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4-1(姉と妹).

 ここからは短編にはなかった新たなエピソードとなります。

 私はマルマイン王国の王都マルカにある商会の家に生まれた。マルマイン王国では比較的大きな商家で王国から男爵位を頂いている。私の曽祖父の代に王国への貢献が認められて叙爵したのだ。


 私のお父様は話に聞く曽祖父や祖父ほどの商才には恵まれていなかったが真面目で堅実だと評判だ。お母様は伯爵家の娘だ。とはいっても、お父様とは政略結婚ではなく貴族の子弟が通う学校で知り合ったのだ。お母さまの家ではずいぶんこの結婚に反対したそうだ。お母様の実家の伯爵家はそれほど勢いのある家ではないが、ずいぶん古く格式の高い家らしいのだ。でも、結局は格下とは言っても貴族だしお母様が好きになった人だからと納得したんだろうと私は想像している。


 お母様は優しく、お父様は真面目。格式は高くはないが一応貴族で商売のおかげでそれなりにお金持ちの家の生まれた私は幸せだった。だったというのは、優しかったお母様が流行り病で呆気なく亡くなってしまったからだ。私が7才のときのことだ。お母様が亡くなってから真面目なお父様と二人での生活が続いた。その私たちの生活に変化が訪れたのは私が10才になってすぐ後のことだった。


「新しいお母さんと妹だ」


 お父様はぶきらっぽうに紹介した。


「ルシアちゃん、よろしくね」


 新しいお母様だという人はブレンダという人だ。ブレンダは美人だけど笑うと少し品がない。そう思うのは私がブレンダをあまりよく思っていないからだろうか? 妹だという少女は私と同じ年でソフィアという名前だ。


 そう、私と同じ年だ。真面目だと思っていたお父様はお母様が生きている頃からブレンダと関係があったのだ。


「ソフィー、お姉さんにご挨拶なさい」


 ブレンダの言葉にソフィアはいやいやといった感じでちょっと頭を下げた後、プイと横を向いた。


「ごめんなさいね、ルシアちゃん、この子はちょっと人見知りで」


 ブレンダはそう言い訳した。でもごめんなさいねと言いながら、ちっとも悪いとは思っていないのは私にも分かった。10才というのは意外と大人なのだ。その間、お父様はずっと黙っていた。


 こうして私たち4人の生活が始まった。もちろん使用人は別だ。後から知ったことだが、ブレンダはもともと家のお店で売り子をしていたところをお父様に見染められたらしい。そして家に来るまではお父様が与えた家で生活していたのだ。お母様が亡くなって3年近くが経ち娘のソフィアともども家に招き入れられたのだ。


 一緒に生活するようになって分ってきたのだが、ブレンダは目的のためには手段を選ばないタイプだ。


 おそらくソフィアを身ごもったのも計画的なのではないかと思う。お父様はブレンダにせっつかれて家に招き入れることになったに違いない。


 ブレンダはお父様に甘い言葉を囁くと同時に時には怒って見せる。子供でも女の私には分かる。ブレンダは硬軟使い分けて巧にお父様を操っている。どんどんお父様はブレンダのいいなりになっていった。


「ルシアさんは、少し我儘なところがあるわ」


 ブレンダはお父様にそう吹き込んだ。私が好き嫌いをするとか、服をソフィアに貸してあげないとか、そんな些細なことだ。嫌いな食べ物はあるかと訊かれたから答えたら食卓に私の嫌いなものがよく並ぶようになった。ソフィアに貸してあげなかった服は、亡くなったお母様が気に入ってよく着ていたものを私用に仕立て直したものだ。私はそれをとても大切にしている。別に高級なドレスとかいうわけでもない。元はお母様が気に入っていた普段着だ。


 ブレンダは全くの嘘を言っているわけではない。そこがブレンダの上手いところだ。そんな些細なことが積み重なってお父様はブレンダに洗脳されていった。私が違うと言っても子供が駄々をこねている思ったお父様はますますブレンダの言うことを信じるようになった。おそらくブレンダの目的はソフィアに婿を取らせて家を継がせることなのだと思う。


 私はお母様が生きていた頃の生活を思い出してそんな扱いに耐えた。ただ、そんな窮屈な生活にも味方がいた。使用人ではない。ソフィアだ。ソフィアは最初の態度とは違い。優しいだった。ブレンダが私のことを悪く言っても「お姉様はとっても優しくて頼りになるわ」と庇ってくれた。

 私が服を貸さなかったとブレンダから非難されたときも「私が急に無理を言ったのが悪かったの。お友達からお呼ばれして、あれがぴったりだと思ったものだから、お姉様、わがまま言ってごめんなさい」と逆に謝ってくれたのだ。そんなソフィアは使用人たちからも評判がいい。ただ、そんなソフィアの態度はますますソフィアの株を上げることになった。もちろん、それはソフィアの罪ではない。本当にソフィアは性格が良いのだから・・・。


 ただ、比較された私は・・・。


 ソフィアが庇ってくれても、ブレンダの策略により使用人たちが私たち姉妹のことを少し我儘な姉と天使のような妹と評価していることは私にも分かる。実際、ソフィアはブレンダの子供なのが不思議なほど性格が良かったので、私も文句を言う気にはなれなかった。もしソフィアがいなかったら私はもっとブレンダに虐められて酷い目にあっていたことだろう。もともと無口な人だったお父様は、今ではブレンダには何も言えない。


 私とソフィアが13才になったある日、シェリンガム伯爵夫妻が家を訪ねてきた。私のお爺様とお婆様だ。お父様の両親のほうは早くに亡くなっているが母方の祖父母は健在だ。


「ルシア、ずいぶん大きくなったな」


 お爺様は私を抱き上げてそういった。お爺様はお年の割には元気だ。体格も立派だ。若い頃は騎士団関係の仕事をしていたと聞いたことがある。


「ランドルフ、少しはルシアをシェリンガム家に連れて来てくれてもいいのでないか?」

「申し訳ありません。商売の方が忙しくて」

「それじゃあ、わしらの方から迎えをやるとしよう。問題ないな」

「それは、もう」


 お父様も伯爵様であるお爺様には頭が上がらない。伯爵家はお母様のお兄様が継ぐ予定だが、今でも伯爵はお爺様だ。


「それにしても、ルシアはマージョリーによく似ていますね」


 お婆様は私を見て目を細めた。真面目なお父様と恋愛結婚したお母様。使用人に聞いても純真無垢な天使のような人だったと口を揃える。でもお父様はずいぶん前からブレンダと・・・。もしかしたら天使のようなお母さまと結婚したことがお父様には返って負担になっていたのだろうか・・・。皮肉なことに今使用人たちから天使の様だと言われているのは、お母様の娘である私ではなくブレンダの娘であるソフィアのほうなのだ。


 お爺様とお婆様が訪ねて来てからしばらくして私はシェリンガム家の屋敷に招待された。王都にある屋敷ではなく領地のほうの屋敷だ。シェリンガム伯爵家の領地はマルマイン王国の北東部にある。領地には小規模だがミスリルの鉱山がある。あとはとても自然が美しい場所だそうだ。ときどき魔獣が現れたりするとも聞いた。


 いつだったかお爺様に魔獣の話を聞いたとき「まあ、シェリンガム家の騎士たちは強いから問題ない」とお爺様は豪快に笑っていた。私は小さい頃からこの手の話が好きだ。魔法とか魔獣とか勇者様とかの話だ。女の子らしくないのだけど、好きなものは仕方がない。


 魔法と言えば、私は土属性魔法が使えるのだがあまり役に立たない。小石のようなものを作り出して攻撃する魔法なのだが、その辺の石を拾って投げつけるのと大差ない。貴族には魔法を使える人が多い。魔法を使える貴族の子弟が通うマルカ魔術学園なんてものもある。お母様は私と同じ土属性の他に氷属性の魔法も使えた。それも私とは違って、かなり高度な魔法も使えたそうだ。もしお母様がマルカ魔術学園に通っていたらお父様と知り合うこともなかっただろう。 


 そういうわけで、私は魔獣が出るというシェリンガム伯爵家の領地に行くことをとても楽しみにしていた。小さい頃にも行ったことがあるのだが、美しい平原や森の景色を薄っすらと覚えている程度だ。


「私も、シェリンガム伯爵様の領地に行ってみたい」


 ソフィアがそう言いだしたのにはちょっと驚いた。ソフィアが魔獣や田舎の景色に興味があるとは思っていなかったからだ。


「ねえ、お姉様いいでしょう」


 そうソフィアに言われて私に断るすべはなかった。それにブレンダの企みにもかかわらず私とソフィアは仲がいい。きっとソフィアと一緒のほうが楽しいだろう。私は、使いの人にお爺様にソフィアと一緒に行ってもいいか尋ねてほしいとお願いした。お爺様から見れば娘である私のお母様に隠れてお父様がブレンダに産ませた子がソフィアだ。それでも、お爺様はソフィアが同行することを許可してくれた。お爺様も私とソフィアの様子を見て仲がいいことを察していたのだろう。


 ブレンダはソフィアが私と仲良くするのを快く思っていない。私を可愛がっているお爺様のことも好きではない。なので、ブレンダはソフィアがシェリンガム伯爵領に行くことに反対した。でも、ソフィアは私と一緒にシェリンガム伯爵領に行くと言って譲らなかった。ブレンダは私に対するのとは違い実の娘であるソフィアには甘いので結局それはブレンダからも許可された。


 こうして、私と妹のソフィアは連れだってシェリンガム伯爵領を訪問することになった。

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