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3-5(エピローグ).

 このエピローグは短編にはなかったものです。

 わたしが前世を思い出したのは3才のときだった。それは突然のことだった。子供によくある高熱を出して寝ていたわたしは、最初は夢だと思ったそれが、徐々に明確になり、とうとう日本という国で暮らしていたときの記憶だと認識した。


 そう、わたしは日本で10才のとき交通事故で死んだのだ。一旦手放してしまった愛犬の虎次郎のリードを再び手にしようとして虎次郎と一緒に道路に飛び出してトラックに跳ねられたのだ。おそらく即死だったと思う。トラックの運転手には悪いことをしてしまった。最初に思い出したときは、目の前にトラックが迫ってくる恐怖が蘇ってきて体が硬直した。


 わたしが生まれ変わったのはゲナウ帝国というこの世界一の大国だ。とはいっても、わたしが生まれたのはマルマイン王国との国境に近い北西の草原地帯で馬や羊などを育てることに長けている民族の村だ。田舎ではあるが前世と同じく動物好きに育ったわたしにとっては悪くない環境だった。


 おかげでわたしの一番の特技は乗馬だ。


 本当は日本での知識でなんかもっと凄いことができないかと思ったこともあった。わたしは日本では10才までしか生きなかったけど、なんか前世の知識でお金持ちになったり凄く強くなったりするアニメとかがあるのは知っていた。でも、わたしが10才までの知識しかないのが原因なのか、それとも転生するとき女神様に会ってチート能力とやらを貰わなかったのが原因なのか、今のところわたしが特に注目されたり偉業を成し遂げたということはない。


 だけどと、わたしは思う。


 本当のところは、あんなのはあくまでアニメとかの中の話なのであって、前世が日本人だからといって生きていくのはなかなか大変だというのが真実なのだと思う。だってこの世界の人たちだってみんな一生懸命生きているのだ。日本の知識だけで簡単に成功したりするはずがない。


 でも、日本で生きていたことに全くメリットがなかったわけでもない。


 10才までとはいえ日本で教育を受けた記憶があるわたしは、地元の子供たちが通う日本いえば小学校のような場所でその優秀さが認められ、なんと王宮で働く侍女になることができたのだ。その学校で教鞭を取っていた女性教師が元王宮の侍女で結構位も高い人だったらしい。わたしが王宮の侍女に推薦されたときには両親はとても喜んでくれた。前世では10才で死んでしまったのであまり親孝行はできなかった。だからというわけでもないが、この世界で親孝行できたのは良かった。


 そして、それは親孝行になったというだけでなく、今考えると運命だったのだ。


 わたしには小さい頃から二つの目標があった。一つはたった10才で死んでしまった前世の分までこの世界で幸せになること。そして二つ目は日本で死んだとき、わたしを助けようとして、たぶん一緒に跳ねられた男の人が、もしわたしと同じようにこの世界に転生しているのなら見つけ出してお礼を言うことだ。あの男の人はわたしと虎次郎を助けることはできなかった。でも命がけで助けようとしてくれたのだ。同じトラックに跳ねられたんだから、わたしと同じようにこの世界に転生している可能性だってあると思ったのだ。


 そして、その目標は両方とも叶えられそうだ。


 王宮の侍女となったわたしがこの国の第三王子であるダイカルト様とデナウ王国の侯爵令嬢エカテリーナ様との結婚披露パーティーでアレクセイ様を担当することになったのが転機だった。アレクセイ様はデナウ王国のギルロイ伯爵家の息子だ。エカテリーナ様のボルジア侯爵家とアレクセイ様のギルロイ伯爵家は同じ武門の家で親しいのだ。どちらかというとボルジア侯爵の派閥にギルロイ伯爵が入っているという感じらしい。そのためアレクセイ様に帝国を見せてやろうとボルジア侯爵が連れてきたのだ。

 最初に会ったとき、アレクセイ様は心ここにあらずといったふうだった。わたしは、何で結婚披露パーティーでこんなに暗い顔をしているんだろうと思ったものだ。パーティーでお酒を飲み過ぎたアレクセイ様はわたしの前でいろいろな話をした。その大半は愚痴のようなものだった。その中にはエカテリーナ様の話もあったような気がする。でも、そんなことはどうでもよかった。アレクセイ様が、白い犬とその飼い主の少女と一緒にトラックに轢かれてこの世界に転生したと口走ったからだ。


 アレクセイ様こそわたしが探していた人だったのだ。以来わたしは、アレクセイ様のためならなんでもしてあげようと心に決めている。


「その後、アレクセイの様子はどうですか?」


 そうわたしに訊いたのはこの国の第三王子の奥様のエカテリーナ様だ。わたしは今エカテリーナ様に呼ばれて、エカテリーナ様の私室にいる。エカテリーナ様はわたしと同じ転生者で、なんと悪役令嬢だ。わたしはエカテリーナ様に教えられてこの世界が乙女ゲームの世界だと知った。わたしはそのゲーム『心優しき令嬢の復讐』のことは知らない。そんなわたしがなぜこの世界に生まれ変わったのか。今では、その理由がなんとなく分かっている。たぶんわたしは巻き込まれたのだ。アレクセイ様に・・・。


「はい。最近ではエカテリーナ様のことは、あまり気にしていないようです」

「それは何よりだわ」


 エカテリーナ様は当然といった様子で頷いた。


 実際、最近ではわたしがエカテリーナー様のことを報告してもアレクセイ様はあまり熱心に聞いていない。わたしが引き続きエカテリーナ様は憂鬱そうな顔をして何か考え込んでいることが多いと報告しても「そうか」と言って頷くだけだ。

 わたしは、エカテリーナ様とアレクセイ様の間になにがあったのか詳しくは知らない。ただ、どうやらアレクセイ様はエカテリーナ様を恨んでいる。アレクセイ様が私にやらせようとしたのは、エカテリーナ様にゲームの強制力とやらを意識させて、エカテリーナ様を不安にさせることだったのだ。


 でも、エカテリーナ様のほうが一枚上手だった。


 アレクセイ様のほうもこれ以上なにかをする気もなかったのだろう。計画が上手く行ってそれで満足している。それでもアレクセイ様は、わたしが定期的に報告に来るのを楽しみにしてくれている。


「それと・・・」

「それと?」

「はい。前回会ったときにデナウ王国のアレクセイ様の御屋敷で働かないかと誘われました」

「そう、ギルロイ伯爵家に・・・」


 前回の報告のとき、わたしがエカテリーナ様の様子を説明していると「それよりも俺のところに来ないか」と誘われたのだ。


 実はこれもエカテリーナ様の予想通りだ。 


「それは、良かったわね」


 エカテリーナ様はわたしにニッコリと微笑んでくれた。アレクセイ様に俺のところへ来いと言って誘われたときはとても嬉しかった。顔が赤くなり体が熱くなるのが自分でも分かった。


「はい。でも、わたしは王妃様に気に入られています。それにわたしを王宮に推薦してくださった方にも恩があるのです」

 エカテリーナ様は頷くと「エルサはよく気がつく良い子ね」と言って「義母おかあさまには私が上手く説明しておきましょう。そのエルサが恩があるという方にもね。エルサが遠慮なくアレクセイのところへ行けるように取り計らうわ。エルサは何も心配せず私に任せなておきなさい」」と続けた。


 エカテリーナ様がそう言うのなら安心だ。エカテリーナ様はとても頭がいい上に、その旦那様も帝国一の切れ者と噂される第三王子ダイカルト様だ。おまけにエカテリーナ様とダイカルト様は傍で見ていても恥ずかしくなるくらいに仲睦まじいのだ。


「ありがとうございます」


 わたしがお礼を言うとエカテリーナ様は「エルサ、幸せにね」とニコリとして頷いた。やっぱりエカテリーナ様は優しい方だ。自分に嫌がらせをしようとしていたアレクセイ様に復讐するわけでもなく、むしろわたしとアレクセイ様が幸せになるように取り計らおうとしてくれている。


 いや、わたしとアレクセイ様だけではない。


 あれからオルランド侯爵家のリーゼロッテ様は、宰相様の下でますます官吏としての勉強に励んでいる。最初、わたしはエカテリーナ様に言われたことが原因で仕方なくやっているのだろうと思っていた。だけど、リーゼーロッテ様の表情は以前の思い詰めた様子から打って変わって明るくなり話しかけやすくなったともっぱらの評判だ。その上以前にも増して勉強に取り組んでいるのだ。本気で女性初の宰相を目指しているとの噂だ。わたしが思うにリーゼロッテ様は一所懸命勉強する理由が欲しかったのだ。そして、これもエカテリーナ様の計画通りなのだと思う。


 一体、エカテリーナ様のどこが悪役令嬢なのだろうか?


 部屋を辞去しようとするわたしにエカテリーナ様はもう一度「エルサの幸せを祈っているわ」と言った。


「まあ、アレクセイもね・・・」


 最期にエカテリーナ様が何か呟いたけど、よく聞こえなかった。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 忌憚のないご意見や感想をお待ちしてします。読者の反応が一番の励みです。 

 明日からは、短編にはなかったエピソードを投稿します。毎日朝に一話ずつ投稿して2週間くらいで完結する予定です。

 もし、この先の展開に少しでも興味を持っていただけたらブックマークをお願いします。

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