11.その後のこと
聖花はギルドから離れた後、辺を散々彷徨った挙げ句に意識を失った。その場に倒れ込む形でだ。
体力の限界をとうに超えていたのだろう。
勿論、小さな騒ぎにはなった。人気の多い大通りで突然倒れたのだから。
が、殆どの人は見ているだけで動こうともしなかった。遠巻きに心配しつつも、その場を通り過ぎていくだけだ。
そうして、騷ぎを聞きつけたアデルたちが駆け付けた時には、既に聖花が道の真ん中で横たわっていたのだ。衛兵たちも聖花を保護しようとしていた。
何とか衛兵たちに事情を説明して聖花を回収した後、アデルたちはダンドール伯爵家へと直帰した。
意識のない聖花をメイド達が部屋へと運んで行く。
そうしている途中で、アデルに招集がかかった。ヴィンセントが執務室で待っている、と。当然、理由は明白だ。
アデルは血の気が引くのを感じた。だがしかし、行かないという選択肢など端から存在しない。
重い足を引きずるようにして、彼女は執務室へと向かった。
すると、アデルは護衛騎士と偶然にも合流することになった。どうやら彼も呼び出されたらしく、向かう場所はアデルと同じである。
執務室の扉を開ける。
するとすぐに、正面にいるヴィンセントが2人の目に入った。顔の前で手を組んで椅子に腰掛けている。
心なしか空気が重い。
片割れが扉を締め終わるのを確認して、ヴィンセントが口を開いた。
「一体何があった?」
彼は2人を一瞥して、相変わらず威厳のある声でそう言い放つ。表情をいちいち確認せずとも、相当苛立っているのが見て取れる。
アデルは無言のまま俯き、対する護衛騎士は真っ直ぐにヴィンセントを見ている。何とも対象的な光景である。
「セイカ様が露店街で突如として離脱され、行方不明となられました。その後、…………………」
「もう良い。続きは言わずとも分かる」
アデルの様子を勘づいたのか、護衛騎士が少し間を置いてから説明し出した。が、直ぐにヴィンセントに止められる。
今聞いているのはお前ではない、と言わんばかりに。
続いて、ヴィンセントの視線はアデルへと向いた。それでもアデルはじっと黙って俯いている。
視線には気が付いているのか、小さく震え出した。
「アデル、お前はセイカの側にいた筈だが」
そんなアデルの様子を意にも介さず、ヴィンセントは彼女に言葉の圧をかけた。
皆まで言わずとも、彼の言いたいことは即座に理解できる。
そのせいかアデルは顔面蒼白になり、依然として口を閉ざしている。当然だが、完全に怯えている。
「何を黙っておるのだ。早う話せ。
話さねば、、、、。分かっているな?」
その瞬間、アデルの目の色が変った。伏せた顔を上げ、ヴィンセントと視線を合わせる。
ただならぬ恐怖で震えは引き、一気に声を上げた。
「申し訳ございませんでした!!!」
初めにアデルから飛び出したのは、単なる謝罪だ。
ヴィンセントが続きを促すように顎を小さく動かした。
「ほう?」
「私が、私が…………、純粋に買付を楽しんでしまったのです。
次の時には、絶対に絶対に、セイカ様から一時も目を離しません…!見逃して下さいなどは言いません。
ですが今回だけは、どうか罰を軽くして下さい!!」
そこまでアデルが言い切った。目をギュッと瞑ってヴィンセントの言葉を待つ。
「………生ぬるいな」
「そんな‥‥‥‥!」
しかし、ヴィンセントから返ってきたのは無慈悲極まりない一言だ。
情状の余地はないのか、と、アデルは今にも泣き崩れそうな顔になる。
横でそれを聞いている護衛騎士はいたたまれない気持ちになった。同時に、何故アデルがこんなにも必死なのかが理解できなかった。
「お願いです!罰を先延ばしにして下さるだけでも構いません。挽回の機会を下さい!!」
アデルは滅気ずに懇願を続ける。
ヴィンセントは少し考える仕草をした。損得勘定をしている、そんな所だ。
勿論、アデルの懇願など今は聞いちゃいない。右から左へと流れていく。
「………良いだろう。が、次はない」
暫く考えた後に、ヴィンセントが言い放つ。少しの間は何とか救われたのだ。
アデルは安堵と不安が混じり合った溜息を漏らした。
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