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不死狩りと舌戦場の軌跡  作者: 暦師走
〈弐章:深淵ヲ往ク影法師〉
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【深層23日目()】


生命の神秘――と、謂ゑるのだろうか。

欠けた甲冑は時を遡るように修復され、この調子ならば今日中に全快するだろう。


だが今後も激戦が予想され、その度に回復を待つわけにもいかない。

何かしら戦術を練る必要があるが、こういう時こそ副長と神官がいれば、狡猾な策の1つや2つでも授けてくれたろうに。




【深層24日目()】


道中に渡った丸太橋を解体し、十字に組んだ材木と縄を組み合わせれば、無骨な(ぼーがん)が完成した。

早速戦士の屍に試し撃ちをしたところ、結果は上々。胸当ての上からでも容易に射抜けたが、装填に時間が掛かるのが難点だろう。

1度の戦闘に、1発しか撃てないと謂ったところか。


敵が拾い上げる事を恐れて、弓を破壊したのは失敗だったかもしれない。


幸い矢は床に散乱し、回収した矢筒で纏める事もできた。

牽制手段があるだけで心強さを感じられ、今ならば亡霊も一撃で仕留め……思ゑば森を抜けてから、1度も彼女の姿を見ていない。


豪雨にでも流されたのだろうか。




【深層25日目()】


道は舗装こそされていないが、研磨された石造りの階段が広間に架けられ、かつての繁栄が至るところで見て取れる。

照明必須の漆黒に松明を掲げれば、ふいに明かりの中に石棺の列が映り込んだ。


すると案の定と謂ふべきか。戦士たちが次々起き上がり、眼窩を青く光らせながら、寝床より這い出てくる。

直後に(ぼーがん)を放てば1体貫通し、奥の射手の片腕をもいだ。

思わぬ手応えに喜ぶ間もなく、即座に後退すれば、(ほう)った虎挟みが戦士の自由を奪う。


結果的に後続の進撃をも阻み、その隙に(ぼーがん)を再装填して敵を2体仕留めた。


狭い通路ならば囲まれる心配もなく、敵の攻勢は亡骸で防げば問題はない。

打って出る際も“肉盾”を投げつけ、怯んだ隙に両断せしめた。



本日の戦果は追加の矢に無傷の我が身。

そして敵が武具を束ねるために使用していた革は、(ぼーがん)を背負うために甲冑へ巻きつけた。


残りの革は塩胡椒で炙り、夕餉とした。




【深層26日目()】


ふいに開けた空間に出た。

横幅のある石の段差を下り、降りた先に滑らかな岩が1つ置かれていたが、しばし観察してようやく聖堂の類だと気付けた。


段差も長椅子だったらしく、丸みを帯びた岩はお立ち台なのだろう。

表層の礼拝堂よりも簡素な造りだが、いつの時代も説教臭い集団は蔓延るものらしい。


妄言では腹も膨れないと謂ふのに。



食料は水と、僅かな根や葉を残すのみ。

煎餅の歯応えで双方を食せば、段差の1つを寝床代わりにした。




【深層27日目()】


樽や壺で占められた部屋に出たが、貯蔵室だろうか。

食材に期待はできないとは謂ゑ、調味料が残されている可能性も否めない。

早速壷の蓋を開ければ、突如視界を暗闇が覆った。


肉体の次は視力まで奪われたのかと思ゐきや、首元を削るような感覚に、独特の生臭さが徐々に落ち着きを取り戻す。


それから兜を試しに殴ったが、弾力のある“何か”に包まれているのか。

腕力では引き剥がせず、剣と松明を駆使してようやく解放された。


真っ二つになった蛇――のような泥鰌(どじょう)のような生物は、頭部こそ無くとも、丸い口内を鋭い牙が一周している。

生前であれば、兜ごと首をもがれていたかも分からない。


残った身体を壺から引きずり出すも、表面がぬめって掴みにくかった。

見た目も食欲をそそるものではないが、肉は肉。

その後も蓋を開けては蛇もどきを次々捕獲し、計7匹の確保に成功した。



塩揉みしたのちに内臓を抜き、蒲焼きにして食したが青臭い。

ねばついた腐り始めの米のような食感は、香辛料を無くして手を付けられる代物ではなかった。


残りは燻製にしておくが、早めに処分せねば。




【深層28日目()】


前方の宝箱に注意を引かれ、無警戒に進むと片足が沈むのを感じた。

罠を作動させた事に気付いた時には、兜の右側面を鋭利な刃物が貫き、よろめいた拍子に再び左側面から襲われた。


咄嗟に武器で弾けば、襲撃者の正体は振り子式の巨大鎌。

地下宮殿に到達してからと謂ふもの、幾度殺されてきたろうか。


古代戦士の襲撃に、蛇もどきの奇襲。

そして今や兜は完全に欠け、肝心の宝箱も空っぽ。


武器も砕け折れてしまったが、罠に使われた鎌で代用する事にした。

船の錨を彷彿させる形は、重みも破壊力も申し分ない。




【深層29日目()】


細く、長い一本道に出たが、左右は底の見えない断崖絶壁。


にも関わらず前方より、古代の戦士が列をなして向かってくる。

勇敢とも無謀とも思ゑる行動は賞賛に値するが、元より互いに死んだ身。

敬意も何もかもを鎌で振り払えば、縄で結った新武器は絶大な効力を発揮した。


如何なる敵の接近も許さず、千切っては投げるように。為す術なく敵の頭部を粉砕し、奈落へ次々と落としていった。


極めて爽快な戦闘であったが、恐らく縄が古かったからだろう。

最後の敵を仕留めた直後に音を立てて千切れ、鎌も奈落の底へ消えてしまった。


辛うじて道に残されていた鉄槍を譲り受けたが、軽すぎて使い心地が好みではない。


また何処かで振り子の罠に掛かる事を祈る。

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