39話 ディア 海からの襲撃
奴らの動きの情報は入っている。今夜、クンストマイスターがジオにハイリゲスを披露する。俺は、妨害しない。ジオから盗む方が容易だからだ。奴らは今夜まで、こそこそしているといい。
って、ジオの奴が、障害物の裏からこちらを伺っているではないか!
何だあいつ、【ジオは仲間になりたそうにしている】という空気言語がモロ見えだ。
何なんだあいつは!俺に裏切られたことを覚えていないのか!どこまでお人良しなんだ!
「あいつを、俺に、近づけるな!話も聞くな!わかったな!」
クロードと部下2人に命じて、俺は奥に引っ込んだ。
それどころではないのだ。
北の海の海賊に、動きがあるようだ。海峡城の雷鎚が、蜘蛛男の船に態よくあしらわれてから、海賊は蠢き出したらしい。武器、食料、船具の取引が増大し、大規模な戦闘準備が行われているという情報が、またもベルゲンからもたらされた。一歩先んじた情報である。
ベルゲンは、宝物返還で金を出し渋っている王侯貴族と交渉中なので、何か大きな戦果が欲しいとも言って来た。それを優先するなら、騎士団と修道院が一丸となって襲撃にそなえるべきであろう。ディアブル一家がそこで元も活躍することが望ましい。(こうしてみると、「ディアブル一家」は、マフィアの徒党としてはいい名前だが、勇者一行としては不適切だ。表向きに通りのいい名が必要であろう)
だが、今宵は俺のスキル奪取道を優先せざるを得ない。モノはハイリゲス、大物だ。作戦を気取られるわけにはいかない。今は、大人しくしておけ。
城壁から、海を見渡す。曇り始めた。遠雷が、見えるが、音はだいぶ後になって来る。嵐と闇に追われて、小規模な小船団が、日のあるうちに湾内に逃げ込もうとしていた。
「おう、来たか」
商船団の陰に、小さな黒い帆のガレオンを見つけた。そいつだけなら、もっと遠くにあると思うか、そもそも見つけられなかっただろう。スケールの対比がおかしいのでわかった。巨大な戦闘艦であるはずのモノが、商船より小さく目に映り、併走しつつ、見え隠れしている。
俺がこの城に入る1日前に、黒い蜘蛛の糸使いジャック・スパイダーが海峡突破をやってのけたそうだ。あの野郎、今度は海賊本隊の襲撃前に、陽動をかけるつもりか。良く見えない。城壁から乗り出して見てみよう。
「ディアブル・ブランディッシュ、君に頼みがあるんだ!」がごっ!
突如、城壁下から、熊男が顔を突き出して来た。顎にくらって、舌も噛んだ。
「★☆★☆★☆★☆!!」
ぬがああああ。どうしてここにジオがあああ。
腹立たしいが、疑問はすぐ溶けた。奴は怪力に物を言わせ、城壁外のわずかな出っ張りをつかんで、回り込んできたのだ。低能だが、ぱっと思ったことをぱっとやってのける身体能力を有している。侮った。クロードら程度では対処不能だった。
「何をッ!たのむだァ?」
「僕はもう、どうしたらいいか。名案を考えてくれ、君ならできる!」
知ったことかッ!早くクンストマイスターのとこに行ってハイリゲスを学べ!そして俺に盗まれたらお前は用済みだ!シネッ!
ぐぐぐ。本音を言ってやりたい。だが、こいつは究極のお人良し馬鹿らしい。操られたいなら、そうしてやろう。今は、ジオと俺が話をしていることを、クンストマイスターに知られたくない。早く追い払いたい!
「とりあえず、何も言わずにハイリゲスを受け取れ。お前は作戦を全部覚えられまい。その都度指示してやる。早く去れ!」
「わかった、ありがとう。迷いが取れた。ありが、トウッ!」
ジオは城壁を飛び降りた。かなり高所のはずだが、途中で剣を城壁に刺して勢いを殺し、無事に海岸に降りると、ものすごい速度で走り去った。に、人間業じゃない。
その間に、海賊船は接近していた。商船団から前に出て、海峡に侵入。見張が叫び始めた。あの位置からで、雷鎚の準備が間に合うか。商船団は海賊に追われているという信号旗を出していたが、見張はたぶん無視したはずだ。見えないくらい小さな海賊船がそばに隠れているとは誰も思わない。
蜘蛛の巣帆船は、雷鎚を2発、簡単にかわして湾内に侵入して行った。海峡城、大混乱開始。続いて商船団が逃げ込んで来るが、残りの雷鎚が誤射された。1隻が轟沈。後続船が雷鎚回避のため進路を誤まり、暗礁に突っ込んだ。
そしてさらに、手早く踵を返してきた蜘蛛帆船が、逆に海峡の突破を敢行。雷鎚と商船を回避する神業を見せた。
完全に注意が、海峡に引きつけられてしまった。ふむ。こうなるとすでに、城壁外に伏兵が忍び寄っているだろうな。海岸にジオの一派がいるはずだ。海賊相手にハイリゲスが打てて良かったじゃないか、クンストマイスター。無駄打ちよりよほどマシであろうよ。
「全員に命じよ。戦闘準備。別名あるまで待・・・」
「申し訳ありませんッ、ジオの奴に逃げられました!」
手下に命じようとした俺の言葉を、必死こいて報告に来たクロードがさえぎった。頭に来たのでその顎に、俺は一発くれてやった。使えない奴めッ!




