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邪神を奉る暗黒教団の教団長は、管理職から逃げてきた俺です  作者: 安威要


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14/30

【第14話 乾いた風、アレは防火帯——山火事“前夜”】

 朝の空気が、紙やすりみたいにざらついていた。

 窯の吐息はいつもどおりだけど、草が擦れる音が乾いている。今日は“軽くない日”だな、って肌が言ってる。


「朝会いくよー」


 壁板のKPIに今日の欄を足す。

 乾燥指数=高。湿度=低。風向=西→東(午後、強まる見込み)。警戒レベル“黄”でスタート、状況次第で“橙”へ。


「東側の糸鈴、ノードを増やす。ニナ、いける?」


「了解、走る。高さバラして付けるね。鳴りで方角わかるように」


「助かる。ルーク、掲示板に“本日の風”を大きく。人の動線は森側を閉じ気味で」


「右揃えででっかく出します」


 骨は“自然体”で整列。……よし、今日の“どや立ち”率は低め。いい傾向だ。


 午前は仕組みを増やす時間。

 まず糸鈴ネットを東側に4ノード追加。樹間の高さを少しずつ変えて、チリン、チリリン、チリンチリンで距離感を出す。

 次にバケツリレー訓練は人間、土砂搬送訓練は骨。青タグの班長骨に“停止・集合・繰り返し”の合図確認。

 最後に——鍛冶場だけだった「火の5ルール」を全域へ拡張して「火の10ルール」にした。


 火の10ルール:

 1)水桶は白線の内側/2)油は火から3m以上/3)消火砂常備/4)子ども立入禁止/5)指差し呼称で消火確認/

 6)屋外での裸火は“風上確認”してから/7)その場を離れるとき必ず声かけ/8)火消し担当表を掲示/

 9)最終点検者は署名/10)異常は木笛2吹きで全停止。


「指差し呼称は笑うけど、効くのよね」とセラ。


「声に出すと、脳がやっと本気出すからな。点検は声出しで」


 昼前、ニナと青タグ骨が東の尾根へ偵察に出た。帰ってきた顔は、ちょっと硬い。


「焦げの匂い、うっすら。向こう側、けっこう乾いてる」


「距離は?」


「まだ遠い。でも、風が出てきたら、わりと来る」


「了解。“前倒し”でいく。防火帯を先に通す。逆火は、今日はまだ早い」


 防火帯の設計はシンプルだ。幅3mで黒土を出す。小さい段差を刻んで、火の足を止める。枝は地上2mまで払う。今日の目標は延長200m。

 段取りはこう。


「人は監督・水・仕上げ刈り。骨は下草刈り・枝払い・土寄せ。急がない。“早く正確に”じゃなく“確実に”。うちは点数より継続」


 骨の一体が胸を張りかけたので指で×。「どや禁止。今日は“省エネ立ち”」


 ガリガリ(伐採)とギコギコ(製材)が先行して道を切り、どすこい(運搬)が土を寄せる。カツグ君(資材)はスコップと鎌の補充。

 テッサの手は早い。白線の外に置かれた水桶を指で差し、俺は首を振った。「内側。火の“帰り道”は短く」

「了解」


 正午を少し回ったころ、風が鳴って、乾いた葉が一度に裏返った。ほどなく、パチ、と小さな音。振り向くと、下草が親指の爪くらいのサイズでチリチリ燃えていた。


「スポット火! バケツ、1!」


 マーラの水が落ちる。じゅ、と半分。

「土、2!」

 骨が土をかける。しゅう、と煙。

「枝、打つ!」

 テッサが枝で叩き、火は沈んだ。


「消えた!」とテッサ。

「火傷ゼロ。いい流れ」とセラ。

「この調子で200mまで。水はケチらない、休憩はこまめ」と俺。


 午後、風向は予報どおり西→東に振れ、勢いも上がった。糸鈴の鳴り方で距離が読めるのは正直ありがたい。

 ローヴェンが息を整えつつ、短く言う。「薪は捨て置く。命が先だ」

「同意。生産はいつでも戻せる。命は戻せない」


 夕刻。雲底が赤く染まり、遠くで雷の腹の音。嫌な色だ。

 全体を呼んで、短い会議。


「もし燃え広がったら——」とニナ。


「“三箇条”だ。今は、人命の即時危機はない。代替は“水と土と段取り”で成立してる。使った後に戻す見通しも、この段階じゃ弱い。だから、神パワーは“消火器”。まだ壁にかけておく」


「わかった。わしらは段取りで勝つ」とローヴェン。


「うん。夜は二人×30分交代。骨は林間5mで静止。糸鈴の多層が鳴ったら、合図どおり。寝るやつはちゃんと寝ろ。明日、来るかもしれないし、来ないかもしれない。どっちでも勝てる布陣にしておく」


 日が落ちる。糸鈴が、風にちり、と一度。

 窯の熱はまだ温かく、土は黒く湿っている。200mの黒い帯が、森とこちらを分けていた。

 俺は板に今日の数字を走らせる。

 防火帯:3m×200m完了。糸鈴ノード:東+4(合計16)。火の10ルール、全域導入。事故ゼロ継続:62日。


「どや立ち、禁止継続」と付け足したところで、ベンチの影で胸を張りかけた骨と目が合った。

「……見てるからな」


 骨は、ぎくっとした“自然体”に戻った。よし、その調子。


(つづく)


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