表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死狩りと舌戦場の軌跡  作者: 暦師走
〈弐章:深淵ヲ往ク影法師〉
13/84

13

【深層30日目()】


壺や樽があれば開き、時折出現する蛇もどきは、腕を噛ませて収穫する。

一連の流れにも慣れてきたが、何も好んで蛇もどきを採取しているわけではない。

時折底の方に珍しい石が転がっており、無駄に収集癖がついてしまったのだ。


色も紫や緑。

さらには多面体まで入手でき、使い道はなくとも探索に彩りを与えてくれる。


食料の次に優先される趣味と謂っても過言ではないだろう。




【深層31日目()】


通常の蛇もどきは縞模様だが、捕らえた個体はまだら模様。

無理やり引き剥がそうとすれば体表から粘液が伸び、しばらく両手を封じられた。


壁に叩きつけても効果は無く、やがて水を貯めた壺に沈めて、息の根を止めようとした時だった。


粘液が瞬く間に溶けて消え、茶色く濁った水も透明になっていく。


不可思議な現象に疑問こそ覚えたが、兎にも角にも剥がす事には成功した。

あとは蒲焼きにすべく樽から引っぱり出せば、何やら底で光っている物が見える。


摘まんでみると表面はぬめり、丸みを帯びた得体のしれない物を頬張った刹那。


弾ける食感に続いて、卵の黄身に極上の塩を効かせたような味が広がった。

かつてない珍味に舌鼓を打ったが、模様違いの蛇もどきは雌だったのか。

鶏の如く今後も産み続けるならば、定期的な食料源を入手した事になるだろう。


嬉しい発見ではあるが、一方でどのようにして生きてきたのか、謎は深まるばかり。

埃の積もり具合から察するに、侵入者は何世紀といなかったろうに。



だがどういう方法であれ、蛇もどきは生きたまま連れ歩く事が可能だということ。

骨のない柔らかな身体は小袋に詰め込み、入り口を紐できつく縛っておいた。


次の食事時が待ち遠しい。




【深層32日目()】


手抜き建築とも呼べる通路の先に小河が流れ、架けられた狭い石橋の上から水を調達しておいた。

着々と集まる素材に愉悦さえ覚え、長い石段を登り終えた矢先。

天井の隅々まで手を加えた霊廟の奥で、石座に腰かけた木乃伊(みいら)を捉えた。


これまでの戦士たちとは明らかに装いが異なり、兜の角や背面を覆う毛皮の貫頭衣(ろーぶ)は祭礼用にも見える。

総大将と呼んで差し支えない空気に踏み込めず、気付けば小河まで引き返していた。


恐らく接近すれば他の戦士同様、たちまち襲ってくるに違いない。

慣れない鉄槍で戦えるか不安もあったが、だからこそ戦闘前に英気を養う必要があるだろう。



夕餉は捕獲した縞模様の蛇もどき2匹。

頭部と思しき口周囲を斬り落とし、内臓を取り出したのちに皮を剥ぐ。

桃色の身を塩胡椒で揉み、鍋で炒めれば脂が小気味良い音で爆ぜた。


肉に火が通った所で水を投入し、川底の藤壺(ふじつぼ)と残った野草を加え、煮立ったところで食す。


味そのものは美味には程遠いが、脂が染み込んだ白湯は芯まで温まった気がする。

そのまま鍋を平らげず、残りは石座の敵との勝利祝いに取っておく事にした。


寝かせた汁物は増々味が染み込み、多少はまともな料理に仕上がっているはずだろう。



明日が楽しみだ。




【深層35日目()】


可能ならば(ぼーがん)で仕留めたかったが、思いのほか敵の感知範囲が広かった。

青く眼窩が灯ると共に、積もった埃が滝のように零れ落ち、放った矢も避けられ右胸を貫いた程度。



それからの戦闘は防戦一方だった。


使い慣れない槍に対し、相手は熟練の斧使い。

盾の1つでも用意すべきだったろうが、破壊力を鑑みれば付け焼き刃だったに違いない。


左肩。右腕。頭部。左脇。

終いには槍を握る拳をも砕かれ、左膝も破壊された。


立つ事すら困難になり、やがて最期の刻を“再び”迎えようとした刹那――。



蛇もどきが敵に噛みつき、斧を持つ腕をがっしり咥え込んでいた。

どうやら倒れた拍子に袋が開いたらしく、本能的に飛び出したのだろう。

敵も何度も払おうとしていたが、その程度で剥がれる代物ではない。


そんな勝機を逃すはずも無く、一気に敵を部屋の端まで押し込めば、何度も頭部を殴打した。


気付けば首から上は消失し、代償に腕を肘まで消失。

両腕の回復まで筆を取れなかったが、戦利品の手斧は大きな見返りだ。


喜び勇んで汁物に戻ったものの、中は見事に駄目になっていた。


無念なり。




【深層36日目()】


石座の奥はまさかの行き止まり。

思わぬ徒労に力が抜け、壁に身体を預けていた時の事。


ふいに足音がぺたぺた聞こえ、目前でぴたりと止まった。

途方に暮れるあまり確認する気にもなれず、しばし前方で佇んでいた気配も、やがて何処かへ遠ざかっていく。


どうやら裸足で歩いているらしく、その後も度々接近されては、流石に無視をし続けるのは厳しい。

渋々足音に注意を向けると、聴覚が正体を探ってくれた。


独特の軽さや、地面を打つ柔らかさ。

もしや子供の物だろうか。



不思議な夢を見たものだ。




【深層37日目()】


気持ちを切り替え、1度来た道へ引き返そうと立ち上がった刹那。

我が身に寄り掛かっていた物が崩れたような…。


同時に[ふわっ?]と間の抜けた声も聞こえたような――そこはかとない疑問に中腰のまま、首を軋ませて顔を向けた先。

そこには眠気眼を擦り、年端も行かない可憐な少女が座っていた。


それも着の身を1つとして纏わず、産まれたままの姿で。



あの足音。あの気配。

やはり夢ではなかったらしい。




【深層37日目() - 追記】


予期せぬ来訪者をしばし観察していたが、餅のような肌はまず木乃伊(みいら)ではない。

外見も少女ではなく、むしろ幼女と謂って差し支えないだろう。


念のために触れてみたが、指先が掠った途端に[ひゃん!?]と悲鳴を上げ、驚いた拍子に背後へ転がった。


程なく起き上がった彼女は宙に手を振り始め、要求に応じて腕を…今度は差し出すだけに留まれば、包むように指先をゆっくり掴まれた。

まるで赤子が如き力加減だったが、すると今度は両手で包まれる。


直後に[えへへ~]と。

蕩けたような声と笑みが浮かべられるも、松明の灯りに反応する様子はない。


どうやら眼が見えていないらしいが、ここは古都の奥に封じられた地下宮殿。


ならばこの幼女は、一体どこから来たと謂ふのか。



笑みの裏に隠された不可解さが背筋を凍らせ、必然的に警鐘が鳴らされる。



――彼女を殺せ、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ