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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
五章.夏祭り
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2.元気のない桧山

 明くる日。本日は見学者を迎え入れるということで学校全体がバタバタと騒がしい。

 で、俺は基本案内等の仕事を請け負っていなく、またこれといった委員会にも所属していなく、そして安定の帰宅部だ。

 あれ……、高校生活で頑張ってること何もない……? 一瞬意識が虚無に落ちそうになったけど、一先ずそれらは先送りにして現状だ。そんなないない尽くしの俺は登校も遅く、ある程度体験入学が終わったあと、片付け要員として学校に来た訳だが。


「……」


 やってきた教室。人も出払ってどこか閑散とした教室内で相変わらず桧山は肩落として自席にいた。昨日の今日だしな。これでフルスロットルに元気になってたらそっちの方がビビる。


「ま、一日で持ち直す、なんてことには普通ならないよね」


「嵩原」


 気付けば背後に嵩原が立ってた。教室入り口で思わず立ち止まってた俺の後ろから中を覗き見ての発言だ。今ここにいるってことは嵩原も特に役職等は請け負ってなかったのか?


「お前も今登校してきたのか?」


「俺は受け付けの方で頑張ってたよ? 女の子繋がりで今年受験だって子が結構知り合いにいてね、軽く挨拶してたらこんな時間まで拘束されちゃった。そこから更に交流の輪が広がっちゃって中々大変だったよ」


「……」


 ……いや、確かにこいつは他校女子にも知られるイケメンモテ男だけども……。


「……お前、受験生ってことは相手は中学生だろ? まさか手を出して……」


「待って。その結論に達するのは早過ぎる。あくまでお友だち。一緒に遊ぶ女の子たちの後輩ポジションでちょっとお喋りしたりするだけだから。下衆な勘繰り止めて」


「下衆も何も……」


 意気揚々と「交流の輪が広がっちゃった☆」なんて自慢しといて何言い訳してんだか。いくら女誑しとは言え中学生に手を出すのってどうなの?


 ドン引きしている俺に嵩原は必死で言い募る。教室の出入り口付近で騒がしくしていたら当然注目は集めるもので、二人ほど登校してきたばかりのクラスメートが寄ってきて話に参加してきた。


「あれ、何騒いでんの二人共」


「おはよう。嵩原必死なんだけどどうした?」


 寄ってきた面子は昨日俺を囲んだ奴らだ。いつにない嵩原の懸命な様子に好奇心を隠し切れてないな。


「いや、嵩原が今日見学に来てる中学生と早速仲良くなったらしくて」


「真人ちょっと」


 暴露してみれば揃ってドン引きみたいな顔で嵩原を見やる。これが正しい世間の目というものだ。


「うわ……。お前マジかよ嵩原」


「流石嵩原と納得すればいいの? それとも、流石にそれは嵩原って引けばいいの?」


 うわーと言いながらちょっと距離を空ける。露骨な態度に嵩原の頬もひくひく痙攣している。安易に自慢なんかするからこんな目に遭うんだ。

 嵩原がもうとんでもなくモテるなんてことは大抵の男子は理解しているけども、だからと言って髪ファサッて掻き上げながらモテ自慢などされたらイラッとはするんだ、イラッとは。


「まぁ、嵩原曰くあくまでお友だちらしいけどな。受け付けに立ってたから集られたらしいぞ」


「ああ。そう言えば噂流れてたな。受け付けに、見学に来た女子中学生がめっちゃ溜まってて軽くパニックになりかけたって。嵩原なら納得だわ」


「正直中学生でも女子にモテるのは羨ましい。お前嵩原、マジで自重しねぇと俺ら野郎共が闇討ちかますから本当いい加減にしろよ」


「何これ。誤解解けても俺貶されてるんだけど?」


 世間の野郎共の正当な主張だ。口では戸惑ったような感想漏らしてる癖に、実際は屁でもなく思ってるのは分かってんだぞ。

 じと目で睨まれるのにも軽く肩竦めるだけで流しやがる嵩原からすれば、男の嫉妬なんて「ああ醜い」と失笑で躱せるものでしかないからな。


「ちっ、余裕そうな態度しやがって。いいよな、黙ってても女子の方から寄ってくる奴は」


「俺なんか部活で活躍したって喜ぶの顧問の飯田くらいだぞ。桧山とか嵩原みたいにちょっと動いただけでキャーキャーなんて全く言われねぇよ。格差が酷過ぎて恨みしか募らねぇ」


「どうせ新一年生もこいつらに惚れるんだぜ? あーやだやだ、まだ夏だってのに来年もまた灰色の青春が確定とかつまらん。この学校人は多いはずなのによぉ、全っ然こっちに回ってこないんだから、クソだクソ」


 すっかり嵩原を筆答とするモテ男に対する恨み憎しみが高まった二人は愚痴を吐き吐き教室に入ろうとし、そして桧山の姿を視界に捉えるなりこっちに振り返った。


「……まだ桧山あんな感じ?」


「……見ての通りだよ」


 本当見たまんま。そろりと振り返って凹む桧山を確認してからすすっとこっちに寄ってくる。


「いや、一日でどうこうなるとは思えないけどもさ」


「昨日と落ち込み具合がまんま変化ないんだけど」


「こっちに言われても」


 昨日の今日でそんな変化があるか。こちとら学校終わったら顔も合わさねぇんだぞ。


「よっぽどショックがでかいってことか……」


「なんだかんだ桧山は引き摺らない奴だと思ってた」


「亨はそう言う性分だよね。テストで赤点とっても次の日にはけろりとしてるし。サッカー部での様子はどうなの? 確か濱田はサッカー部だったよね?」


 嵩原が俺ら以外の男子と嫌味や皮肉なく絡むなんて珍しい。こいつも桧山の様子は気に掛けているのかね?

 問われたサッカー部員(濱田)はあーと気の抜けた声を上げて答えた。


「変わんねぇよ。そりゃ昨日のことだから当然なんだけどさ。久しぶりに部活に出たーって思ったらあの凹みようだろ? 皆どうした!?って驚いて根掘り葉掘りしちまったんだよな。で、桧山も質問に答えないから先輩なんかはイライラしちゃってさ。俺ら同クラは事情知ってっからフォローだなんだはしたんだけど、結局部活中もずっと元気なかったんだよなぁ。むしろ余計に凹ませたかもしれない」


 複雑そうな顔で部活でのことを語る。流石に部活動の方にまで根回しなんて出来ないから悪い方向に進んでしまったか。体を動かせば気晴らしになるかもなんて見込みは見事に外れてしまったな。


「そっか。ま、見守ろうってなったのはこのクラス内の話だから当然と言えば当然か」


「インターハイに行けなかったってちょっとピリピリしてたのも良くなかったんだよなぁ。桧山は凹んでるだけなのに一部の先輩がやる気ないのかって八つ当たりなんかしてさ。高校最後の大会だったから熱入んのは分かるけど、それで当たられても困るよなぁ」


 赤裸々なサッカー部内情を溢す濱田。話を聞くに部活動も桧山にとっては休息地とはならなそうだ。むしろこの調子では鬱々とした気分に拍車を掛けてしまうかもしれない。


「うへぇ、サッカー部も面倒なことになってんのな」


「時期もさぁ、悪いんだよな。もう一個大きい大会があるから次はそっちで頑張るぞってなってる連中もいんのよ。で、そいつらからしても身が入ってないように見えるからなんだよ!ってなる。正直桧山は吹っ切れるまで部活には来ない方がいいかもしれない。俺だってこんなこと言いたかないけど、皆余裕ないんだよなぁ」


 はあと深くため息を吐く。濱田としても苦しい答えだろうな。どちらの立場も事情を把握してるから簡単に切り捨てられないんだ。

 桧山はサッカーが好きなのにな。たったの一日で随分と事態も変化してしまったようだ。


「吹っ切れるまでねぇ。それってどのくらい時間掛かるかな?」


「さぁ? あの桧山がこうも引き摺ってるんだ、二、三日でどうこうとはならなそうだが」


 嵩原の問いには曖昧に答えざるを得ない。今直ぐ元気付けられる方法があるなら試している。でも、事は親しい人間との別離だ。死っていうのはそう簡単に乗り越えられるものではない。


「事情話すのが手っ取り早い?」


「そうなるか? でも聞いてもらえんのかなぁ? それに勝手に話してもいいもんなの? 桧山、誰に聞かれても濁すだけで答えないのって知られたくなかったりするんじゃないの? 俺が言い触らしていいもんか分かんないんだけど」


 濱田は濱田でお手上げと言わんばかりに情けない声を出す。俺が静かに見守れと言ったことも加味しているのかもしれない。

 どういった対処をするのが正解か? 悩ましいわな。事が個人的且つ家庭内事情ってのが第三者としては踏み込み辛い。


「クラスでならもう出来るだけ普段通りって決めてはあるけど……」


「それを部活動にまで持ち込むのは難しそうかな? 精々が顧問を抱き込むくらい?」


「……言い方はどうかと思うけど、確かに教師側には手を回していた方がいいかもな。四面楚歌って状況だけは回避した方がいいのは間違いない」


「お、おう。なんかいきなりピリッとしたな。お前ら結構ガチな対処考えてたのな」


 あ、嵩原の発言に釣られてちょっと不穏な空気出してたか。普段の嵩原と美樹本のやり取りに比べればこんなの序の口なんだけど、一般高校生が抱き込むだなんだとか普通なら気にしないよな。少しだけ引いた目でこっち見てる。


「ま、顧問は元々亨の事情は知ってる感じでしょ? なら亨の味方になって相談しておくのは有効なはずだ。事前相談されたなら対処しなくちゃならないのが教師って立場だしね」


「あとは、やっぱり事情を知る人間を増やすのが一番か? 変に広めることに躊躇はあるだろうけど、どうもそんな拗れているなら味方は多い方がいいだろ。話を聞いてくれそうな人間に限定して明かして、フォローまでは求めないにしろ、静観してくれるよう頼んでおくのはどうだろう?」


「そうだね。結局は数だからそれもありだね。ま、もし今以上に亨の立場がまずくなるようなら素直に事情は話しちゃってもいいとは思うんだ。亨を思って口を噤むとしても、その結果当人が傷付くことがあるならそれだと本末転倒だ、そう思って動けばいいんじゃない?」


 そんな結論を嵩原は濱田に提示した。トラブルへの対処に馴れていない濱田へのアドバイスといった感じか。俺たちでは流石に部活動の中までは入っていけないからな。負担を掛けてしまうが、それでも対処出来るのはサッカー部員であるこいつらだけなんだから頼みたい。


「お、おう。なんか責任重大な気配がするな……」


「そう気負わないでもいいよ。つまりはクラスでの取り決めを他のクラスの人間にも広めるってだけの話。まずは亨とも仲のいい部員からちょっと手伝ってって相談持ち掛ければいいんだよ。そして部活自体は普段通り。何も難しくなんてないよ」


「そ、そうか……?」


 柔らかく言葉を重ねる嵩原だが、これ説得と言う名の洗脳だな。俺たち相手に自分の都合のいいように事運ぶ時によくやってる。さも簡単で正当なことしか言ってない、みたいな感じに思考を誘導するから質悪いんだよな。

 濱田も見事術中に嵌まって受け入れてしまってるし。


「ま、まぁ部内はそうするよ。でもやっぱ一番は桧山が元気になることじゃね?」


「それはそうだな。かと言って無理矢理はなぁ」


「気晴らしの一つでもあればいいんだけどね。亨からすれば今はサッカーも楽しんでやれるかは微妙そうだし」


「気晴らしねぇ……。イベントとか? もしくは旅行?」


「イベントなら直近であるけどね」


 五人目が会話に入ってきてえっとなって顔を向けるも、聞こえた声はもう耳に馴染んで久しい。見ればいつの間にいたのか、美樹本がちょこんとこちらの輪に加わっていた。


「あれ、聖お疲れ。もう案内は終わったの?」


「ついさっきね。あとは纏めて説明会やってそのあとは自由見学。案内係はお役ご免だね」


 ふぅと一つ息吐いて多少疲れた様子を見せる美樹本。中学生相手は中々気を遣った模様。


「美樹本、可愛い子っていたか?」


「サッカー部のマネージャーやりたいって子とかいなかったか?」


「君たち……」


 労いもなく早速とばかりに見学者情報を求める二人だが、さっきは中学生に手を出すことに明らかな忌避感を露わにしていたんだ、冗談であって本気ではないんだろう。え、本気じゃないよな?


「ただの案内なんだからそんな交流も取ってません。悪いけど答えになりそうな情報は何も持ってないよ」


「お前だって美形で通ってる癖に何を怠慢なこと言ってんだ」


「お前たちは多くの女子を引っ掛けて情報を稼ぐ。そしてその得た情報を俺たちに分け与えることで男共の嫉妬を躱す。そう言う取り決めだろ?」


「そんな勝手ルール始めて聞いたんだけど??」


 嫌に真剣な顔で問い詰める二人に美樹本も真顔で答える。まぁ、美樹本もモテ男枠だ、今回案内役に選ばれたのもその美少年然とした外見を広報の一つとして利用するためなんて尤もらしい噂まで話されていたしな。

 奴の魅了の本領は年上相手でこそ発揮されるものだが、中学生相手でも注目を浚っただろうことは想像に難くない。嵩原だって受け付けやってたのはその顔面を活かすためだろうし、面がいい奴は安易に外に回されるもんだよな。ここで面倒がなくていいと喜ぶべきか僻むべきか。


 とは言えそれで美樹本が責められるのも可哀相だな。野郎共の後ろ暗い取り引きにたじたじだし。中学生に翻弄され、そのあとにクラスメートにまで絡まれるなんて安定の苦労属性。さっきの呟きも気になるしここは話を切り換えさせてもらおう。


「お疲れさん、美樹本。それでイベントってなんの話だ?」


「あ、うん。それは、いや君も地元民だろうになんで思い付かないの? そろそろ夏祭りの時期じゃない」


「……ああー、あったな、そう言えば」


 呆れた調子の美樹本に言われて思い出した。そうだ、もうそんな時期だったか。


「夏祭りか。そうだ、確かにこの時期だったね」


 地元民とは言えない嵩原もうんうん頷く。よく把握している、と思ったけどこいつのことだからどうせデートとかで知った口だろ。


「ああ。そろそろ盆かぁ。すっかり忘れてたなぁ」


「うへぇ、俺家が地区内だから手伝い頼まれるんだよな。今年も多分強制だぁ」


「あー、濱田って商店街近くだっけ? 毎年お疲れー」


「くっそー、お前は北寄りだから関係ないもんな。いいよなー」


 夏祭りは古戸萩の商店街を中心に毎年開催されるものだ。どこぞの街を上げての一大祭りといった規模でなく、あくまで地元住民が主体となって行っている地元密着型のものなので内容はお察し。盆に合わせて毎年執り行われている。


「なるほど。夏祭りと言えば出店に屋台。気分転換には持ってこいかもね」


「でしょ? 桧山は毎年屋台廻りして食べ物系コンプリートしてるし、今年も誘おうかなって考えてるんだ。これで少しは元気出してくれたらいいんだけど」


「屋台コンプリートとか剛毅なお財布事情だねぇ」


 美樹本がチラリと教室の中を覗く。視線は追わなくてもどこを見ているのかは分かる。桧山らしいエピソードだが、果たして今年も楽しんでくれるのか。俺も一緒に誘いに行った方がいいのかね?


 美樹本に確認取ろうかと思ったけど、そこで担任が教室にやってきてしまったので話は切り上げとなってしまった。あとでいいかと回した結果、なんだかんだ委員会やらで忙しそうな美樹本とは話し合うことが出来ず、そうして夏祭り前の登校日は恙なく過ぎ去ることと相成った。





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