七話 旅は道ズレ ジオ
「なんであんたついてくんのよ!」
「ディアロゴスだ。ディア様でもロゴス様でも、好きな方で呼んでいい」
「ナニ様でもいいけど、ついてくんなッ」
ニーニャが荒れている。僕は今、左腕がうれしい。ニーニャが腕にかぶりついているので、その胸があたってドキドキする。ディアロゴスも、ついて来るってことは、友達になりたがっている証拠さ!
ニーニャがディアを蹴っ飛ばそうとして、靴を取られた。
「ぎゃあ」
ニーニャが道端にうずくまった。変なの。ディアはすぐ靴を返した。
「どこへ向かってるんだ」
ディアが並んでくる。腕組みしたままだ。父さんは、腕組みは拒絶の意思を示すと言っていたが、間違ってるね。彼はフレンドリーだ。
「ジオカトロ。ジオって呼んでくれ。君のことはディーって呼ぶよ。ディアだと女っぽいからね」
「・・・よかろう。ジオ、よろしく頼む」
僕たちは握手をした。ディーは、こころもちギクシャクしているが、彼から見たらたぶんそれは僕も同じなんだろう。傷のせいで男前になっちゃったし。子供とかにこわがられたら嫌だなあ。先生もちょっとやり過ぎだよね。
「で、どこに向かっているんだ」
「先生の紹介で、いや、さっきのお医者先生じゃなくて、僕の剣の師匠の先生ね。紹介状をくれたんだ。修道院に行って、修行をするのさ」
得意になって、紹介状を見せてやりたくなったが、途端に悪寒がしてやめた。
ん。道端だからな。うっかり落とすと困る。
「馬車を止めた技か。あれがあれば、俺も修道院に入れるのか?ウムシュラーゲンアングリフッ!!」
ディーが僕の技を真似している。一発で技名を覚えたのか。記憶力がいいな。
「先生のとこに弟子入りする?道が逆だよ。技がないと修道院には入れないのかな。君も何か技があるみたいだけど、なんていったかなー」
「デュープなんとかー」とニーニャ。
ディーが立ち止った。どうした?
「い、いや、俺に技は無い。道すがらジオの技を教えてくれないか」
「難しいよ。体格も重要だし。それでもいいなら教えるよー」
ディーの目が輝く。
「いいのか、あまり簡単に俺が使えるようになったショックで、お前が出せなくなるかも知れんぞ」
「そんなことはないさ。技はしっかりと僕の中に継承されている。使い手が増えることは、周囲を敵に囲まれたこの国にとってもいいことさ」
ほとんどの人があきらめて先生の元を去った。一つ覚えの技すら満足に伝えられないと悪口を言う人もいた。ディーが覚えてくれるなら、そんなことはないと言える。
「じゃあまずねー」
「剣を買いましょうねー。はいそこ立ち止らない」
ニーニャに仕切られた。
「眠いの。早く次の町に行きたいの」
「じゃあ、だっこしてあげるよ。背負うより、お姫様だっこがいいかな。」
「やめッ。うぎゃあ!」
疾走開始。僕だって少しは眠いんだよ。ディーがあわててついて来る。風邪は治ったみたいだ。やっぱり、僕の見立て通りだ。
・・・町についた。病み上がりのディーを待つ間、ニーニャが胸板をド突いて来る。女の子とは思えない、途切れない連打。でも、かわいいもんだね。
「びしっ」はあはあはあはあ
ニーニャが肩で息をしている。でも顔はやめようよー。びんたは痛いんだよ?
「あいつ、連れてくの?巻いちゃおうよ」
どっちかというと、ニーニャを安全な家に帰したい。でもそれは僕のわがままだ。
「ついて来たい人を、邪険にするのはなしだ。」
「ん。あたしもそうだもんね。わかったよ」
ニーニャは、宿で寝ると言ってその場を離れた。入れ違いにディーが涼しい顔で現れた。陰で呼吸を整えてから出て来たんだろう。少し見栄っ張りなのがわかった。
「稼ぎの情報を仕入れて来た。銀貨五枚。俺の全財産をはたいた。乗るなら6:4で俺だ。賊退治だ、やるか?」
「ん。全財産か。乗らないと君が困るね。悪事じゃないならもちろんやろう」
でも、僕たち二人で退治できる賊ってどんなのだろうか。