石じじいの話・草とりをしてくれる子
石じじいの話です。
稲作では、現在、農薬を使って雑草をとります。
昔は、背負った機械で噴射して、白い粉の農薬を田んぼにまいていました。
作業をする人は防毒マスクをしています。
しかし、その白い粉は風にただよい、田んぼのなかの通学路を歩いて下校する私たちは、その臭いにむせかえっていました。
その臭いをかぐと、頭が痛くなったものです。
田んぼの近くの家では、室内まで臭っていました。
これじゃ、からだに、いいわけありません。
農薬を使わない時代には、田の中を四つん這いになって雑草をとっていました。
一番草から四番草くらいまで、米の収穫まで3-4回もとる、つらい仕事でした。
稲と稲との間に生えた雑草をとるのですが、大きな草は腰に吊ったかごにいれ、小さいものは泥の中にうずめます。
稲がのびる時期の草とりだと、葉先が目を突いたり頬をこすったりするので、頬かむりをして笠をかぶりました。
日除けになるし、つばで稲をおしわける役割がありました。ブヨなどの虫に刺されることも防げます。
ある地方では、若い娘は笠の紐が赤色、主婦は白、年寄女性は紺色と決まっていたそうです。
じじいは、小銭を稼ぐために、近傍の村の農作業を手伝っていました。
ある時、草とり作業をしていると、なにかが、同じ田んぼを這いずり回っているのに気がつきました。
野生動物かと思って作業をしていると、その「這いずっているもの」と鉢合わせしました。
それは、小さな男の子だったそうです。
その男の子は、びっくりしたような顔をして、這って逃げていきました。
村人に、あれは何か?と尋ねたところ、あれは、たまに来て草取りを手伝ってくれるのだ。
手伝ってくれるのは草取りだけで、その年によっては男の子だったり、老人だったりするが、いずれも見覚えのない人だ。
なにも害はない、と。
村では、それが出る出ないにも関わらず、作業の時に、田んぼの畦に握り飯などを供えておくのだということでした。




