第四章 ‐12
12
目を覚ますと、アポロドロスはいなくなっていた。薄暗い部屋に独りきりだ。
むくりと起き上がる。薄い上掛けが体にかけられていた。除けると、手足をはじめ、包帯だらけだった。だるかったが、それほど痛みはしなかった。目だけがまだじりじりと熱を帯びていた。
しきりにまばたきしつつ、見まわす。壁際で、すでに蝋がひと欠片を残して燃え尽きていた。まだかすかにあの不思議な香りが残っていたが、今では体に塗られた軟膏のにおいのほうが強かった。
寝台の下には、母のマントとトゥニカがきちんと畳んで置かれていた。その上にはベルトと皮袋も載っていた。
ひとまずトゥニカだけをかぶった。ここ五日間の試練でぼろぼろになっていたが。それから寝台から下り、正面の扉へ向かった。
もちろん固く閉ざされていた。声を上げればだれかが答えてくれたかもしれないが、そうしなかった。扉の両脇には小ぶりなランプが吊るされて、この部屋の数少ない光源となっていた。下には食事が置かれていた。
ティベリウスは振り返った。そこには別の光源があった。寝台の上の壁に、明窓が横に細長く伸びていた。
食事の盆を持って、引き返した。どうせだめだろうと思いながら、盆を床に置き、寝台に上がって背伸びをした。窓枠にようやく指先が触れただけだった。
ため息とともに座り込んだ。ぼんやり外を見上げながら、その明るさを測ろうとした。夕暮れ時か、夜明け前か、どちらかのようだった。
少し肌寒かった。上掛けではなく母のマントを引っ張り出し、体をくるんだ。ベルトも締め、そこに結わえつけていた皮袋の紐を結び直そうとした。けれども手が止まった。思い直して皮袋を外し、両手のひらに載せた。二種の違う感触がした。
クィントゥスもデキムスも、それにアポロドロスもこれに気づいたはずだが、取り上げはしなかった。中身が武器になりそうもない、意味不明のがらくたに見えたからだろう。それでもティベリウスにとっては、このうえなく大切なものだった。
中身を取り出そうとして、やめた。枕の下に押し込み、その上から自分の頭を押しつけた。また震え出した胸をなだめるのに、しばらくかかった。
それでも、先だっての恐慌状態と比べれば、心はだいぶ静穏になっていた。寂しさも心細さも変わらずたまらないほどだったが、苛まれはしなかった。頭と胸の両方に、ぽっかり空洞ができたようだ。なにを考え、どんな気持ちを抱いても、その穴から無限の闇の中へ流れ落ちていく。これが壊れたあとか。
長いあいだ、自分が崩壊することを恐れていた。いったいどうなってしまうかわからなかったからだが、いざそれが起こり、終わってしまうと、決して辛い感覚ではなかった。奇妙にすっきりした心地がした。
寝返りをうち、もう一度明窓を見上げた。しばらくそうしていたら、少しずつそこが明るくなっていくことに気づいた。夜明けのようだ。
ぼんやりした頭で、これからどうなるのだろうと考えた。女王はマルケルスの偽者を殺さなかった。しかしそれは当面の話だ。わざわざ残虐な処刑を見せつけたくらいだから、憎んでいることは確かなのだ。この瞬間にも部屋に乗り込んできて、首を斬り落とすかもしれない。あるいはすでに食事に毒を盛って、明窓の向こうからでも、子どもが口にする時を今か今かと待ち構えているのかもしれない。
そうでなければ、予定どおりオクタヴィアヌスへ交渉を持ちかけるのだろうか。あれほどアントニウスに言われたのにもめげず。すでに夫婦の信頼関係にはひびが入っているように見えた。酒に身を任せ、現実に立ち向かわない夫の言葉になど、聞く耳を持たないだろうか。
そうなるとすれば、今後起こることは?
自分はどうすべきか? なにができるのか?
けれども、やはり思考は留まり続けることなく、また空洞に吸い込まれて消えていった。なにがどうなろうと、どうしようもないことに思われた。腫れたまぶたを閉じ、もう少しのあいだ目を休ませることにする。
扉が勢いよく開いた。
首をまわし、思わず細目になる。明窓は西を向いていたらしい。鋭いほどの日差しが入り込んできていた。起き上がり、苦労して目を凝らす。アポロドロスにしては細い人影が、扉口にたたずんでいた。
「呆れた。本当にお前が来たのかよ」
およそ五年ぶりに聞く、つっけんどんの声だった。たちまちティベリウスはまぶしさを忘れた。
「よお」
親しみの欠片も込めず、アンテュルスは挨拶した。
右横から打ち込まれた。木剣を縦にかざして防御したが、耐えきれなかった。飛ばされ、地面に沈む。
顔を上げると、アンテュルスが踏み込み、木剣を上段に構えるのが見えた。次の瞬間、ティベリウスが倒れていた場所に刃先が突き立てられる。もちろん丸められていたが、この勢いで当たれば激痛をまぬかれない。
アンテュルスは休まなかった。地面を転がってかろうじて体を起こしたばかりのティベリウスに突進してきた。
ティベリウスは息つく間もなかった。間一髪剣を持ち上げ、突き出される刃先を逸らす。そのまま相手の剣を押さえ込みながら、地面から膝を離す。
だがアンテュルスはそれを待っていたように、力ずくでティベリウスの剣を押しのけた。よろめいたところへ、猛烈な攻撃を次々打ち込む。剣を横に構え、ティベリウスは持ちこたえようとした。
「っ…」
しかし重心がゆらいだ状態では長くは持たない。ましてや相手は力で勝っていた。あっけなく飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「どうした?」
ぎらつく目で、アンテュルスは問いかけてきた。
「ぼくに勝ったら、オクタヴィアヌスのところへ帰してやると言ったのに、お前は帰りたくないみたいだな」
ティベリウスは奥歯を噛んだ。両手で柄を握り直すと、壁を蹴り、アンテュルスへ立ち向かう。
雷撃のような一振りで叩き伏せられた。
「馬鹿だ、お前は」
アンテュルスは吐き捨てた。
「マルケルスの身代わりになんかなりやがって! 勇者気取りが、ますます悪化してやがる」
その足元で、ティベリウスは土埃にむせていた。
どこかの広場へ連れ出されていた。木剣を渡され、勝負を強制された。たとえ勝利したとしても、ティベリウスはなにも期待していなかったが、そもそも無理難題だった。成長期を迎えて大人の体を手に入れつつある十五歳と、まだ子どもの体に留まっている十一歳の対決である。
「あの弱虫にそんな価値があるのか?」
アンテュルスは知りたがった。
「お前を敵に突き出して、めそめそしてるだけのあいつにさ」
ティベリウスは反論のつもりでうめいたが、頬を刃先でつつかれた。アンテュルスは冷淡に続けた。
「見たところずいぶんひどい目に遭ったみたいだが、これからもっとひどい目に遭わせてやるからな。恨むならマルケルスを恨めよ。マルケルスと、あの悪党オクタヴィアヌスを」
「アンテュルス……」
刃先を払い、ティベリウスはゆっくり体を起こした。すでにアポロドロスが施した手当てが無残になっていた。
「君が、ぼくを憎むのはわかる。父親の敵だから、カエサルを憎むのもしかたがないと思う。けれど、マルケルスを憎む理由なんてない。彼は君を傷つけることなんてなにもしてないはずだ」
「説教かよ」苛立たしげなため息。「つくづくお前ってやつは変わってないな」
「マルケルスは、今でも君を兄だと思ってる。君のことを、ずっと心配してる」
「嘘つけ」
鼻を鳴らす。
「あいつは俺が野垂れ死ねばいいと思ってるだろ。帰ってなんぞこられたら、また泣かされる毎日に逆戻りだからな」
「…怖がってはいる」
ティベリウスは認めた。
「けれど、無事を願っているのは本当だ。少しは気持ちをわかってあげてくれ! 彼はきっと、できることなら仲良くやり直したいって思ってるんだ」
「いい加減にしろ」
木剣の面が、ティベリウスの顔をぴしゃりと打った。
「胸糞悪い綺麗ごとだ。ぼくはそういう甘ったれた話が一番嫌いだ」
返す言葉もなかった。最後のは、マルケルスにかこつけたティベリウス自身の気持ちでもあったから。
唇を噛んで、ティベリウスは頬をぬぐった。手の甲の乱れた包帯に、血と土がこびりついた。顔を上げると、アンテュルスの険しい顔が見下ろしてきていた。ユルスにそっくりだった。顔立ちはもちろんのこと、表情までも。ただユルスのほうが悲痛の色が濃く、アンテュルスのほうは怒りに歪んでいるのだ。憎める相手がいるかいないかの違いか。
アンテュルスが再び剣を振りかざした。ティベリウスはあわてて構えた。直後、反り返るほど押され、背骨がきしむ。後退しながら、なんとか勢いを殺す。迫る木剣越しに、アンテュルスの憎しみたぎる眼光が貫いてくる。
その顔から、ふと険しさが引いた。
「…ぼくがお前を憎むのはわかるだって?」
ティベリウスは足を踏ん張っていた。しぼり出すように言った。
「ぼくは…君にひどいことをした」
「ああ。いい子ぶって、あいつの味方をして、吐き気をもよおさせたっけな」
「そうじゃない」
歯を食いしばる音が漏れた。
「ぼくは、君を忘れてしまった…」
アンテュルスの目が見開かれる。うつむきたい衝動をこらえながら、ティベリウスは続けた。
「君が、ぼくにとても良くしてくれたと聞いた…。ペルージアやギリシアで、弟同然に面倒を見てくれたと聞いた…」
「…思い出したのか?」
問われて、大きく首を振る。
「なん人かから教えられた。君がぼくを守ってくれた。君がいなければ、ぼくはあの暮らしに耐えられなかったって…」
「ああ、そうだよ」
アンテュルスはぐいと顔を近づけてきた。
「ぼくはお前が大事だった。ユルスと同じ、実の弟だと思ってた。お前は寂しがり屋で、怖がりで、毎日わぁわぁ泣いてた。火矢の雨を見て、餓死していく奴隷たちのうめき声を聞いて。でも、ぼくが抱いてやるとすぐに泣き止んだ。『にーにー』って呼んで、うるんだ目のまま甘えてきたんだ。お前が初めて歩いたときも、手をつないでやっていたのはぼくだった。とっても…可愛かった……」
声が切なげに歪んだのは一瞬だった。それでもティベリウスは肺をわしづかみにされたような感覚を覚えた。アンテュルスの目はたちまちまた恨みをほとばしらせた。
「それなのにお前ときたら、あれもこれもきれいさっぱり忘れ、こともあろうにマルケルスの友だちになりやがって! あいつはオクタヴィアヌスの甥なのに。ぼくたちの母上を死なせ、お前たち一家を皆殺しにしようとした男の家族なのに!」
重い蹴りが、ティベリウスの腹に打ち込まれた。地面に倒れたあとも何度も浴びせられた。
「この裏切り者! 恩知らず! ブルートゥス!」
乱蹴と罵声は、アンテュルスが疲れ果てるまで続いた。ティベリウスはうずくまったまま動かなかった。一歳の自分を呪っていた。もしも思い出せるのなら、いくら蹴られてもかまわないと思った。
しかし、今となってはすべてが出遅れだ。
やがて衝撃は止み、肩で息する音しか聞こえなくなった。のろのろと、ティベリウスは汚れた顔を上げた。
「どうして……」
ずっと抱いていた疑問を口にする。
「どうして、もっと早く教えてくれなかったんだ、君から…? 時間はいっぱいあったはずなのに――」
「行った!」
両腕を振り開き、アンテュルスはわめいた。
「ぼくは迎えに行った! お前を! 帰国したって聞いて、すぐに! お前を抱きしめて、離さないつもりだった! それなのにお前は…もうオクタヴィアヌスの腕に抱かれて笑ってたんだ……」
ティベリウスは茫然となった。
「この裏切り者! 大馬鹿野郎!」
今度は木剣の面で打ちつけてきた。
「あっさり懐きやがって! お前なんかこんな目に遭って当然なんだ! 自業自得だ!」
ティベリウスはまた顔を伏せた。降りしきる打撃のなかで、その当時の自分を想像していた。少しだけ、覚えている気がした。けれどもありありとまぶたに浮かべることができるのは、打ちひしがれた六歳の少年ではなく、優しく微笑む未来の継父だった。
ティベリウスはぎゅっと目を閉じた。
「馬鹿野郎! 間抜け野郎!」アンテュルスはなおも打ち止めず、感情をぶつけ続けた。「いい加減に気づけよ、マルケルスの乳母! だまされやがって! 体よく利用されて、身代わりにまで成り下がりやがって! このオクタヴィアヌスの犬が!」
ティベリウスは目を開いた。木剣をかざし、アンテュルスの一振りを止める。
突然の動きに、アンテュルスは目を見張った。彼の木剣はぴくりとも動かなくなっていた。その角度を保ったまま、ティベリウスはすっくと立ち上がる。
アンテュルスの顔が憤怒に赤らんだ。それでもとにかく力でねじ伏せようと、両腕を震わせる。そのとき、ティベリウスはさっと剣を翻した。
「!――」
アンテュルスが振り向くと、そこに刃先があった。木目の刃先と柄。その先に左腕と、碧眼と、背筋を伸ばした体。
ティベリウスはすぐに下げた。
「アンテュルス…」
重苦しい声だったが、きっぱりと話した。
「君を傷つけたことは、いくら詫びても足りない。けれど、それとマルケルスと友だちであることとは別問題だ。あのときからぼくは、自分が間違ったことをしたとは思っていない」
あのときとはいつか、すぐに思い至ったのだろう。アンテュルスはかっと目を剥いた。凄まじい形相で木剣を払い、ティベリウスの顔に拳を打ち込んだ。
ふっ飛び、ティベリウスは地面で跳ね上がる。木剣が手を離れ、壁際へ滑っていく。
「もういい」
朦朧とする意識の中で、アンテュルスが息も絶え絶えに吐き捨てるのを聞いた。
「馬鹿は死ななきゃ直らないんだ。だから一度殺してやる。おい、鞭を持て!」
ティベリウスはぎょっとした。覚醒し、起き上がろうとしたが、そうするまでもなく両腕をつかまれて引き上げられた。
「なにもかも後悔させてやる」
青白い顔で宣言し、アンテュルスは奴隷から鞭を受け取った。ティベリウスはもう二人の奴隷に押さえつけられていた。
「せいぜい大声で叫べよ。そうすればようやくわかるだろうからな。お前がどんなに泣きわめこうと、オクタヴィアヌスは助けに来ないんだって」
ティベリウスの双眸がぐらりとゆれた。アンテュルスは奴隷二人に顎をしゃくった。
「服を脱がせろ」
「アンテュルスっ…!」
「そこまで!」
ふいに、別の声が割り込んできた。アンテュルスとティベリウスが同時に首を向けると、金髪の少年が、悠然と微笑んで歩いてきた。ティベリウスはぽかんとなった。女王の息子の、カエサリオンだ。
彼は穏やかに言った。
「アンテュルス、その子はぼくの友だちだぞ。理不尽な暴力はやめてもらおうか」
滑らかなラテン語だった。アンテュルスは眉をしかめた。
「こいつが友だちだって?」
「そうとも」
カエサリオンはティベリウスへにっこり笑いかけた。
「母上がぼくのために招いてくださったんだ。ぼくも、彼が気に入った」
「こいつはローマ人だぞ。それもオクタヴィアヌスの――」
「継子なんだろ?」カエサリオンは先を継いだ。「血はつながっていない。それにローマ人ってことなら、お前だってそうだ」
「こいつに人質の価値はないぞ。お前をオクタヴィアヌスから守れやしない、役立たずだ」
「それでも、彼はぼくのものだ」
カエサリオンは満足そうに告げた。
「すでに母上から許可をいただいている。ぼくが丁重にもてなしていいってね。だから早く放してやってくれないか? ぼくは新しい友だちと仲良くなりたくてうずうずしてるんだ」
「お気楽な奴」アンテュルスは不快の色を隠さなかった。「なんでぼくがお前に従わなきゃならない?」
あくまで鷹揚に、カエサリオンは腕を広げてみせた。
「兄上の言うことが聞けないのか?」
「だれが兄上だよ?」
「アントニウス殿だって言ってたじゃないか。ぼくを兄と思うようにって」
「父上はお酒に酔っておられたんだ」
アンテュルスは憎らしげにうめいた。カエサリオンは微笑んで首を振った。
「じゃあ、こう言おう。神君カエサルの息子で、アレクサンドロス大王の子孫である、王の中の王の言うことが聞けないのか?」
アンテュルスは木剣を地面に叩きつけた。そのままティベリウスに一瞥もくれず、地面を激しく踏み鳴らしながら去っていった。後からあわてた様子で、三人の奴隷が続いていった。
「反抗したい年頃なんだから…」
彼らの背中を見送り、カエサリオンはやれやれとばかりに肩を上下させた。それからティベリウスに近寄り、手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
ティベリウスはその手をにらんだ。それから顔をねめ上げ、少しよろめきながらゆっくりと立ち上がった。カエサリオンは笑みを大きくした。
「誇り高いな」
ティベリウスは一連のカエサリオンの言動を測りかねているところだった。けれども彼の笑顔には一見してなんの邪気も窺えない。とてもうれしそうに眺めてくるのだ。
「ティベリウス・ネロ」彼は名前を呼んだ。「ぼくがだれだかわかるな?」
「プトレマイオス十五世」
先程大々的に知らせていた内容には触れず、つぶやく。
「カエサリオンと呼んでくれ」
彼はにこやかに求めた。
「今日からお前はぼくの友だちだ。さっそく王宮の中を案内してやりたいんだけど――」
つくづくとティベリウスを上から下まで見て、首を振った。
「まずは身なりだな。ひどい状態だぞ。ぼくの友だちらしく、きれいになってもらわないと」
大きな長方形の池が、青空を映していた。カエサリオンはこれを『大王のマント』と呼んだ。言うとおり、長方形の短い一辺には、アレクサンドロス大王の石像が立っていた。馬上から、ちょうどこれからアレクサンドリア造りに取りかかろうとしているように、池を眺めている。ティベリウスはそれと平行するもう一辺に立っていた。
カエサリオンはすでに服を脱ぎ捨てていた。
「王族専用のお風呂なんだ。びっくりするぞ」
そう言いながら、体に香油を塗りたくった。ティベリウスは困惑して立ちつくしていた。ぼんやりと、長方形の長い辺に据えられた石像を眺めてみた。向かって右手には、イシスらしき女神の像。しかし躍動的な体の線と波打つ衣服のひだがギリシア的だ。ヴェヌスなのだろうか。左手には男神の像。堂々たる体躯で、ユピテルのようにもディオニッソスのようにも見える。ただ一糸乱れぬ巻き毛と、左右対称の容貌が、最高神の威厳や豪胆とは違った雰囲気を醸し出している。人の世から超越しすぎたように、端整だ。
女神と男神のあいだで、青空がはじけた。カエサリオンが飛び込んだのだ。水面を乱したのはその一瞬のみで、あとは人魚トリトンさながら、音もなくすいすいと進む。大王の足元へ着くまで息継ぎもしなかった。
「早く来いよ!」
水面から顔を出すと、彼はティベリウスへ手を振った。
ティベリウスは迷った。触れてみると、水はほんのりあたたかかった。湯気が立つほどではないが、どこかからお湯を引いているのかもしれない。
無防備な姿をさらしたくはなかった。けれどもおととい体を拭いたとはいえ、もう五日も入浴していない。そのうえ先程さんざん土にまみれた。下働きの奴隷よりひどい有り様だろう。
おもむろに衣服を脱いだ。包帯も捨てた。それからカエサリオンが使っていた香油の壺を取り、手のひらに流してみる。すると一瞬たじろくほどの芳しい香りが広がった。ベルガモットと蜂蜜か。塗ると、我が体ながら思わずかぶりつきたくなる衝動に駆られた。
池の中ほどで、カエサリオンがじれったそうに首を伸ばしていた。それには目もくれず、ブッラだけを身に着け、水面に足先を入れる。階段を下り、青空色のマントへ沈んでいく。腰まで浸かると、一気に頭までもぐり込み、またすぐに浮上した。髪をかき上げ、ほっと吐息を漏らす。じっとりとした重苦しい穢れから解放されていくように感じた。
カエサリオンが寄ってきた。ティベリウスを軸に弧を描くように泳ぎ、焼きつけるような視線を送ってくる。それを一切無視しながら、ティベリウスは体を洗うことに専念した。カエサリオンはめげる様子もなく、しだいに弧を狭めてくる。
「ローマ人は風呂好きなんだよな?」
ついにそばに来て、話しかけてきた。
「ぼくも小さい頃ローマにいた。母上のお話によると、夕方、そこらじゅうから煙が立ちのぼる街並みを見て、ぼくは泣き出したらしい。火事だと思ったんだろうな、きっと、風呂を焚いてたのを。けれども父上がすぐになぐさめてくれた。『多くのローマ人が、お前と母とこの私のような幸福を味わっている証拠だよ』って」
ティベリウスは一瞬だけ目線をやり、それからまた体に戻した。
「二歳だったからあんまり覚えてないんだけど」カエサリオンは楽しそうに続けた。「イラスとカルミオンによると、ローマは人がぎゅうぎゅう詰めで、埃っぽくて、そのうえ道が狭くてわかりにくかったって。昼は庶民の品のない怒声と、夜は疾走する荷馬車の音で、一日中うるさかったって。もちろん母上の別荘の辺りは静かだったけど、それでもときどき川の向こう岸から騒ぎ声と嫌な臭いが届いてきたって。本当か?」
「悪いか」
ティベリウスはそっけなく言った。事実だが、人が多いのはローマが世界の中心として発展している証拠だし、そもそもアレクサンドリアとは事情が違った。アレクサンドリアはアレクサンドロス大王がきちんと区画整備して建設した都市だが、ローマは七つの丘の上に少しずつ拡大していった都市だ。その末に今や市壁さえもなくなり、なおも衰え知らずだ。最近は、オクタヴィアヌスとその右腕と左腕が力を注いだので、衛生状態も向上した。
「たまに死体も流れ着いたらしいぞ。街に活気はあったけど、アレクサンドリアのように教養と気品を備えた市民は少なくて、野蛮人みたいだったって。それでぼくの母上が、洗練された文化をもたらしたんだって」
カエサリオンは歌うように語った。
「ぼくたち家族の暮らしは、ローマ人の話題の的だった。ローマの婦人はこぞって母上の真似をした。服装も、髪形も、装飾品も、母上のおかげでずっと垢抜けた。イシス神を祭る祠がいくつもできて、老若男女みんながお参りした。父上も、アレクサンドリアを見習って、ローマの街並みを生まれ変わらせようと、尽力された。たくさんの建物を造って、直して、美しくした。とくに図書館は、アレクサンドリアにあったのをそのまま真似たんだ。父上と母上は、二人で手を取り合って、ローマをアレクサンドリアのようなすばらしい王都にしようとした。ふさわしくしなければならなかったからな。世界を統べるぼくたち家族が暮らす場所として――」
「なんでそうなるんだ?」
思わず声を大にして割り込んでいた。いったいいつ、ローマがカエサル=クレオパトラ一家の王宮殿として再建設が進められたというのか。
「そうだろ?」
けれどもカエサリオンは、いかにも無邪気に長いまつげを動かすばかりだった。
「父上は世界の王になろうとしてた。間違いないよな? そしてその妃にふさわしい人は、母上をおいてほかにいなかった。そうだろ?」
「いや、それは――」
そこで左腕を強く引かれ、階段から足が離れた。悲鳴は水に呑まれた。足がつかなくなっていた。
小さなローマ人の恐慌にかまうことなく、カエサリオンはそのまま大風呂の奥へ泳ぎ出した。
ティベリウスは泳ぎに自信がなかった。以前継父に教わったきりだ。まして足のつかない水の中など未知の世界だった。結局、カエサリオンの肩にしがみつくしかなかった。
「ほら、下を見てみろ」
大風呂の中央まで来ると、カエサリオンが顎先で水面を示した。その肩に指を食い込ませながら、ティベリウスは怪訝な目を下に向けた。そして息を呑んだ。青空の反射で気づかなかったが、大風呂の底にはモザイク画が描かれていた。
「なんだかわかるか?」
これが『大王のマント』と呼ばれる理由だった。色とりどりの石で作られたアレクサンドリアの地図が、足下に広がっていた。
「お前はきっとあそこから入ってきたよな」
爪を黒く塗った足指で、カエサリオンは階段の下を指した。
「カノポス門だ。この辺りにはユダヤ人居住区がある。ともすればギリシア人と喧嘩して、困った連中なんだけどな。それからお前はこのまっすぐな大通りを通り、体育場の角を右に曲がって、この王宮に到着したわけだ」
立ち泳ぎしながら、カエサリオンはモザイクの道をたどっていく。
「わかりやすいだろ? この辺りはプルケイオン地区といって、アレクサンドリアの中でも最も美しいんだ。あの見事な列柱廊の数々を見ただろ? 通りを挟んで北側は、ほとんどが我が王宮の敷地だ。体育場までは出入り自由だけどね。それから、体育場の北が世界一の研究所ムセイオン。通りを挟んで向かい側には、動物園と植物園があるぞ。あとで連れていってやるからな。それから大通りの南側がコム・エル・ディッカ地区。アレクサンドリア市民やギリシア人が住むところで――」
カエサリオンはいそいそとモザイク地図上を西へ動いていった。ティベリウスは離されないように必死だった。
「ほらほらっ、あそこが我らが始祖アレクサンドロス大王の柩を収めたところだぞ。プトレマイオス一世をはじめ、歴代の王も眠ってるんだ。ミイラの状態でな。それから港のそばには、かつて世界一の図書館があった。残念なことに無くなっちゃったけどな。母上とアントニウス殿が今、一生懸命復興させようとしているところだよ。そしてそしてっ、我が父上を記念して建てたカエサル神殿がここだ、ここ!」
正確な場所を知らせるため、カエサリオンは水中に潜って、足指でモザイクをつついた。必然的に、ティベリウスも水をかぶる羽目になった。位置を見るどころではなかった。
「あとで案内してやるからな」
ティベリウスの不平に満ち満ちた顔を気にも留めず、カエサリオンは太陽のような笑顔を向けてきた。それからまた西向きに泳ぎはじめる。階段から離れるにつれ、水が冷たくなっていった。
「この辺はラコティス地区だ。エジプトの民が暮らしてる。薔薇色の石で飾られたあそこを見てくれ。ここへ来るときに、立派なオベリスクが見えなかったか? それなんだよ。我が王家が誇る、セラピス神殿だ」
そこで目線を上げ、男神の像を指し示す。
「これがセラピス神だ」
ティベリウスはぽかんとした顔を、そのユピテルのような、ディオニッソスのような石像に向けた。神殿がエジプト人居住区にあると言っていたが、どう見てもギリシア系の神だった。
「セラピスはアレクサンドリアの象徴だ」
カエサリオンは誇らしげに目を輝かせた。
「プトレマイオス王家の守り神なんだ。あとで一緒にお参りに行こう」
まるですでにティベリウスを王宮の一員にしたかのような口調だった。ついていけないティベリウスを尻目に、カエサリオンはまた泳ぎ出した。
「カノポス門からまっすぐ来て、このセレニアケ門が大通りの果てだ。外は怖い怖いネクロポリスだぞ。ミイラ製作所もある。ギリシア人はあんまり作りたがらないんだけどな。ところで、ミイラがどうやって作られるか知ってるか? まず死体をきれいに洗って、鼻の穴から脳髄を――」
「…もう、わかったから戻れ」
ティベリウスは低い声で言った。カエサリオンは、背中に乗る顔をようやく注意深げに見つめた。そして結局吹き出した。
「ティベリウスは怖がりだな。可愛いな」
この男の頭の中はどうなっているのだろう。ティベリウスが先程から最も当惑しているのはそれだ。彼は世界一命が危ぶまれている少年には到底見えなかった。今や彼の母親とアントニウスは戦争に負け、王家は風前の灯火なのに。神君カエサルの息子は二人存在してはいけないという理由で、オクタヴィアヌスに殺されそうなのに。その恐怖の手は、もうすぐそこまで迫っているというのに。
カエサリオンは自信満々だった。偉大な祖先の血脈がそうさせるのか、なんの疑問もなく自己を肯定して、ゆるぎないように見えた。輝きあふれる顔には少しの屈託もない。困難に向かってなお快活さを失わないのならば、伝えられるところの父親に似たのかもしれない。けれども、それにしても明るすぎだ。王族として周囲に気落ちした姿を見せまいと、あえて元気に振る舞っているのか。いや、それにしては苦労知らずの無邪気さを隠そうともしていない。
まさか母クレオパトラは、息子に直面している事態を教えていないのだろうか。もちろん、昨日はオクタヴィアヌスを憎む発言をしていたから、まったく知らされていないわけではないのだろうが、事の深刻さをよく認識していないのではないか。
最終手段であるマルケルスの誘拐は失敗したのだ。彼はこんなところで沐浴している場合ではなかった。
しかし敵国の他人が当惑の只中にいるというのに、張本人は相変わらずのんびりしていた。ゆっくりと階段へ引き返しながら、ティベリウスに大風呂の壁面に注目するよう言った。そこにはモザイクの都市を囲んでなにやら熱心に話し合っている男たちがいた。アレクサンドリアの建設に携わった建築家や将軍たちのレリーフだという。
「ローマにはこんな粋な風呂はないだろ?」
肩越しに、カエサリオンは気取らない笑顔を向けてきた。
「でもまだまだこんなもんじゃないぞ。これからお前に、我がエジプトのすばらしさをたっぷり教えてやるからな」
階段を上がった先には、見目麗しい侍女たちが待ち構えていた。卓上には、香ばしいパンと数多くの果物が並んでいた。カエサリオンはなんのためらいもなく水から上がった。大理石の床をひたひた濡らしながら進み、さっそくネクタリンにかぶりついた。ティベリウスは侍女が差し出す布ですぐに体をくるんだ。そこで遅ればせながら、とんでもないことに気づいた。
「ぼくの服は?」大声を上げた。「ぼくの服をどこへ隠した!」
「うん?」
ネクタリンをくわえたまま、カエサリオンはきょとんとした顔で振り返った。それからまわりの侍女たちを見渡した。
「うんっと…もうどっかへ捨てたんだろ? 汚れて、ひどい状態だったし」
「返せ!」ティベリウスはわめき、飛び跳ねた。「ぼくの服だ! 返せよ! 早く!」
「冗談だろ? あんなぼろいのを着てたら奴隷に見られるぞ。それよりもほら、もっと素敵なやつを用意したから」
「いらない!」
ティベリウスはカエサリオンに突進した。首につかみかかると、侍女たちが悲鳴を上げて取り押さえにかかった。しかしティベリウスは激しく腕を振るって抵抗した。
「返せ! 返せ! 返せ!」
ついに列柱廊の下から、屈強な衛兵たちが飛び出してくる。
「待て!」
カエサリオンが急ぎ手をかざし、彼らを制止した。そして必死の形相で胸を叩いてくるティベリウスに、不思議でたまらないという目を向けてきた。
「どうしてあんな汚い服にこだわるんだ? 清潔な新しい服を着たくないのか?」
「黙れ」
その無邪気な顔が、憎くてたまらなかった。
「…母上が…織ってくれたんだ……。誕生日に…新しく……ぼくの好きな、青色の糸で……」
あらがいようもなく声が歪んでいった。跡形もなく静まったと思っていた昨日の発作が、たちまち蘇ってきた。また崩壊がはじまろうとしていた。こんなやつの前で醜態をさらしたくないと思った。けれどもあまりに無情だった。母にはもう一年近く会っていない。そしてもう二度と会えないかもしれない。それでもあの手織りのマントにくるまるだけで、いつだって一緒にいる気がした。異国に独りきり連れられてきた今、遥かなる母とつながっていられる唯一の物だった。それを汚れたからといって捨てるなど、奪い去るなど、だれにも許した覚えはない。
床をにらみ、歯を食いしばり、ティベリウスは地の底から響くようなうめき声を上げた。なにも守れないこの肉体も魂も、跡形もなく滅んでしまえばいいと思った。
「わかったよ」
カエサリオンの手が、ぽんと肩に置かれた。
「それならそうと早く言ってくれればいいのに。トゥニカのほうは擦り切れていてもうだめだろうけれど、マントのほうは洗ってから返してやるよ。なっ?」
カエサリオンは侍女たちを見まわし、自分でうなずいた。
「だからそんな悲しい顔するな。お前はぼくの友だちなんだから、悪いようにするはずがないじゃないか。心配しなくていいから、ほら、そこの新しい服を着てみろよ。それから一緒に、おいしい朝食を食べよう」
ティベリウスは力なく腕を下ろした。実のところ、すでに着られたものでないことはよくわかっていた。過酷な五日間を着たきりだった。洗濯はむしろ必要だった。それでも相手の情けにすがらなければいけないことが、悔しくてならない。それにカエサリオンを信用したわけではない。口では返すと言っているが、今にもけろっと忘れてしまいそうだ。
それでもいつまでも裸でいるわけにもいかない。しかたなく、侍女が恐る恐る持ってきたトゥニカに袖を通した。そして思わず目をしばたたき、首から下をしげしげと見る。未だかつて感じたことのない滑らかな着心地がした。ひょっとしてこれが東方の神秘、絹だろうか。銅糸の刺繍の下で、緑の生地が艶めいている。
「ナイルの色だ。綺麗だろ?」カエサリオンは自慢げに言った。「ぼくのおさがりなんだ。一回ぐらいしか着ていない。ヘリオスがもう少し大きくなったらあげるつもりだったんだ」
ヘリオスとは、彼の異父兄弟で、アントニウスと女王のあいだに生まれた双子の一方である。
ティベリウスはこのほかに下着とベルトとサンダルを身に着けた。どれも上等なギリシア文化の産物だったが、強引にローマ市民からアレクサンドリア王宮の者にされたような屈辱感を覚えた。罠にはめられた気がして、むかむかしながらカエサリオンを見ると、侍女三人にかしずかれながら身なりを整えているところだった。彼は金糸の薔薇が刺繍された象牙色のトゥニカを纏っていた。
「ここにお座り、ティベリウス」
彼は隣の椅子を叩いた。
「少し遅くなったから、おなかが空いているだろう。好きなだけ朝食をお食べ」
少し遅いもなにも、昨日の朝からなにも食べていなかった。腹立ちまぎれに、遠慮なくがつがついった。パンに、果物に、魚に、チーズ。どれも美味だったが、心なだめられてはやらなかった。しかしそんな胸中にカエサリオンは気づく様子もなく、なぜだかうれしそうに目を細めていた。
「ティベリウスはよく食べるな。今は小さいけれど、将来はきっと大男に育つな」
ティベリウスは名も知らぬ魚に噛みつき、骨を砕いた。
「ティベリウスの母上はどんな人だ? 美人か?」
訊いてきたが、カエサリオンは答えを待たずに続けた。
「まぁ、ぼくの母上にはかなわないだろうけどな」
あの厚化粧女になど負けるものか!
胸中大声で怒鳴ったが、口には出さなかった。母の石像があれば、この食卓のど真ん中に据えつけてやりたかった。ローマには母リヴィアとテレンティアの美貌を比べて論じ合う者がいるが、ティベリウスに言わせれば勝負にもならなかった。それに、女の美徳とは外見だけではない。
「慎み深くて、品のある、責任感の強い人だ」
可能なかぎり皮肉を込めたつもりだったが、カエサリオンには通じなかった。
「優しい人か?」
問われて、一瞬言葉に詰まってしまった。
「…甘やかさない人だ」
「ふうん」
母は優しくないわけではなかった。実際、家族が苦しんでいるときは、いつもかいがいしく世話を焼いてくれた。去年、ティベリウスがアクティウムで襲撃を受けたときもそうだった。ただ人前では馴れ馴れしくしないというだけだ。そして貴族の家の女主人とは、人前にいる時がほとんどだった。
リヴィアは非の打ちどころのない妻であり、母だった。けれどもときどきティベリウスは、マルケルスがうらやましく感じることがあった。彼の母オクタヴィアは、人前でも子どもたちへの愛情を隠さなかった。髪を乱したり服を汚したりしながら、いつも彼らを追いかけて忙しくしていた。
ティベリウスは今、そんな感情を抱いたことを後悔していた。
母は今ごろどうしているだろう。息子の身の上に起こった災厄のことはまだ知らないだろうが、知ったらどう思うだろう。アントニウスが推測したように、いくらか誇りに思ってくれるだろうか。それとも、事情はどうあれ捕虜になる不名誉を受けた息子を恥じるだろうか。どの道、このまま心配と迷惑をかけることになるのなら、会わせる顔などないと思った。
母にはドルーススがいるのだ。どういうわけか、母はドルーススといるときにはオクタヴィアと同じように見えた。普段は見せない大きな笑顔や怒り顔で追いかけまわすのだ。継父オクタヴィアヌスだってそうだ。ということは、これは母ではなくて、ティベリウスのほうに原因があるのではないか。
ぼくはそういう子どもなんだ。べつに可愛くもないし、いなくても困らないんだろう。
……なにを考えているんだ、ぼくは。
「そんな顔するな」
カエサリオンが突然言ってきた。
「母上を思い出して辛いんだろうが、そんな顔じゃあ幸運の女神だって逃げていくぞ。さぁ、これでも食べて、元気を出せ」
カエサリオンは果汁あふれる桃を差し出した。思い出させたのはだれだと思いながら、ティベリウスはかぶりついた。新しい服にしぶきが散った。
食事のあと、アポロドロスの助手役を務めた侍女が現れ、手当てをやり直した。また痣が増えた体に軟膏を塗りながら、彼女は伏し目がちになっていた。ときおりティベリウスの顔を見上げては、唇を波打たせた。うるんだ目を逸らし、小さく鼻をすすった。
そんな顔するなと、ティベリウスは思った。母以外の女に、そんな顔などされたくなかった。
思い込みが激しい性格のようだが、ともかくカエサリオンは良い案内人だった。地図で概観をつかませたあと、すぐに実物を見せてくれたのである。ロキアス岬の端に立ち、ティベリウスはうっとり魅入った。
カエサリオンが誇るのももっともだ。海を抱くアレクサンドリアの街並みは絶景だった。みすぼらしい建物など一つもなく、真珠を散りばめたような海岸線が弧を描いていた。
港湾内にはいくつもの小島が見えた。その中で一番大きいものを、カエサリオンはアンティロドスと呼んだ。ロードス島に匹敵するという意味の、宝石箱のような島だったが、ティベリウスはつい眉をしかめた。その向こうに、本土と非常に細い道でつながっている小島があった。カエサリオンは笑いながら、あれは『ティモンの家』だと教えた。アントニウスがつい最近まで引きこもっていた場所だ。
「男は打たれ弱いよなぁ」
カエサリオンはにこにこしてつぶやいた。
「こういうときは、母上みたいに女のほうがたくましさを発揮するんだなぁ。頭が上がらないや」
ティベリウスはカエサリオンの横顔をつくづくと見たが、なにも言わなかった。
港口付近では、小島たちにぶつからないよう、出入りする船は細心の注意を払わねばならないらしい。けれどもいったん港内の奥にたどり着けば、大型船でも投錨することができる。カエサリオンはその港を『大港』と呼んだ。
「立派な船庫もある。世界一美しい船がいっぱい収まってる。それからあのまっすぐに伸びた堤防が見えるだろ? ヘプタスタディオンだよ」
その堤防は、本土とファロス島を一直線に結んでいた。ちょうど七スタディオン(約一二四〇メートル)の長さだという堂々たる石橋であるが、下をくぐれば船の出入りも可能になっていた。カエサリオンによれば、その向こう側にも港があるという。
「ぼくの父上の本を読んだことがあるか? あの辺りで父上は絶体絶命の戦いを繰り広げたんだよ。圧倒的劣勢のなか、燃えさかる船から船へ飛び移り、獅子奮迅の大活躍をした。愛しい母上を守るために」
『内乱記』最後の描写だ。ティベリウスは唇を波打たせたが、やはり口をつぐんでいた。
「当時は街にまで火が押し寄せて大変だったらしいけどな。今はもう戦の名残もないよ。でもなにより残念だったのは、世界一の図書館が焼けてしまったことだな。この世のありとあらゆる書物の原本が収められていたんだ。学者たちはそのすべてをギリシア語に翻訳しようとがんばっていた。はるばるインドや、そのさらに向こうにある国から来たのもあったらしい。蔵書数はなんと七十万。母上もあそこの本を読んで、たぐいまれな教養を身につけられた。だから焼失したと聞いたときは、衝撃でお倒れになったらしい」
女王だけでなく、アレクサンドリア図書館の悲劇は、学問を志す世界じゅうの人間を失意のどん底に沈めた。ユバもその一人で、つい今春のことだが、ティベリウスとマルケルスの前で切々と七十万冊の死を悼んでいた。オクタヴィアヌスのきつい視線を感じなければ、いつまでも声高に嘆いていただろう。
オクタヴィアヌスはこの件をなるべくそっとしておきたいようだった。不可抗力とはいえ、先代カエサルが起こした取り返しのつかない一大事だからである。
「父上も相当がっかりなさったのだろうな。そのあとローマに初めての公共図書館を造らせたくらいだから。けれども今は母上がとても熱心に復興にあたっておられるよ。アントニウス殿も協力して、新たに三十万冊を送ってくれた」
アントニウスはローマからの償いのつもりか、それともいつもと同じ個人的な贈り物のつもりか。いずれにせよ、その三十万冊はアジアのペルガモン図書館からごっそり持ち出したものらしい。アントニウスと女王に寄せられた数多くの苦情の一つとして、ティベリウスも耳にしていた。もっとも、昔からアレクサンドリア図書館は、強制的な蔵書収集で有名だった。持ち主は原本を取り上げられ、写本を返されるのだ。
「それにな」カエサリオンは秘密めかしてささやいてきた。「実は写本だけなら、セラピス神殿の付属図書館にいっぱい収まってるんだ。こっちのほうは学者だけでなく、市民にも公開されてるんだ。素敵だろう?」
そのとおりだった。ティベリウスの脳裏には狂気乱舞するユバの姿がありありと浮かんだ。ティベリウスも喜んでそのセラピス神殿とやらに一緒に籠りたいと思う。もしももう一度会えるのなら。
「図書館は無くなってしまったけど、代わりに今は父上に捧げる神殿が建設中だ。完成したら、三十万冊の蔵書もそこに収めるかもしれない」
大風呂で誇らしげに話していたカエサル神殿が、未だ完成していないとは意外だった。神君カエサルが亡くなって、もう十四年が過ぎるのだが。
「けれども父上の神殿も、セラピス神殿も、ムセイオンも、大王の墓でさえも、アレクサンドリアの象徴の座は譲ってる。一目でわかるよな? あれにかなう建物なんてないよ」
カエサリオンはぐるりと首をまわした。目線は海岸線からヘプタスタディオンを渡り、ファロス島に移った。いよいよこの景観の中で一番目立つ建造物がそこにあった。
「ファロスの大灯台。この世で一番の高さに美しさを兼ね備えた、史上最高峰の傑作」
ティベリウスにもまったく異論はなかった。港湾を挟んで眺めていたが、それでもそのとてつもない迫力は十分に伝わった。ロードスのヘリオス像が勝負にならない。二百メートルもあるかもしれない。
砂色の塔だった。陽光を受けて薔薇色に輝いて見えた。四層構造で、全体の半分を占める基礎部分が四角形、その上が八角形、円形、そして先端部となる。今は鏡を用いてだろう、北の方角へ光を送っていた。夜間でも百キロ先の海上から光が見えると言われているが、この湾口付近がそうであるように、エジプト近海は岩や浅瀬が多い。建築者のソストラトスが礎石に刻んだように、灯台は『救いの御手を差し伸べる神々』の役目を果たしているのである。
「初代プトレマイオスが着工し、二代目プトレマイオスが完成させたんだ。ソストラトスときたら、自分の名前が残らないのが気に入らなかったんだろうな。礎石に自分の名を刻んだあと、その上にプトレマイオスの名を入れた石膏を重ねた。月日が流れ、建造にかかわった者が皆亡くなったころ、石膏がはがれてソストラトスの名前が出てきたんだ。まったくずる賢いやつだよな」
カエサリオンは苦笑していた。
それでもだれもソストラトスの名前をつぶす無粋を働かなかったのは、灯台がこうして立っているだけで、プトレマイオス王家の偉大さを知らしめて余りあったからだろう。アレクサンドリア港を訪れる船は皆、この壮大な建造物の横を通るのである。
「灯台の下に、石像の群れがあるのがわかるか? プトレマイオス家の王たちだよ」
カエサリオンが指差す先には、確かにいささかずんぐりした人形が並んでいた。
「エジプト風の彫刻で驚いただろ? この国がプトレマイオスというファラオに統治されていることを教えているんだ」
灯台と比べれば小人に見えてしまうが、十メートルを超す高さがありそうだった。船乗りたちは、あれらの石像にも見下ろされながら港へ入るわけである。
ティベリウスは、アテネやロードスで見た神々の巨像を思い返していた。
「ローマには、こんな大きな建物も石像もない」
ようやく言葉らしい言葉をつぶやいていた。カエサリオンはぱっと顔を輝かせた。
「そうだろう、そうだろう! 我がプトレマイオス王家がいかにすごいか感じられたか?」
ティベリウスが感じていたのは別のことだ。ローマとエジプト、そして東方諸国との考え方の違いだ。
ギリシアや東方諸国は、最も目立つ場所に壮大な神殿を建てる。巨大な像も造る。エジプトでは、ティベリウスはまだ見たことがないが、とても人の業とは思えない規模でファラオの墓を造るという。そうすることで、人は神を讃えた。あるいはだれが神であるかを知らしめてきた。
ギリシア人にとって神とは ユピテル、ユノー、ミネルヴァら、つまり神話に語られる種族のことである。一方、エジプト人にとっては、神話に登場する者だけではない。今この時、国家を統べているファラオこそが神なのである。したがって今ではプトレマイオスがファラオなのだから、それを讃えて、権力を知らしめる手段として大建造物や巨像を造ることは、ごく自然な考え方なのだろう。ギリシア文明から見ても、エジプト文明から見ても、神であるならば当然の行いであり、国民はそれら空前絶後の作品を見て、その者を我が統治者として認めるのである。
どうしてローマは、この灯台のような、見る者を圧倒する建造物を造らないのだろう。都市に巨像を立たせないのだろう。
もちろんローマ人も大規模で壮麗な建物は造る。しかしそれは神殿や劇場と言う名の公共施設で、老若男女、貴族から奴隷までがごたまぜに行き交う場所だ。神君カエサルの神殿も、商業取引や子どもの学習塾、恋人たちの逢引き場所にまで幅広く利用されている。つまり迫力より用途で存在を知らしめているのである。ローマ人にとって最大の名誉は、空前絶後の作品を創ることではない。いかに公益に奉仕するかなのである。多くの人が長いあいだ享受できる実用的な設備を残す。それは建物ばかりではなく、道路や上下水道も含まれる。そして新造するばかりでなく、改修にも力を注ぐ。そうして人々の暮らしに貢献した者を、ローマ人は優れた統治者と認めるのである。いや正確には、優れた統治者の一人として、である。共和政のローマでは、一人の人間が同じ地位に長く留まることがなかった。
そのために巨大な石像も存在しないのである。もしも元老院議員のだれかがこれ見よがしに自身の巨像を建てでもしたら、とんでもない騒ぎになっただろう。かつてただ一人の突出した権力者となったポンペイウス、神君カエサル。彼らでさえ、自身の巨像を建てようなどとは考えもしなかった。カエサル神殿の前に立つ像など、東方諸国のそれと比べれば謙虚の極みにしか見えない。
ローマ人は自らを神とは思わない。信仰心は厚くとも、人の世で上に立つ者を神と見なすことはない。だれもが同じ人間なのである。ユリウス・カエサルは元老院決議で神格化されたが、それは死後のことである。そしてそれは権力を誇示するためではなく、死して後もローマを見守っていてほしいという願いを込めて、市民は彼を神々の列に並べたのである。
ギリシアとローマは異なっている。空前絶後の作品で神々を讃えるか、それはそこそこにして生きている人間に便利なものを提供するか。
そして、エジプトとローマは異なっている。統治者が神か、人間か。地中海世界を半周し、ついにアレクサンドリアを目にしたティベリウスは、その違いがいかに大きなものであるか、まざまざと感じはじめていた。これまでは自分たちローマ人の考え方が当たり前だと思って生きてきた。しかしそうではない世界は想像以上に広く、長かった。
神なのだ、あの石像群は。
ローマでは元老院が、ギリシア本土では都市国家が、東方諸国では王という名の強者が、人民を統べてきた。
そしてこのエジプトでは、神が国民を統べるのだ。
そして…このような世界をまとめて統治するのはどこだ?
だれだ?
「ティベリウス?」
カエサリオンが小首をかしげてきていた。ティベリウスはしばらくぼんやりと硬直していた。それからゆっくりと首をまわし、横にいる十七歳を凝視した。
プトレマイオス家の王。アレクサンドロス大王の後裔。エジプトのファラオ。神君カエサルの息子。
絶体絶命の危機が迫ってなお失われない、天真爛漫。そのわけが、ティベリウスにはわかりはじめていた。
――君は神か?
そう問いかける代わりに、もう一度ファロス島に目線を移した。
「女も…いるんだな…」
石像群に見られる女人たちのことをつぶやいていた。
「王妃か?」
尋ねられ、カエサリオンはうれしそうにうなずいた。
「そう。クレオパトラにベレニケにアルシノエ。歴代プトレマイオス家の王妃たちだ。王の共同統治者だった人もいるぞ」
これもまたローマでは考えられないことだった。女の石像は造られるが、それらが権力を誇示したり、女神さながらに崇拝の対象となったりすることなどない。ローマ女の地位は低いのだ。国家の統治からは頑なに遠ざけられている。ガリア人の族長が元老院議員になろうと、ローマ女が議席に座すことは許されていない。
一方、王政を布く東方諸国では、王の母や妻の地位を得た女たちが、政治の舞台でしばしば暗躍する。しかしプトレマイオス王家の女たちは、暗躍するどころではないのだ。彼女たちは、王の共同統治者という正式の地位を得ることができた。男とまったく同じく、神とされたのである。これほどの地位を許す基盤には、エジプト文明の伝統があろう。三千年の歴史の中で、エジプトはハトシェプストに代表される女王をファラオに戴いたことがあった。
しかしローマ人に考えられないことは、女の地位の高さだけではなかった。いや、ローマ人ならずとも奇異の目で見ざるをえない一事が、プトレマイオス王家の伝統にはあった。
非常に複雑な表情になりつつ、ティベリウスはまたカエサリオンを見つめた。彼と母親は、結婚はしていないはずだ。彼女にはアントニウスがいるのだから。しかし王家は、長年にわたり近親間で婚姻関係を結んできたことで知られている。王妃は、そのほとんどが王の姉妹だった。息子と結婚して共同統治者の地位についた母もいた。
現女王クレオパトラ七世も例外ではない。父王とその姉妹である王妃とのあいだに生まれた娘とされている。そして父王の共同統治者となり、弟二人と次々に結婚して女王を名乗ったのである。
他国の者からすれば嫌悪感さえ覚える習わしだった。しかしプトレマイオス家にしてみれば、これは名誉ある伝統であり、有効な統治手段の一つだった。王政は血を重視する。しかしエジプトの場合、それはただの国王の血ではなく、神の血なのである。
プトレマイオスの血を引く一族こそが神である。王になる正当性を有する血族である。したがって近親間の結婚は、プトレマイオスのみに許される特権となる。オシリスとイシスが兄妹の夫婦だったように。こうして純粋な形で継がれていく神の血を、国民に知らしめるのである。
「いつか母上とぼくの像も、あそこに建てたい」
そう言って、カエサリオンは目をきらきらさせていた。ティベリウスの表情はさらに複雑になった。
やはりこの少年は、プトレマイオス王家の未来を疑っていない。祖先の偉大なる歴史は知っているのだろうが、自らが直面している現在のことは正しく認識していないのだ。しかしティベリウスは、それを教える気にはならなかった。
なぜなら、女王は知っている。マルケルスの誘拐を企んだほどに。彼女が息子に現状を説いて理解させていないのなら、つまりはそういうことなのだ。
でも、もしもぼくがカエサリオンだったら――。そんなことを考えた。もしもぼくがカエサリオンだったら、きっと今置かれた状況をもっと知りたいと思うだろう。あらゆる人に話を聞いて、知ろうとするだろう。
そしてすべてを知ったとき、どう思うだろう。耐えられるだろうか。このうえなく誇らしい我が家が、神と崇められた栄光の王朝が、自分の代で滅亡を迎えるかもしれないということに。
今、女王クレオパトラは、たった独りでその苦しみと戦っているのだ。
石像群の蔭で、なにかが動いた。ティベリウスは目を凝らした。すると船が三隻姿を現わした。ファロス島の脇から湾口へ、ごくゆっくりと進む。
甲板に立つ銀鷲旗は、遠目でも見間違えようがなかった。
ティベリウスの体が飛び出しかけた。海を挟んだ岬にいることなど忘れていた。
ローマの艦隊が目の前にいる!
しかし二の腕を強くつかまれた。振り向くと、カエサリオンが初めて笑みを浮かべない表情を見せていた。
「帰りたいのか?」
冷淡な声で尋ねてきた。それでティベリウスは、少し落ち着きを取り戻した。
泳いでいける距離ではないし、そもそも泳げなかった。しかし味方は目と鼻の先にいた。あれはコルネリウス・ガルスの艦隊だ。メッサラが話していた。ロードス島を出発し、パライトニオン岬を経由して、アレクサンドリアを包囲する作戦であると。ローマの艦隊は、すでに港を封鎖しているのだ。なんとかあそこまでたどり着くことができれば――。
「あいつらにはなにもできやしないぞ」
カエサリオンは軽蔑する調子で、艦隊に顎をしゃくった。
「我が国の艦隊は、船庫の中で準備を整えている。やつらはそれが怖くてうろうろしているだけだ。臆病者なりに物資の出入りを妨げる気だろうけど、ここには南のマレオティス湖からもたっぷりの補給が届くんだ。だからやつらがやっているのは、アレクサンドリア市民を怒らせるだけの、愚かで無意味な行為だ」
それから眉尻を下げ、声色を和らげて言った。
「ローマになんか帰らなくていいじゃないか、ティベリウス。あんな野蛮な国より、この洗練された都で暮らすほうがずっと楽しいぞ」
「どこが野蛮だ」ティベリウスは鋭く言った。「ローマはぼくの故郷だ。帰りたいのは当たり前だ」
「お前を見捨てる継父がいる国なのに」
カエサリオンは信じられないと言うように首を振った。
「アントニウス殿が話していたとおりじゃないか。お前がいなくなってもう何日経った? それなのにオクタヴィアヌスは、未だ母上に手紙の一つも寄越してないみたいだ。馬鹿なのか、薄情なのか、いったいどっちなんだ?」
ティベリウスは唇を引き結んだ。
カエサリオンは踵を返し、ティベリウスの手を引いて歩き出した。
「ぼくはお前を大事にしてやる。この国のすばらしさを教えて、故郷なんて忘れてしまうくらいなじませてやる。だからお前は、ずっとぼくのそばにいるんだ」
ティベリウスはなにも言わなかった。顔を上げることもなく、引かれるがまま港湾に背を向けた。
けれども次の言葉には、思わず足を止めた。
「ぼくがローマを征服したあかつきには、ちゃんと母上に会わせてやるからさ」
その横顔を、ティベリウスは穴が開くほど見つめた。他人のために絶望したのは初めてだった。




