石じじいの話・死体掘りビジネス(ロシア)
石じじいの話です。
知りあいのロシア人が語った話です。
これは、ロシアの話なのか、それとも、他の国のものなのか不明です。
内容からは、ロシアでも他のヨーロッパ諸国でもかまわないような話です。
墓地で、埋葬された死体を掘りおこすのを生業としている者がいました。
死体掘り人です。
副葬品を盗んで、それを骨董や貴族に売っていたのです。
死体から貴金属や靴、服をはぎとりました。
剣が副葬品にふくまれていることがあり、これはずいぶんカネになりました。
さらに、死体の骨や髪の毛、皮膚さえも奪いました。
骨は装飾品の材料、たとえばナイフの柄として使われました。
髪の毛は、かつらの材料になります。
皮膚は「本の装丁」に使用されたのです。*1
もっともカネになるのは、医学研究者の研究のための解剖用死体を手に入れることでした。
特に、若い男女の死体が喜ばれ、高い値段で買いとられたそうです。
フランケンシュタイン博士の話のようです。
医学研究の進展にともない、医学用の死体の需要はどんどん増加しました。
医者には、高貴な若い人の死体が特に喜ばれました。
死体が病変や加齢、重労働によって「劣化」していなかったからです。
それに、内臓も新鮮だったのです。
病死より事故死、溺死の死体のほうが喜ばれました。
決闘で死んだものや泥酔して凍死した人の死体も商品価値は高かったそうです。
犯罪者や行き倒れ、売春婦の死体は、簡単に手に入って、しかも盗んでも親族が騒がないので都合のよい商品でした。
養老院で死亡した老人の死体を手に入れる方法もありました。
入院者が死亡したら、その死者の親族であると嘘をついて、迅速に死体を引きとりに行くのです。
当時は電話が普及しておらず、親族への連絡に時間がかかるので、親族の機先を制することができました。
これは、養老院のスタッフのなかに、死体掘り人に内通している者がいた可能性もあります。
なかには、瀕死の人間を殺して、それを死体として高額で販売するものもいたそうです。
これはアウトです。
こんなこともありました:
ある男性の婚約者が、結核で死にました。
彼女の命はもう長くないというときに、その男性から死体掘り人に、彼女の死後、すぐに死体を掘り出してくれという依頼がありました。
かなりよいカネになったので、死体掘り人は、よろこんで引き受けました。
掘り出しの夜、依頼者の男性は墓の外で立派な馬車を用意して待っていました。
死体掘り人が彼女を掘り出してみると、当日埋葬されたものなので死体はフレッシュでした。
死後硬直はとけていましたが、当然ながら冷たくなっていて、瞳孔の対光反射も失われていました。
死体掘り人が、彼女を背負って墓場の門まで来た時、彼の背中で、彼女の死体がぐいっと動いたのです。
おどろいた死体掘り人の腕から力が抜けて、背負っていた死体がすべり落ちました。
そして、彼女は、地面から、すくっと立ち上がって、馬車の傍らに立っている男性(恋人)のもとに走っていきました。
二人は強く抱き合って、彼女と男性は馬車に乗って走り去りました。
去り際に、依頼者の男性は、さらに何枚かの金貨を死体掘り人に投げ与えてくれたそうです。
死体掘り人は、腰を抜かしたまま、走り去る彼らを見送りました。
彼女は、仮死状態だったのだろうか?
いや、それはないだろう。
彼女は、たしかに、死んでいた。
冷たかったし呼吸もしていなかった。
どんな反応もしめさず、死臭もしていた。
死体掘り人は、地面に散らばる金貨を拾い集めて、這うように墓場をあとにしたそうです。
*1 楳図かずおの漫画に、そんな話がありました。




