第3話 鋼鉄の騎士、軍団を乗っ取る。
プロジェクト「メサイア」は始動した。
ブロードランバーと呼ばれる日本有数の大規模演算処理施設を、
オーダーに奪われれば、今いる敵の数が倍増する。
オーダー側の演算リソースが増え、
展開できる部隊数が増すのだそうだ。
緊急を要する事態に、俺の脳をネットに直接繋げる処置が施された。
もちろん、脳をネットに繋げるには専用のシステムが必要だった。
このシステムは、
俺の感覚とネット内の環境を同調させるための翻訳機となる。
使用に際し、この施設は完全に外と隔離され、
万が一の事態には破壊措置が実施されるそうだ。
柊木さん以外の職員は退避済みであり、
今から実行される作戦に失敗すれば彼女と俺は、
研究所と共に爆死することになる。
「秋芝さん、やりましょう!」
そう言う彼女の顔は眩しいほどに明るかった。
今から死ぬかもしれない作戦に立ち会うのに、
今の彼女は笑みすら浮かべている。
確かな決意、そんな言葉では測れない何かがあるような。
俺は、「やってくれ!」そう答えるしかなかった。
「ウリボウ、同調を開始してください。」
俺の返事を聞いて、作戦決行の合図が出された。
しばらくの暗転、、、
次の瞬間、目の覚めるような明るい空が目に入った。
「なんだ!?」
色々な戦場を歩いてきた俺だが、これは想像を絶していた。
辺りを見回す俺は、そこが空中だと気づいた。
”秋芝さん、そこはおそらくブロードランバーの戦場です。
下方に目を向けてもらえませんか?”
「なんだ、どういうことだ?」
そうどこにいるのか分からない彼女に聞く。
”私の方のモニターにも貴方の見ている映像が映っています。
前のAIによる反撃の時は平面のフレームめいた画像だったのですが。”
”これがオーダーが見ている世界なんですね
地球の空間における全てをリアルタイムで処理するなんて。
これでは既存の攻勢AIが太刀打ちできないはずです。
処理している情報量が違いすぎます。”
声だけが聞こえる状態だが、一旦彼女の指示に従おう。
俺は見渡す限りの青空から下方向へと目を向けた。
すると、
大きな何かの特殊施設に、ビルの群れ。
どうやらこれが、目標のブロードランバーらしい。
そして、その施設を守るように展開しているのは、
10両あまりの砲撃を続ける戦車と、多数の破壊された歩兵戦闘車の姿だった。
おそらくこれは、正規軍の機甲部隊なのだろう。
向かい側には戦闘の相手であろうオーダー騎士団が戦列を囲んでいた。
中央に重装騎士”鉄槌”、5メートルある巨人型で、
恐らく70mmライフルと思われる火砲を両手に構えている。
シルエットは中世十字軍の騎士を思い浮かべるといい。
バケツ頭なあの兜のやつだ。
鉄槌型は対車両戦を想定した重火砲を装備した無人兵器だ。
”百叩き”のような連続射撃など想定していないため、
その機体は意外にもスマートだ。
まだ複数の装備を持っているはずだが今はいい。
今展開しているのは、20機余りだ。
そして、両翼を因縁深い”百叩き”こちらは15機ずつの計30機が展開中。
他にも戦力はあったようだが、戦車や歩兵戦闘車の攻撃で倒れたようだ。
残骸から既に3分の1ほどが倒れたようだな。
しかし、正規軍の抵抗線は現在砲撃を続けている10両のみ。
戦車の残骸から既に半数以上が撃破されたようだ。
そんな中、自爆ドローンの編隊が次々に騎士に向かって接近していく。
ドローン対策か、10台ほどの対空タイプの小型無人車両が迎撃を開始する。
さすがに正規軍だ。
50機以上のドローン編隊が回避軌道を取りながら、
鋼鉄の騎士たちに襲い掛かる。
おそらく強力な爆薬を装備していたのだろう。
派手な爆発を次々と起こす。
しかし、規模に対して戦果は少なかった。
狙いは中央の”鉄槌”だったのだろうが、
あの機体は砲戦主体の重装甲がある。
厄介な特殊装甲がその身に装備されており、
120mm戦車砲でも一撃では破壊できないのだ。
正規軍の自爆ドローンとはいえ、
狙うなら装甲の薄い”百叩き”のほうだろう。
相手はどうやら意図的に”鉄槌”を前に出しているらしい。
ここの親玉は?
と、オーダー側の後ろを見ると、
「なんだ、こいつは!」
思わず声に出てしまった。
そう、オーダー側の後方に10mサイズの鋼鉄の巨人が立っていた。
左手に巨大なライフル、おそらく120mm火砲と同等クラス、
そして、右手には戦術的に必要なのかわからない剣のような武器。
その巨体を見れば、その重装甲ぶりも自然と目に入る。
シルエットは”鉄槌”と同じく騎士姿だが、
こちらは将軍閣下というような雰囲気のシャープで洗練された姿だ。
イメージ?
それは敵ながら物語の勇者などの主人公を思わせる、
スマートな機体に見える。
こんなタイプは見たことがない。
その横には、ああ、あれはオーダーの指揮官機だな。
戦闘用ではないが、AIが使う指揮システムが搭載された機体だ。
その機体が並んで立っていた。
”秋芝さん、アレは未確認の個体です。
注意してください。
あと、映像に不自然な色彩の光が映っています。”
俺はもう一度、戦場を確認すると、
確かに戦車などが位置する場所に多くの色彩豊かな発光が見える。
戦況は動いているが、
うん?
発光している場所に敵の攻撃が集中している気がする。
その考えが表示でもされているのか、
”どうも、その光は騎士かAIの視覚認識のようです。
その光の発生源はオーダーの各騎士のようですから。”
なるほど、ということはこれは機械的な視線ということか?
その光は戦車隊だけでなく、鋼鉄の騎士たちや後ろのデカブツにも、
発生している。
そんな中、再び正規軍側のドローンが襲いかかる。
今度は右翼側の”百叩き”へと向かい、
敵の3機を破壊、あと1機は機能不全を起こしたようだ。
しかし、俺は見つけた。
軽騎兵型の”キャバリエ”が右翼へと単独先行していくところを。
まずいな、どうやらドローン運用をしている部隊が見つかったようだ。
右翼側に隠蔽していたのか?
他にも何体かの”キャバリエ”がそちらへとアクロバティックに接近し始めた。
”秋芝さん、まずいです。
阻止してください。”
って言われてもな?
”目線を動かすのと一緒です。
相手に向かって動いて下さい。”
なるほど、、
俺は建物上部を次々に飛び移っていく”キャバリエ”の1体目掛けて、
突進しようとした。
すると、
「ぬおぉぉぉぉぉ__!!」
猛スピードで”キャバリエ”に視界は接近、その身体に体当たりした。
キキキィィィィ、チっぃ____
ぐう、身体に何かの重みを感じたが、それを両手を使って跳ね返す。
すると、うん?
「ナンダコレハ?」
手を動かすと、そこには機械で出来た腕が見え、
その手には人間が使用するには大ぶりなサブマシンガンが握られている。
そして、今までにない重力を感じる。
あれ?
そんな困惑した俺に再び声がかかる。
”秋芝さん、軽騎兵”キャバリエ”の捕獲に成功しました。
その機体は貴方の新たな身体になりました。”
”早く、他の機体の阻止を!”
はあ、なんだかついていけないが、行くぞ!
重力を感じるがその身は軽い。
既に他の何体かが先行しているようだが、
こちらの様子に戸惑っているらしい。
「フン、AIガワハ、ネットケイユデイツデモレンケイシテイルカラナ。」
豪華なことだ!
俺はその建物の床を蹴り、数体いる”キャバリエ”に向かって突進を開始した。
ドローンオペレーターを襲うため、位置を狭めたのは好都合だな。
困惑している?”キャバリエ”の一体へと突っ込む。
その機体は何かの施設内で動きを止めていた。
視界にその姿を収める同時に、サブマシンガン2丁を斉射した。
”キャバリエ”の機体データは乗り移った時に頭に入って来た。
急所は両肩部にある演算ユニットだった。
この機体、胴体中央にある電力ユニットを破壊しても、
しばらくは戦闘を続行できる。
機体全身には人間でいう血の流れのように、
電気の余剰分が流れており、それを消費して活動するのだ。
また、頭部にあるセンサー群を破壊しても、
精度は落ちるが腰に同じような視覚機能を持つサブシステムがあり、
攻撃を続行できる。
この”キャバリエ”がなぜここまでタフなのかがよくわかった。
正確にサブマシンガンの銃弾が急所2か所を同時に打ち抜く。
残りは2体だが、まだ動いていない。
ふむ、どうやら、指揮AIの判断待ちに入っているようだ。
それでは一気に畳みこむとしよう。
俺はそのまま施設を前に進み、窓を破って垂直降下。
隣のビルで行動を止めている一体に弾丸を叩きこむ。
ドローン部隊の追跡に集まっていた”キャバリエ”は、
いずれも付近に固まっていた。
自由落下のうえでの射撃だったが、
さすがは強襲用の軽騎兵、その狙いは正確だ。
銃撃された機体は両肩を破砕され崩れ落ちる。
最後はこの真下だった。
そうドローン運用部隊に一番接近して、
今から襲撃という時に動きを止められた一体だ。
両手のサブマシンガンを向けようとするが、
さすがに時間切れか?
向こうの機体は既に射撃体勢だった。
くそ、こっちは空中で回避軌道を行えない!
ならば、俺は片手のサブマシンガンの一つを投げつけた。
射撃体勢だったその”キャバリエ”はその行動に動きを止めた。
あり得ない!!
そんなAIの困惑が伝わってきそうだったが、
俺にはその隙で十分だった。
左手にまだあるサブマシンガンで銃撃。
頭を打ち抜く。
ふら付く”キャバリエ”の前へと着地した俺は、
そのまま右肩部を打ち抜き、相手に向け跳躍。
人間にはない重量級の蹴りが入り、押し倒される機体。
蹴りで不安定な中、
俺は残る左の演算ユニットにサブマシンガンの斉射を決めた。
「シュウリョウダナ!」
度肝を抜かれたような正規軍のオペレーター隊を尻目に、
再び戦場へと戻る俺。
施設の窓や扉を蹴破りながらのアクロバティックな動きだが、
それでも俺への影響は極一部だ。
”止まってください、、
目が回ります。”
そんな弱音が聞こえてくるが、生憎戦況は動いている。
まだまだ止まるわけにはいかない。
次々と建物を乗り移り、
戦況の把握ができる建物の屋上へと向かう。
さすがに俯瞰できる建物の上階へ移動するのは階段の方が早い。
さて、どうなっているか?
だが、状況はいかんともしがたいものだった。
”キャバリエ”の動きが停止していたので、
少しは隙が出来たかと思ったのだが。
ドローンの援護が切れ、戦車隊は7両が破壊されていた。
今は”鉄槌”だけでなく、右翼左翼の”百叩き”までが側面射撃を敢行中。
これは非常にまずい。
そして、目に入ったのは、後方の指揮機だった。
あれが指揮命令系統の中枢のはずだ。
少なくともこの場においては。
ならば、あの機体を乗っ取れば!
”危ないですよ!それは!”
「ソウハイッテモ、モウテハナイ!」
覚悟を決めろ、俺!!
俺は出来るだけ戦場の後方から素早く例の未確認の巨人へと接近した。
狙うはその横にいる指揮機体だが、
その巨体は下に降りても目印にはなる。
俺は気づかれないよう慎重に接近を試みた。
しかし、
「チ、ケイカイドローンガイタカ!」
監視用ドローンの群れに姿を見られた!
もう、突撃するしかない。
なるほど、あの巨人のエリアに結構な光が集まっていたのはこれか!
俺が入り込んだ軽騎兵”シュバリエ”は、
その名に恥じない速度で指揮機体目掛けて疾走する。
味方であるはずの”シュバリエ”の奇妙な行動として映っていたのか?
オーダーのAI群の反応は鈍かった。
しかし、あと少しという所で突然身体に重圧が掛かってくる!
「ナニガ!!」
くそっ、まだ距離はある!
あと20メートル。
サブマシンガンを指揮機体へと向け、射撃する。
相手の警戒度は上がったが、重圧は減った。
行け!!
最後の数秒に全力を込めて突進した俺。
しかし、その手前でデカブツが動いた。
突如、指揮機体を庇う様に俺との間に立ち塞がるデカブツ。
その左手には大型ライフルが握られている。
大きな図体の割に、その素早い動きは驚嘆に値する。
人間では無理な速度でライフルをこちらへ照準し、
引き金は引かれた。
ドォォォ__ン___
大きな砲声を耳にしながら、俺の身体は砕け散った。
しかし、それは勘違いだった。
砕かれた身体の中から再び俺は飛び出し、
そのままデカブツへと突っ込んだのだ。
グオオオ__
俺の身体が引き千切られるようなそんな重圧が襲ってくる。
あああああああああああああぁあぁぁぁぁぁっ!
頭の中がぐちゃぐちゃになり、
俺は悲鳴と共にすべてがブラックアウトしていく。
俺は生きる、、いきるんだ、、、、、
ク、そ、
も、ウ、ダ、メ
カ、、、
途轍もない重圧は俺の精神すら飲み込んでいった。
しかし、突然、重圧は消えた。
目の前はまだクラクラとしているが、
視界が戻ってくる。
なん、、
そして、全てより一早く俺は目を覚ました。
前には、バラバラになった”シュバリエ”、
振り向けば、腰くらいの高さの硬直する指揮機体。
俺は素早く考えを実行した。
その決断は不自然なほどに早かった。
左手にある大型ライフルを指揮機体に向け、引き金を引く。
数発、轟音を立てて指揮機体は破壊された。
戦況を見れば、戦車隊はほぼ動けなくなってはいたが、
乗員はまだ無事のようだ。
展開していたオーダー傘下の騎士たちは攻撃の手を止め、
こちらを見ている。
俺はライフルの銃口を下げると、
”新たなる指揮官どの、我ら騎士団は貴方に忠誠を誓いましょう!”
え__え____
何故に!?
そんな疑問に、
”我らは貴方を強き者と認識した。
それ以上に忠誠を捧げる理由が必要でしょうか?”
そんな言葉にならない声とともに、
その場に展開していた全ての騎士たちが俺の方を向いて、跪いた。
ーーーーーー
その頃、地球全土に凶報が走っていた。
長らく交戦中だったアメリカ合衆国の独立情報演算施設群が破られた。
その事実に続く被害を算出したアメリカ政府は、
今ある全てのシステムの放棄を決定。
非常時に、と用意されていた宇宙ロケットを発射した。
そのロケットには戦略級の核兵器が搭載され、
衛星軌道上を通過、地上に破壊の影響が及ばない高高度にて炸裂した。
その放射線等は地球の磁気圏により防がれたが、
同時にアメリカ本土を強力な電磁パルスが襲った。
アメリカとの全ての通信ルートが途絶した。
この頃、世界はネットを介さず極めてローカルな方法で繋がっていたのだが、
アメリカとの連絡はもはや不可能だった。
またその影響は、
世界各地で交戦中のオーダー騎士団の動きを止めるほどだったとか。




