい! 実況してる我々には鼓膜がないので全く問題ないのですが、至近距離でこれを聞かされた騎士団の皆様は相当な痛手の筈なのでは!?」


「これは確実に鼓膜が破れたでしょうね。我々はスライムなので鼓膜なんてものがなくてホント良かったですよ」


「まったくそうですねぇ。おぉっと! 間近で咆哮を聞いてしまった騎士団A、B、Cの足がふらついてるぞ! まさか効いてしまったのかぁ! これは不味い! 非常に不味い!」


「団長さんは辛うじて立ってるみたいですが彼も効いてるみたいですねぇ。頭を振って必至に立て直そうとしてますよ」


「そんな騎士団ABCに向かい失敗作のサソリの尻尾が襲いかかる! まさかここに来て三人同時に脱落となってしまうのかぁ!?」


 実況しながらも、内心コイツらはもうダメだなと思っていた。

 しかし、そんな俺の予想を破る形で騎士団長が立ち塞がって来た。


「やらせるかぁ!!」


 雄叫びを挙げながら奮ったその剣戟はサソリの尻尾を真っ二つに切り裂いてしまった。

 おぉ! これは凄い!

 見てるだけの俺でもそれは凄い光景だった。


「動けるか?」


「な、なんとかーーー」


「キツいだろうがここが正念場だ! 踏ん張れ!!」


「「「はい!!」」」


 騎士団長の喝が動けなかった騎士団員ABCを奮い立たせる。

 そして、再び全員が武器を振り上げて掛かっていった。

 今度は咆哮も効かず、至近距離での激戦が繰り広げられる事となった。


「これは凄い! これぞ正に激闘と言うものでしょう! 団長の喝に気合を入れてもらえた団員達が正気を取り戻し果敢に挑んで行く! しかし失敗作もただではやられないと最後の粘りを見せている! これはどちらが勝つのか全く予想が出来ない!!」


「本当ですねぇ。これこそ正に命懸けの戦いというんでしょうね」


 観戦してるだけの俺の目の前で、戦いはいよいよ最後の時を迎えた。

 まず騎士団Aが失敗作の右腕に剣を突き立て、その返という形で壁に叩きつけられた。

 それに続く形で騎士団Bは左腕に剣を突き刺す。すると今度はハサミで騎士団Bのはらを挟み込んで持ち上げたのちに地面へと叩き付けた。

 最後に騎士団Cが下半身を担っているキラータイガーの顔部分に剣を突き刺す。

 これには流石に応えたのか失敗作が悶え苦しむ。

 しかしその返とばかりに今度はキラータイガーの前足が振りかぶられ、騎士団Cの鎧を引き裂き胸部を切り裂いた。

 血飛沫が舞い地面に倒れる騎士団C。

 だが、彼等の犠牲は無駄にはならなかった。

 騎士団ABCらの捨て身の攻撃により一瞬の間が出来る。

 その間に付け込む形で騎士団長が飛翔した。


「これで最後だぁーーー!!」


 剣を水平に構えて重力の流れに従う形で落下し、そのままゴブリンキングの胸部に深々と剣が突き刺さる。

 刺さった箇所から血飛沫が舞い上がり、苦痛の悲鳴が響き渡る。


「決まったーーー! 遂に決着!! 白熱の激闘は犠牲を出しながらも騎士団長の放った必殺の一撃が勝負を決めた! この戦いを見ていた観客達も拍手喝采! いい戦いを見せてくれました! 感謝感謝です!」


「いやぁ、激闘でしたねぇ。私も思わず拳を握りしめてしまいましたよ」


「ハハハ、何言ってるんですかスライム(俺)さん。あなた拳なんてないでしょうwスライムなんだから」


「おっと、こりゃうっかりw」


 満足いく戦いを見せてもらいすっかり舞い上がってた俺とは逆にやっとの思いで失敗作を倒した騎士団達は皆が皆ボロボロだった。


「か・・・勝った・・・お前達、無事か?」


「わ、我々の事は構わず、急ぎ姫様をーーー」


「・・・すまない」


 そう言い残して、騎士団長は剣を納めて部屋の奥へと向かった。

 残った騎士団ABが倒れた騎士団Cの下へと駆け寄って行く。


「無事か?」


「あ、あぁ。出血は派手だが傷は浅い。心配はいらねぇよ」


「そうか」


 ホッとする騎士団AB。そして三人は倒れた失敗作の亡骸を見た。


「流石は王国随一の剣の使い手だ。あんな悍ましい怪物を倒してしまうなんて」


「あぁ、あんな凄い方を団長として迎え入れたんだ。あの人は俺たちの誇りだよ」


「そうだな!」


 騎士団ABCらが口々にそう言って戦いに勝利した事を喜び合った。

 

 だからだろう。彼らは気付く事がなかった。


 後ろから垂れ下がって来てるうねうねの存在にーーー

次回は感動のフィナーレ(笑)となります。

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