31 . 東雲 広の過去
俺の名前は東雲広。グアド王国の隣に位置するフラーウムトロンで生まれた。母さんは俺のことが大好きだった。その一方で父さんは僕のことが大嫌いだった。父親は母親のことが大好きで、母親の愛情が自分以外に向くのがすごく嫌だったんだと思う。
父親にとって俺は不必要な人間で、「お前はいらない」と言われた。俺がいることで父親はおかしくなり、次第に母親に暴力を振るうようになっていた。だから俺はこの家から抜け出そう。そう考えた。そうすれば母親が苦しい思いをしなくなるし、これまでみたいに2人で幸せな生活が送れるだろう。そう思ったのだ。
俺は4歳の時、家を抜け出した。
俺が生まれたフラーウムトロンはルハーマ・トロンという人物がトップに君臨し、ものすごく平和なところだった。フラーウムトロンでは孤児に対して、無償で住まいと食料を与えていたし、俺と似たような子たちはたくさんいた。俺は、生きたいとは思わなかったが、別に死にたいとも思わなかった。
フラーウムトロンの中央に位置するトロン塔。ここへ行けば食料はもらえたし、その地下で生活を送ることもできた。ルハーマは孤児たちに、君たちには素晴らしい未来がある。ここで立派に成長しなさいと毎日のようにいっていた。俺はこの当時、俺みたいに自分の意思で抜け出すやつ、そして捨てられたやつ、こんな奴らに素晴らしい未来なんて訪れるもんかと思っていた。この世界に不必要な人間だから捨てられた。そんな奴らがこれからどうやって生きていくんだとも思っていた。どうせ17歳になったらここから追い出され、また途方に暮れるんだ。こんな毎日を過ごすくらいなら死んだほうがマシかもなと次第に俺は思い始めていた。
「こんなところにいたら風邪をひいてしまうではないか、広」
「別にいいんだ。俺が体を壊したからって誰も困りはしない。放っておいてくれ」
「そうはいかないんじゃ。さあ戻ろうではないか」
「なあ、おっさん。生きる意味って何だと思う?おっさんはなんのために生きてる?」
「わしは子がおらんのじゃ。この地下で暮らす子たちが皆、我が子のように愛おしいんじゃ。暴力を振るわれた、捨てられたとか、自分の存在意気がわからない子たちに、悪い大人ばかりではないとわかってほしいんじゃ。君たちを必要とする人間はたくさんいる。決して1人なんかではないんじゃとわかってほしいんじゃよ」
「ふーん。俺はいまだに馴染めないよ。他の奴らはみんな楽しそうにしてるけど、俺は馴染めない。どうせお前ら捨てられたんだろって思っちまう。俺は最初からいないほうが良かったんだ」
「そんなことを言うでない。少しずつでいいんじゃ。広のペースでいいんじゃよ」
俺のペースね。
「広。今日はもう遅い。ゆっくり休むといい」
「ああ。俺、明日外に出てもいいか。人を観察したい」
「もちろんじゃ。わしもいくかの」
「いや、俺1人でいい」
「そうか」
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「あんまり寝れなかったな」
まあいい。早く行こう。
「どこかへお出かけですか?」
「ああ、少し外に行く。ルハーマには昨日伝えたんだからいいだろう?」
「そうでしたか。ではお気をつけて」
地下の見張り人と会話を交わし、正面玄関まで向かう。
「いい天気だ」
もしかしたら、母さんは心配してくれているかも知れない。でも父さんがそれを許さないだろう。現に、俺を探してるなんて情報は耳にしない。ごく稀に、両親が引き取りに来るなんてこともあるらしいが俺にはきっとない。
こんなガキが1人で歩いてったって誰も見向きもしない。
左に母親、真ん中に子、右に父親。仲むずましい親子に、買い物を楽しむ大人たち。子どもたちが大勢ではしゃぎ回る賑やかな昼間。俺とは全くの無縁だな。
こんなボロボロの服着て、金もなくて、親もいない。やっぱり来るんじゃなかった。ただみじめになるだけだ。帰ろう。
「おい、見るよあのガキ。捨てられたんだろ、どうせ」
トロン党に向かい歩いているとそんな声が聞こえてきた。
「ほらやっぱりそうだ。このまま地下に向かうんだぜ。かわいそうだよな」
「なんだよ。なんか文句あるかよ」
「いいなーお前ら、たたで食料もらえるんだろ?羨ましいぜ」
嫌な笑みを浮かべ、男たちはそう言った。
「なんだよ。食べなきゃ死んじゃうんだぞ」
「だったら死ねばいいじゃんか。お前.....っていうかここにいる奴らはみんないらない人間だろ?だったら
死んだってなにも変わんねえよ。悲しんでくれるやつもいないんだろ?ははっ。悲しいでちゅね」
「ははっ!おいやめろって、泣いちゃうぞー。ははっ」
「くそが」
「ああ?」
腹に一発。倒れたところで、顔面に拳を三発。無我夢中だった。俺はこの時、男2人に殴りかかり、怪我を負わせた。そして俺自身も怪我をした。
「イッテ。ほんとクソガキだな。そんな凶暴だから捨てられるんだ。気持ち悪い」
「おい何事だ。なにをしている」
「おい逃げるぞ」
「広じゃないか。なにがあった。怪我もしている。早く手当を」
「触るな。なにもなかった。それに俺は悪くない。俺は悪くない。悪いのはあいつらだ。俺はなにも悪くない。悪くない..悪くない」
俺は何度もそう呟きながら、静かに泣いた。




