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高校生男子による怪異探訪  作者: 沢満
五章.夏祭り
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1.登校日

第五章.『夏祭り』始まります。

 蝉がそこらで大合唱を披露し、陽炎処か煙さえ立ち上がりそうなほど日差しの強い八月中旬。


 連日熱帯夜も続いてクーラーがなければ家の中で干上がりそうな暑さの中、本日は非常にだるい登校日となっている。


 我が高校では夏休みの間に体験入学という形で受験生に向けた学校見学を開催している。当然在校生にはその準備が課せられる。登校日というのはそのために設けられたものだ。今日と明日の二日、俺たち生徒は学校見学の準備に追われることとなる。


 元々は夏休みという長期休みの間に弛んだ学生意識を引き締める目的で出校日は定められていたらしい。が、現在ではそっちはほぼオマケ程度に格下げされた。

 それというのも事前の学校見学が学校、受験者両方のスタンダードなアピールの機会となった昨今、我が校もそのまま自校への来年度受験者の関心のほどを示すバロメーターとなり得る学校見学には力を入れざるを得ないという事情がある。生徒来ないと学校の運営だって難しいからな。

 生臭い話ではあるが、地方の学校が生徒数の減少により廃校になる、なんて話はそこそこに見聞きする。地元では一番の歴史と規模の大きさだ、なんて自慢げに掲げてる我が校だって明日は我が身、あの手この手で受験生の関心を集めようと躍起になっても致し方ないのだ。だからこそ俺たち在校生は学校側として受験生へのおもてなしに駆り出されるという訳だ。


 ぶっちゃけ夏休みを潰してまで見ず知らずの中学生のために自分たちが働くなんて納得いくものではないが、だからと言って決まりを無視して教師に睨まれるのも面倒。未来の後輩のためだ、しゃーねーなーと建前を引っ提げて、本音はクソ面倒と思いながら皆暑い中頑張って登校するのが実情だろう。


 本日は全校集会で夏休みを過ごす上での諸注意等を小一時間ほど聞かされたあと、翌日の見学会の準備へと移る。準備とは言ってもそう特別な支度などは特にない。

 体験入学という名目上、主体となるのは見学に訪れた中学生や保護者だ。教室貸しきって授業っぽいことやったり、校舎内の設備なんかを見て回ったり、この学校の過去の栄光や実績なんかを教師から説明してもらったりとそんなもんだ。

 正直に言えば一般生徒がやることはこれと言って特になかったりする。生徒会やら代表で案内を仰せ遣った人間があくせくするだけで、多分大体の生徒は大概は暇となる。体験入学は部活動も含まれるため、部活に入っている人間も出番はあるのだが俺は帰宅部なのでそちらでも引っ掛からない。俺これ別に明日は来なくてもいいんじゃないかね? 掃除や片付けがあるのでそう言う訳にもいかないんだけど。


 で、そんなあー面倒ーな態度で久しぶりの学校へと赴いたのだが、教室入るなり異変が目に飛び込んできた。


「……」


 クラスメートも大体集まってさわさわ賑わいのある教室、その日常って感じの風景の中で、久しぶりの桧山の奴がしょんぼり肩を落として大人しく席に座っていた。いつも元気で明るい桧山の明らかな消沈した様子に動揺で扉前で立ち止まってしまった。


「……え、どうした桧山の奴。何かあったのか?」


 直ぐ様桧山とは腐れ縁、中学からの友人である美樹本へと真っ直ぐ向かって事情を窺った。


「うん……。桧山のね、仲の良かった叔父さんが急死しちゃったんだって」


 訊ねてみたらとんでもない答えが返ってきた。

 軽く事情を聞くとなんでも桧山には実に仲の良い叔父さんがいたそうだ。父親の弟に当たり、明るく物怖じしない性格で桧山とは小さい頃から仲良くしてくれていたらしい。

 桧山も年の離れた兄のように慕っていて、美樹本も何回か顔を合わせることがあった。曰く桧山に多少常識を植え付けたような人物とのこと。桧山の猪突猛進具合は確実に叔父に似たものであるらしく、それはつまり性格が似てくるほどには交流もあったようだ。


 そんな叔父さんは実家を離れて都会の方で暮らしていたそうで、夏期休暇、この時期だと盆休みか、それに合わせて毎年帰省しており、今年もそうなるはずだったのだがなんでも八月の頭に不慮の事故で亡くなってしまったとのこと。


「ご遺体の引き取りやお葬式なんかはもう済ませたって話だよ。暫く家族皆で忙しかったらしくてね、僕もつい数日前におばさんから事情を聞いたんだ」


 美樹本は美樹本で家族旅行で数日留守にしていて、帰ってきて早々に桧山へとお土産を渡そうとして知ったんだとか。電話口に出た桧山があまりに元気のない様子に慌てて桧山宅へ飛んでいったらしい。


「それで元気がないのか……」


「その叔父さんって本当にいい人でね。そりゃ、ちょっと向こう見ずな所はあったけど、でも初対面の僕もまるで身内みたいに優しく接してくれる人だったよ。桧山と一緒に山や川に連れてってくれたりね。面倒見もいい人だった」


 なるほど。子供とも遊んでくれる大人だったんだな。叔父さんを語る美樹本の声もどこか寂しそうに沈んでいる。美樹本自身もその叔父さんには親しみを感じていたんだろう。


「それなら、突然亡くなったって聞いて悲しんだだろうな」


「うん。交通事故だったんだって。信号無視のトラックにはねられて即死だって。本当に突然のことで、だから桧山もまだ受け入れ切れてないみたい」


 亡くなった詳細を聞きどきりと心臓が跳ねるが、視線を落としていた美樹本には気付かれなかったようだ。取り繕いつつ桧山へと視線を投げれば、やっぱりしょんぼりと肩を落としたまま、力なく項垂れている。


「……亡くなった日からまだ二週間経ってないのか」


「お葬式からも漸く一週間経ったくらいだね。元気を取り戻すにはまだまだ時間が掛かると思うよ」


 言外に含めた意味を正確に捉えた美樹本に先制して言われる。元気が取り柄の桧山が悄げているだけでも違和感が凄い。だからと言ってこちらの事情のためにさっさと吹っ切れ、なんて鬼みたいなことは言えない。身内の死っていうのはそれだけ衝撃が強いことを理解している。


「事情は分かったけど、それでも亨が元気ないってちょっと調子狂うよね」


 沈んだ空気が漂う間にひょこりと顔を覗かせたのは嵩原。と、二岡と能井さんのいつもの二人だ。嵩原の発言からして俺たちの会話を盗み聞きしていたな。


「おい、人の話を盗み聞くなよ」


「ご、ごめんね。桧山君のことが気になってたから、つい……」


 挨拶もなく文句言えば別の所に飛んでいった。いつものほやほやとした雰囲気の能井さんが萎縮して身を縮こまらせている。


「いや、能井さんに言った訳じゃなくて……」


「ちょっと、三花を苛めるなら私が黙ってないわよ」


 お前は入ってくんな、二岡。話がややこしくなる。


「久しぶりだね、二人共。また新しい噂を仕入れてきたから四人で検証したい所なんだけど、亨があの様子なら暫く控えた方がいいかな?」


「それは相談なんかしないで自粛して? 今の桧山にオカルト的な話題振ろうものなら僕が黙ってないよ?」


 二岡の追撃をどうにか捌いている傍らで、ひっそり険悪な感じになるな男二人。お前らの組み合わせでの喧嘩は去年思い出して胃が引き攣るので止めてください。


「冗談冗談。流石に俺もそこまで空気読まない訳じゃないし不謹慎を貫きもしないよ」


「読めない、じゃなくて読まないって所が君は厄介なんだよね」


 嵩原のふざけた物言いに美樹本はあからさまなでかいため息を吐く。喧嘩になるかなって二岡と能井さんを宥めながら警戒していたんだけども大丈夫そう?


「お願いだから余計なことなんかしないで静かに見守ってあげてよ? 今回は本当に桧山は落ち込んでるんだ。下手なこと言って傷付けたら僕も怒るからね」


「そこは大丈夫だって信じて欲しいな。でも鬱々とさせ続けるのもあれじゃない? 一回皆で遊びに行くなりして気分転換図った方がいい気もするけどね」


「む……」


 ああ、そう言われればそんな気もしてくるな。ゆっくりと泣いて過ごす日々も必要だろうけど、同時にいつかは切り換えなくちゃ今度は生きている方の具合が悪くなる。

 桧山のことを思えば長引くようなら連れ出す必要もあるかもしれない。そうなったとしても噂の検証には絶対行かせないけど。桧山、夏休みに四人でどっか出掛けたい的なこと言ってたし、何か計画を立てるのもいいかもしれないな。


 そんな感じに桧山への対応をどうするか考え出した所で担任が教室に入ってきたため強制終了。軽いホームルームのあと体育館に移動して全校集会となる。そして集会が終わったら明日の体験入学の準備だ。準備という名の大掃除な訳なのだけど。



 で、小一時間ほど蒸し暑い体育館でだらだら話を聞き終えた今、生徒たちは皆担当箇所の掃除に勤しんでいる。俺は教室。桧山も一緒だ。嵩原は男子更衣室、美樹本は科学室担当なのでこの場にはいない。


 いつもは男子もふざけていることが多く、それなりに騒々しい掃除風景なのだが、今日に限ってはそれもなりを潜めることとなってしまっている。


「……」


 肩を落として箒を動かす桧山。全てこいつが原因だ。桧山は明るい。そしてじっとしているのが苦手なためによくよくはしゃぐ。クラスでも男子と一緒になって突然野球始めるタイプなんだ。そして女子に怒られるまでが一連のルーティン。


 そんな桧山が全くはしゃぐこともなくただ静かに掃除をする。この違和感に同じく教室担当のクラスメートたちは皆戸惑い息を潜めざるを得なくなっていた。机と椅子を教室の後ろに追いやった現在、いつもならここで桧山がバッター役を買って出る所なのにそんな素振りは一切窺えない。皆チラチラ桧山へと視線を向けるばかりだ。


「……な、なあ。桧山の奴どうしたの? なんか朝から元気ないんだけど」


 変に重苦しい空気に堪えきれなかったようで、男子が一人俺に理由を聞いてきた。この中だと俺が一番交流あると思われたらしい。釣られた数人に更に囲まれる。


「永野は桧山とも仲良いよな? 何が原因か知ってる?」


「あいつここ数日部活も休んでたんだけど、何かあったのか?」


 困惑したようにこちらを見てくる一人は確かサッカー部員だったはず。桧山の奴、部活も休んでいるのか。


「あー……、一緒の部活って言うなら休んだ理由も聞いてるんじゃないのか?」


「いやー? ちょっと家庭の事情で暫くごたごたするってことしか聞かされてない。あいつサッカー大好きなのに大変だなーって部員で言い合ってたくらいだな」


 詳しくは説明されてないのか。昨今は個人の情報の取り扱いに神経質になっているから、それで顧問も濁したのかね。これは俺の口から明かしてもいいものか。

 迷うけど、しかし濁らせ過ぎた結果、周囲が対応を間違える可能性もままあるだろう。ここはやんわりとでも事情を明かして、優しく見守ってくれるよう促す方がいいかもしれない。


「……俺も又聞きなんだけど、ちょっと身内で不幸があったらしくてな。それで桧山の奴も落ち込んでるらしい」


 大声で話す内容ではないのでこそっと顔を寄せ合って囁く。明らかな内緒話だからか、あるいは桧山の様子が気になっていたのか、ちらりと俺を囲んでいた男子の向こうにこちらを注視する女子の姿も見えたけど気にせず理由を明かした。


「身内の不幸って……」


「あー……。つまり、亡くなった?」


 聞き慣れない表現だったからか戸惑って聞き返すのに頷きだけで答える。ひそひそ円陣を組むようにして会話をしているのだが、その近い距離にあるクラスメートたちの顔が皆困惑にへにょりと歪んだ。


「そうか……」


「家庭のごたごたってそう言うことかよ……」


「それで桧山の奴、あんな凹んでんのか」


 理解した事実にこっちまで凹んだ様子を見せるクラスメートたちに更に釘を刺す。


「そう言った事情だから、出来ればあまり詳細に話を聞き出そうとかはしない方がいいと思う。吹っ切れるのにも時間が掛かるだろうし、だからと言って腫れ物を触るみたいな態度を取るとあいつも気にするかもしれない。多分、普段通りに接するのが一番いいんじゃないか?」


 家庭に限らず、己を取り巻く環境に急激な変化が起きた時ってのは当人はその変化に対応しきれないことが多い。そんな時に周囲の人間まで態度を変えると余計にストレスを感じてしまう。優しく見守るというのはただ綿で包むようにして囲うのではなく、当人にとって理想とする距離感、態度を取りつつ時に助けに入ることなのだと過去に学んだ。

 なので桧山に対しても同じ対応を取るべきではと思った。変に過保護になるのも反対に良くなさそうだし。


「そう、か。そうなのかな?」


「まぁ、そんな事情聞いたら根掘り葉掘りなんてする気もしないけどさ」


「桧山の奴が元気ないと調子狂うんだよな。でも無理矢理元気出させるのは違うか。あいつだって凹むこともあるんだしな」


 説得の甲斐あって概ね俺の意見は受け入れられたようだ。同情する向きもあるが、皆単純に落ち込んでいる桧山を心配しているからこその配慮なんだろう。なんだかんだ、明るく元気な桧山はクラスでもムードメーカー扱いされているしな。


 元気のない時こそ懸命の励ましが必要である、そんな意見もあるだろうが、その励ましが押し付けになっていないかは充分気に掛けなければいけないことだろう。ただ黙って寄り添ってくれるだけでも救われる時はあるものだ。


「まぁ、桧山のことだし、一緒にそこらを駆け回るだけでも気分転換にはなるかもしれないから、そう過保護にすることもないだろ、多分」


「いや、お前が過保護どうこう言うのかよ」


 とは言え、男相手に蝶よ花よみたいな丁重な扱いを徹底するのもなんなので、最後に軽く前言撤回かましてみたら何故か真顔でツッコまれた。俺そこまで擁護するような発言してたか? 美樹本に比べたらまだまだ突き放してると思うんだけど。


 そんな感じに一部の情報開示によりなんとなくクラスメートは桧山が落ち込んでる理由を察し、深く事情を聞かないまでも暖かく見守る方向で意見は調整されたらしい。

 これも桧山の人徳故かなんて誤魔化しつつ、あっという間に桧山の現状がクラス中に知れ渡ったことに美樹本に怒られるかなとドキドキしていたけど問題なかった。美樹本としても見守るスタンスを当面は維持するつもりであったそうで、変に突撃かますような輩が出なくて良かったとまで仰せになっていた。マジで『輩』って言ってたんだけど。やっぱ美樹本こそが過保護の権化だろ、間違いない。


 直ぐに元気を取り戻すとは思えないが、それでも今日明日と久しぶりの学校で桧山も多少は気晴らしなど出来ればいいんだが。結局帰る時まで肩を落としたままの桧山の背中を見ながらそうぼんやり祈った。


まただらだらと続きますのでお付き合い頂けたら幸いです。

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