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不死狩りと舌戦場の軌跡  作者: 暦師走
〈参章:廂ノ王ト小麦色ノ姫〉
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【外界16日目(曇り)】


妖女の…老婆の言葉は正しかったらしい。

開けた土地に出れば舗装された道に辿り着き、左右どちらへ進むか悩んだ矢先。


[音がね?こっち来てるの~]


肩に乗せた妖女がぱしぱし兜に触れ、閉じた瞳で呟いてきた。

どちらの方角とも分からないが、聴覚で彼女に敵うはずもない。渋々妖女の判断に身を委ね、音が近付くのを待つ事にした。



街道の脇に腰を下ろし、干し魚の半分を隣に降ろした妖女と咀嚼するが、美味とはとても言い難い。

彼女も同じ見解に達したのか。口をすぼめながら[食べなきゃだめ?]とばかりに顔を向けてくる。


それでも食べ切ろうとする妖女の分を大半千切り、一気に兜の中へ放り込んだ。

1食で1日分の空腹を補う性質を考慮すれば、理想的な携行食ではあるのだろう。




【外界16日目(曇り) - 追記】


股座で横になった妖女が起き上がるまでもなく、地平線に馬車が見えた。

接近しても良いが、村民や老婆の反応から察するに、脅かす結果になりかねないだろう。


大人しくその場で待てば、程なく蹄や車輪が地を弾く音が聞こえてくる。

音源が迫る度に陰影も比例するはずが、一向に近付いてくる気配はない。気付けば目前に馬車が止まり、御者台に乗る男の目線はほぼ同じ高さ。

全体の規模は外観に反してやはり小さく、古都に封じられている間に、世界が収縮してしまったのだろうか。


呆然と観察していると御者に話しかけられたが、会話はもはや諦めた。

足元の妖女を拾い、突き付けたしばらくのちに言葉を交わし始めるや、ふいに男が荷台を指さす。


[町まで乗せてくれるんだってー]


呑気に語られる言葉に、すかさず妖女を荷台に載せたまでは良かった。直後に足を掛けると、傾いた馬車が異様に軋み出す。

馬も苦しそうに鳴き、仕方なく横を歩く事にした。




【外界17日目(雨)】


ぬかるんだ道を馬と共に歩くが、朝から降り続ける雨で足元は泥だらけ。

時折妖女が幌の隙間から顔を覗かせては、[大丈夫?]と声を掛けてくる。


小さな手を伸ばしては戻し、あどけない笑みを浮かべる彼女の真意は何なのか。




【外界18日目(雨)】


外壁に囲まれた門を馬車ごと潜るや、ようやく町に辿り着いた。

石造りの家屋は相応の高さを有するが、村に比べれば大きいという程度。周囲の通行人も村民と変わらない身の丈で歩き、それでも相応の賑わいが一帯を包む。


[おじさんにばいばいしよ?ば~いばいっ!]


周囲を観察していると、馬車から降ろした妖女に腰布を引かれた。

注意を御者へと向けさせられるが、言葉を介せるはずもない。

代わりに光る石を老婆同様に渡すも、頭部が外れる勢いで首を横に振られた。


体格差はあれ、そこまで怯える必要もないと思ふが…。



妖女と二言三言交わした御者は、宿泊先をも彼女に伝えていたらしい。

その小さな指が差す建物へ向かえば、干し草の寝床はとても心地良かった。




【外界19日目(曇り)】


久しく忘れていた心地よい目覚めは、やはり石の寝床とは比べものにならない。

朝食に桶一杯の干した穀物まで用意され、獣臭くはあったが、食べられない味ではなかった。


傍の馬の乳を絞ればますます食が進み、妖女も腹が膨れたのだろう。口周りを汚したまま笑みを浮かべたところで、先日の御者が軒先に現れた。

妖女曰く町の案内をしてくれるらしく、鍛冶屋があれば武器の鋳造も頼めるはず。


御者と謂ゐ、無料の宿泊所と謂ゐ。旅人に優しい町であるからには、必要物資も必ずや集まるだろう。




【外界20日目(晴れ)】


雑貨、食料、服飾店こそあれ、鍛冶屋は何処にも無かった。

小武器を売る武具屋はあったが、妖女の話では。


[他のとこで作ってるんだってー]


とのこと。


武器を入手できないのは痛手だが、他にも町があると謂ふ事だろう。

早々に切り替え、食料の買い出しを済ませるも、代金は御者が支払ってくれた。



武器は手に入らずとも、この町は親切者が多いらしい。




【外界21日目(晴れ)】


求める物も無ければ長居は無用。町を離れる事にした。

次の人里では言葉が通じることを願うが、購入した林檎はすでに妖女と共に消費してしまった。


一刻でも早く、まだ見ぬ予定無き目的地に辿り着かねば。

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