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異世界で家を買いました。  作者: 月下美人
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こんさい


 「来たぞ」

 接敵警報。

 現れたのは・・・。

 『サトイモン』。

 里芋だ。

 ゴロゴロとした芋が、巨大な葉っぱを引きずってくる様はちょっと怖い。

 50センチはありそうな芋が八個くらいついた根がガコガコと飛び跳ねながら近づいてきて、やおら巨大な ハート形の葉がブォンブォン振り回される。

 見た目は派手だが・・・。

 バキン!

 シャラーラさんの拳が茎を粉砕。

 葉っぱの動きを止めると、ミーレスがイモをサクサクと切り刻む。

 止めとばかりにオレも剣鉈を振るったら、大して手間もかからずにカロンの餌になった。

 ただし、直後に沸いた『ダイコン』の暴れっぷりにはビビらされた。

 狙いすましたアルターリアの魔法が決まったのでよかったが、全長2メートルはあるあのぶっといのがぐるんぐるん回転すると、オレ程度では逃げるしかない。

 さらに湧いた『ショウガ』はミーレスが片付けた。

 ずっと地上作物だったが、根菜系が混じるようになったことになる。

 里芋はオレの地元では、秋の風物詩だ。

 なくてはならない作物なので、素直にうれしい。

 大根ともども楽しみだ。

 畝二つが埋まるだけの苗が手に入ったところで、ゲートキーパーが登場した。

 『セプトリアオデッサ』。

 なんかすっごくかっこよさげな名前・・・。

 でも、出てきたのは先日のと変わりなくて・・・。

 「たぶん、褐斑病?」

 葉っぱらしいところに出ている褐色の斑からすると、たぶんそうなんだけど名前とのギャップがすさまじい。

 ただ・・・。

 「やっぱ弱すぎっす」

 うん。

 またしても病原菌だか毒だかを激しく撒いていたが、解毒治療ができるオレのパーティーには関係ないので、サクッと倒せた。

 今度の苗はツツジだ。

 元世界の自宅には祖父が山から持ってきたツツジの盆栽が10以上と地植えのが4種類あった。

 祖父の死後それをを受け継いだうえにオレも3種類増やしたので家にはツツジがたくさんあった。普通の赤とピンクに絞り、白、黄色、最近青系のも手に入れていた。

 それとは別にサツキも4種類ある。

 昔、従姉に「ツツジとサツキって何が違うの?」と聞かれたことがある。

 全体的にサツキはツツジより一回り小さい、とか、「ツツジ」が俳句では春を表し、「サツキ」は夏を表す。あと「ツツジ」は落葉樹だけど「サツキ」は常緑樹。

 と答えたことが思い出される。

 実際は俳句の季語以外はそんなはっきり分けられるものでもないので、正しいようで間違った説明なんだけど。従姉は「ふーん」と言ったきり、なにも言わなかったな。

 あれらはオレがいなくなったあと、誰が世話をしてくれるのだろう?

 従姉ではないだろうな。

 それはもうオレにはどうしようもないので、ツツジの入った魔力カプセルを回収して、次に気持ちを切り替えた。

 次は12階層だった。

 二個上がって一個下がる。

 これまでと同じ方式が続くようだ。

 「ああ、これがあったか」

 現れた敵を見ての感想だ。

 妙に角ばっていて、表面に粗毛がある。

 冷や奴の上に載せたり、納豆に入れたり、とろろそばと合わせてもいい。

 『オクラクラ』。

 オクラだ。

 夏の定番野菜ではある。

 それに・・・。

 「こっちが先に出るとはなぁ」

 ぜひ菜園に欲しいと思っていた野菜が、コンパニオンになっている可能性の高い野菜でもある。

 「ミーレスは下がってろ」

 シャラーラが突貫するのを追いかけようとしたのを止めた。

 走り出そうとしたところで足を止め、一瞬だけ不審そうな顔を向けてきたが、戦闘中に説明してはいられない。

 放置する。

 ドッ、ドッ、ズドドッ!

 シャラーラがサンドバッグかと思うような勢いで、殴りかかっている。

 巧みにステップを踏んで立ち位置を変え、殴る角度も変えているので『オクラクラ』は反撃に出るタイミングがないようだ。

 殴られるまま、動けない。

 そのまま、魔素と化した。

 もうお腹いっぱいなのか、カロンは上空を泳ぐだけで食いついては来なかった。

 「おおっ! 出た!!」

 『オクラクラ』が消えたあとには、待ちわびていた野菜が出現した。

 『インゲゲン』。

 インゲンだ。

 元世界の畑では、キュウリと並んで絶対に植える野菜。

 これがないと始まらないといっても過言ではない。

 畑の三分の一はこれだったからな。

 こっちなら・・・。

 「ミーレス!」

 行け、と声をかける。

 即座に動いたミーレスの長剣が、『インゲゲン』を縦に割る。

 出現したばかりで、まだ戦闘態勢になっていなかった『インゲゲン』は避ける素振りも見せることなく消えていった。

 と、同時に凸っと盛り上がったのは・・・。

 『ニンニクン』。

 ニンニクだ。

 大昔のスカートみたいな下部と、ひょろ長い茎と葉。

 「『フラムマクリス』!」

 焼きニンニクになって、カロンに食われる。

 なんだよ、腹いっぱいじゃなかったのかよ。

 こっちのほうがうまいとか?

 そっちの水は苦いとかか?

 魔素にも味があったりするのかな?

 魔素にも質の違いとかがあるのかもしれない。

 「あの。ご主人様、最初の敵はわたしが相手をしてはいけないのですか?」

 ドロップアイテムを拾ってきたミーレスが心細げに聞いてきた。

 役立たず、と罵声が飛んでくるのではと怯えてすらいる感じがした。

 なんでだよ。

 「中が結構ネバネバの植物だからな。剣で斬るのはやめといた方がいい。倒せば魔素になって消えるにしてもね」

 「あ・・・な、なるほど。そういうことですか!」

 パッ、と顔を輝かせる。

 奥ゆかしいのかもしれないが、この期に及んで委縮されると、こっちが傷つくぞ。

 まぁいい。

 誤解は解けた。

 そのまま、探索を続行していく。


 「ん~~~~、はぁ~~~~」

 商人ギルドバララト支部副支部長マティ・オレィユは、重苦しいため息をついていた。

 ギルド上層部からの急なお達しに頭を痛めていたのだ。

 『新規ギルド支部の開拓』。

 現在ギルドの支部が置かれていない街に、新しく支部を進出させろ。

 という命令が下ったのだ。

 もちろん、普段からそのことは頭に置いているし、有望そうな町もいくつか観察下に置いている。

 とはいえ、そんな簡単になんとかなるものではない。

 まず、ギルド支部を置くからには、商売になる要素が必要だ。

 ・帝都でも売り物になるような名産品が取れる。

 ・他の街から持っていける商品に対して、恒常的に需要が見込める。

 ・今後大幅に発展する可能性がある。

 このどれかがなければ、そもそも支部を置く意味などない。

 次に、現地の受け入れ状況の問題がある。

 たとえ、名産品があったとしても、地元の人たちに支部の設置を反対されて排斥行動でもとられれば、やはり無意味なものになってしまう。

 地元の人に歓迎されてでなくては、支部の設置などできない。

 出来たらできたで、誰をその責任者とするのかという問題も出てくる。

 街の選定、商品の発掘、地元の人々への根回し、新規支部を任せる人材検索。

 これらを同時進行で進めなくてはならない。

頭が痛すぎる。

 気も重い。

 「あったまいたぁい―――」

 昼食のついでに自分の部屋に戻ると、窮屈な服を脱ぎ捨てて下着姿のままベッドに倒れ込んだ。

 じたばたと両腕両足をばたつかせる。

 職場では絶対に見せない姿だ。

 片りんを見せてしまった相手はいる。

 なんか雰囲気が、自分が何をしても受け入れてくれそうな感じで、仮面が溶けてなくなってしまうのだ。

 「・・・ママみたいなんだよね」

 思わず脳裏に浮かんだ顔に呟いて、慌てて頭を振った。

 「いやいやいや、仕事上の相手だし! 年下だし! 『異世界人』だし!」

 自分に突っ込んでみるが・・・頭を抱えた。

 「言い訳になってなーい!」

 思わず叫ぶ。

 部屋で寝ているとき以外は、ほぼ仕事中の身で仕事上の関係がない人とどうやって知り合えというのか!

 友達関係全部商人ギルド内の人間か出入りの商人だというのに!

 年下っていっても七歳程度の年の差なんて、全然普通だし!

 異世界ではどうか知らないけど、私たちの世界で十五ならもう成人だし!

 しかもちゃんと仕事して自立しているし!

 『異世界人』? だからなに?!

 「あったまいたいぃぃぃぃ」

 泣きたくなる。

 自分で突っ込んで、自爆。

 「ママ、助けてぇ」

 涙ぐんで、今は亡き母に助けを求めると。

 「ぅ・・・うわぁ・・・」

 亡き母が、得意満面の笑顔で「彼」の肩を抱いて笑っているビジョンが浮かんだ。

 あの母がいま生きていたら、絶対そうなっただろう風景。

 母なら絶対面白がってからかってきただろう。

 幼少期。母がお気に入りの男の子に、娘をお嫁さんにしてくれるかと、半ば本気で聞いていたのが思い出される。

 その、子供に対するものにしては本気度が高すぎる気配にびびって、その男の子は二度と家に遊びに来なかった。

 別に好きでもなかったから怒りはしなかったが、そのせいで仲良しの女友達も家に来たがらなくなったので抗議したのだけれど。

 『根性ないわね』、などとサラッと流す母に、幼心に呆れ果てていたものだ。

 母が生きていたら、「彼」は間違いなくお気に入りになっただろう。

 どんな手を使ってでも、娘との接点を作らせたに違いない。

 「・・・もしかして、まだその辺さまよってるのかしら。ママ」

 思わずオカルトな考えが浮かぶ。

 神や精霊がいるのは普通としても、死者の魂の存在はオカルトの域だというのに。

 でも、あの母ならそんなの平気で踏み越えてきそう。

 ベッドに突っ伏した。

 「だめだ・・・私かなり疲れてるわ」

 仕事に支障が出ているのも、弱気になって誰かを求めてしまうのも、結論としては心身ともに疲れ果てて情緒不安定になっているからだ。

 そんな中だから、なぜか母や祖父、最も信頼して頼っていた人たちと雰囲気が似ている「彼」に惹かれかけている自分がいるのだろう。

 「仕事に戻りたくないなぁー、このまま寝ていたい」

 ぐずぐず言いながら、誰に似たのかはわからないが生真面目な自分が、しっかりと服を着なおして薄い化粧をわずかに直すのを鏡越しに眺めた。

 商人ギルドバララト支部副支部長マティ・オレィユが、瞬く間によみがえる。

 「うん。戦闘態勢!」

 仕事モードに切り替わった、大人の女が立ち上がった。


 12階層の探索を途中でやめ、昼に戻ったオレたちは普段通りに食事をした。

 クレミーたちは、昼は自分たちで食べるからいいといって外に出たらしい。

 まぁ、他人の家だしな。

 昼ぐらいは気心の知れた仲間だけで過ごしたいのだろう。

 オレとしても助かる。

 「昼食食ったら里芋とオクラも植えてしまおう。これで東側の菜園はほぼ埋まるはずだ」

 苗が枯れたり、中央部で芽が出ない種があったりすれば、そこには穴が空くだろうが、まともに畝がそのまま残る部分はなくなる。

 始めの時あるだけの種植えようとして、あまりものを考えずに植えたのが失敗だった。

 中央部がすごく無駄な空間を残していて、寒々とした空気感すら漂っている。

 北側があまりにも充実したものになっているからだ。

 全体を見渡すとすごくムラがある。

 まぁ、しかたがない。

 自分とこの菜園だけで自給自足をしようというわけではないのだし、家庭菜園なんてこんなものだ。

 食事を終え、オレがコーヒー飲んでいる間にミーレスが後片付け、シャラーラが洗濯、アルターリアが掃除をする。

 リリムがちょこちょこ動き回って、それぞれの手伝いをしていた。

 メティスは、すでに治療院に戻っている。

 「終わりました、ご主人様」

 コーヒーを飲み終えてボーっとしていると、いつの間にかカップがなくなっていて、ミーレスが声をかけてくれた。

 ちゃかちゃか音がするのは、蒼天のコーヒーカップを回収したリリムが洗ってくれているからだ。

 三人とも、すでに畑仕事用の服に着替えている。

 「じゃ、植えようか」

 菜園に移動して、とりあえず里芋を植え始めた。

 幅90、高さ20の畝。その中央に株間50センチで植え付ける。

 畝の北側――畝の北側の端――に株間20センチでショウガを植えた。幅分なので一列だと4株しか植えられないが、里芋が二つの畝を埋めるほどはなかったので、株間を少し広めにとってそこにも少し植えてみた。

 うまくいかないかもしれないが、ショウガなんてたくさんあってもそんなに食べないしかまわないだろう。

 里芋と植えるコンパニオンプランツは他に大根があるが、こちらの植え時はあと1~2カ月先になるので、物置に置いておく。魔力カプセルの中は時間が止まっているようなので、放置しておいても問題ない。

で、オクラを植える。

 乾燥にも強く、多湿にも強い植物なのであまり気を使わなくていいのだが、反面一本ずつ植えると生育が旺盛すぎて、苗も実も大きくなりすぎてしまうことがある。最後には2メートルを超える大木になったりもするので少しいじめて弱くするのがコツだったりする。

 3~4本ずつ植えて互いに肥料分や水を取り合いさせるとか、早生栽培――つまり雑草を抜かないで適宜刈って草の勢いをコントロールする栽培方法――するとオクラはゆっくりと育つ。

 が、せっかくなのでオレは一本植を採用した。

 早生栽培として雑草の混載にするのではなく。かわりに株元にインゲンを植える。

 大木になるほどのオクラの丈夫な枝をそのまま支柱として利用しようという考えだ。

 園芸店から支柱を刈ってきてさす、というのが面倒なのでたまにやっていた方法だ。

 こっちの世界には園芸店ないし、かわりに細い竹とか手に入れてくるのも面倒だから、これでいいだろう。

 幅90、高さ15センチの畝。

 その中央にニンニクを株間15センチで並べ、その左右――つまり畝の外側にオクラを株間60センチで植える。

 ニンニクを植えるには、早すぎる時期なのだが・・・オレは正直あまりニンニクを食べないので、失敗したらしたでいいやという気分で植えてしまった。

 大根は好きなので絶対失敗したくないので安全策をとったが、ニンニクにはその必要を認めなかった。

 ニンニク好きの皆さんと生産者さんには失礼この上ないが、好みの問題なので許してほしい。

 そんなこんなで、東側の菜園はほぼ埋まった。

 このあとは、欠株が出来たら、そこに余っている苗を入れていく形をとればいい。

 うまく育てばめっけもの、失敗したらお勉強、の家庭菜園ならではの方法だ。

 「よし」

 インゲンを植えたことで、意味もなく安心したオレは機嫌よく菜園を見渡した。

 素晴らしい。

 収穫が楽しみだ。

 その時のために、おいしく食べるための準備を進めていこう。

 というわけで。

 「マティさんのとこに出かけよう」

 軽装備を付けて、バララトの商人ギルドへと飛んだ。



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