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ヒロインの座、奪われました。  作者: 荒川きな
2章 孤独と希望
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10.決めた覚悟

 アーノルドと聖花が出会った日から、もう一週間が経過していた。

 聖花がずっと長く感じていた牢内での時間も、不思議とあっという間に過ぎ去ったようだった。



コツンッ、コツンッ、ーーー


 不意に、牢獄にはそぐわない靴の音が鳴り響いた。

 その音はペースを乱すことなく、聖花の方へと向かってくる。


 アーノルドだと、聖花は瞬時に分かった。



(()()一週間も経ったの?)


 聖花は驚いた。

 しかし、座ったままで顔を動かして確認しようとしなかった。

 これが暇過ぎてひたすらに眠り続けた結果である。

 

 そうしていると、予想通り聖花の元にアーノルドがやって来たようだ。



「一週間ぶり、カナデ。元気にしていたか?」


 以前のような調子のままで、彼はそう言った。


 この日も、彼の周りに騎士たちは控えていなかった。

 それどころか、周りの些細な音も遮断されたように何も聞こえない。


 まるで彼と彼女だけが存在しているかのようだ。



「・・・・・」


 聖花は依然無言を貫いていた。

 アーノルドは、俯いて座り込んでいる聖花を上から見下ろして、静かに返事を待っている。


 しかし、彼が期待していた返事は一向に返ってくる気配がない。


 彼女は未だに顔を上げず、表情が全く分からない状態だった。



(見当違いだったか・・・)


 アーノルドは心の中で溜め息を漏らした。

 彼は彼女に失望に似たものを抱き始めていたのだ。


 ()()()助けた時、彼が一瞬感じた溢れんばかりの(おぞ)ましい雰囲気。

 それは今の彼女からは全くもって見当たらなかったのである。


 むしろアーノルドには、彼女が生気のない憐れな姿に成り果ててしまったようにも見えた。


 そうして、アーノルドは遂に、殆ど冷めたような目になった。

 彼女を捨てるかのように踵を返し、誰にも聞こえないほど小さな声で「…じゃあな」と呟いた。


 もう来ることは無いだろう、と思って。



「・・・・・……待ってください」


 が、聖花はやっと声を発した。

 彼の背中が闇の中へと消えてしまう前に。

 今の彼女には似つかぬほど力強い声で、去らんとするアーノルドを引き留めた。


 それを聞き、彼は足をピタリと止めた。

 そして、顔を少しだけ彼女の入る牢の中へと向ける。

 その目はまだ少し冷ややかで、しかし一摘みの期待を抱いているように見えた。


 聖花は、スゥッと顔を上げ、彼の瞳をハッキリと見た。

 まるでアーノルドが振り返る瞬間を見計らっていたかのように。



ーー視線が、重なる。


 彼の鋭い眼差しを見ても、聖花は目を背けない。

 それどころか真っ直ぐに彼を見ている。


 何かを渇望する人間の力強い目、それを彼女は持っていた。

 その瞳の奥は確かに意志を灯していたのだ。



「・・・何だ??」

 

 アーノルドは自然と口角を少し釣り上げ、不敵に笑った。

 その瞳の中には一縷の期待のようなものが見え隠れしていた。



「……………………ます」


「聞こえん。何と言っているか、もう一度はっきり申せ。」


 アーノルドは敢えてきつく言い放った。

 その方が、今の彼女には良いと思ったからだ。


「私は・・・・・・、私は……!!

 

 ここを出たいです!ここから出て、必ずやり遂げたいことがあるのです!」


「ほぅ、それで……、『やりたいこと』とは何なのだ?」


「それは、ーーーーーー……!?」


「…………?」


 聖花は何故かそこで不自然にも口籠った。

 アーノルドも流石に怪訝そうに彼女を見ていたが、少し考えるように口に手を当ててから、軽く言った。



「いや、よい。言いたくないのなら言わなくても」


「………………はい」


(今、話せなかった?)


 彼女の上がり続けていた熱気も落ち着いたようで、冷静さを少し取り戻したが、一体何が起こったのか、不思議でならなかった。



「……では、気を取り直して聞こう。

 カナデはここから出たい、と言った。

 貴女は『脱獄』という罪を犯す勇気はあるか?これから、自分を偽り、隠し通す度胸は?」


「あります」


 聖花は答えた。未だに視線を逸らさず、彼の瞳を迷いなく見て。

 彼は上がりそうになる口角を堪えて、感情を悟られないように続けた。



「では、俺に…………

 

 ーーーー命を握られる覚悟は?」


 途端に、空気がズンと重くなった。


 聖花はハッとした。

 助けてくれることは必ずしも善意からでなく、何か裏があることに今更気が付いたからだ。

 薄々察してはいたが、気づかない振りをしていただけかもしれない。


 兎に角、聖花は逡巡する様子を微塵も見せなかった。

 どの道、このままだと無様に亡くなることを待ち続けることになる上に、これまでのショックが大きかった分、彼女の決意はより強固になっていた為だ。

 今更、そんな()()()ことを気にする必要など無かった。



「あります…!」


 重苦しい雰囲気を破り、希望に縋るような、しかし力強い声で、そう答えた。

 牢の中からアーノルドに噛み付くように言う。

 もう、マリアンナの頃の聖花の様子とは似ても似つかないほどになっていた。



「殿下ーー…、いや、貴方も覚悟してくださいね?」


「ハハッ、言ってくれるではないか。

 そちらの方が似合っているぞ」


 何を、とは言わなかったが、聖花が言わんとしていることを汲み取ったのか、彼は、やっと心から笑った。

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