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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
六章.鬼
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8.鬼の解析

 明けて翌日。朝顔を合わせてから当然のように昨日の話ばかりしている。それは昼休みの現在でも変わりない。


「結局鬼は本当にいたのか? いなかったのか? どっちなんだろうね」


「嵩原落ち着きなよ。どんだけ気になってるの」


 主に嵩原の所為だ。超常現象(だと思われる)を目の当たりにして興奮冷めやらない様子で何度も同じ議論を繰り返している。余程あの鬼らしきものが気に入ったらしい。


「そりゃ気になりもするでしょ。だって鬼だよ、鬼。我が国の諸信仰・宗教には切っても切り離せないメジャー妖怪兼怪物的立ち位置の存在だよ? 鬼の存在が肯定されるだけでも方々への影響は計り知れないものになるよ」


「その興奮理由が今一分からないんだって」


「お前のその目線は何目線なんだよ」


 一般私人にはピンと来ない学術的なんだかオタク的なんだか分からない理由をさも一般論的に叫ばれても。とにかくなんか特別だってのは感じ取りはした。


「分からないかなぁ。まぁいいさ。とにかく今日の放課後またオカ研に行くよね? 詳細は会長さんから窺えばいいか。一晩経ってるんだし会長さんなら画像解析まで掛けて検証を進めているはず。特殊メイクかどうかも分析しているかな?」


 楽しみだと一人で盛り上がる。特殊メイクと言われて昨夜アップで見た憤怒の形相を思い出した。怒りに吊り上がった目と口元。俺に対するものではないと思うのだが、人外とも思える怒りの面相は想像するだけでも背筋が寒くなる。嵩原とは正反対にぶるりと怖気で軽く震えが来た。


「うん。会長ともまた明日って話だし、詳細を話し合うためにも今日も行く必要が」


「俺、行かない」


「え?」


 嵩原の問いに肯定を返そうとした美樹本を遮って桧山が言った。まさかの桧山からの拒絶。びっくりし過ぎて動きが止まる。


「……桧山、オカ研行かないの?」


 探るように問うのにこくりと頷きが返される。マジなのか。え、本当どうした。俺、美樹本、嵩原がオカ研への出席を渋ることはあったけど、桧山が行かないなんて言うことはこれまでなかったのに。


「……えっと、それは、どうして? 何か行けない理由ってあるの?」


「……」


 柔らかく問う美樹本に桧山は無言だ。惣菜パンを両手で握り締めたまま視線は机へと落ちている。

 無視か?とこちらが疑念を抱き掛けるくらいの間を取って漸くポツリと呟いた。


「……サッカー、あるから」


「サ、ッカー?」


 それは当然と言えば当然の断り文句だった。


「……あ、そうか。今なんか強化月間とか言ってるんだっけ? 冬季の大会に合わせて練習時間を増やしているとか、マネージャーやってる子たちが言ってたね」


 思い出したと嵩原が言う。つまりは部活があるから行けないと、そういうことか?


「ああ、納得。それなら、それなら昨日とかもよろしくはなかったんじゃないの? え、今週とかもう二回休ませていたんじゃ?」


「あ、いや、昨日は夕方までだったし、一昨日は休みだから別に。時間増えたって言っても土日みっちりやるってことだから」


「そ、そうなの? 嘘吐いてない? 本当、無理に会長に付き合う必要はないんだからね? 桧山だけじゃないけど、予定あるならあるって正直に言ってくれて構わないんだからね」


 よもややっぱり無理させてた?と焦る美樹本だが、返された答えにほっと安堵の息吐いて殊勝なこと言い出した。俺は無理矢理連れて行かれたような……?


「部活動とのバッティングは仕方ないよね。ま、是が非でも連れて行かなきゃならないのはこっちだし、亨はサッカー頑張ってきなね」


 引き継ぐように嵩原は勝手なことを宣う。ポンと人の肩に手を置くな、手を。なんで俺は強制参加なんだよ。


「桧山、無理な時は無理って言ってくれていいんだからね? 正直オカ研の調査に同行してもらえれば本当に助かるんだけどさ、でも桧山にとっても大切な用事があるなら断ってくれて構わないから。遠慮だけはしないでね?」


「お、おう。うん、分かってる」


「この四人の中で唯一真っ当に部活頑張ってる人種だしねぇ。ま、サッカーは冬季の大会だって重要なものだって聞くし、頑張ってきてね、亨。こっちはこっちで鬼の正体把握のために一肌脱いでくるから」


「あんまり嵩原には頑張って欲しくない気もするんだよなぁ」


 気恥ずかしそうでもなく素直に気遣いの言葉を吐露する美樹本に桧山もちょっとたじろいだ。一昨日の青春的な語らいから歩み寄ろうとでもしてるのかね?

 こっちが居たたまれない気分になり掛けるも、続く高原の台詞でそんな感傷もどっか行った。

 そうか、四人もいてちゃんと部活動やってるの一人だけなんだ。なんだか自分たちが駄目な集団に思えてくるのは部活動やってる=ちゃんと高校生やってるという図式が自分の中にあるからか。まぁ、一番駄目なのはどう考えても俺なんだけども。


 それより、桧山へと激励と言える言葉を投げ掛けたのは嵩原なりに気を遣っているんだと思う。桧山がサッカーに情熱を注いでいるのは全員が共有している認識だし、夏があと一歩及ばなかったとなれば次こそ頑張れと応援するのは友だちとしては自然なことだろう。美樹本もだから遠慮するななんてわざわざ釘刺したんだし。


 でも、なんでだろうな。良かれと思って二人共手放しに応援なんてしたはずなのに。

 どうしてか桧山の奴、ほんの一瞬浮かない顔を見せたような気がした。




 放課後になり俺たち三人は桧山を見送ってからオカ研へと出向いた。俺も解放してくれないかなと思わないでもないが今更遅い主張だわな。


 オカ研部室にいつものように声を掛けてから入室すれば蘆屋先輩が朗らかに出迎えてくれた。


「やぁ。来てくれたね。……ん? 桧山君はどうしたんだ?」


「桧山はサッカー部の方に行ってます。なんでも強化月間らしくて暫くはこっちにも顔は出せないんじゃないかなと思います」


 直ぐに桧山の不在に気付いた先輩に美樹本は訳を話す。桧山のためを思い、無理矢理引っ張ってなんて来られないよう強く出ているのが分かった。

 対して先輩は感情の読めない目を向けてくる。


「……ふむ、そうか。確かに冬季の大会の予選も近々行われるという話だからな。ならば桧山君はそちらへと集中した方がいいだろう」


 暫しの間のあとに理性的な回答が返された。これには美樹本もほっと安堵している。

 先輩が殊人間に対しては常識的であることを考えると少々桧山に関して神経質であると言えるが、昨日一昨日のやり取りを考えれば少々身構えてしまうのも仕方ない話か。


「ま、今回の調査において重要であると言える証人はこうして連れて来たんです、会長さんもそれで納得してくださいよ」


「ああ。それはそうだな。永野君には是が非でも昨日の詳細な報告をしてもらわなければならないからな」


 一瞬微妙な空気が漂うのを嵩原の奴が俺を売り払うことで払拭させる。先輩も目を輝かせて乗り掛かるのだからもうねぇ。なんだか何時ぞやで見たような執着にギラつく目してるんだが。


 爛々と輝く目をする先輩に見つめられ、背後には俺を押し出すように肩を掴む嵩原に挟まれる。オカルトオタクの二人に睨まれてこれから行われる尋問を思ってそっと天を仰いだ。




 昨日の動画並びに印刷した写真などを交えての報告会はそう時間も掛けずに終えられた。

 何せ映像はこれでもかってくらいに用意されており、大体の流れやら起こった事象やらは簡単に確認が取れる。俺はただ動画に合わせてちょっと伝わり難い部分を補うだけで済んだ。


「……」


 一通り話し終えたあと、部室内には沈黙が横たわった。

 無理もない、ホラー映画もかくやといった衝撃の映像たちが皆現実のものとして再確認されたんだからな。

 鬼らしき怪力を誇る化け物が自分たちの住む極近くに実在している。受けた衝撃は鬼と対面した俺とそう変わりないものなのかもしれないな。


「……うむ。実在していたか」


 重い沈黙を破って先輩がぽつりと呟く。何を思ってそんな呟きを落としたのか、伏せられた目からは内面を読み取ることは出来ない。


「会長さん。この映像の分析はしたんじゃないんですか? どうです? 特殊メイクって可能性はありますかね?」


 興味深げに嵩原は先輩に訊ねた。その可能性も残されていたっけか。見返した鬼は酷くリアルで、この悪鬼の形相が作り物だとはとても思えないけど、最近の技術も凄いことになってるらしいからなぁ。


「……そうだね。私が見た限りではとてもメイクだとは思えなかったね」


 果たして先輩の答えはと構えれば、神妙な様子で偽者説を否定した。


「え、ええっ。本当ですか?」


「あくまで映像を見ての考察だがね。……顔の大きさにバランス、唸りを上げた際の筋肉の動きを観察するに、恐らくはと前には付くが」


 猜疑的であるようだが少なくともこれは仮装だと断定出来るほどではないと。そうなると俺に襲い掛かって来たのもガチってことになるのか? 凶悪過ぎないか? あの爪痕見たあとだと今更感強いが。


「鬼の名に恥じない凶暴さですね。噂で襲われた、なんてありましたっけ?」


「現在私が把握している限りではそのような話はないね。姿を見られて慌てて逃げ出した、としか出回っていない。まぁ、鬼というのであれば多少凶暴であってもおかしくはない話ではある」


 うんうん冷静に考察しているけど、襲われた当人前にしてそれも仕方ないみたいに言うのは止めて欲しい。真っ最中はどうやって切り抜けるか夢中だったからアレだったけど、家に帰ったあと思い出して結構怖かったんだからな、こっちは。


「とは言え、我々が出会した鬼が何故襲い掛かって来たのか、その理由にも心当たりがあると言えばある」


「え……?」


「心当たり? 何か切欠なんかありましたっけ?」


 美樹本も嵩原も意外みたいな顔をする。問われた先輩はすっと俺へと視線を合わせてきた。


「永野君はなんとなく察してはいないかな?」


 水を向けられるも、考察とかそんな得意な訳じゃないから聞かれても分からない……。

 あ、そう言えば。


「……理由に当たるかは分かりませんけど、確か『見るな』とか言っていた気が……」


「そうだね。私はそれが動機ではないかと見ている」


 記憶を穿り返して答えれば正解だったのか大きく頷かれる。


「鬼が言ってたの?」


「去り際に呟いていったんだよ。襲われた直後もぶつぶつ溢していてな、今考えればずっと同じこと言ってたんじゃないかって」


「『見るな』……ね。会長さんは鬼は姿を見られたから襲ってきたと見ているんですか?」


「推測の域ではあるがね」


 断定はしないが、でも真剣な眼差しはこれが正解だと言わんばかりの確信を宿しているように見える。先輩のそんな態度に嵩原も真顔で拝聴の姿勢を取る。


「動画を何度も見返した結果、鬼は自身を見られることに何か強く拒否感を抱いているように思えたんだ。恐らく襲う切欠は永野君に観察されていることを察したからだろう。真っ直ぐに向かって来ていたことから狙いが永野君であることは間違いない。だが、一当てしたあと、どう言った訳かそこで襲撃を止めてしまっているね? 動画を見る限り鬼は自身の顔を隠して視線を遮ろうとしているように見える。この時にも小さく呟いているのだが、音声を調べてみた結果、ここでも鬼は『見るな』と拒絶を示しているのが分かった」


 動画を再生しながら考察を述べていく。別で解析した音声も流されたが、確かに鬼は何度も繰り返し『見るな』と呟いていたようだ。先輩は徹夜でこの証拠品を用意したのだろうか。まさか音声の吸い出しまでやってるとは思わなかった。


「……本当だ……」


「聖が来て逃げ出したのも、これだと更に注目されることを忌避して逃げたという推測が立てられそうですね」


「その通りだと思うよ。どう言った訳か件の鬼は人からの視線を嫌う。居ても立ってもいられず直ぐにその場から逃げ出すほどにだ。恐らく簡単に一般人などねじ伏せられる力を持っているだろうにね」


 ねじ伏せる、と聞いてテーブルに広げられた写真の一つに目が吸い寄せられる。木の幹に深く刻まれた鬼の爪痕。

 熊にも負けないなんて嵩原は言っていたが、伝承やら何やらで語られる鬼の膂力を思えばさもあらん。それに一瞬で目の前まで迫ったその脚力だって脅威だろう。本気で追い掛けられたらただの人間なんて絶対に逃げ切れない。

 だからこそ、なんで逃げ出したんだってのが違和感として持ち上がってくるな。


「……見られることが弱点、とか?」


「認識されることになんらかのデメリットがある、て可能性もなくない? だいたいお伽話に出て来るような鬼には何かしらの弱点が設定されていたりするし」


「この鬼にもそれが当て嵌まるの? なんだか、服装はそこらにいる人みたいな格好してるし、昔話に出て来たような特別感はあんまり感じられないんだけど……」


 見られることへの忌避。そこからそれが弱点なのではと議論が向かうが、でも認識されるのを嫌うってのはどんな理屈なんだ? 嵩原の言う通り昔からの倣いから? だとしたら俺たちの目撃した鬼はお伽話に出て来るようなある種由緒正しい鬼ってことになるのか?


「……鬼と言えば虎柄のパンツだよなぁ」


「亨みたいなこと言って。ま、確かに鬼という印象は顔面と凶暴性くらいからしか感じられないよね。でも、全ての鬼がそんな半裸族染みた格好をしてる訳でもないんだよ。現代に合わせて服装にも変化が訪れていたって何もおかしな話じゃない」


「待って。話題ズレてるから。鬼のファッション変遷とか正直どうでもいいから」


 美樹本に真顔でツッコまれた。違うんだ、別に議論を変な方向に持って行くつもりなんてなくて、ただつい口が。

 言い訳をする暇も与えられず嵩原共々美樹本に睨み付けられていれば、苦笑を浮かべた先輩が間に入ってくれた。


「まぁまぁ、落ち着いて美樹本君。確かに一般的な鬼のイメージから逸脱していることに違いはないから。見られることへの拒否感と並んでこの鬼の正体を考察するのに貴重な手掛かりとなるかもしれない」


「そうですか……?」


「そもそもがこの場所に突如として現れたことこそがイレギュラーだ。物事というのは絶対に起点があってそこから事象は現れる。ならばこの鬼も出現したその訳が絶対にあるはずなのだよ。ひょっとすれば、今回の噂はその出所を突き止めることこそが肝要なのかもしれないね」


 一人納得したようにうんうん頷いてる。噂の出所ねぇ? それは最初の目撃者云々って話ではないんだろうな。何故突然鬼は現れたのか、その理由ってことだろ。


「さて。それでこの『鬼』の今後の調査であるのだが」


 急に畏まった態度で先輩はそう語り出す。急だな、気を取り直す暇もなかったと思ってその表情を窺えば、嫌に真剣な顔をしてこちらを見つめていた。


「今回の調査においても判明したように、件の『鬼』は何かしらのトリガーでもって襲い掛かってくる可能性があることが証明された。そしてその際に被るだろう被害も推測ながら甚大なものになる懸念もある。ここまではいいかい?」


 トンと指でテーブルを叩いて示すのにそれぞれ頷いて答える。分かり易く爪痕の写真なんて突いてみせるが、今更言われるまでもなく鬼の危険性なんて身を以て知っている。


「そこで当面夜間における調査等は自粛する流れでいこうと思っている。理由は、わざわざ口にしなくても分かってはもらえるだろう?」


 それはつまり事実上の撤退か。安全面を一番に考慮する先輩ならば妥当とも言える判断だな。


「あれ、お手上げですか? 会長さん?」


「茶化すんじゃないよ、嵩原。会長はそれでいいんですか?」


「我々の身の安全には代えられないからね。それにまぁ、調査の手を止める訳ではない。どうにか公園内にカメラの設置が出来ないかこちらで交渉はしていくつもりだよ。人を配しては危険だが、カメラであれば最悪は壊されるだけだからね。それに我々高校生が夜間に出歩くのも外聞が悪いしね」


 嵩原の軽い挑発だって簡単にいなして先輩は仕方ないと笑う。実際は全然諦めてもいないんだから煽りにすらなってないんだろう。そこは先輩の方が一日の長があるって話だな。


「なので君たちにも夜間外出の自粛を求める。特に嵩原君、君だ。気になるからって勝手に調査になど及んではいけないよ?」


「えー、駄目です? 一人だったらまだ逃げるのも難しくなさそうなんですけど」


「絶対に止めたまえ。もしそのような噂さえ聞こえてきたら、私が発端で非行に走ってしまったと共に警察に自首しに行くからそのつもりで」


「拙いな。会長さんは思い切って生真面目に突っ走る所があるから冗談に聞こえない」


「本気だと思うよ? 以前にも不法侵入した謝罪するって市役所に正面から乗り込んでいったことあるし」


 懐かしい話をすれば嵩原の頬が軽く引き攣った。どうやらぶっとい釘を刺されたようで。

 自らの進退さえも気にしない覚悟の一徹で上手いこと嵩原を黙らせることに成功した。嵩原だったら絶対好奇心の赴くままに動きそうなもんだし、その辺りを先輩も察知したのかな?


 分かり易くストップを掛けるくらいには先輩も今回の噂を危険視していると。

 あの鬼ってのは一体なんなんだろうか。心霊? 妖怪? あるいは怪物? 正体なんて単なる鬼じゃないのかと思っていたけど、なんだか考察すればするほど訳が分からなくなってくるな。いずれ突き止められるのだろうか。まぁ、暫くは関わらずにも済みそうだけど。





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