ヤハウェの顕現
4段目以降も博物館の景色は変わらない。後ろを振り返るとさっきまでの博物館が見えた。ただ、違いが1つあった。階段が長い。段数が分からないほど下に続いている。
オフィーリアとチェチーリアは階段を一歩ずつ下りる。
オフィーリアは堂々としたもので談笑しながらである。
チェチーリアは警戒している。実際に魔法は初級魔法しか使えなかったからだ。結界……もとい異空間は情報通りであった。
「長いな!楽しい♪」何が楽しいのか分からないが、オフィーリアの足取りは軽い。
「オフィーリア先輩……わたしたちは勝てるんすかね……。」魔法使いとしては初級魔法しか使えないのは小学生に戻った並みに心許ない。
「余裕だろ!私の力とお前の鎌で倒せる!」ずっっっと余裕のオフィーリア。ただこう付け足した。
「私たちが倒せなかったら世界の終わりかもな。」実に怖い話であった。
階段をどのくらい降りたのか…景色が変わらず、時間の感覚がおかしくなる。そして、ずっとポヨンポヨンと音が聞こえる。
スライムが近くを動いているのが分かるが見えない……
「スライムはどこに居るんすかね…何か嫌な感じがするっす……。」普段なら可愛いらしい音だが、今はただ不気味なだけだ。
「? 壁の向こうだろ。眷属は別ルートなんだろう。ダンジョンとかよくあるぞ!なんだっけな、効率がどうとかだったっけ?」いつも通りのオフィーリアのおかげでチェチーリアは少し冷静になれた。
「ふふ。ダンジョンの魔力運用と範囲についてっすね。範囲が大きいとダンジョンマスターの魔力を使いすぎるから、壁のすぐ隣にも道を作って魔力消費を最低限にするやつっすね。」
「そ!それだ!やっぱり、学年主席魔法使いは違うな!」素直に誉めるオフィーリア。何か今までと違った嬉しさを感じるチェチーリア。
ポヨンポヨンポヨン~♪
ポヨン♪
ポヨンポヨン~ポヨン~♪
「うん、これダンジョンだな!ヤハウェの神像はダンジョンマスターだ!」名推理?である。
「神のダンジョンは無いっすから、オフィーリア先輩の推理通りだったっすかね?」優しい後輩。
ポヨンポヨン~♪
ポヨンポヨンポヨンポヨン~♪
ポヨン♪
名推理?から5分。
「う~ん飽きた!壁壊そっと!」
「はぇ!ヤハウェの神像のルールを破るんすか!」
「?ヤハウェの神像のルールって何だ?」
「え!あれ!ルールって何っすか?」
変な会話であったが、オフィーリアは直感した。
「チェチーリアお前誤認させられてるぞ!」
「うぇ!いつ掛けられたんっすか?」
「入った時だろ!何かちょっかいあったぞ!」
言われて眉間にシワが寄る。こんな経験は今までに無かったからだ。
「この階段たぶん終わりが無いんだろ。ぐるぐるループするやつだな!」
オフィーリアは決めつけて魔法を放つ!
「エクスプロージョン!」
大爆発で壁が壊れる……先には青く輝く大きい空洞と大量のスライム。そして、高さ2m以上の赤黒い像があった。
「やっぱりな!ほらあったぞ!」
「うわぁ!本当だったっす!て言うか何でオフィーリア先輩は初級魔法以上が使えるんすか?」驚きと疑問がない交ぜになった感情で叫ぶチェチーリア。
スライムたちは素早く動いた。2人に向かって……ではなく、赤黒い像に向かって……
「あれがヤハウェの神像っすか?かなり気持ち悪い見た目っす……。」
ヤハウェの神像には腰?辺りの八方に大きな穴が1つずつ空いている。そこにスライムたちが入っていく。それ以外は凹凸もなくのっぺりとした人型に見える。
ヒュージスライムやマキシマムスライムも無理やり穴に入っていく。
ポヨン~ぐちゃ!じゅるすぽ!べちゃじゅる!ぎゅ~ずずぅ~ずぽ!……………
音が無くなった……
広間は静寂が支配し、不用意に動けない。いや、動いてはいけないとチェチーリアは思った。なぜかは分からないが……
スタリ!
「エクスウィンド!」
スパッ!ずちゃ!べちゃ!!
ヤハウェの神像は横から半分に切れた。切り口に僅かな傾斜があり上半分が滑り落ちる。
「……えっ?」チェチーリアは疑問に思った。自分はなぜ動かなかったのか。相手が動くのを待っていたのか。
簡単な事だ。動かない方が良いと誤認させられたのだ。
「頭がぐちゃぐちゃっす?頭が痛いっす……。」
「ははは!スライムみたいにか!面白いな!」笑顔のオフィーリアを見て、さらに頭がぐちゃぐちゃになる。
「でも、そろそろシャキッとしろ!相手が来るぞ!」言葉に反応して前を向くと、ヤハウェの神像の崩れた部分がくっつき元に戻る。
「オマエ ヘン オカシイ ジャマ コロス」
ヤハウェの神像がしゃべった。奇妙に甲高く、耳障りな音。
神像からは、無数の赤黒い触手が生えてくる。見ているだけで気持ち悪く、生臭い臭いも漂ってくる。
「何すかあれ……今までに見たこと無いっすあんなの……。」気持ち悪く臭い。最悪の気分になる。
「私は見たことある……あれはジーニースライムの繭だ!まだ不完全体だ!今の内に倒すぞ!」
ジーニースライムは災厄。小さい国は飲み込まれる。デモンスライムの上位種であり、魔神スライム。神になりかけのスライム。スライムの頂点。竜殺しのスライム。神を喰らう物。多数の異名があり、信仰の対象でもある。
ただ、一番知られる異名は「人喰い」。人を主食とする化け物である!
ジーニースライムの繭が光出す。
「シ ネ!」
放たれたのは火炎系超級魔法「メルトゼロ」。熱線が走り、通過した空間を2800℃まで熱す死の光線。
「ほう!やるな!私もメルトゼロだ!」
オフィーリアの前に魔方陣が現れ、熱線を放出する。
メルトゼロ同士はぶつかり、その後ジーニースライムの繭に殺到する。繭の周りは3000℃を超える温度になる。
「オマエ オカシイ!! ナン デ マホウ ツカエル!」高温にさらされながらもジーニースライムは奇声を挙げる。
「? 昔から使えるものなんだから簡単だろ!」
「ヤハウェ ノ セカイ マホウ ワスレル! オマエ オカシイ!!」
ジーニースライムの繭がまた光だし吹雪が吹き荒れる。氷冷系超級魔法「フェンリルフィールド」。さらに、作り出した氷を飛ばす氷冷系中級魔法「アイスソード」を100発以上連射する。
「ほい!」オフィーリアは右手を突き出しアイスソードにファイアーボールを当てていく。
全てのアイスソードを破壊し、反撃をするオフィーリア。
「今度はこっちの番だ!ライトニングボア」超大な雷撃はジーニースライムを飲み込む。
雷撃がおさまると黒焦げになったジーニースライムの繭が見えた。
「すごいっす……やっぱり、オフィーリア先輩は規格外っすね……。」魔法戦を制したオフィーリアを見てチェチーリアは改めて自分との隔絶した差を感じた。
「チッ!倒しきれなかったか!」オフィーリアは舌打ちをして悔しがる。
「え?」オフィーリアが何を言っているのか分からずチェチーリアは改めてジーニースライムの繭を見る。黒焦げになった繭には頭の部分が失くなっていた。
「倒したんじゃないんすか?頭がなくなってるっす……。」
「あれは、繭の出入口だ!羽化しやがった……。」
羽化はもちろん昆虫が成虫になる際に使う単語だ。スライムで繭を作るのは劇的な変体をするデモンスライム種のみである。
ジーニースライムが羽化した!




