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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
六章.鬼
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20.撤収

「こんな所で何やってるの?」


 達成感と言うか大団円といった締めに耽っていれば、そこでひょっこりと横から入ってくる奴がいた。聞き慣れた気障ったらしい声、そう、囮役として山に向かって爆走していたはずの嵩原だ。


「え、嵩原!?」


「おや、嵩原君か。その様子だと無事にお客さんは撒いてきたようだね」


 慌てて目を擦る美樹本とは対照的に先輩は悠然と嵩原へ微笑み掛ける。嵩原は鬼役の時の姿から服も変えていた。当然マスクだってしていない。無事に追っ手から逃げられたんだろう。


「それはもうバッチリ。ローラースケート履いて全力で山まで誘導しましたからね。今頃はどう探索するか計画立ててるか突撃なんかしてるんじゃないですか?」


「ふむ。こんな夜更けだというのに逞しいものだ。遭難が多少心配だが」


「大丈夫ですよ。装備なしに夜の山の探索なんて余程の馬鹿でもそう簡単には踏み切れません。実行したとしても初心者が登るような山ですしね。山登りというかハイキングコースって感じですから遭難だって普通ならしないと思いますよ? 一応、神様の加護だってある訳だし」


 得意気に大丈夫だと嵩原は嘯く。そう長期に引っ張り続けることは難しく、適当に鬼が逃げ込む先として候補に挙がったのが公園直ぐ横にある鳴子山だ。整備の行き届いた山道は嵩原の言う通り道から外れること自体難解だと言えた。


「それにどうせ直ぐ気付くでしょうし」


「ん? 何がだい?」


「いいえ、こっちの話ですよ。それよりもこっちはどうなりましたか? 聖が泣いてるみたいですけど」


「ななな泣いてなんかないよ!」


 ひょいと首を傾げてそんな指摘してくる。美樹本が慌てて否定するがまぁ聞いちゃいない。きょろりと俺たち一行を観察して、地面に座ったままの桧山を見付けておや、とわざとらしい声を上げた。


「亨とは合流出来たみたいだね。それはよか……、……喧嘩でもしたの?」


 話している途中で言葉を句切り、それから不思議そうに訊ねてくる。

 うん、まぁ、そう思うのも仕方ないか。何せ桧山の奴、鬼になってかなりのパンプアップしたから着ていた服がビリビリに破れてるんだよなぁ。一見すると結構な事故に遭ったか、あるいは暴徒にでも襲われたかって格好をしている。


「喧嘩……」


「言い得て妙だね」


「そう遠くもない、か?」


「え? 本当にしたの?」


 一方的に殴り付けることを喧嘩というならあるいは。合ってるようなそうじゃないようなと頭を悩ませながらも肯定すれば、言い出した奴が嘘でしょと驚くのなんなの。桧山は桧山で気まずそうにそっと視線逸らしてる。


「話聞くんじゃなかったの? 喧嘩してどうするの。まさか力尽くで聞き出したの? 野蛮ー」


「煩い。こっちはこっちで必死だったんだ。その結果どうにか和解出来たんだよ。非難されるような憶えはない」


「それは真人の主張でしょ? 亨、嫌なことはちゃんと嫌って拒否しないと駄目だよ? なんか今回の亨はいろいろ我慢してるようだったし、いつもみたいに素直に心情吐くくらいが丁度いいんだからね。亨は変に溜め込むと酷く拗れるって今回のことで証明されたしね」


「う、うぐぅ。わ、分かってる。皆には一杯迷惑掛けた……。本当ごめん」


 俺への糾弾が最後は桧山に被弾したな。痛い所突かれたと言葉を詰まらせる桧山は、それでも反省の気持ちが強いようで申し訳ないと頭を下げた。

 そんな桧山に一瞬目を丸くした嵩原は、直ぐにふっと小さく笑みを溢す。


「なんだ、本当にちゃんと話は出来たみたいだ。それならいいよ。面白い体験も出来たし俺は気にしてないから」


 からかいながらの言葉だが、どうにも端々から安堵の色が見えてきてもうね。

 こいつだって文句も言わずに囮役までこなしたんだ。普段男なんてどうでもいいと憚ることなく口にする嵩原がこうまで動くってのは、つまりはそういうことだろう。まぁ、突っ込んだりはしないけどさ。


 嵩原から思わぬ寛大な台詞が発せられて桧山が目を丸くしてる。信じられないとパチパチ瞬かせている桧山に知らず笑い声が漏れた。

 美樹本も安心したようにほっと息を吐いている。いつものようなまったりとした空気がやっと戻ってきた。


「……さて、と。ほのぼのとした空気の中申し訳ないが、桧山君、詳しい経緯など聞いてもいいかな?」


 先輩も柔らかな笑みなど浮かべて静観していたが、表情を引き締めるとそう切り出してきた。粗方流れは把握はしているが、ここできちんと正確な所を確認したいのだろう。


「……はい……」


「これだけは始めに言わせてもらう。私も美樹本君たちも、決して責め立てるためにこうして君に会いに来た訳ではないのだ。追い詰められているだろう君を心配してここまで来たのだと、まずはそれを理解して欲しい。詳しく話すのは辛いかもしれないが、鬼の噂の解明のためにも話をしてくれるかい?」


「……は、い。俺の所為だから、逃げることは、しません」


 返答に怯えを滲ませる桧山へと先輩は予め真意を話して釘を刺した。桧山は頷いてはいるけど顔色は冴えない。別に先輩の言葉を疑ってる訳でもないだろう。ただ、他人がどうあれ自分が自分を許せるかというとまた話が違ってくるだけだ。

 他人が許すことと自分を許すことは同じじゃないからな。


 酷く気負った様子を見せる桧山を見て、このまま喋らせてもいいものかと悩む傍らで嵩原が手を挙げた。


「会長さん、話を聞くのは俺も賛成ですけど、それはまた後にってことにしません? 亨もちょっと疲れてるみたいですし」


「む……、そうだな。確かにいろいろとあったし、別に今直ぐ聞かなければいけないということも……」


「それに警察が来るかもしれないからさっさとお暇した方がいいですよ。もう結構いい時間になってますし、下手に捕まって聴取なんてなったら面倒です」


「「「「え?」」」」


 四人の声がハモる。警察? マジで? なんで?


「……それは本当かな?」


「多分? 俺が戻ってきた時公園を窺ってる住民らしき人物が二、三人いたんですよ。何か騒いだりしてませんでしたか? ここ数日の公園の騒ぎを思えば通報される可能性は高いと思いますけど」


 けろんとした顔でとんでもないこと言ってきた。騒ぎは、……騒ぎはまぁ、結構やらかしてたな、俺たち。木だってドシンドシン揺らしてたし、傍から見たら大暴れしてるようにも見えるか。

 ……拙くね?


「か、会長」


「至急撤収準備に入れ。出来るだけ痕跡等は残さないよう忘れ物に注意。嵩原君、鬼の扮装に使った服を桧山君へ渡してくれるかな? この格好で家に帰すのは拙い」


「はいはい。ローラースケートとマスクは会長さんに返しますね」


 テキパキ指示を出して先輩はさっさと撤収準備を完了させる。着いていけてるのは嵩原のみだな。他三人はわたわたと痕跡隠しに躍起になってる。


「荷物確認よし! 桧山のも回収!」


「散らばった衣服の破片は放置か。全部水の底に沈むのを期待しよう」


「亨早く着替えてね。靴はもうどうしようもないから諦めて」


「ま、待って。鏡、鏡見付けないと」


 一秒でも早くこの場から去りたい俺たちに桧山が待ったを掛けた。鏡、それもあったが今から探すのは時間が足りない。


「残念だが鏡の捜索は後日行おう。何、今度はきちんと許可を取り堂々と池の中を浚おう。私たちも手伝うからきっと見付かるよ」


「そうだよ、もう一人で探さなくていいんだからね。今度は、ちゃんと僕たちだって頼りにしてよ」


 必死に言い募る桧山に先輩は頼もしい言葉を返す。それに美樹本が追随した。一人で探さなくていいと、その点を強く押し出して桧山に伝える。

 気持ちは通じたようで、桧山は不安そうながらも泣き笑いの顔で二人の答えに頷きを返した。ほっと安堵する様子が窺えるな。それだけ鏡の紛失を気に掛けていたってことだろう。冷静になれば貸主が目の前にいるんだもんな。それは人心地も付かないか。


 ちらっと月を映す明ヶ池を視界に収めてから撤収する。木立を伝って人目を避けて、そして大きく迂回して公園を囲む柵を越えて脱出。完全に不審者ムーブであるが、おかげでどうにか面倒に巻き込まれることもなく無事に逃げ出すことが出来た。

 一本横の通りをパトカーが走ってるのを見た時は肝も冷えたが、幸い職質なんて掛けられることもなく、この夜は全員がきちんと家まで辿り着けたのであった。




 明けて翌日。そしてそのまた翌日。週末のこの日、俺たちはオカ研部室に放課後集まっていた。俺たちというのは五人、いつもの四人に先輩だ。今日は桧山から詳細を聞くべく集まっている。


「桧山、体調悪いならまた今度でもいいんだよ?」


「大丈夫だ。もう平気」


 気遣わしげに訊ねる美樹本に桧山は笑顔で答える。桧山は昨日学校を休んだ。なんでもとんでもない全身の筋肉痛で布団から起き上がれなかったそうだ。

 鬼になった影響だろうか? 筋肉痛以外は特にこれといった症状もなく、だから心配いらないと電話口でも語っていた。あの桧山が学校を休む!?と教室では騒然とした空気が流れたりもしたが、概ね問題はなく本日無事登校してきた桧山から予定通り話を聞くこととなった。


「うむ。何か影響は出ているかもしれない。体調がおかしいと思ったのなら直ぐに言いたまえよ? 病み上がりには違いないんだから」


「はい。ありがとうございます、先輩」


 答える声もはきはきしていて特に具合が悪いといったことはなさそうだ。でも、桧山にしては返答が大人しいような……。まだ引き摺ってるのか?


「さて、それでは早速と話を窺いたいのだが、いいかな?」


「……はい。えっと、どこから話そうか? 先輩に相談した切欠から話した方がいいか?」


「桧山が話してもいいって言うなら」


「時系列に沿って話すのが亨も分かり易いんじゃない? まぁ、気になる所があるならこっちから勝手に突っ込んで聞くから気にせず話しなよ」


 確認を取る桧山にそれぞれが好きに答える。ちらっと桧山の目が俺に向いた。伺うような意図を感じて、ただ無言で頷きだけを返した。俺から注文するようなことはない。桧山が話したいことを話し易いようにやってくれたらいい。


 こっちの意図を察してくれたか、桧山は緊張した様子でぽつぽつと話し出した。



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