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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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港町


 「うそ・・・」

 マティさんの執務室を訪ねると、なにかすごく驚かれた。

 目が真丸だ。

 「突然来てしまってすみません」

 驚かせてしまったようなので、頭を下げた。

 サラリーマンの経験なんてないので、アポイントを取っておくという当たり前の礼儀を完全に失念していたのはまずかったよな。

 「い、いいえ。光栄ですわ。いらしていただけて」

 慌ててお辞儀を返され、ソファーを勧められた。

 以前もそうだったように、オレだけがソファーに座り、ミーレスたちは後ろに立った。

 「今日は、どのようなご用件で?」

 かなり動揺しているらしく胸元を両手で抑えたまま、マティさんは会話を切り出してきた。とりあえず、マティさんにも座ってほしいんだけど。

 座ることも思いつけていないようだ。

 「前回と同じようなことで、水産品が多く集まる町とかの情報があればな、なんて思っているのですが、心当たりあったりしますか?」

 リティアさんにも怒られているような、あまりにもあいまいな話を振ってみた。

 水産品ってカテゴリからして大きすぎる。

 魚貝や海藻。

 川魚、沢蟹。

 それらの加工品。

 干したもの、つくだ煮、甘露煮、漬け、発酵させたもの。

 あげればきりがない。

 わかってはいるのだが、自分でも何を指して言っているのかわかっていないくらいなので・・・って、リティアさんのときと同じ言い訳になるな。

 「やはり、抽象的過ぎますか?」

 ストン、と音がしそうな感じにマティさんがソファについた。

 その力の抜けきった感に恐れをなして、引き気味に問いかける。

 「港近くの街、ということでしたら・・・」

 いそいそと、マティさんが鞄を開いた。

 綺麗にファイリングされた書類が何枚か抜き取られて、目の前に広げられた。

 「この三つを、ご紹介させてください」

 街の名前と、簡単な紹介文の書かれた紙が手渡される。

 何枚かずつファイルしていたものの中から、一部づつくれるらしい。

 『オデッスカーラ』

 帝国西海岸を航行する商船の中継地。

 目だった特産品はないが、西海岸を移動する船のほとんどが寄港地としているため、人の出入りは多い。その分、治安に難あり。

 街の郊外には大貴族の保養地がある。

 治安の悪化は大貴族同士の縄張り争いの結果だ、との非公式な見解がある。

 『チッタゴン』

 帝国東海岸最大の港湾都市。

 陶磁器の生産地が近くにあり、水揚げされる魚貝も豊富。

 ただし、大商人たちによって既得権が設定されており、新規参入にはリスクを伴う。

 『マチリパトナム』

 帝国南東部にある街。

 すぐ横を寒流が、南方を暖流が通っていて「世界中の魚が集まる」とまで言われる漁業の街。

 漁獲量も、魚の種類も豊富。

 今のところ大商人や貴族の息はかかっていない。が、それは地元民の結束が固く。よそ者を受け入れない風土によるところも大きい。

 などという情報が、細かな数値とともに書き込まれている。

 「えーっと。マティさん? これ、ギルド内の重要な書類だったりするのでは? 部外者のオレに渡しちゃって大丈夫ですか?」

 心配になったので確認した。

 すごく有難いが、ギルドを敵に回す気はないぞ。

 「ギルドにはまだ提出していない、わたくしの個人所有のデータですわ。わたくしが自費で調査した内容によるものですから、誰にも後ろ指さされるものではありません」

 ギルドとはかかわりのないものだということをマティさんが強調してくれた。

 それなら、安心していてもいいだろう。

 「この度は、どのようなことをお考えなのでしょう? 差し支えなければ、ぜひ教えていただきたいのですけれど?」

 テーブルに手を置いて、少しだけ前のめりになる。

 白い頬に赤みがさした。

 ・・・恥ずかしいならしなきゃいいのに。

 意識しているというのが、これほど顔に出ていると見ているこっちが恥ずかしくなる。

 なんにしても、これは工房が目的ではないから、なにかを作るわけではないと考えての質問に思える。

 そうですねぇ、と少し考えた。

 「オレの世界にあった水産物がないかなぁっと思って探したいんですよ」

 ある意味では、「作る」ことになるのかもしれないが、基本的にはそれが目的だ。

 「『異世界』の『水産物』ですか」

 『異世界』で食べていた『魚』を探すわけではなく、『水産物』を探すと言ったオレの言葉に、マティさんの目の色が変わった気がする。

 興味を引いてしまったかもしれない。

 「わたくしもご一緒させていただいてよろしいですか? もちろん、移動に掛かる費用は負担させていただきますし、守秘義務は守ると誓いますわ」

 守秘義務・・・か。

 どこまで信用できるのかはわからないが、たぶん大丈夫。

 他人に情報を漏らすようなことはしないだろう。

 商人は信用が命、だからな。

 「いいですよ」

 軽く答えて立ち上がる。

 マティさんもデスクに戻って、小さなカバンを持ってきた。頭に帽子を乗せて。

 「あー、と。ギルドのほうに知らせたりしなくていいんですか? 出かけることとか」

 「え? ええ。所在の通知は支部長だけの義務です。副以下の職員は所在を知らせずに動き回ることが許されていますので問題ありませんわ。このままどこかに消えたとしても」

 最後の一言を冗談ぽく言って、コロコロと笑い声を上げた。

 ぽく、というかまんま冗談だっただろうが、言質はとった。

 オレはミーレスたちに合図を送り、直後、帝国西部の中継地へと飛んでいた。もうすでに帝国と各地域を結び中継地へは『移動のタペストリー』抜きで移動できるようにしてある。魔力に余裕があるときにちょくちょく行くだけ行って座標を手に入れてきた結果だ。

 ギルドのタペストリーを使うと金がかかる。

 行き先もバレバレになる。

 オレの行動範囲はなるべく知られたくない。『異世界人』という肩書を誰がどう解釈するか、利用しようと考えるかわからないのだ。待ち伏せとかされる危険は少ないに越したことはない。

 だから、転移した先は人目に付かない場所だ。

 ここから冒険者ギルドを使って、目的地に飛ぶ。直接飛べないようなら何か所か経由すればいい。

 ルートの特定は困難を極めるはずだ。タペストリーを使わなくても転移できるという発想がなければ不可能だし、発想したとしても確証は得られない。

 「・・・『異世界人』ということですわね」

 周囲を見回したマティさんが、平坦な口調で呟いた。

 「驚かせてすみませんね」

 「先に言っておいてほしかったですわ。もう少しで悲鳴を上げるところです。『人さらい―!』と」

 おお。

 そうか。

 これを使えば、誘拐して監禁なんて簡単にできてしまう。

 「それは考えませんでした。気が付かなくてすみません」

 戦闘力のない商人の女性を連れ去ったのだ。

 恐怖されて当然の行動だったことになる。

 「ハルカ様がそんなことをする人ではないと知っていなければ、悲鳴は上げなくても信頼は失っていたかもしれません」

 笑みは浮かべつつ、冷めた視線が向けられた。

 思わず、うなだれてしまう。

 犯罪を疑われても文句を言えない状況を作ってしまっている。

 軽率な行動だった。

 「くく、くくくっ・・・」

 と、マティさんは突然笑い出した。

 「ふふ、初めてハルカ様の上を取れましたわ」

 楽しそうだ。

 冷たかった目も穏やかになっている。

 オレをやり込めてみたかったらしい。

 「でも、驚いたのは本当です。あまりドキドキさせないでくださいな」

 メっ!

 幼い弟を叱る姉のような態度で言ってくる。

 「ごめんなさい」

 弟のように言って、頭を下げた。

 こういう叱られ方なら、こうするしかない。

 「むぅ。それをやられてしまうと、勝った感が薄れます!」

 弟には勝ってもつまらない、と姉がむくれている。

 どうしろと?

 その後、冒険者ギルドへ。

 『移動のタペストリー』を一度だけ通って、『オデッスカーラ』へと移動する。

 タペストリーから出た途端、耳が痛くなるほどの喧騒に包まれた。

 確かに人は多そうだ。

 ギルドから出ると、一見して船乗りとわかる浅黒い肌でほぼ半裸の男たちが練り歩いているのが目に入った。すでに少なくない酒をかっ食らっているようだ。

 「治安が悪いのも道理ですわね」

 その様子を観察して、マティさんがつまらなそうに息を吐いた。

 確かに、見ている間にも三件くらいケンカ沙汰の騒ぎが起きている。

 これでは確かに治安も悪かろう。

 うんうん。

 腕を組んで、無駄に頷く。

 くるりと踵を返した。

 「ご主人様?」

 ミーレスが不思議そうに声をかけてくるのに、手を振った。

 「ここはだめだ。厄介ごとに巻き込まれる以外の未来が想像できない。他を当たろう」

 厄介ごとに巻き込まれたとしても、そのあと美少女と知り合えたりするならいいが、この様子だと苦労するだけ損な、後味の悪い結果しか予想できない。

 これはだめだ、と思う。

 なにしろ・・・。

 肩越しに振り返れば、マティさん始め美女が四人並んでいる。

 街のごろつきに、「絡んでください」と幟立てて勧誘しているようなものだ。

 五十メートルおきに乱闘になるんじゃなかろうか?

 相手にしていられるか。

 「君子危うきに近寄らず、だよ」

 そう言うと、シャラーラ以外は「それもそうか」という顔で肩をすくめ、さっさとついてきた。

 古典的な表現だけど、ちゃんと通じたらしい。

 冒険者ギルド内に戻り、手近なタペストリーに入る振りで、本来の行き先とは別の場所へと転移した。

 そこから帝都へ戻り、魔力回復のポーションを飲んで今度は東海岸へと飛ぶ。いくつかの街を経由して『チッタゴン』へ到着。

 この街は、『オデッスカーラ』よりは落ち着いた雰囲気が漂っていた。

 ただし、それは人だけだ。

 街全体は知らんが、表通りはひどい。

 「成金趣味だな」

 少し歩いただけでげっそりした。

 冒険者ギルドから出て、港を目指したのだが左右には豪奢な商館がずらりと並んでいたのだ。「金をかけていますが、なにか?」といいたげな無駄に装飾の多い建物に圧迫されながら歩いていると、本当に気が滅入る。

 「報告は受けていましたが、実際に見ると・・・吐き気がします」

 マティさんが、胸のむかつきを抑えようとでもいうのか両手で胸を押えていて無駄に目立っていた。すれ違う者たち――男女の別なく――が思わず視線を寄せてくるほどに。

 例えれば、ホンマグロの大トロの載った皿に松坂牛の霜降り肉のステーキやら茹でた越前ガニ、フルーツの王様ドリアン、が並べられていて上からキャビアとトリュフ、金箔がちりばめられて、フカヒレと燕のスープが掛けられている。そんな感じ。

 一つ一つは素晴らしい素材で最高なのだろうが、一つにまとめてしまったために単に気持ちの悪い大皿に成り下がっている。

 吐き気を催すというのはそういう意味だ。

 おそらく、大商人たちが自分の邸宅や商館を競って飾り付けた結果なのだろう。

 美しいかどうかではなく、いかに金をかけたか、を競った愚劣さしか見えない。

 「地獄だったな」

 商館の立ち並ぶメインストリートが終わり、わずかな緩衝地帯となる空き地を挟んだ先に、簡素な漁師町が見えてきて、オレは思わず深呼吸をした。

 「お金の使い方を知らない人というのには、本気で幻滅しますわ」

 腹立たしげにマティさんが吐き捨てる。

 まったくもって同感だ。

 ミーレスたちは、いつものように身辺警護の隊列になっているので、オレからは顔の表情を見づらいが、おおよそ似たような感想を持っているようだ。

 シャラーラなんて明らかに肩が落ちて、少し猫背になっていた。

 「さて、と。この辺りの漁業権はどんな形になっているのかな? 網元とかいたりする?」

 網元というのは、漁網や漁船を所有する漁業経営者のことだ。漁業に必要不可欠のものを所有することで、所有できずにいる漁師を雇用・・・というか使用する権限を持つ人。

 その支配が実質的に漁師を奴隷化するところまで強まっていた時期が、元世界にもあった。奴隷制度が普通にあるこの世界なら、当然のごとくそうなっているのではなかろうか?

 網元=大商人とかだと話をするのが、すごくしづらいことになりそうだが。

 「報告によると数十の網元があるようです。大商人たちはその網元を何人膝下に従えているかで、己の権勢を示そうと必死だとか」

 「ということは、網元は独立している存在で、その時々で協力する大商人を選べる形になっているわけだ。でも、なんで? 大商人たちが話の分かる善人ばかりとは思えないんだけど?」

 支配されてはいないということだが、なぜ独立を保てているのだろうか?

 「十数年前になりますが、一度力で抑え込もうとしたそうです。ですが、網元と漁師が一丸となって漁をやめることで抗議。大商人たちが全員収入を失う事態に発展して以降は力ずくでの支配はやめ、金での懐柔に切り替えたようです」

 おお。

 ストライキを断行したのか。

 よほどひどいやり方をしたのだろうな。

 元世界での成田空港開港時の日本政府並みの下手を打ったのだろう。

 一人ひとり個別に説得する時間を惜しんで強行したせいで、逆に集団での抗議を誘発、支援する極左的な暴力集団の援助まであって闘争になってしまったアレと同じ。

 大商人たちは、漁業者を一撃で叩き潰そうとして失敗。

 漁業者たちは、身の危険を察知して徒党を組んで抵抗。

 危機感を持った大商人たちは全面闘争をやめて、各個撃破に出たが撃破までは至らず、金銭での懐柔に終始している、と。

 当然だ。

 大商人がそもそも一枚岩ではない。

 それぞれが自分こそが一番に、と思っている。

 漁師たちだってバカじゃない。

大商人Aが圧力をかけてくれば大商人Bに庇護を求め、大商人Bに都合よく利用されていると感じれば大商人Cにすり寄る。そうなれば、大商人たちはその時々で金をばらまくしかなくなると。

 「現在では、大商人の傘下に収まっている網元が数人。傘下とまではいっていないものの長年協力体制下にある網元が十数人。これらが、全体の半数に及んでいるようです」

 「逆に言えば、網元の半数は付かず離れずで独立を保っているわけだよね?」

 「その言い方ならば聞こえはいいですが、単に日和見に走ってその都度金を巻き上げる形のものが多いようです。悪辣なやり方をする者も多いので注意が必要です」

 コウモリやキツネ、ハイエナと呼ぶべき輩が多い、ということか。

 キツネとタヌキの化かしあい、という状態だ。

 そんなものかもしれないな。

 でも。

 「まともな意味で、独立を保っている網元に心当たりがありそうだね?」

 マティさんが何度も口にした「多い」という言葉の裏には「そうでない者もいる」が隠されているものとみた。

 「数人、ですけど」

 「確実なの?」

 ちょっと言葉を濁している感じがしたので、切り込んでみる。

 「母が生前交渉していた網元の中でも、中心的な人物だけに絞っていますので大丈夫だとは思っていますが、わたくし自身はあまり接する機会がありませんでしたので・・・」

 さすが『目』と名付けられているだけのことはある。

 自分自身が見定めていないものには決して万全の信頼を向けはしないということだ。

 「とっかかりとしては十分だ。紹介してくれるかな?」

 「話してみます」

 マティさんは、そう言うと少し待っていてくれと言い残して、一人で漁師町の方へと向かおうとした。

 「待ってください」

 呼び止めて、シャラーラに向きなおる。

 「シャラーラ、マティさんの警護についてくれるか」

 マティさんだけでは、装身具の恩恵が使えなくて居場所の特定ができない。居場所の特定ができないと、いざ、合流しようというときに困る。

 誰かを付けておけば、漁師町から出てくるのが分かった時点でこちらから合流に動けるはずだ。ミーレスがオレから離れるはずがないし、エルフのアルターリアだと警戒されたり別の問題を引き起こしそうだ。

 シャラーラが、ベストではないがベターだろう。

 「あー、なるほどっす。そうするっす」

 言葉にはしなかったし、『伝声』も使わなかったが、どうやらオレの意を汲んでくれたらしい。シャラーラが、コクンと頷いてマティさんのあとに続いた。

 「警護付きだなんて、VIPになったわけでもありませんのに」

 困惑顔をしたマティさんだが、当然裏の意味にも気が付いている。会釈を一つして、背を向けた。

 ゆっくりと歩き去る後姿を見送って、オレは改めて周囲に目を向けた。

 オレが知る元世界の漁港ならば、必ずある水産物を探してみる。

 ぐるりと見渡せば、見つかるはずだ。

 「ご主人様。なにを探しておられるのですか?」

 あちこちに顔を振るオレを見ていたミーレスが聞いてくる。

 「魚とか海藻とかを干している場所があるんじゃないかと思って見ているんだけど・・・」

アジとか、イカとか、海苔とか、テングサとか、昆布とか、アオサとかetc。

 「というと、ああいったものですか?」

 アルターリアが指さしたのは、横棒にぶら下がっている長い棒状のもの。

 ゴザなんかに並べられている物とか、イカがくるくる回っている物を探していたのでオレが見逃してしまっていたものだ。

 一瞬なんだあれ?

 と思ったが、思い出した。

 普段冷凍になっている物とか、ぶつ切りされて焼かれたものしか見たことないのでわからなかったが『棒あなご』だ。

 商品名にあなごが使われているのにヌタウナギ、魚類かと思うと脊椎動物というなかなかややこしい生き物だ。

 元世界のオレの地元から北にちょっと行った所の名産品。

 従姉の車でドライブに付き合ったとき、道の駅で見たことがある。超マイナーな食材だと思っていたが、某テレビ番組で取り上げられて突然全国区になった。

 といっても、ネームバリューほどは売れていないらしいが。

 通販で買う人は地酒と込みで買うらしい。

 地酒を楽しむなら地元の酒の肴で、という酒飲みのこだわり用ということだ。

 あとは東京の居酒屋なんかから注文が来ているとかいうのが、地元の経済新聞に載っているのをちょっと見たことがある。

 ヌタウナギかぁ、予想していたのとはちょっと違う。

 「行ってみよう」

 ちょっと違うが、周囲におばちゃんたちがいるのが見えたので行ってみることにする。

 御茶飲み話ついでに、情報収集を試みるのにはちょうどいい。

 「こんにちは」

 ごく普通に声をかけて挨拶した。

 おばちゃんたちが一斉にこちらに振り向いて、口々に何か言ってくる。が、なまっているうえに早口なのでほぼ聞き取れない。(以下の会話は、その場では会話が成立していたが文字にすると解読不可能になるレベルなので、すべて理解できる程度に翻訳してお送りします。)

 「おお、わけぇ兄ちゃんが別嬪のねぇちゃん連れで、こんだだとこさ、何しに来たぁ?」

 「ヌタウナギの天日干しが見えたので、少し譲ってもらっていいですか?」

 タグを展開して、ヌタウナギでいいことは確認済みだ。

 「あんだぁ? こんなもの欲しいってのがい? かわっとんなぁ」

 おばちゃんたちの間に笑いが起こる。

 「こんなのぁ、売り物になんねぇもんオラだづで食ぅべてやっとるだけのもんだぞぉ」

 「売り物になんなくてもうまいものはありますよ」

 お茶を入れてくれて手渡されたので、ありがたく飲んだ。

 根昆布茶だ。

 昆布がある!

 素晴らしい!

 ミーレスたちもおばちゃんたちに取り囲まれているが、放っておく。

 ご機嫌なおばちゃんたちほど口の軽い生き物はいない。

 話を聞いてみると、昆布はお茶としてしか使っていないようだ。

 アジなんかの魚を干物にしたものは多いらしい。

 それを内陸に運んで売るのが、ここらの大商人の仕事。

 あと、タコとイカ、ナマコなどは食べる習慣がない。

 なにか宗教的な理由かと思ったら、単に姿がグロテスクだから、ということだった。

 タコやナマコについていえば、網にもかからないので、ムリには採らないということらしい。売れない物を苦労して獲る意義はない、という考え方だ。

 イカはたまに網にかかるのだが、イカ以外にも売り物にならないいわゆる外道はいくらでも獲れてしまうので、あえて食べようとはしないとのこと。

 海藻類もあまり食べる習慣がないようだ。

 漁師は魚を捕るもの。ということで、他のことに時間を使うことが許されていないのだそうだ。海藻採りとかしていると「暇なら魚を取れ」と言われて船を出させられるから誰もそんなことはしないよと笑われてしまった。

 ヌタウナギは魚の分類で、しかも売り物にならない。

 なので、漁師たちの主食となっている、と。

 もったいない。

 そう考えるのは元世界の日本を知っているオレだから、なのか。

 世界間のギャップに考え込んでいると、シャラーラの反応が漁師町から戻ってくるのが感じられたので、お暇した。

 御馳走になった昆布茶の代金として銅貨五枚を置いて。

 もちろん、棒あなごも数本もらってある。

 おばちゃんたちにすごく喜ばれた。

 「三人の網元が、会うといってくれています。お三方とも、母とも懇意にしていた人たちです」

 合流すると、マティがすかさず相手方を持ち上げてきた。

 それは人柄でということか?

 商売相手としてということか?

 まずはそこら辺から見極めなくてはならないだろう。

 タグを全開するくらいの意気込みで会見に臨んだ。

 確認したのは街の現状、オレやマティさんが少なからず手を出すとして協力してもらえるのかどうか。

そういったことだ。

 網元たちは、のらりくらりと直接の答えは返さずに言葉を濁し続けるばかり。

 マティさんが一生懸命とりなしてくれている間に、オレはしっかりとタグを確認した。

 見事なまでに腐っている。

 そう感じた。

 マティさんの母親のことも取引や交渉の相手というよりも女としてしか見ていなかったような空気を感じる。

 なぜなら、商売の話をしているというのに、意識は四人の女にしか行っていない。特にマティさんをどうにかしようという考えが渦を巻いていた。

 これはだめだな。

 深く関わらない方がいい。

 関わるべきではない。

 オレは即座に引いた。

 表面上はにこやかなまま、当たり障りのない交渉に終始する。

 具体的には、ごく少量の魚の買い入れの話だけだ。

 そうして、何のうまみもないこの話を向こうから断るように仕向ける。

 交渉の初めのころは熱心に口を利いていたマティさんが、もう口を一切はさまずにいるのはオレが引いたことに気が付いたからだ。

 少し露骨すぎたかもしれない。

 「では、今回は縁がなかったということで」

 残念そうに話しを閉める。

 「ああ、またなんか儲け話があったら来てくださいな。商談ならいつでも聞きますぜ」

 網元たちのざらついた言葉を尻目に、早々に退散した。

 「クズどもめ」

 会合場所となった網元の家から、十分離れたところで吐き捨てる。

 唾を吐きたいところだが、かろうじてそれは我慢した。

 女性四人の前でする行為ではない。

 「あの、そんなにひどい話し合いではなかったと思うのですが?」

 マティさんが首を傾げた。

 「それは・・・」

 思わず、タグのことを話しそうになって慌てて止める。

 今後もマティさんとは付き合っていきたい。

 胸の内を覗き見れるというのは知られていいものじゃない。

 こっちの奥の手でもあるし。

 「合流する前に噂話でいろいろと聞き込んだのですよ。噂ですから尾鰭がついているでしょうが、『火のないところに煙は立たず』、と言いますからね」

 ありそうな話でごまかした。

 「あ、そうなのですか」

 マティさんは深く追求しないでくれた。

 何か引っかかったようには見えたが、とりあえず見逃してくれるらしい。

 「では、最後の街に行ってみましょう」



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