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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
六章.鬼
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10.鬼が生じる所

 現在放課後。あのなんとも言えない空気になった昼休みは、結局何も解決しないままに終わってそれが今まで続いた。

 桧山は何を言おうとしていたのか。それも問い質すことは出来なかった。放課後になるなり、逃げるようにしてサッカー部へと行ってしまった背中を美樹本だって止められなかった。三人共無言で見送るだけだった。


「……どうしたんだろう、桧山」


 美樹本は心配そうにそう溢す。訳が分からないだろうな。桧山の態度の急変はそれだけ異常でおかしく映った。


「……真人のことを見て、様子がおかしくなったよね。何か心当たりはある?」


 嵩原も真顔で訊ねてくるが、残念ながら思い当たることなんて何もない。首を振って否定する。


「分からない。俺もあいつも、互いに何かしたってことはないはずだ」


「桧山は鬼に関連した何かを僕たちに教えようとしてた。でも、永野を見てそれを止めたよね? 桧山と永野と鬼が関係すること……?」


 推理しながら呟くが答えは浮かばないようだ。難しい顔で黙り込む美樹本を横目に、嵩原も顎に手を当ててふむなどとわざとらしく唸りを上げた。


「亨が何を俺たちに告げようとしたのかは分からない。でも、それが鬼に関係することだってのはほぼほぼ確定と見ていいんじゃない?」


 明るくそう纏めるのに、嵩原の意図が透けて見えて思わず目元に力が入る。


「だったらやっぱり、鬼の調査はやっておいた方がいいんじゃないかな?」


「おい、嵩原」


 この後に及んで鬼の調査を取り付けようとする嵩原に不信感が頭を擡げた。そんなことを言ってる場合か? 思わず声も低くなる。


「こっわ。真人の声は低めると本当恫喝かってくらい迫力出るんだから自重して? 俺そんな間違ったこと言ったかな?」


「……桧山の言い分は桧山本人から聞き出すべきじゃないのか?」


「なるほど。それはご尤もな意見だね。でも亨は話してくれるかな?」


「……」


 俺に打ち明けてくれる可能性は現状は低いと言わざるを得ない。それを踏まえた上での嵩原の返しだろう。

 でも、美樹本なら、あるいは嵩原なら。桧山の反応は尋常じゃない。迂遠に鬼を探る暇はあるのか。


「……いいよ。調べよう」


「美樹本」


 黙って嵩原を睨んでいれば美樹本が小さく同意を返した。驚いて見たその表情には、静かに決意が浮かべられていた。


「嵩原の意見にも一理ある。桧山は鬼に関する何かを僕たちに打ち明けようとした。なら、鬼を追えばその何かも判明するかもしれない」


「流石聖。建設的な判断だね」


「嵩原はちょっと黙ってろ。美樹本はそれでいいのか?」


「桧山のあの態度から多分余程言い難いことなんだと思うんだ。このままただ追及してもきっと口を割らないよ。だったら取っ掛かりでも手にして、それから迫った方が絶対に話も聞き出し易いはずだ」


 決意を滲ませる声音は美樹本にしては低く潜められていてちょっと迫力がある。長い付き合いの賜物なのか、桧山への対処を語る美樹本には確信があるようで迷いは見られない。むしろ絶対根掘り葉掘りしてやるという執念が垣間見えた。


「むしろ亨が伝えようとした事実が判明したりね」


「流石にそこまでは求められないよ。僕たちだけでどこまで迫れるかも分からない。でも、きっと鬼の正体を知ることは無駄にはならないと思うんだ。だからさ、永野も協力して。なんでかは知らないけど桧山が言葉を濁らせたのには君も関わりがあるようだし、一緒に鬼を調べている内に心当たりも思い浮かぶかもしれない。お願いします」


 真っ直ぐにこちらを見上げて懇願までして同行を願ってきた。必死なお願いに美樹本はもう腹を括ったのだと理解する。

 これはあくまで間接的な解決法だ。もっとやりようもあるのではと迷う気持ちはあれども、俺自身にも関わりがあるのではと指摘されたら断れるはずもない。


「……分かった。俺も桧山の本音を探るのに協力する」


 桧山も覚悟を持って俺たちに何かを伝えようとしていた。その覚悟の一端でも理解することが出来たのなら、そこから突破口が生まれるかもしれない。この判断が吉と出ることを願って頷いた。




 早速と言わんばかりに明ヶ池自然公園にやって来た。一日振りの来訪だが、公園内は目立たないが変化が生じていた。


「結構人がいる?」


 木立を抜けた先、開けっぴろげな明ヶ池周辺を眺めるなり美樹本がそう溢す。時刻は日も暮れ出した夕刻。数日前の同時間帯には五本の指にも収まる程度の人影しかなかった池周りには、現在パッと見て十を超える人間がいた。

 散歩しているじいさんや子連れの主婦、それら公園を散策していてもおかしくない人間に混じって、カメラを片手にした人間があちこちに散らばって何かを探っているようだった。


「これは……」


「あー……。写真の影響かなぁ」


 戸惑うこちらに対して嵩原はあちゃぁと言うように呟く。どうやら昨日の鬼遭遇の写真の所為っぽい。


「ネットじゃインチキじゃね?という意見が大多数であれ、中には奇特にも本物かもしれないなって思う層も当然ながらいる訳で。で、その中でも特に行動派な極一部がこうして実際に撮影に乗り出したと、そういうことだね」


 つまりカメラを抱えてうろうろ彷徨いているような奴は全員がデバガメあるいはネタ探し目的だと。

 「中にはオカルト雑誌とかそれ関係の記者もいるかもね」なんて嵩原は愉快げに囁くが、これはちょっとネットの影響力とやらを下方気味に見ていたというか。


「こんな顕著に反応するもんなんだね……」


「ネットの拡散力を甘く見るべきじゃないね。つい数分前に投稿した記事を地球の裏側の人間が知り得るなんてもう当たり前の時代だよ。一度誰かの目や耳に入れば、それはネットっていう媒介を通じて広範囲に拡散されてしまうものさ。昔から人の口には戸は立てられないって言うけど、今じゃネットが専ら広大な情報拡散場所になってしまっているからね」


 感心なのか呆れなのか分からない美樹本の呟きに、嵩原は現代の情報伝播の速さをそう纏める。

 特に嵩原なんてのはそうやって拡散される噂を集めて検証するぞと持ち込んでくるもんだから、俺たちに比べれば造詣も思いも深いものがあるのだろう。


 鬼の噂への関心は俺たちが思っている以上に高まっているのかもしれない。これは想定していたよりも拙い状況にありはしないだろうか。


「……ここにいる人間って、夜まで出張ると思うか?」


「それは夜に遭遇したってのは写真を見れば分かるだろうから当然……、あ」


 答えていた途中で美樹本は押し黙った。鬼を激写することが目的として、でもその場合って高確率で襲われることになりそうなんだよな。そして現状、鬼との遭遇条件で唯一確定かなと思われるのが夜間であること。


「……この人たち拙くない?」


「それもそうだが、もし仮に本当に鬼と出会したとして、だ。それがネット記事やらニュースやらで取り上げられたらどうなる?」


 こちらの指摘にうわぁと言いたげに美樹本が口を押っ広げた。更なる噂の拡散。それに伴うのは大量の好奇の目と、実際に行ってみようかとなる無謀な判断だ。


「肝試し目的の来訪者が増えそうだね。まだ残暑厳しいし」


 ふふと含み笑いしながら嵩原が答えを口にする。俺たちが危惧した怪我人の発生確率が、只今ぎゃんと唸りを上げて上昇したのに随分余裕だな。


「これ悠長にしてらんなくない? 桧山の本音云々も霞むんだけど」


「気持ちは分かるけどお前だけは桧山のことを優先して思ってやれ」


 気持ちは分かるけど。ともあれ、事態は一気に逼迫したと言える。これ是が非でも真相暴かないと駄目な奴だ。


「それで? 調査をするって言っても具体的にはどうすんだ? この状況での聞き込みはよろしくなさそうだが」


「記者なんかは真偽不明の情報持ってそうで狙い目ではあるんだけどね。ま、派手に聞き込みなんかして四方から目を着けられたらそれこそ会長さんの耳にも入っちゃうか。んー、惜しいなぁ。せめて私服だったらなぁ」


 自分の制服を抓んで未練たらたらにぼやく。私服だったら、まぁ、嵩原なら大学生辺りと年を偽って情報聞き出すのもやれそうかな。その際にはその顔面をどうにか変えないと直ぐ特定されそうだけど。


「聞き込みも出来ないってなったら僕らが来た意味なくない?」


「いやそんなことはないよ? 今日はまだ明るい。それならやれることがあるはずだよ」


 ピッと空を指差して嵩原は反論する。空は黄色に染まる夕空だ。太陽も沈むのにまだ時間があるだろう。

 俗に黄昏時と言ったか。それはもうちょっと暗くなってからだったか? こんな時間にやれること?


「俺たちはさ、公園内をさっと観察はしたじゃない? そこで鬼らしき物は何も見付けられなかった。でも、本当ならもっと調べるべきものがあったんだよ」


 持って回ったような遠回しな説明はこいつなりの演出らしい。黙って聞いていればスッと嵩原は指を水面煌めく池へと向けた。


「明ヶ池。公園の名前の由来にもなってるのに、あまり注視してなかった気がしない?」


 言われてはてと首を傾げた。そう言えば、池に浮かぶ物はないかくらいは気にしていたけど、池そのものにはさして注意を払ってなかったような。


「思い出して欲しいんだけど、いずれの鬼も皆最初は池を注視していたんだ。噂の発端からしても池の畔に立つ鬼だからね。真人の時だって最初は池を覗き込んでいなかった?」


「……ああ」


 言われれば確かに。最初は入水を疑っていたような。


「鬼と明ヶ池には何か密接な関係があるのかもしれない。もしかしたら池そのものに鬼の正体に迫るような秘密があるかも?」


 それまでのどこか確信を持った物言いとは違い、最後は曖昧に濁された。嵩原としても確証がある訳ではないようだ。それでも気になる意見ではある。


「池、かぁ……。でも確か、ここの池には特別な謂われなんてないんだよね?」


「それを含めての池の調査と思ってよ。ひょっとしたら俺も会長さんも知り得ない隠された逸話なんかもあるかもしれない。別に鬼とは直接関係なくても、土壌になるようなそんな話が見付かるだけでも事態は進展しそうじゃない?」


「うーん、そう、かも? そうかぁ、池かぁ」


 美樹本も嵩原の意見に食い付いた。意外な落とし穴だったかもしれないな。鬼と池。公園そのものじゃなくその中の池との関わりか。


「……実際どうあれ、それなら俺に襲い掛かってきた鬼がいた辺りを調べてみるのも良さそうだな。あの時、鬼は柵に寄り掛かって池を覗き込んでいたようだし」


「そうだね。何を見ていたのか気になる所だ。どこぞの井戸よろしく、池の中に地獄へ続く入り口でもあったりするかもね」


「そんなのあったら鬼処の騒ぎじゃなくなると思うよ?」


 言い合いながら早速と池へと向かう。冗談ではあるが、でも原因らしきものが見付かるならこれ以上の収穫はない。まぁ、本当に地獄なんかに繫がっていたら俺たちにはどうすることも出来ないけど。




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