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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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『マチリパトナム』


 『マチリパトナム』の街に着いた。

 南に来たせいか、潮の香りが強くなっているような気がする。

 空気感で言うと、元世界で旅行した伊豆の辺りに近いかもしれない。

 街の中は普通に漁村だ。

 浜のほうでは船を陸揚げして、明日のために網のメンテナンスをしている漁師の姿が見える。少し上がったところでは、やはり魚を干していた。それに、海藻類も干している。

 『チッタゴン』では魚獲り以外のことをしていると大商人に魚を獲れと言われるからと、海藻などには目を向けていなかったようだが、そういう面倒な支配を受けていないこの街では、豊かな生活のために使えるものはすべて使う生活が営まれているのだ。

 目の前に使えるものがあれば、そりゃ普通は使うよな。

 自由な空気が感じられる。

 とはいえ、この街にはマティさんの人脈が使えない。

 どうやって交渉を進めるべきか。

 商人ギルドから出たオレたちは、ゆっくりと港のあたりを歩いてみた。

 漁船の数や、漁師の家の大きさなんかを見定めながら。

 その結果、前二つの町よりも漁師の生活ぶりは裕福なことが分かった。

 網元の奴隷という立場ではなく、共同経営者や漁業組合員といった形をとっているのが、これだけでもわかる。

 話さえ通せれば、うまくやっていけそうな気がする。

 問題はその、話の通し方、だ。

 「おお! えんれぇ美人の娘っ子さぁ連れて、羨ましいこったのぉ」

 考えていると、いきなり肩に腕を回された。

 漁師か土木系か、ともかく筋骨隆々の日焼けしたにいちゃんだ。

 ちょっと顔を振ると、ミーレスたちも似たような感じで取り囲まれている。

 一応、直接手を触れるほどの無礼は働いていないが、結構な密接具合だ。

 『おとなしくしていろ』

 『伝声』で指示を出す。

 ミーレスとアルターリアが不承不承、許可さえあればなぎ倒すという態勢を解いて、マティさんともども男たちの絡みの中にとどまった。シャラーラは、そもそもなぎ倒すとかの反応ではなく、どちらかというと受け入れている。

 油断していると簡単に浮気しちゃうタイプかもしれない。

 本人がそういうことだと気が付いたときには深みに嵌っていて自力で這い上がれなくなる、そんなタイプ。

 気を付けておかないといかんな、あれは。

 軽く頭痛を感じながら、流れに任せていると酒場に連れ込まれた。

 まだ陽が高いというのに、飲むつもりでいるようだ。

 んで、女っ気が欲しかったらしい。

 マティさん始め、ミーレスにシャラーラ、アルターリア。美人が四人もまとまっていては、そりゃ目立つわな。

 ちょっぴり反省する。

 反省したからと言って、彼女たちと別行動をとるなんて考えもしないが。

 そんなことを考えているうちに、飲み屋のソファに座らせられた。

 飲み屋というか、ドラマなんかで見たことのあるキャバクラとかの感じだ。内装とかはすさまじく貧乏くさい。

 残念ながら、セクシーとかピンクとかもなさそうだ。

 「ほらよ」

 どん!

 目の前に酒のビンが置かれる。

 酒なんて飲んだことないが、小学生のとき洋酒好きのおじさんが飲んで空にしたビンのコレクションなんてしていたので、なんとなく高いのとそうでないのとの区別はつく。

 異世界でも、そんなには変わらない物らしい。

 いや、もしかしたら価値観が逆かとも考えたが、表情から見てもタグから見てもオレの予想は当たっているようだ。

 最安の、下手したら中毒おこしかねない酒だ。

 「こいつくれてやるから、遠慮しないで飲んどけ。その間、あの女たちはオレらで楽しんでおいてやるからよ」

 ゲラゲラと笑いやがる。

 2ちゃん流に言えばpgr。

 「おいっ!。お前からもそう言ってやれ」

 あまりにもテンプレな展開に呆然としていると、カウンターの向こうから冒険者風の男が引きずり出されてきた。

 服があちこち避けたり血がにじんでたりしているが、おおむね元気そうだ。

 縛られてはいるが、骨折とかはなし、殴られてうっ血中とかもない。

 当て身くらって気絶させられ、ロープで縛られてましたって感じだ。

 「す、すまない。お、オレたちじゃ太刀打ちできんかった。街はいま、こいつらに牛耳られてしまっている」

 あー。

 街の警備とかの人ですか。

 負けちゃいましたか。

 つまり、「オレたち最強。街の警備なんてズタボロだから、抵抗は無意味です」アピールだ。

 ・・・単に数が多いだけじゃね?

 いつのまにか店全体に増殖したゴキブリ顔の人間様たちを眺めて、そんな感想を抱いてしまう。

 ふと目を向けると、ミーレスたちがお触りされ始めていた。

 一応、さっきからオレに絡んでいるのがこの場では最上位なのだろうな。最初はこいつが相手をしてから他の奴らに回すわけだ。

 なので、とりあえずお触り以上のことはしていない。

 ミーレスとアルターリアは、オレが「おとなしくしていろ」と指示しておいたのでかろうじて嫌悪感から暴発しそうな自分を抑えている。

 シャラーラだけは、欲望とオレへの愛とか忠誠とかで揺れている感じか。

 マティさんは顔が真っ青になっている。

 「その人にちょっと話を聞いてもいいですか?」

 ズタボロの警備の人、を指し示してさっきの男に聞いてみる。

 一応、オドオドとしているような演技もしつつ。

 「ほらよ」

 勝ち誇った顔で、警備の人を投げてよこしてくれた。

 ミーレスたちをオレに情けなくも安酒一本で売り飛ばさせて、ミーレスたちを精神的に傷つけたあとオレの目の前でお祭りだー! というシチュエーションを楽しみたいらしい。

 キチなうえに変態、しかも馬鹿だ。

 「この店壊しちゃってもいいですか?」

 小声で聞いてみる。

 「た、戦う気なのか?」

 意味が分からないと言いたげに数秒茫然としてから聞いてきた。

 その通り、と頷く。

 「・・・無理するな。と言いたいが、可能だというなら好きにしてくれ。こいつらに占拠されてちゃ教会も豚小屋も変わらん」

 こらこら、豚小屋は立派な施設ですよ?

 ゴキブリ粘着シートと一緒にはしないように!

 「あんたの他に仲間は? ここにいるのか?」

 彼は首を振った。

 「仲間たちは地下に放り込まれてる」

 オッケー。

 懸念はすべて消えた。

 建物の破壊については、この彼が責任を持ってくれるだろう。

 ちょちょい、といくつかの設定値変更を行う。

 『アルターリア。先日の広域魔法ぶっ放せ! 仲間に当たることは考えなくていい。 ミーレスとシャラーラはマティさん守りながら近場の奴潰せ。オレの心配はいらない』

 『伝声』で指示を飛ばした。

 同時に、忍耐の限界を試されていたミーレスとアルターリアの目がギラりと光を放った。

 ・・・怖い。

 「『フルメンファルクス』!」

 オーバーアクションで魔法が撃ちだされる。

 ごろつきどもは全く予想していなかった。

 だって、魔導士の装備なにも持ってないんだもん。

 アルターリアの頭上で雷光が迸った。

 「な、なに?!」

 ごろつきどもが、状況に気付くがもう遅い。

 迸った雷光がアルターリアの手元に集まったと同時にスパークした。店内全体を電撃が渦を巻いて荒れ狂う。

 術者のアルターリアはもちろん、オレやミーレスたち、警備の冒険者の身体はすり抜けつつも、他のゴキブリや家具を焼き焦がしていく。

 設定値変更で、電流を受流せるようにしておいたのだ。

 相手がどんなに強くても、無力化が可能な攻撃。ただし、オレたちが無事でいるように、装備や能力で無傷な奴がいる可能性はあるので一応警戒はする。

 タグを開いてノーダメージな奴を探す。

 「ぐは?!」

 目の前にいたので、さっきもらった酒を返してやった。テーブルにではなく頭に。

 他にも二人ほどいたが、ミーレスとシャラーラが片付けていた。

 「お、オラ・・・」

 何か言いたげに、シャラーラが顔を向けてきた。

 久しぶりに、フーッフーッをやっている。

 「あー・・・シャラーラ。帰ってから、な?」

 思い切りはっちゃけていいと許しを与えて落ち着かせた。

 「んー。電撃系の魔術は効果覿面だな」

 周囲を見渡して、ちょっと笑ってしまった。

 店内の内装は半分くらいダメになっていて、ごろつきどもは総じて腰のあたりを黒くして転がっている。

死んではいない。

 ちゃんとこいつらも一命はとりとめるよう細工しておいた。

 敵さんたちの腰辺りに被害が集中しているのは、ショック死しないよう心臓は避けたかったのと、武器の類がほぼそこに集中していたからだ。上半身はたいてい裸で何もつけていなかったので、武器や道具類は全部下半身に装着していた。

 腰のベルトとか脛のホルダーとか。

 なんでそんな手間を? と思われるかもしれないが、理由は至極単純。彼らが『盗賊』ではなかったからだ。

 ジョブはばらばらで統一性はなかったが、とにかく『盗賊』ではなかった。

 盗賊は殺害オッケーな世界だというのはわかっているが、他のジョブの人間殺してしまったらたぶん、ていうか間違いなく犯罪者はこちらだろう。

 犯罪者になんてなる気はないので加減した。

 三人が無傷で無事だったのは、武器が魔力を帯びていたのと魔法防御の防具を持っていたからだ。それらだけ、魔法の被害がなく使えそうだったのでミーレスが没収してきてくれた。防具の盾はミーレス、籠手は シャラーラに持たせることにする。

 もちろん、ミーレスがオレに持たせようとしたが、「オレには無用のものだ」と言ったら素直に受け取って今付けているのと交換していた。

 武器とミーレスが外した盾は、とりあえずオレが空間保管庫内に預かっておく。

転がっている男たちはアルターリアが素早く縛り上げた。

 「こんな感じだけど、問題ある?」

 警備の冒険者をサナーレで治療してやりつつ聞いた。

 「あ、あるわけねぇよ」

 震えながらも立ち上がり、彼は引きつった笑みを浮かべた。

 彼に案内させて、他の仲間も治療してやる。と言っても大したけがはしていなかった。ロープでぐるぐる巻き二はされていたが、それだけだ。

 あとかすり傷程度。

 唾でもつけとけってレベル。

 「それにしても、ずいぶん簡単に街を牛耳られちゃったんだね」

 嫌味ではなく、純粋な驚きだ。

 それに対して、警備の冒険者一行様の中でも気の強そうな女の子が「はんっ!」と鼻を鳴らした。

 自嘲なのか苦笑なのか、ひきつった笑いをひらめかせる。

 「あたしらは予備、つうか雑用なのよ。本隊は別にいて、同じく敵さんの本隊と戦闘中なわけ。敵本隊っつうか、本来の敵? んで、さっきまでいたのはこっちの本隊が留守のあいだうまい汁吸おうと湧いて出たボウフラ君ってわけ」

 「ボウフラにやられてちゃ世話ねー」

 冒険者一行様の中からツッコミが入った。

 疲れたような笑い声が上がる。短いうえに覇気がない。

 今度は間違いなく自嘲の笑いだ。

 本来の敵って何者? 喉まで出かかった疑問を飲み込んで、オレは捕らえた奴らを突き出すと、さっさと立ち去ることにした。

 こんなケチがついたんじゃ、落ち着いて交渉とか無理なので今回は撤退とする。

 ちなみに、捕らえた奴らもケガの割合が大きかったのは治療してやっておいた。

 もう一度港のほうをちらっと見てまわって、魚をいくつか買い込んで、家へと帰った。

 せっかくなので、マティさんも夕食に招待して。


 家の移動部屋に帰る。

 まだ夕方というにも早い時間だ。

 だからだろうか、マティさんは「せっかくなので、エレフセリアの商人ギルドに顔を出してきますわ」と言って出かけていった。

 クレミーたちは治療院のほうの掃除をしているようで、家にはオレたちしかいない。

 「コホン。時間が空いたな」

 意味もなく咳をして注意を集め、キランッとシャラーラに目配せをした。

 首が落ちそうな頷きが返ってきて、まばたきの時間で服を半分脱いだシャラーラが迫ってくる。

 「し、寝室でな!」

 こんなところで押し倒されても困るぞ、と必死にけん制しなくてはならなかった、

 フーッフーッ、と肩で息をするシャラーラを先頭に、寝室へと上がる。

 夕食の下ごしらえもしないとなんだけどなぁなどと、うしろドタマに冷や汗をかきつつ。シャラーラがまたがってくるのを受け入れた。

 シャラーラがあまりにもあけっぴろげに弾むもので、普段そんなに乱れたところを見せないミーレスまでもがちょっと逝っちゃった目をしている。アルターリアも全身がピンクになっていて、内心と体の内部の熱が高まっていることを示していた。

 夕食、作れないかも・・・。


 ちょっと不安はありつつも、ちゃんと夕食の支度はオレたちでした。

 夜の分もあるから、一人一回戦ずつしかしなかったのだ。

 シャラーラはかなり深かったが。

 ともかく、シャラーラ、ミーレス、と一回戦を終えた者から順次食事の支度にとりかかり、オレがアル ターリアと降りていくころには素材の下準備は済んでいた。

 サラダ担当のシャラーラ、火おこしと水くみその他雑用のミーレス。

 うん。

 サラダ以外は竈に火が入り、水の用意がされただけの状態だ。

 そこから、今日はオレがメインを作る。

 まず取り出したのは、『マチリパトナム』ではイシベニと呼ばれていた魚だ。タグで確認したら、元世界ではイシモチの名で知られた魚だった。

 五月ごろに釣り好きの父の友人がお裾分けに持ってきてくれるので、魚屋ではあまりお目にかからない魚ながらよく知っている。

 知ってる魚が見つかってオレはテンションが上がっていた。

 これを、今夜はクレミーたちはもちろんマティさんまでがいるということで、本格的日本料理真薯しんじょにしてみる。

 材料として、イシモチ=30cm程度を5匹。卵白=5個分。塩・日本酒=大さじ1杯。醤油=小さじ2杯。

 出汁は昆布5cm程度のを4から5枚・イシモチのアラ5匹分(3から4で充分だが5匹使うんだし全部入れてしまう)・日本酒大さじ1と半分・塩大さじ1・水2カップ・片栗粉大さじ1杯。だいたいこんな感じで作る。

実際はほぼ目分量だったりするので、細かな数字はお好みということで。

 ということなのだが・・・。

 日本酒がないので癖の少ない白ワインに。

 醤油がないのでおまけでもらった小魚を塩で煮て、その煮汁を代用品として使ってみる。

 手間さえ惜しまなければ、そんなに難しい料理でもない。

 イシモチを捌いて、身だけをミーレスに渡してすり身にさせる。

 卵白を泡立てるのはシャラーラの仕事だ。

 二人が作業している間に、こちらは深めの鍋に少し水を張り、お猪口のような陶器の器で下駄をはかせ て、なにかの木の樹皮を編んだらしいざるを乗せた。

 なにをしているかと言えば、簡易ながら蒸し器を作っている。

 本格的な蒸し器とかなくても、鍋と、蒸気を適度に逃がす籠やざるがあれば蒸し料理は作れる。

 すり身と卵白が用意できたら、すり身に塩、酒、煮汁を入れてよく混ぜ合わせ。そこに泡立てた卵白を入れて、今度はサックリと混ぜ合わせる。

 真薯というためにはここで自然薯を入れたいところなわけだが、もちろん手に入れていないというかどこにあるかもわからないので割愛する。

 練り上げたイシモチの身を皿にのせる。一人二個として二十個になるので、蒸すのは三回に分けることにした。

 それぞれ15分ほど蒸せばいい。

 火加減はアルターリアに任せる。

 その間に、オレはアラで出汁を取らねばならない。

 決して、蒸気でむしむしする蒸し器から離れようとしたわけではない。

竈が隣り合ってるのでそんなに離れられないし。

 大きめの鍋に水をカップ五杯に昆布と湯霜して汚れを落としたイシモチのアラを入れて極弱火で15分ほど炊き上げる。

 これも、火加減はアルターリアに丸投げだ。

 以前であれば弱火を維持できず火を消してしまうか、沸騰させていたところだ。

15分ほどしたら、アラを濾し(以前コーヒー用にと買ったが使えないと判断した濾し布を使用)、酒と塩と 煮汁で味の調整と香り付けをする。

 醤油ではないので、ここで入れる煮汁に香り付けの意味があるかどうかは知らん。

 生臭くなるだけのような気もする。

 まぁ、いいだろう。

 ほんのちょっとだし。

 片栗粉を別の器で少量の水で溶き、鍋の中に入れて出汁にとろみをつける。

 あとは器に蒸しあがった真薯とさっと湯通しした香草(畑の横で自生していた)を入れてダシを注げば完成だ。

 ちょうどその作業中にクレミーたちもリリムを先頭に玄関から入ってきた。その後ろから、マティもちょっと赤い顔で入ってきた。

 「ほ、ほんとに料理するのね」

 「ふう、これではクレミーは嫁にもらっていただけそうにありませんね」

 驚愕の目を向けてくるクレミー。

 それを横目に首を振り振りなにやら危うい単語を発するシェリィ。

 ずーんと重くうなだれているマローネ。

 「わ、わかってるよ。うん、ハルカも・・・男、だもんね? そういうことしたいときもある、よね? 相手奴隷だし、しょうがないって、ちゃんとわかってる。わ、私が気にしなきゃ・・・いい、だけ、だよね?」

 なにか自分に言い聞かせるようにブツブツ言っているのが少し気になるが、聞き流した。

 「女性の奴隷を複数人連れているのですから、まぁそうでしょう」

 なにやら、冷めた口調でマティさんがうすら笑いをしているのも流す。

 そのうちにクレミーやシェリィと、なにやかやと言い合ったり笑い合ったりと、オレたちの作業を見ながらテーブルクロスをかけたりと手伝ってくれた。

 真薯だけではおかずにならないので、『チッタゴン』で手に入れた棒あなごもどきを取り出した。冷凍されているわけではないのでヌメリがすごいが、とりあえず無視して中火で10分ほど焼く。

 「な、なに? その物体?!」

 などと、クレミーが恐れおののくような反応を見せているが無視だ。

 「アナゴ? ウナギ?」

 シェリィも首をひねりながら見ているが、残念。

 どちらでもないわ!

 細長い見た目はアナゴだろうが、味としてはどちらとも違う。

 食感はと問われれば、ホルモンに近いのだが、おそらく、こいつらはホルモンも知るまい。味は・・・シシャモかな? だが、これもクレミーは食ったことないだろう。

 焼けたら食べやすい大きさにぶつ切りにして完成。

 簡単すぎる。

 パリパリの皮と、ジューシーな中身が食欲をそそる。

 「滋養強壮にいいらしいぞ」

 手持ち無沙汰にしているシャラーラの耳にそっと囁くと、なぜか自分に配膳される皿から二切ほどオレの皿に移し替えてた。

 そんなシャラーラが作った葉野菜のサラダとで三品。

 もう一品くらい欲しいな。

 「またしても、料理的には邪道だが」

 『マチリパトナム』で手に入れた新鮮なキス・・・唇を合わせるのではなく『鱚』のほうだ。

当たり前か。

 1、卵と粉にしたチーズ、すりおろしたにんにくを少々を混ぜて塩と胡椒で軽く味付けをする。

 2、キスは三枚におろして、塩コショウ、小麦粉に付けたら

 3、1に2をくぐらせて、オリーブオイルを熱したフライパンで両面焼く。

 リリムに畑からパセリを少し摘んできてもらって添えれば、『キスのピカタ』の完成だ。

和食とイタリア料理のコラボの実現。

 まぁ、どちらも海産物豊富で魚好きだから構うまい。

 これに、余ったオリーブオイルを使って作った揚げパンで夕食にする。

 キスを焼いたあとの油なので若干風味に難はあるが、絶賛大好評中の揚げパンだから文句はないだろう。

他の料理との統一感も出るし。

 「あ、あ、あんなに砂糖使ってる?!」

 マローネが揚げパン作りの工程を口をあんぐり開けて見ていた。

 シェリィも目を見開いているし、クレミーですら「信じられない!」と叫んでいたが知ったこっちゃない。

 材料費はオレが出すのだし、オレんちのキッチンでのことだ。

 せっかくの揚げパンが覚めてはつまらないので、ミーレスたちはてきぱきとテーブルメイクを済ませ、リリムが治療院に走った。

 メティスは夕食の支度が整って、リリムが迎えに行くまでは診療所に常駐だ。

 全員そろったところで、夕食が始まる。

 夕食も和気あいあいと食事が進んだ。

 もちろん、女性陣はみななにをおいても揚げパンだった。

 メティスですら、最初にパンをとっている。

 オレはそこまで好きではないので、熱々なうちに、とヌタウナギを口に入れた。パリパリの皮がウマ。

続いてジューシーな身が・・・ああ、ご飯が食いたい。

 いつか絶対、米を見つけてみせる!

 ピカタの上品なコクと、白身魚の旨味も素晴らしい。

 やはり新鮮な魚は違う。

 揚げパンも食べて、最後に真薯。

 甘ったるい口のままではとてもじゃないけど食べれないので、調理にも使った白ワインで口を漱いだ。

 ミーレスがそれをまねして、それを見た他の者もそうしている。

 今となっては誰も『奴隷が・・・ではない』というようなことは言わなくなっているのでワインも普通に飲む。

 真薯のモチモチした食感と、繊細な味わいが口の中に広がる。

 うん。大成功だ。

 うまい!

 「私たちが食べたことのないような料理。なるほど、確かにそのようです」

 真薯の繊細きわまる味を堪能したシェリィが目を閉じて、頭を抱えた。

 「クレミーでは、このお宅へお嫁に出せません」

 「出ないから!」

 よよよ、と泣くシェリィにクレミーが怒鳴っていた。

 「素晴らしい味わいです。揚げパン・・・ですか? あれも衝撃的でしたが、こちらも地味ですのに違う意味で衝撃です」

 そんな騒ぎにも動じず、マティさんが真薯の器を持ったまま力説してくる。

 「んー。そう言われると困るな。いくつか足りない食材や調味料があるから、料理としては不完全ていうか、失敗作なんだけど」

まずくはないし、大成功だが、やはり日本酒と醤油がないというのは致命的だ。

 致命的というのは言いすぎかな?

 重症クラス?

 「それは今日の港町巡りとも関係あるのですか?」

 オレは大きく頷いた。

 「そのとおり、聞きそこなったんだけど。魚の塩漬けとかしてたりしないかなって思ってるんだよね。それも塩につけたまま忘れてて、いまさら取り出すのが怖い、と何年かほったらかしになっている。・・・なんてものがあると嬉しいんだけど」

 理想を語ってみる。

 そういうものがもしあるなら、あとは絞るだけで魚醤が手に入る。

 「そ、そんなものが何になるのですか?」

 ミーレスとシャラーラ、リリム以外が鳥肌立てて引くなか、マティさんが聞いてきた。

 「いい調味料になるよ」

 とオレが自信満々言ったのだが、上記三名以外はまったく信じていないようだった。

 まぁいい。

 実際手に入ったら存分に知らしめてやる。

 「ミーレスさんたちって、本当に綺麗ですよね。祭りの日に行われるミスコンに出られてはいかがですか?」

 何年もかけて腐った魚。そんなイメージを払拭したいのだろうか、爆弾を投下したのはシェリィだ。

横でクレミーが噴きそうになっていたり、マローネが口元に砂糖の粉をつけたまま固まったりしている。

 こちら側は全員が平静だ。

 というか、意味を正確に理解したのはオレとメティスぐらいだろう。

 「そうだな。全員参加させたら、賞を総なめできるかもな」

 想像して少しうきうきしてしまう。

 「そうですか。ご主人様が望まれるのなら、なんなりと」

 「・・・からだ、見られ、オスが・・・」

 「みすこん?」

 「?」

 まあ、こいつらの場合、こうなるわな。

 思わず苦笑いが口元に浮かんだ。

 ミーレスは完全に内容がわかってないし。

 シャラーラは意味が分かった上で・・・妄想に囚われている。

 アルターリアには、そもそもミスコンの意味が分かっていない。

 リリムも不思議そうに首を捻るだけだ。

 だが・・・。

 もし可能なら・・・。

 「メティス、興味ないか?」

 一応言ってみる。

 「ないわよ。一度だけ見に行ったことがあるけど、ほとんど裸みたいな恰好で人前に立たせられるのよ? 参加すると、いくらかお金がもらえるけど。そんなのに出られるわけないじゃない」

 まぁ、そう答えるわな。

 っていうか、一度は出る気になってたな。

 金が欲しかったんだろうけど。あまりにあまりなうえに、きっと金額が少量過ぎてやめたのだろう。

 だが、見ておれよ。

 いずれ全員参加させてやる。

 ・・・オレだけのミスコンにな。

 いろいろなコスチュームを用意して、ファッションショーとか、頭付きで見てみたい。

 「・・・絶対、やらしいこと考えてるわね」

 クレミーが恐ろしく低い声音で呟いたが、気になんてしない。

 その後、マティさんをバララトの街まで送った。

 「明日改めて『マチリパトナム』に行きたいのですが、ご一緒していただけますか?」

 商人ギルド前で、そう聞かれたので二つ返事で受けた。

 鉄は熱いうちに打て、騒動に巻き込まれたからと言って間をおこうとかはない。

 マティさんがついてくる理由がわからんが。

 「では、また明日」

 「ええ、また、あした」

 マティさんはなぜか二度、頭を下げていた。

 帰ると、シャラーラが限界っぽかったのでそのまま寝室に連れてった・・・というか連れ去られた。

 仕方がないので期待に応え、存分に攻めてあげた。

 声が治療院の方に漏れるとクレミーに家を焼かれかねないので、設定値変更でドアや壁を防音にしておくことは忘れていない。

 そんなわけで、今夜はシャラーラの夜だ。

 ミーレスとアルターリアはお休みにして、リリムを合間にいじりながらシャラーラと餅つきだ。餅と言いつつ白い泡だが・・・。



次回も日曜の午前中に更新します。


今度こそ5話以上で‼


無理かも。。。自信なし。

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